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結②
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「ここは・・・・」
アガタ・サナだったものは、ゆっくりと目を開く。
真っ暗な駐車場に、ライトが点々と立っている。
他が白い光の中、一つだけ黄色く光るライトの下で、柱に死神はもれかかっていた。
「おはよう、死神」
「私が、死神・・・」
思わず、自分の手を見た。
骨だけになった手を、黒い靄がまとわりついて動かしている。
自分の体から肉が削ぎ落されてしまった事実は、本来なら絶叫を上げるべき怪奇現象だろう。
だが、精神はすでにそのことを受け入れているようで、元からそうだったような気さえしていた。
「そうだ、死神だ」
そう言って、死神はもたれかかっていた柱から離れて、演技かかった振舞でライトの柱を見るように促した。
近付くと、そこには「Agata Sarna」と刻まれた上から、横一文字に傷のつけられたプレートがあった。
自分の名前が上から痛めつけられている。
きっと、怒るべきことなのだろう。だが、心は穏やかと言うよりかは、どこか他人事のように冷めた気持ちだけがあった。
「私が、死神?」
「おいおい、冒頭に話したはずだぞ?お前が死神になれば、父親の周りの都合に巻き込まれて殺されることはない、ってな」
「それは、お、覚えているわよ・・・でも、なってみると案外、何ともないって言うか」
は!と死神は笑った。
ひびの入った髑髏はピクリともしていないが、嘲笑っているというのは表情を見なくてもわかる。
死神同士の、交信術でもあるのあろうか。
「これからお前は何も食べられず、生きてる人間にゃ誰にも見えず聞こえず触れず、ただ人の死を見送るだけ!話し相手は俺たち死神だけなんだぞ?そのうち、暇で暇でしょうがなくなるさ」
「それじゃあ、話と違うじゃない。私をお姫様にしてくれるんじゃなくて?」
「マジか。そんなこと一言も言ってないぞ。お前は『主人公』になるとは言ったが」
アガタは思わず眉をしかめた。
死神になるなんて言われたが、ハロウィンで張り切るコスプレイヤーごっこを永遠にやっていればいいものだと勝手に思い込んでいた。
実際にはクソつまらない地縁コミュニティしか存在しない、タスクのない葬儀屋だったわけだ。
「これのどこが主人公なの?もしかして死神代行ってこと?」
「言っただろ?お前が死神になったってことは、お前も誰かを死神にできるってことだ」
そう言って、死神はアガタの懐を指で示した。
まさぐると、そこには黄色い電球があった。
「ここについている白い光はどれもその人間の寿命を表している。だが、その黄色いのは特別製でなぁ、ソイツは誰のライトにも差し込めるが、そいつを割ったら死神になるのさ」
「私に割らせたのも、そのためだったのね」
死神は頷いた。そして気付く。彼がどんどん透けていることに。
「そして誰かを死神にしたやつはようやっと、永遠の眠りに着く権利を貰えるというわけだ。別に必ずそうする必要もないが、少なくとも俺はもう疲れたんだよ」
「・・・消えるの?待ってよ!私、シミに何も別れも告げてないわ!」
アガタが死神に縋りつこうとするが、ふわりとカーテンを抱きしめたかのように、つかみどころがない。
無様に空振りし、私はよろけて前のめりに転んでしまった。
無様な姿ながらも、振り返って睨みつけると、骸骨頭はカタカタは揺れた。
「その男も死神にすればいい。そうすれば永遠に二人は結ばれるだろ?」
「でも、どうやって人の前に現れるのよ。アンタ言ったわよね、誰からも見えないし聞こえないって」
「6年の見習い期間が終わったら、ある呪文を教えてもらえる。ま、せいぜい気張るんだなァ」
大切なことは不透明にぼやかしながら、裏腹に死神はすーっと透明になって消えていった。
6年!?その間、シミのマヌケが他に女を作らずに、私のことを愛し続けられるかって?
