押しかけ皇女に絆されて

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妾の理想の男の娘に

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 いつもと変わらない土曜日の夜。
 今日も慧は触手服に包まれ、時折ゆるく達しながら画面の向こうの伊佐木とゲームを楽しみ、夜はアイナに支配権を交代して遊んで貰う、筈だったのだが。

『……ふぅむ、これほどまでに割れておるのか……』
「ん?また調べ物してんのか、アイナ様」
『様はやめい。何で敬語は取れたのにそこだけはそのままなのじゃ』

 ここ数日、アイナはスマホにかじりつきである。
 何でも国家の根幹に関わる情報を纏めておきたいのだと、慧で遊ぶのもそこそこに――そりゃ遊んでいたら気持ちよくて仕事どころでは無いだろう――真剣な眼差しでスマホを見つめている。

(……こういう姿は確かに皇女様らしいよな)

 同じ身体にいる筈なのに、最近では当たり前のようにアイナの表情が頭に浮かぶようになっていた。
 妄想力とは素晴らしいものである、ボンデージまがいな触手服に身を包んだアイナがキリッとした表情で仕事に励む姿は実に眼福だ。……本当に、その胸がもうちょっと小さければ言うこと無かったのに。

 この身体で掌に収まるちっぱい……と股間の痛みに顔を顰めつつ妄想をしていれば、アイナが『筒抜けじゃと分かっていて考えておるじゃろ、お主』とため息をついた。

『乳の多寡などどうでも良いじゃろう、そもそも乳は赤子のものじゃぞ?』
「いやいやそんなセックスアピールの塊みたいな巨乳をしておいて、赤子に独り占めは無い、俺は巨乳は好みじゃないがそれだけは断固否定する!!……で、この間から何を調べているんだ?」
『全く、どうして男というのはそれほどまでに乳に固執するのじゃ……なに、妾が帝位を継いだ時のためにな、この世界の定義を調べていたのよ』

 ユージン帝の暴挙はともかく、原点を知るのは大事じゃからな、とアイナが画面をこちらに見せる。
 そこに映るのは、この国最大の二次創作投稿サイトだ。

「……男の娘とは、って……あの、原点ってもしや……?」
『うむ!かつて初代皇帝が召喚に成功したという、男の娘の概念じゃ!』
「なんてものを真剣な顔して読み漁っているんだよ!!ちょっと格好いいなとか思った俺の純情な気持ちを返せ!!」

 ……ああ、やっぱり皇女様はどこまでも真面目に変態だった。

『妾たちにとっては国家の根幹に関わる非情に重要な情報なのじゃぞ!』とむくれつつも、アイナは情報収集に余念が無い。
 その後もあちこちのサイトを巡り、時にはイラストを堪能しつつ小一時間ほどスマホを弄り続けたアイナだったが『……この世界でも定義は曖昧なのじゃな』と何やら結論が出たのだろう、難しい顔をしながらスマホをベッドサイドに放り投げた。

「この世界でも、って?フリデール皇国は男の娘を性癖とする国なんだろ?その、憲法とかそういうもので定義は決まってないのか?」
『うむ、国家設立の時からこれまで何度か定義を決めようという動きはあったのじゃが、一度たりとも明文化はされてないのじゃよ。なにせあまりガチガチに決めれば……』
「今回のようなクーデターになる、と」
『まさに誰かの性癖は誰かの地雷という言葉がぴったりじゃの……しかしあまり野放図過ぎるのもよろしくないから、妾が帝位に就くに当たって最低限の定義をと思ったのじゃが……いやはや、これは思った以上に難解じゃのう』

 アイナが言うには、一口に男の娘と言ってもその内情は地球でもサイファでも実にバリエーションに富んでいるのだそうだ。
 性自認は男性のまま、ただ女装する事を好むものから、心は女性で身体もできる限り女性に近づけ、男性とまぐわう事を好むものまで、まさに千差万別。
 そもそもクロリクの男はいつぞやの夢でも見かけたが、儚い感じの美形が多く、多少体格の差はあるとは言え地球人ほど男女差も無い。だから、ちょっと服を女物にすれば簡単に男の娘になれると言うわけだ。

『強いて言うなら、女性っぽく振る舞う……これくらいしか共通項がないのう……』
「思った以上にアバウトな概念だったんだな……ん?待てよ」

 どうしたものかと頭を悩ませるアイナを見ながら、慧はふと疑問に思う。
 ――それほどバリエーションに富んだ概念の中で、一体アイナは何を持って自分を「立派な男の娘」にしようとしているのだろうかと。

(……少なくとも、メス堕ちはさせたいって分かるけど)

「んうっ……」
『……ふふ、良い顔じゃのう』

 戯れに股間の金属の下に潜り込んだのだろう、細い触手がさわさわと先端をまさぐっている。
 すっかり慧の身体を弄ぶことに慣れた触手服は、アイナに射精を禁じられて以降、ヌルヌルしたブラシのような触手で亀頭が光り輝くのでは無いかと心配になるくらい執拗に磨き上げては、派手に噴き上げる潮を堪能するようになってしまった。
 最近では乳首を弄り倒しながら潮吹きをすることまで覚えさせられて、ますます男という概念から遠ざかっている気がする。

 正直、もう自由な射精を許されても、女の子を抱ける気はしない。
 ……だというのに、何故自分はその事に絶望を覚えないのだろう。

「あのさ、アイナ」

 疑問は膨らむばかりで、だから意を決して慧はアイナに尋ねることにする。
 アイナが慧に望む男の娘とは、いかなるものなのかを。
 ……そうして何をすれば、自分はアイナの理想になれるのかを。

「アイナはさ、俺を立派な男の娘にしたいんだよな」
『うむ。妾好みの素敵な男の娘に仕上げるつもりじゃぞ?』
「それってつまり、アイナの理想の男の娘……だよな?俺、ここからどうなるんだろうなーって思ってさ……」
『おおそうじゃのう、そう言えば話したことが無かったか』

 お主から聞いてくれるとは嬉しいものじゃと喜びつつ、すい、とアイナの手が動く。
 途端にぴったりと張り付いていた触手服ははらりと身体から離れ、慧は一糸まとわぬ姿となった。

『このままでは寒いのう』と暖房を強めつつ、アイナは姿見の前に立つ。
 ……これもいつの間にか購入されていたブツだ。気がつけばこの部屋の中にアイナの痕跡がどんどん増えてきていて、お陰でガチャの軍資金は減る一方である。いや、むしろそっちは減った方が良いのかも知れないけれど。

『お主は地球人のオスにしては女子のような可愛らしい顔をしているからのう』
「……それ、あんまり嬉しくない」
『そうか?全ての処置が終われば、女子の格好をして街に出て見よ。きっと皆が振り向く愛らしい男の娘になるはずじゃ』
「処置って」

 どうやらいずれ女装させられるのは確定らしい。まぁ、それは想定内だ。地球でも男の娘と言えば女装、そこは外せないから。

『なに、処置も大分終わっておるのじゃぞ』とアイナが指でつぅっと首筋を撫でる。
 それだけで、春から散々アイナに躾けられた身体はぞくりとした快楽をもたらしてくれる。

『妾は快楽によわよわな娘が好きなのじゃ。どこもかしこも敏感で、そっと抱き締めるだけで甘イキしてしまうくらい……すぐに快楽に溺れて、とろっとろのアヘ顔を晒してくれる娘が良い』
「んひぃぃ……っ……」
『その点、お主は素晴らしいのじゃ。元々感度も良かったし、何より快楽に貪欲ですぐに流されてしまう……』
「あぁっ……だめ、アイナ、だめっ、そんな……」
『ほれ、しゃんと立っておれ』
「ひぎぃっ!!」

 乳首を虐められれば、途端に惚けたように口を開けて涎を垂らし、目を潤ませ、腰が抜けそうになる。
 そんな痴態すら愛おしいと言わんばかりにアイナは微笑みながら、ぎゅっとその敏感な胸の飾りを捻りあげるのだ。

『乳の大きさはどっちでもよいが……ちんちんは小っちゃく役立たずなのが好みじゃ。地球ではそう簡単に小さくはできないみたいじゃが、この貞操具というのは実に良いのう。男の象徴をこんな惨めに平らな蓋の中に閉じ込められ、射精はおろか触れることすら許さない……敢えて道具を使うというのも、向こうに戻れば導入してみたいものじゃな』
「っ、あぁっ……いだい……チンコ痛いよぉ……」
『そう言いながら、だらだらとはしたない涎を垂らしているではないか。妾の気分一つでどうにでも出来る、男としての尊厳を全て明け渡しメスの快楽で満足せざるを得ない娘というのが、これほど愛らしいとは思わなかったぞ』

 妾に管理する楽しさを教えたのは慧、お主が初めてなのじゃぞ?
 そう愛おしそうな瞳で見つめながら太ももをさわさわとさすられると、今度こそ力が入らなくなってしまって、慧はぺたりと冷たい床に崩れ落ちてしまった。
 そのまま虚しく床に腰を擦り付けたところで、オスの快楽は得られない事実に自然と涙が滲む。

「っ、出したい……しゃせー、したいぃ……」
『時折こうやって、オスであったことを無理矢理思い出させて……そしてメスの快楽で我慢させる。お主は、この絶望が大好きじゃよな?』
「うあぁ……辛いぃ…………でも、アイナが……アイナがしてくれるから……」
『っ……愛い奴じゃ』

 もう、この身体はオスの快楽だけでは満足できないだろうと、慧も薄々気付いている。
 メス堕ちとはよく言ったものだ。今の自分はまさにメス、心すらももうオスではいられない。
 けれど、アイナはまだ、最後の砦には手を付けていない。

『……のう、慧よ。妾はお主を理想の……妾だけの特別な男の娘にしたい』
「アイナ……」
『もう十分待った。……慧は心身ともに十分堕ちたじゃろ?そろそろ、ここを』
「ひっ」
『妾に明け渡してはくれぬかのう……?』

 するり、と指が背後から降りてくる。
 アイナがくるくると円を描きながら擦るのは、慧がずっと拒み続けてきた……男が誰かを受け入れるための、蕾だ。

 中学時代から誰かに尻を付け狙われてきた慧にとって、絶対に譲れない場所。
 ここを暴かれれば、自分はもう男でいられなくなる、そんな本能的な恐怖を覚える穴。

 慧も流石に気付いていた。
 巷に溢れる男の娘の情報と言えば大抵尻の穴は欠かせないというのに、アイナは意図的にそこには触れてこなかった事に。
 恐らく慧の強い恐怖を感じ取り、少しでも抵抗のないところから手を入れようとしていたのだろう。

 我が儘で無謀を強いているように見せかけて、アイナは最初からずっと慧を丁寧に扱ってくれていたのだと、今更ながら思い至る。
 そんな気遣いを知れば……ますます、この胸に秘めた想いが募ってしまう。


 ――ああ、別れの日は決して遠くないというのに。


『妾は女子じゃ。残念ながらちんちんは付いておらぬから、幻影であってもお主の処女を男の竿で貰ってやることは出来ぬ。……出来ぬが、妾だけの入口として、ここに』
「んっ……」
『……妾を迎える余地を、作ってくれぬか?』
「ううぅ……そんなの、ずりぃよ……」

 恐怖は消えない。
 ここを男のナニで貫かれるなど、考えただけで吐き気がしてくる。

 けれど。

「…………アイナなら、いい」
『慧……』
「アイナのための、穴なら、いいっての……アイナは俺を怖くしない、痛くしない、よな?」
『ふふ、もちろんじゃ!案ずるな、お主はもうここでとろっとろになれるはずじゃ』
「んうぅ……っ!」

 楽しみにしておれ、共に高みを見に行こうぞ。
 そう語るアイナの深紅の瞳はキラキラと輝いていて、どんな宝石よりも美しかった。


 …………


 数日後。

『で、これは何じゃ、慧』
「その……米重さんがくれたんだ。これで洗浄はバッチリだって」
『ふむ、妾たちクロリクには縁の無いものじゃしな。こういうものは地球人の知見を頼るのが良かろうよ』

 休み時間にロビーで後ろの開発についてこっそりスマホで調べていたら「どうした、姫里。とうとう後ろに手を出すのか」と背後から紅葉が話しかけてきて、心臓が飛び出そうになったのは昨日のこと。

 隠しても仕方が無いと、全く知識が無いことを暴露すれば「それなら挿れる道具の前に、洗浄する道具がいるんじゃないか」と言われて初めて、男性は穴を使う前に準備が必要であることを慧は知るのだった。

「準備、かあ……ネットで買えばいいかな、何を使えば……」
「最初だし、無理せず微温湯がいい。それにグリセリン浣腸は洗浄には向いてないんだ、暫くトイレから出られなくなるし」
「く、詳しいね……その、米重さんは当然」
「自分にある穴は一通り使ってみたくなるだろう?」
「流石でございます」

「シャワ浣なんて手もあるけど、初めてなら道具を使った方が良いと思う。そうだ、うちに余ってる奴があるから使うか?」と紅葉から渡された紙袋の中に入っていたのは、半透明のバッグから点滴のようなチューブが伸びている代物とアナル専用のシリコンジェルだった。
 ご丁寧に手書きの使い方メモまで同封されていたお陰で、これなら一人で準備も出来そうだ。
 
「微温湯2リットル、と……結構使うんだな……」
『物理的に綺麗にするとなるとそのくらい必要なのじゃな。なんとも大変な作業よ』

 この段階で疑問に思えるだけの知識はアイナには無い。
 いつもならちゃんと下調べをするアイナだというのに、慧の熱烈なお誘いにどうやらすっかり舞い上がってしまっていたらしい。
 更に慧はすっかり紅葉を信頼していたから、さっとメモを読むだけで「とりあえずやってみようぜ」と準備を始めてしまう。

 大量の微温湯を作って、チューブをクランプし水を止めた状態でバッグの中になみなみと注ぎ込む。
 それをバスルームの突っ張りに引っかけて、クランプを外してチューブの中をしっかり水で満たすと、慧は恐る恐る後ろの穴にたっぷりとシリコンジェルを塗り込んだ。
 ……といっても、指を突っ込むだけの度胸は無い。中に入ってどうこうするのは、扱いに慣れたアイナに任せた方が良いだろう。