・・・信じるしかない。私は、愛し続ける自信はあるもの。
それに、私は、シミが私以外の人間の恋人になろうものなら、きっと殺すだろうし。
アガタ・サナだったものは、ゆっくりと目を開く。
真っ暗な駐車場に、ライトが点々と立っている。
他が白い光の中、一つだけ黄色く光るライトの下で、柱に死神はもれかかっていた。
「おはよう、死神」
「私が、死神・・・」
思わず、自分の手を見た。
骨だけになった手を、黒い靄がまとわりついて動かしている。
自分の体から肉が削ぎ落されてしまった事実は、本来なら絶叫を上げるべき怪奇現象だろう。
だが、精神はすでにそのことを受け入れているようで、元からそうだったような気さえしていた。
「そうだ、死神だ」
そう言って、死神はもたれかかっていた柱から離れて、演技かかった振舞でライトの柱を見るように促した。
近付くと、そこには「Agata Sarna」と刻まれた上から、横一文字に傷のつけられたプレートがあった。
自分の名前が上から痛めつけられている。
きっと、怒るべきことなのだろう。だが、心は穏やかと言うよりかは、どこか他人事のように冷めた気持ちだけがあった。
「私が、死神?」
「おいおい、冒頭に話したはずだぞ?お前が死神になれば、父親の周りの都合に巻き込まれて殺されることはない、ってな」
「それは、お、覚えているわよ・・・でも、なってみると案外、何ともないって言うか」
は!と死神は笑った。
ひびの入った髑髏はピクリともしていないが、嘲笑っているというのは表情を見なくてもわかる。
死神同士の、交信術でもあるのあろうか。
「これからお前は何も食べられず、生きてる人間にゃ誰にも見えず聞こえず触れず、ただ人の死を見送るだけ!話し相手は俺たち死神だけなんだぞ?そのうち、暇で暇でしょうがなくなるさ」
「それじゃあ、話と違うじゃない。私をお姫様にしてくれるんじゃなくて?」
「マジか。そんなこと一言も言ってないぞ。お前は『主人公』になるとは言ったが」
アガタは思わず眉をしかめた。
死神になるなんて言われたが、ハロウィンで張り切るコスプレイヤーごっこを永遠にやっていればいいものだと勝手に思い込んでいた。
実際にはクソつまらない地縁コミュニティしか存在しない、タスクのない葬儀屋だったわけだ。
「これのどこが主人公なの?もしかして死神代行ってこと?」
「言っただろ?お前が死神になったってことは、お前も誰かを死神にできるってことだ」
そう言って、死神はアガタの懐を指で示した。
まさぐると、そこには黄色い電球があった。
「ここについている白い光はどれもその人間の寿命を表している。だが、その黄色いのは特別製でなぁ、ソイツは誰のライトにも差し込めるが、そいつを割ったら死神になるのさ」
「私に割らせたのも、そのためだったのね」
死神は頷いた。そして気付く。彼がどんどん透けていることに。
「そして誰かを死神にしたやつはようやっと、永遠の眠りに着く権利を貰えるというわけだ。別に必ずそうする必要もないが、少なくとも俺はもう疲れたんだよ」
「・・・消えるの?待ってよ!私、シミに何も別れも告げてないわ!」
アガタが死神に縋りつこうとするが、ふわりとカーテンを抱きしめたかのように、つかみどころがない。
無様に空振りし、私はよろけて前のめりに転んでしまった。
無様な姿ながらも、振り返って睨みつけると、骸骨頭はカタカタは揺れた。
「その男も死神にすればいい。そうすれば永遠に二人は結ばれるだろ?」
「でも、どうやって人の前に現れるのよ。アンタ言ったわよね、誰からも見えないし聞こえないって」
「6年の見習い期間が終わったら、ある呪文を教えてもらえる。ま、せいぜい気張るんだなァ」
大切なことは不透明にぼやかしながら、裏腹に死神はすーっと透明になって消えていった。
6年!?その間、シミのマヌケが他に女を作らずに、私のことを愛し続けられるかって?
・・・信じるしかない。私は、愛し続ける自信はあるもの。
それに、私は、シミが私以外の人間の恋人になろうものなら、きっと殺すだろうし。
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