 チューブの先端にもジェルをしっかりと塗り、震える手でそっと先端を固く閉じた蕾に触れさせる。
 それだけでぞわぞわと……これは嫌悪感だ……背中を駆け抜けるものがある。

『慧よ、大丈夫か?難しければ妾が』
「だ、大丈夫……てかアイナだって洗腸なんてやったことが無いんだろ?大体ここに来た当初は、排便すらお腹が変だって呻いてたじゃんか」
『ううっ、それは……』
「俺、一応座薬くらいは挿れたことがあるから、こっここは、けけけ経験者に任せて」
『……全然任せられぬ気がするのは気のせいかのう……?」

 心配そうに見守るアイナに、こんな時くらいは男を見せてやる!メス堕ちしてるけど!!と慧は無理矢理顔に笑みを貼り付ける。
 そうして「い、い、いくぞ、いくからな……!」と目をつぶってぷすっと未知の穴へとチューブを差し込んだ。

 しっかりぬめりがあるお陰か、チューブは意外と抵抗なくすんなり尻の向こうへ消えていく。

「ふぅ……これで、クランプを外して水を全部入れて」
『5分も待たなくて良いから出して、水が綺麗になるまで繰り返す、じゃったな』
「うん、行くぞ……」

 パチン、と慧は意を決して水を堰き止めていたクランプを外す。
 一瞬じゅわっと何かが腹に広がるような感覚があったが、微温湯のお陰だろうか、特に痛みも無く液体はどんどんと腹の中に消えていった。

 しかし、これなら問題なく出来そうだなと慧が安堵した次の瞬間。

『ふぐぅ……っ!!なんじゃこれ!お腹が!!お腹がごにょごにょするうぅぅ!!』
「っ、そりゃ、くるよなぁ……!」

 突如排泄に向けて動き出した腸の動きに、アイナが素っ頓狂な声を上げる。
 のっぴきならない下痢のような焦燥感が慧を襲い、慌てて尻に力を入れて漏れないように踏ん張った。
 これほどの量を入れるとなると栓があった方がいいのではなかろうか、いや、栓があっても吹っ飛んでしまいそうだ。
 
 しばらくすれば、苦痛の波は遠ざかり、けれど1分も経たないうちに次の波が二人に襲いかかる。
 何せ中身は増える一方なのだ、当然苦痛は強まるばかりだ。

『はぁっ、はぁっ……きつい……慧よ、まだか……?』
「ふぐぅぅ……今、半分……まだいってない……」
『うそ、じゃろぉ……もう無理じゃ、腹がっ、腹が気持ち悪いいぃ……!』

 苦しさに涙を浮かべながら、しれっと腕の支配権を奪取してアイナが袋の中のメモを取り出す。
 と、ころんと音がして何かが床に落ちた。

 這いつくばったまま呻く慧達の前に転げ落ちてきたのは、100mlのプラスチックシリンジだ。
 何でこんなものが……?と首をかしげながら、呻き声を上げつつメモをみるアイナの顔が、更に白くなる。
 そして痛みに涙を流しつつ、慧よ、と震える声で話しかけるのだ。

『のう、慧……ううぅ……もしかして、妾たちはとんでもない間違いを……んぐぅ、犯したのでは、無いのか?』
「はぁっ、どっ、どう言う意味……?」

 先ほどのメモをもう一度見るのじゃ、と苦しそうに指摘するアイナに従い、慧はぷるぷると震える手でメモを取る。
 そうして……下の方に小さく書かれた文字に「これは大きく書いて欲しかったなぁ……?」と半泣きで乾いた笑いを浮かべた。
 そこには


『私は慣れているからいつも2リットルでやるけど、初めて浣腸プレイを楽しむなら500ml、洗浄だけならシリンジを使って1回100~200mlでやるといいよ』


 と丁寧な手書きの文字で注意書きが添えてあって。

 洗浄だけなら、200ml。
 つまりこの図に書かれた2リットルという文字は、自己開発のエキスパートである紅葉が大量浣腸プレイを楽しむときの数値。
 一方こちらはと言えば、方やお尻初心者。方や人生初の浣腸行為に挑む異世界人。
 ……結果は火を見るまでも無く明らかであろう。

「……すまん、アイナ。どうやら俺たちは丸腰でラスボスに挑んでしまったようだ」
『慧ぃ……このおっちょこちょいめ……ううぅ気持ち悪い、お腹が破裂しそうじゃ……うえぇ……』

 これまでどれだけアイナの豊富な変態知識に助けられていたか、そしてそれにおんぶに抱っこになっていたかを、今慧はまざまざと実感する。
 いや、感謝するのは後だ。取り敢えずこの状況を何とかしないと。
 ……何とかと言っても、入れてしまったものはもう出し切るしか無いのだが。

 慌てて止めたときにはほぼ全てが無くなっていた水のバッグ。
 そして、外から見てもはっきり分かるほどぽっこり膨れ上がった腹。
 もう一部の猶予も無い程切羽詰まった尻の括約筋に、頭はもはやこの中に詰め込まれた液体をぶちまけることしか考えられない。

 アイナの呻き声を聞きつつ、慧は必死で周りに捕まりながらガクガクと震える足でようやっと便座に腰を下ろす。
 そして

「くそぅ……ふぐぅぅお腹きつい……もう出していいよな?10倍も入れちゃったんだし、5分も待たなくていいよな!!?」
『うぐあぁぁ……!!慧、慧っ、お腹がいだいいぃ!!ゴロゴロしてパンパンでお尻が爆発するぅ!!』
「うおぅ落ち着けアイナ!尻は爆発しないから!!」
『うわあぁぁんっ!慧よ助けてくれぃ、妾のお腹が壊れてしまううぅ!!』

 人生初の浣腸(ハードモード)にとうとう堪えきれず泣き出してしまったアイナを宥めながら、慧もまた脂汗を浮かべて無理矢理押し込んだ液体を放出するのであった。


 …………


 1時間後。
 ようやくトイレから解放された二人は、当初の目的はどこへやら、ぐったりとベッドに倒れ込んでいた。

『よもや……カンチョウという行為がこれほど過酷じゃとは……ラトゥリ国の国民はみな、クレハに負けず劣らずの剛の者であったか……』
「いやいや、流石にペットボトル1本分の浣腸を堪能するのは上級者だと思うぞ!?……米重さん、マジであんなクールな顔してプレイの男前っぷりが過ぎる……」

 すっかりぺったんこになった腹をさすれば、まだ「ぐぎゅるるる……」と突然の洪水にびっくりした腹からの文句が返ってくる。
 いくら空っぽになったとはいえ、今日はここまでかな……とげんなり顔でアイナに尋ねようとしたその時、すっとアイナが掌を宙にかざした。

「え……アイナ……様……?」
『様はやめい。やるぞ、慧』
「へっ、いやいやこの状況で!?アイナ大丈夫なのかよ!!?」
『この状況じゃからやるのじゃ!!折角慧がお尻を弄っても良いと言ったのじゃぞ!こんな機会、腹の痛み如きで逃してなるものかあぁぁ!!』
「ちょ、そんなところで気合い入れて無くて良いってば!」

 ここで気が変わってしまっては、数ヶ月の努力が水の泡ではないか!と言いながらアイナはいつものように魔法陣を掌の上に描く。
 ……もう、そんな心配なんてしなくたって大丈夫なのに。そう呟く慧の声は届いていない。

 それはそうと、アイナは一体何を召喚するのだろうかと、慧はふと不安を覚える。
 きっと変態揃いのサイファのことだ、お尻の開発だって効率的な道具やら魔法生物やらがあるに違いない。

(……お尻に入れるもの、って、結構こっちの世界でもバリエーションがあるんだよなぁ……)

 以前、同級生が嬉々として語ってくれた様々なディルドが頭をよぎる。
 一般的なペニスサイズは序の口、蛇のように長いものや、腹の中が傷つかないのか心配になるようなでこぼこやらとげとげやらが並んだ凶悪な物体、そして拳ほどの太さがある、明らかに人類には早すぎるサイズの杭――

 思い出すだけで腹がシクシク痛みそうだ。
 きっとアイナのことだから、慧を痛がらせるようなものは使わないと信じているが、触手服や尿道の魔法生物を思うとあまり楽観的にもいられない。

『……そう心配せずともよい』

 慧の不安を読み取ったのだろう、アイナが優しい声で宥めてくれる。
 妾はお主を泣かせたくは無いのじゃ、まぁ啼かせたいがのう、としれっと本音を漏らしつつ魔法陣を起動させる。

 いつものように部屋には光が満ちて。
 けれどいつもなら掌に収束するはずの光は、少し離れた場所へと収束し……ごん、と大きな音を立てた。

「……ごん?」

 明らかに床に何か重いものが落ちた音に「ちょ、アイナ床に傷はだめだってば!」と慌てて音のした方を見て、慧はしかし言葉を失うのだ。

「え……何で、これ……?」
『……決まっておろう。お主が言ったのじゃ』

 床にどでんと置かれているのは、何度も見たあの不格好な土塊。
 アイナが己の姿の幻影を作るための、とても己を模したとは思えないお手製の触媒だ。
 ぽかんとする慧にかけるアイナの声には慈愛と欲情がないまぜになっていて。

『妾なら良いと……妾のためにここを明け渡すと……ならば、幻影とはいえ初めては妾自ら開いてやらねばならぬじゃろう』
「……アイナ様」
『様はよさぬか。妾はお主の主では無い、ただのちんちんの管理人で……押しかけてきた居候じゃよ』

 何かが抜けるような感触と共に土塊がぼわんと光り、その姿をあっという間に変えていく。
 やがて光が収まった場所に立っていたのは、いつもの触手服に身を包んでとびきりの笑顔で微笑む、深紅色の瞳が美しい皇女様だった。


 …………


「あ、あのう……この格好はいくら何でも恥ずかしすぎるんだけど……」
「今更じゃよ、お主の身体は隅から隅まで観察済みなのじゃから」
「それはそれで恥ずかしくて死ねるからやめて」

 腰の下に枕を入れ、思い切り足を上げたいわゆるちんぐり返しの状態でまじまじと秘部を美人に凝視される。
 あれから定期的に脱毛器をかけられている下腹部は、時折ひょろりとした毛が生えてくるものの、ほぼお手入れ要らずのツルツル状態を保っていた。

「……そんなにガチガチに力を入れずとも、指程度では死なぬぞ?」
「ひいぃ、そんなこと言ったって怖いものは怖いんだよおぉぉ!!」
「全く……入ってしまえば確実に気持ちよくなれるというのに」
「いやいやどうして分かるんだよ!」

 涙目でいやいやと首を振る慧に「ビビりすぎじゃよ」と困った風に笑いながら、しかしこれではどうにもならないと思ったのだろう、アイナはくるくると皺を伸ばすように優しく動かしていた指を引っ込め、ジェルを綺麗に拭き取った。

(あ、今日はここまでかな……)

「痛い思いをさせたいわけでは無い」「お主が泣くのは嫌じゃ、妾も悲しいからのう」と言うだけあって、アイナは決して慧に無理をさせない。
 ……おっちょこちょい故のやらかしは多々あるが、そこはまぁ突っ込まないことにしよう。
 それは慧がビビりなだけではなく、一度快楽を与えてしまえばあっさり陥落するチョロさを兼ね備えているからこそなのだが、慧は単にアイナが優しくしてくれているだけだと思っているようだ。

 だからきっと、長期戦を覚悟したんだなと慧が安堵しふっと力を緩めたその瞬間

「うひゃぁぁぁ!!?」

 ぬるり、と温かく湿った感触が入口を襲った。

(え、わ、何っ!?)

 その湿ったものは指よりも柔らかく、ねっとりとした動きで相も変わらず入り口の襞を伸ばしていく。
 時折かかる温かい吐息に、慧は支配権を握られてあられも無い姿を動かすことも出来ず「ちょっと待ったアイナあぁぁ!!?」と思わず叫び声を上げた。

 太ももに時々ぺしぺし当たるふわふわしたものは、アイナのご自慢の耳で。
 つまり、このぬるりとした感触は、アイナが、よりによってそんなところを……!

「ちょおおぉぉだめっ、だめそんなとこ舐めちゃっ!汚いってえぇぇ!!」
「んむ……?さっきまで綺麗に洗っておったではないか。何も汚くはないぞ?……それに、舐めた方が気持ちが良いのじゃろう?さっきから入口がふわふわでヒクヒクしておる」
「いやぁぁぁ観察しないでぇ!!」

 あまりの恥ずかしさに、じわりと涙が滲む。
 正直気持ちが良いかと言われたらいまいちよく分からないけれど、さっきから双球を掌で転がし、その後ろの何も無いところをじんわりと押されながら舌で蕾をほぐされていると、どんどん身体の力が抜けていってしまうようだ。

「……ん、舌の先が入ったのう……」
「ひいぃぃぃ……!」

 ぴちゃぴちゃと音を立てながら、浅く舌を出し入れされる。
 ずるっと舌を引き抜かれる度にぞわぞわしたものが背中を駆け上がっていく。
 これは知っている、凄く弱いけれどいずれ気持ちいいに繋がる感覚だ。

「ぁ……はっ……」
「どうれ、そろそろ指を入れてみるかの。案ずるな、一本だけじゃ」
「いっぽん……」

 ぼんやりした頭に、アイナの声が響く。
 少しだけひんやりした感触があったと思ったら、ぬぷ、とジェルを纏ったアイナの細い人差し指が少しだけ差し込まれた。

 思わずぎゅっと力を入れるも、さっきまで散々舐めて緩まされた肛門は上手く締められていない気がする。
「暫くこのままじゃの」と言いながら、アイナは相変わらず会陰を緩く押している。
 ……押す度に何か、じわんとした気持ちよさが広がるのは気のせいだろうか。

「慧よ、手を動かせるようにするから、自分で乳首を弄ってみよ」
「へっ」
「……妾が触れるように、トロットロに蕩けるようにじゃ。お主の指はもう、妾の触れ方を覚えておるじゃろう?乳首で気持ちよくなれば、身体の力も抜けてやりやすくなる」
「っ……!!」

 カッと頬が熱くなる。
 覚えるも何も、俺の胸を弄って気持ちよく出来るのは、俺が知る指は、アイナだけだというのに。

(アイナが……触る、みたいに……)

 おずおずと、慧は両手をクロスさせて外側へ伸ばしていく。

 そう、アイナはいつも腋の方から触れる。
 ひとしきり……何と言ったか、地球でもなんたら乳腺という名前が付いている良い場所があるのだと言っていた。
 腋から胸へと繋がる場所を軽く揉むように優しく往復すれば、それだけで口からはあえかな声が漏れ始めるのだ。

 そうしてひとしきり腋を堪能したら、じわじわと胸の頂点へ。
 けれど、決してその頂には触れない。
 頭の中が乳首のことで一杯になって叫び出しそうに……実際に叫びながらおねだりをするまで、淡々とアイナの指は周囲を愛で続けるのが好きなのだ。

「はぁっ……んあぁ……はぁ…………っ……!」
「うむ、良い子じゃ……こっちも随分ほぐれてきたぞ」
「ぁ……アイナぁ……」
「ほれ、もう二本入っておる。慧は良い子じゃな、ちゃんとお尻もゆるゆるにして妾を迎えてくれておるぞ?」
「そん、なぁ……」

 いつの間に指を増やされたのだろう、胸の快楽に翻弄されていた慧の気付かぬ間にアイナは淡々と後ろを拡げ、馴らしていく。
 あくまでも拡げるだけで、抜き差しはほとんどしていない。アイナ曰く「今日はここで気持ちよくなれることを覚えれば十分」だと言っていたが、正直なところ違和感以外は感じないのだ。

(……これ、気持ちいいのは……乳首だけじゃね……?)

 そんなことをぼんやり思っていれば「そろそろ良いかの」とアイナが呟く声が聞こえる。
 そして

「ほれ、慧よ。これまでたっぷり教えられたここは、もう出来上がっておるじゃろ?」
「へ……はあぁぁぁんっ……!!」

 くいっとアイナが腹の中で指を曲げた、その瞬間……慧の目の前に火花が散った。

(なんで……なんでっ……!!?)

 その火花は、間違いなく快楽だ。
 これにとてもよく似た快楽を慧は嫌と言うほど知っている。
 あれほど鋭くはなく、けれども頭の芯まで一気に痺れてしまうような気持ちよさに目を白黒させていれば「流石じゃな」とアイナも満足げだ。

「のう、慧。ここには」
「んあぁぁっ……!」
「お主をメスにするスイッチがあるのじゃ。……覚えがある感覚じゃろう?」
「っ……これ、ぜんりつ、せんっ……でも、何で」
「何でも何も、本来オスはこちらから……直腸から前立腺を刺激して快楽を得るのじゃよ。お主は尻を怖がっておったし、なにより魔法生物がいたくあちら側を気に入ったから、そのまま尿道から開発をしておっただけで、なっ」
「ひぎぃぃだめぇいぐっ、お尻なのにいっちゃううぅっ!!」

 1年近く躾けられた前立腺が、後ろからの刺激で快楽をすぐに拾うようになるのはもはや必定であろう。
 アイナの指が軽く腫れたしこりを掻くように押し込めば、慧の身体はあっという間に高みへと上り詰め目がぐるんと上転する。

 それは、尿道側から与えられる絶頂ほどの鋭さを伴わず、けれど乳首から与えられる悦楽ほど穏やかでも無い……そう、言うなれば「ちょうど良い」気持ちよさ。
 そしてそれに気付いた瞬間、慧は未来の自分に思い至る。

(あ、だめだこれ)

「ほら、折角じゃしたっぷり気持ちよくなるが良い。今日は指はこれ以上増やさぬし、安心するのじゃ……はぁぁっ、いやしかしこれは、思った以上に……悦い……っ!」
「いぐ……っ……あぁぁぁっ……!!」

(こんな気持ちいいの……どハマリする未来しか見えない……)

 エロ漫画でよく見かける、あり得ない大きさの男性器に、尻が壊れそうな程の太さや長さを持つ凶悪な玩具。
 これまで特に何とも思わなかったその小道具の意味を、効果を、慧は霞がかった頭で理解する。
 ……そして近い将来、あの馬鹿でかい物体相手に腰を振り、アヘ顔を晒すようになる自分を思い浮かべるのである。

「……本当に素直になったのう……」

 そんな予測めいた妄想に浸りながら快楽を貪る慧に、アイナは自らも絶頂の快楽に酔いしれつつ指を動かしながらうっとりとした顔を向ける。

 アイナとて伊達に120年も生きてはいない。これまでだってたくさんの男の娘たちを啼かせてきた。
 サイファには性にまつわるありとあらゆる道具や魔法が揃っているとはいえ、指だけで啼かすのは男の娘を愛でるものとしての嗜みのようなものだ。

 だから、慧のこの乱れっぷりだって別に珍しいわけでは無い。
 強いて言うなら、ここまで前立腺がグズグズにメス堕ちするまで後ろに触れなかったのは初めてだから、その反応が新鮮だと思うくらいだ。

 けれど。
 アイナの心に灯るのは、これまでとは違う満足感。

「……初めてじゃぞ、慧。妾だけで作った、妾のためだけの男の娘というのは……これほどに愛おしいものなのじゃな……」

 約1年前、亡命の憂き目に遭ったときには面倒なことになったと嘆息したものだった。
 別に殊更悲嘆していたわけでも無い。400年という長い寿命を持つ種族であるクロリクにとって、たかが1年程度の亡命生活はちょっとした旅行と変わりが無いから。
 とは言え、見知らぬ世界の胎の中でじっと過ごすには少々長い休暇じゃとあまり気乗りはしなかったのに。

「ふふ……ふふふ……ああ、叶うならば妾の民達にも見せてやりたいものじゃ……妾たちの原点となった世界を、そこで作り上げた妾の理想を……!」

 全く、そんな可愛らしい声で啼かれてしまっては、いつまでもこうやっていたくなるではないか。
 どこか寂しさを滲ませつつ、アイナは快楽に溺れるこのチョロい青年が「仕上がった」形を夢想するのだった。


 …………


『ううむ……妾の腕くらいが入れば慧の望みは十分叶うじゃろうし、完成で良いかのう』
「ぶっ!!い、今めちゃくちゃ恐ろしい独り言が聞こえたんだけどさ!?頼むから気のせいだと言ってくれ」

 たった一晩で後ろの快楽を覚えさせられた、というよりすでに開発済みであったことを分からされた慧は、うっかり抱いた慧の妄想を早速叶える気満々なアイナの発言に、鼻からコーヒーを噴き出しそうになる。
 しかしアイナはと言えば至って本気で、そしていつも通り慧の希望を叶えんとする善意100%モードだ。
 昨日慧が眠った(気絶したとも言う)後も明け方まで延々と調べ物をしていたようだが、その履歴は出来たら見なかったことにしたい。ちらっと見えた直径8センチという数値だけで、もうお腹が痛くなりそうだ。

『しかし、後ろはのう……すぐに細いものでは満足できなくなるのじゃよ』と話すアイナの声には実感がこもっている。
 何でも最初のうちは指すら怖がっていた娘があっという間に肛虐の虜になり、大蛇のようなディルドを挿れてとせがんではよがり狂うようになるのを何度も見てきたらしい。
 経験者の言葉は重みが違うが、できればそんなところに重みを感じたくなかった。

『大抵の娘は、勝手に拡張を始めてしまうからのう。妾たちが手出しをして育てるなんてのはむしろレアケースなのじゃ』
「やっぱり変態が過ぎると思うわ、サイファのエロウサギ達」
『エロウサギとは失敬な』
「でもどうやって拡張するのさ?お尻なんてそんな簡単に広がらないだろ、魔法でぱーっとやっちゃうのか?」
『それでは風情がないじゃろ?やはり育てるとなると、ある程度は過程を大事にせねば』
「……そんなところに風情は要らないと思うんだな」

 一瞬にして赤子が産めるくらい拡げる魔法もあるにはあるがな、と付け足されるアイナの言葉に、本当に俺サイファに生まれなくて良かったと慧は心から安堵する。
 本来は出産を楽にするための魔法だというが、変態の異世界のことだ、どっちが先やら怪しいものである。

『調べてみたが、地球で腕が入るまで拡張するには1年以上を要するとあってな』
「ええと、どうしても腕が入るまでやる気なんだ……」
『流石にそこまで時間も無いじゃろうし、ここは拡張の醍醐味を感じつつも短期間で効果が得られると人気の魔法生物でも使おうかと思うのじゃ』
「もうその段階で嫌な予感しかしないんだけど」
『なに、今回は選択肢もあるのじゃぞ!お主の好みに合わせたやり方でできるのじゃ!』

 食器を洗いながら、アイナは自慢げに話す。
 いつもの調子なら、きっとその選択肢はどちらも御免被りたいやつだ。だがまぁ、マシな方を選べるというのは……だめだ、もうすっかりアイナのペースに乗せられてしまっている。

 これ、絶対叫ぶことになるんだろうなと思いつつも、目をキラキラ輝かせながら語るアイナを前に詳細を尋ねないなんて非情なことは、慧には出来ない。
 それに……やっぱり俺は変態だ、アイナに振り回されてグズグズにされたい気持ちが止められない。

『それで、選択肢というのは?』
「うむ。1週間家から出られない設置型苗床コースと、1ヶ月かかるが家からは出られる携帯型苗床コースじゃ!」
『どっちもお断りだ!!』
「何故じゃ!?」

(ほらやっぱり叫ぶことになるよな!!)

 おずおずと尋ねれば、案の定である。満面の笑みで語られた突然の爆弾に、うっかりお皿を落としてしまうところだった。
 思い返せば当然だ、触手服すら存在する変態の世界に、苗床系魔法生物がいないわけが無い。
 
『本当に良いものなのじゃぞ……?魔法生物も可愛らしいしの……?』
「アイナの可愛いは信じない、お前触手服すら可愛いっていうじゃんか!」
『何を言っておる、あのピンクの触手をフリフリしながら踊る姿は実に可愛いでは無いか!』
「どこがだよ!!それに俺は知ってるぞ!アイナに芸術的センスが皆無だってことを、な!!」
『ぐぬぅ……!!』

 もはや売り言葉に買い言葉である。
 そこまで言うなら今夜見せてやるでな、妾の審美眼をなめるでないぞ!とむくれるアイナに適当に相槌を打ちつつ、慧は大学へと車を走らせ。

 そして

「……待って俺まだやるとは一言も言ってないのに、何で今夜!?」

 案の定、アイナのペースに乗せられてしまっていることに今更ながら気付くのだった。


 …………


「……ごめんなさい本当にすみませんでしたアイナ様の審美眼は確かでした、だから苗床はやめて欲しいなって」
『却下じゃ』
「ううぅ……鬼っ、悪魔ぁ……」

 その日の夜。
 有言実行とばかりにアイナが呼び出した肛門拡張用魔法生物、正式名称『ゆるゆるケツまんこ育成キット』は、そのどうにも安直で可愛らしくないネーミングとは対照的に実に愛らしい見た目の生物だった。

 ピンポン球くらいのマリモのようなふわふわした毛に覆われたオレンジ色の生物は、まるでハムスターか何かのように召喚された掌の上をふんふんと嗅いで回っている。
 これまでの生物と違ってつぶらな瞳が付いているのが大きな違いだろうか。コロンと転がる仕草と言い、まぁこれは可愛いと呼んで差し支えないだろう。
 ちなみに毛のように見えるものは、全て極細の触手なのだそうだ。それは出来れば知りたくなかった。

「で、その、これはどっちの苗床なんだ……?」
『ん?どちらにもなるのじゃよ』
「どちらにも」

 試してみた方が早いかのう、とアイナは早速何かを唱え始める。
「いやちょっと待って心の準備が」と慧が止める間もなく毛玉ちゃんはぽよんと掌から飛び降りて

 ずももも……

「……え…………いや、いやいやいや待ってちょっと待って!!」

 みるみるうちに巨大化し、まるで塗り壁のように部屋の一面を占拠してしまった。
 ……気のせいだろうか、ふわふわの毛のようだった触手も心なしか太くなっているような。ついでにちょっとねっとりしたものを纏っているような。

「これが設置型でじゃの、まぁちょっと拘束されてみれば分かるじゃろ」
「こっ、拘束ってむぐぅぅ!!」

 毛玉ちゃんの壁に向かって、アイナは背中を持たせる。
 するとすぐにふわふわの触手が全身に襲いかかり、慧の動きをがっちりと封じてしまった。

(なっ、何これ助けてぇぇぇ!!)

 手足は完全に毛玉に覆われ、大きく股を開いた状態で壁と一体化している。
 叫び声を上げようにも、口の中には大量の触手が侵入し、喉を開いた状態で舌の先すら動かせないよう固定されてしまう。

 さらにいつの間にか一本の触手が太くなっていて、喉から食道をみっしりと埋め尽くすように犯していく感触がある。
 すぐにでも吐き出したいのに、何故か嘔吐反射も起こらなければ、呼吸も多少苦しいが窒息するほどでは無い。
 ――これはあれだ、男性ものの触手服に頭を突っ込んだときと同様、触手が気道を確保してしまっているやつだ。

『こうやって身体を完全に固定するのじゃ。ああ、水分や栄養は胃に直接流し込まれるし、排泄物や体液は全て吸い取ってくれるから問題は無いぞ?』
(いやいや問題だらけじゃねえか!!それでケツに種付けされて毛玉を産むのかよ!)
『いや、産むのは魔力の塊じゃ、まあ今回は核を植え付けられるところまで体験してみよ』
(うっそだろおぉぉぉ!!!)

 胃の辺りが急にカッと熱くなる。
 これはあれだ、苗床には定番の媚薬入りの何かだ。

(っ……んはあぁぁぁんっ……!!)

 案の定、全身がぞわぞわと気持ちよくなって、力が入らなくなる。
 ぼんやりした頭で視界の端に移る何かを追えば、一本の触手がぼたぼたと粘液を垂らしながら尻に向かっていた。
 ボコボコした形状は、恐らく卵のようなものが詰まっているせいと見た。

 明らかに恐ろしい物体が近づいてくるのに、何故だろう、不思議と恐怖を感じない。

『あれが核じゃな。腹の中をあれで満たせば、体液や排泄物を分解しながら魔力を吸い取って大きくなる』
(お、大きくなるって……どのくらい……)
『なに、母胎に無理をさせるような生物では無い。腹にあれを詰めた後別の触手で尻を塞ぐのじゃがな、それが膨らみつつ母胎の限界を見極めてちょうど良いところで抜けるようになっておる』

 じゃから心配せずに、受け入れれば良いぞ。
 そうアイナがにっこり微笑むのと、触手が尻に突き刺さるのは同時だった。

(はおおぉぉっ!!?)

 全く力の入らない身体は、あっさりと触手を受け入れてしまう。
 良く見ると触手もそれほど太くは無い。精々指二本分と言ったところだろうか。
 いきなりとんでもない太さで貫かれなくて良かった、そう慧は安堵する。

 だが、安堵した次の瞬間。

(……!?)

 ぶわっと頭の中に、ふわふわと温かい、涙が出そうな感覚が広がる。
 これまでに感じたことも無いほど気持ちよくて、幸せで……そう、お尻を触手に貫かれたのが、幸せで堪らない。

(なん、で……犯される、幸せ……いや、やだっそんなこと、俺考えてない……!)

 ふと思い浮かんだ思考に慧は愕然とする。
 今、自分はこの生物に後孔を貫かれて……その事にこの上ない幸せを感じていなかったか……?

(嫌だ、そんなのは、嫌だっ)

 明らかに自分から生じたとは思えない多幸感に、明確な拒絶が頭を巡る。
 けれども魔法生物の出す粘液は、そんな慧の心すら嘲笑うように偽の幸福を頭に植え付けるのだ。


 いやだ、いやだ、しあわせ、きもちいい……いやだ、抗えない……!!


 浸食、される。
 まるで白いペンキで渦巻く不安も恐怖も嫌悪感も全部塗りつぶされるように。
 お前の気持ちなど必要ない、ただ触手から与えられる快楽に幸福を感じる苗床となれば良いと、慧の全てを漂白するかのように――

(きもちいい、しあわせ、もっと……やだっいやだっ、こんなのやだぁ……!!)
『慧、抗うと余計に辛くなるぞ?ふわふわ気持ちよく幸せな状態を受け入れるのじゃ』
(やだよっ!だって、こんな……こんな毛玉に犯されて幸せじゃ訳ないじゃないか!!ここはっ、お尻は、アイナのだって俺言ったああぁ……っ!)
『!!』

 呻き声しか出せない喉で、しゃくり上げながら必死で慧は叫ぶ。
 誰のために、ここまで絶対に許さなかった場所を許したと思っているんだと。


(俺が、幸せになるのは、アイナが入ったときだけだ……!!)


『っ……!!慧、お主…………』

 慧の渾身の嘆きに目を見開きほんの少し逡巡した後、アイナは急いで何かを唱える。
 詠唱が終われば途端に慧の身体にまとわりついていた全ての触手がざっと手を引いて、粘液まみれの身体は床にドサリと崩れ落ちた。

「ひぐっ……ひぐっ……うあぁぁん…………!」

 慌てて尻に手をやって、既にそこから触手が出て行ったことを確認した途端、慧の何かがぷつりと切れて。

「うえぇ……アイナの、ばかぁ……ひぐっ、ばかっ、おにっ、あくまぁぁ……!!」
『……慧…………』

 幼子のように慧はわんわんと恥も外聞もなく泣きじゃくり始めた。
 その姿に……アイナの胸がつきりと痛む。

(……妾は、何てことを)

 ああ、やってしまった。
 ようやく慧が後ろを許してくれて、すっかり舞い上がってしまっていたのだ。
 やっと自分の理想の男の娘にできると、このチョロい青年の望みを叶えてやれると喜びが暴走して……つい傲慢になっていた事実が、アイナに突きつけられる。

(妾なら良いのだと、慧が言うてくれたのに)

『すまぬ、慧……お主の信頼を裏切ってしもうた……』
「うっ、ううっ……うわああぁぁぁ……!!」

 慟哭は、止まらない。
 アイナはその叫びに胸を痛めながら、慧が泣き疲れ眠りに落ちるまでただただ謝り続けるのだった。


 …………


『本当にすまなかった!あれほど後ろは嫌じゃと言っておったのに……妾が迂闊すぎた……!』

 次の日。
 大学へ向かう車の中で、アイナは未だ平謝りだった。
「何で俺がここまでぶち切れたか分かってるよな?」と問いただせば『……妾以外は嫌なのに、無理矢理幸せだと思わされたことじゃろう』としょんぼりしながら答えるあたり、原因は正しく把握しているようだ。

「……分かってるなら良い。俺は、もう二度とあんなのは嫌だ」
『うむ……』

 それを最後に暫く車内にに沈黙が流れる。
 外の音は遠く、エンジンの低い音だけが、身体に響いてくる。

(本当は……もっと時間をおいてから頼むべき事じゃ、分かっておる)

 アイナには慧の思考は筒抜けだ。
 やり場の無い怒りと悲しみが、まだ慧の心に満ちていることはよく分かっている。

 けれども。
 その傷が癒えるのを待てるほど、アイナに残された時間は多くない。
 ただでさえうっかりな宮廷魔法師達なのだ、それこそ……明日の存在すら確実では無い。

 だからアイナは、今話を切り出すという苦渋の決断を下す。

『慧よ……もう昨日のようなことにはせぬ、じゃから……また、拡張をさせて貰えぬか』
「何でそこまでこだわるんだよ……」
『…………お主が、望むからじゃ』
「俺が……」

(何だよ……訳が分かんねえよ……)

 このタイミングで言うのかよ、と慧がわざと大きなため息をつけば、アイナがビクッとするのが伝わってきた。

 確かに初めてアイナに後ろを許したとき、とんでもない妄想を抱いたのは事実だ。
 けれどそれだけでここまでアイナが慧の拡張に執着するとは思えない。

 それに、思い返せばこの1年、アイナは折に触れそのような言葉を零していた気がするのだ。

「俺が一体何を望んでいるんだよ」と語気を強めるも『……言えぬのじゃ』とアイナは悲しそうに首を横に振るだけだ。
 別に意地悪をしているわけでは無い、ただ、お主が自分で気付かなければ意味が無いのじゃと付け加えつつ。

『お主の望みは、お主が見つけねばならぬ。誰かに与えられるものでも、まして異世界から来た者に教えて貰うものでも無いのじゃよ』
「……」

(知ってる、アイナは意地悪なんてしない)

 これまでアイナが悪意を持って何かをしたことは一度も無い。
 この皇女様はどこまでもおっちょこちょいではあるけれど、基本的には善意の塊なのだ。ただ、その善意が変態方向に偏っているだけで。
 だから言わないのではない、言えないのだ。もしかしたら何かしら、異世界への干渉に関する制限があるのかも知れない。

 そう思うと、うなだれるアイナがちょっと可哀相になってくる。
 ……ああ、本当に自分は何でこんなにチョロい人間なんだろうか。

「……分かった。でも、本当に二度とああいうのはやめろよ。多分その方が楽なんだろうってのは分かるけどさ……俺は、偽物の幸せなんて、要らない」
『うむ、分かっておる。今度はちゃんと魔法生物にも言い聞かせておくからのう』
「って、またあの毛玉使うのかよ!!」

 呆れたように叫ぶ慧に、使うには使うがもう一つの方法でじゃとアイナは返した。
 ……どうか全てが終わるまで、迎えが来ませんようにと祈りながら。

「詳しくは帰ってからじゃが……こうやって大学に通いながら拡張をする方法じゃ」


 …………


『おいで』

 アイナが机の上に置いてあった魔法生物を呼ぶ。
 ふわんと空中を漂って掌に降り立つ毛玉ちゃんは、とても昨日自分を襲ったぬりかべと同じ物体とは思えない。

「あれか、もう一つの選択肢というやつ」
『うむ。その上で、こやつの体液で多幸感を生じないように調整する。……少々キツいかもしれぬが』
「そう思うならやらないって選択肢を作って欲しかったな……でも、いるんだろ?アイナが理想とする男の娘に、使える穴は」
『うむ。それに……きっと、お主も拡張したことを感謝するはずじゃ』
「また大きく出たな」

 アイナの詠唱が終われば、毛玉ちゃんはその形をもにょもにょと変えていく。
 10数秒後、掌の上に載っていたのは所謂アナルプラグのような形をした毛の生えた物体だった。

『これを挿入するのじゃ』と目の前にかざされたそれは、先端が涙型に膨らんでいる。
 直径は……恐らく3センチもないのでは無いだろうか。そこだけを見れば、あのぬりかべ型毛玉ちゃんが挿入してきた触手と大差がなさそうだ。
 表面ではふわふわした毛のような触手が波打っている。……なるほど確かにこれも触手だ、その動きが触手服の踊る姿と酷似しているでは無いか。

 ただよくあるアナルプラグと異なるのは、その茎の太さだ。
 肛門括約筋が食い締めることになる部位は、本来違和感を与えないためか細くなっている商品が多い中、毛玉ちゃんは今の状態でも指一本分くらいの太さはある。

『これを根本まで挿入すれば、外に出た部分が皮膚と癒着してな、どれだけ息んでも出せなくなる』
「ちょ、癒着って……!?それ、トイレどうするんだよ!!?」
『心配せずとも、こやつは全ての体液と排泄物を分解して魔力に変換する。後は快楽もじゃな。そうして溜まった魔力がこの先端の核を膨らませ、同時に核を出産しやすいように根本が尻の穴をかっぴろげるというわけじゃ』
「もうちょっとお上品な言い方はないのかよ」

 その辺りの機構は設置型と同じらしい。
 魔力が十分に集まるまでの間、最も狭い部分である肛門縁をしっかりと拡張する仕組みである。
 拡張が限界に至れば癒着は剥がれ、茎部とそれよりほんの少し大きくなっている魔力の塊を出産することで、無理なく拡張を進められるのだそうだ。
 もちろん分泌液も、多幸感をもたらす成分以外は同じである。すなわち、肛門周りの筋肉は伸びやすいように緩められたままになる。

「……で、その産んだ魔力の塊とやらはどうなるんだ?そもそも俺に魔力は無いと思うんだけど」
『この場合は妾の持つ魔力を集める形じゃろうな。塊はそのまま非常時の魔力源として使用できるのじゃよ』

 設置型ならば、2-3時間に一度、数十個(!)の塊を産むことで短期間のうちに拡張を終わらせられる。
 身動きも出来ぬまま、己の尻から日に日に巨大化する塊を産まされ続ける光景というのは、媚薬による多幸感もあって一部の層には非常に刺さるらしい。
 対してこの携帯型の苗床は、出産するのは24時間に一度だけ。その代わり、脳に快感が届く前に魔力に変換されるお陰で日常生活をあまり妨げず拡張が出来るため、大抵の男の娘はこちらを使うようだ。

「それなら最初から携帯型にしてくれよ」と慧が突っ込みを入れれば『そうじゃったな……』とアイナは歯切れが悪い。
 とは言え昨日の今日だ、ああ、まだ落ち込んでいるのかなと慧も特に気にも留めなかった。

「ま、それならやってみようぜ。……痛くないようにしてくれよ」
『任せておけ。というか、こやつの粘液で痛みなど完全に消し去ってくれるじゃろ』

 覚悟を決めた慧が、アイナに全てを委ねる。
 アイナはプラグ型の毛玉ちゃんの根本を持つと、横になってそっと慧の秘部にその先端を触れさせた。

「っ……」
『ゆっくり深呼吸をしておれ。大丈夫じゃ、先にしっかり滑りを良くして、入り口を緩めてくれる』

 途端に思い出すのは、昨日の作られた多幸感。
 あんなものを抱かされるくらいなら、尻が切れて泣かされる方がよっぽどマシだと思うほど、慧の中で昨日の出来事は強固なトラウマと化している。

「ひっ……」
「……大丈夫じゃ……もう、お主を泣かせたりせぬ……」

(そっと……そっとじゃ、慧を怯えさせぬように……)

 暫く輪を描くように動かされれば、じゅわんと温かいものがまぶされる感触を覚えた。
 それとともに、つぷ、とアイナが力を入れてプラグを押し込んでいく。

「んうぅ……やっぱり、変な感じぃ……」

 指一本分とは言え、肛門は太い茎部で拡げられたままなのだ。
 中途半端に何かが挟まったまま出し切ることも出来ない違和感に襲われ、どうにも落ち着かない。
 試しにぐっと腹に力を入れてみるものの、確かに癒着すると言うだけあって微塵も中から出て行く気配はなさそうだ。

 と、いきむタイミングに合わせて、中にあるものがぐっと一回り大きくなったような気がした。

「え、ちょっ、もう大きくなるのかよ!?」
『というより今の限界サイズまで一気に育ってしまうのじゃろうな……っ、んふうぅぅっ!?』
「んあぁっ!だめっ、そこはあぁ……!!」

 しっかり肛門に固定された途端、毛玉ちゃんプラグは一気に体積を増していく。
 そんなに急激に広がったらお尻が裂ける!と戦々恐々の慧だが、流石にそこは専門(?)の魔法生物である。全く力の入らないお尻の穴は傷つくことも無く、やすやすと限界まで拡げられていく。
 ……そして、中でも当然のごとく膨らんでいるプラグに似た核が、良いところを押さない訳がない。しかもその表面にはびっしりと……質量保存の法則を完全に無視する触手が生えているのだ。

「んああぁっ、押すなあぁ、そこっだめ、いいっ……うああぁ待って何で奥に入って行くんだよおぉぉ!?」
『何じゃこれ、奥とんとんされるんじゃが!?ひっ、それ以上入れぬじゃろ!?ちょ、ちょっと待つのじゃ……!』

 早速慧の良いところを発見したのだろう、膨らんだ先端が腹の方へとぐいぐい圧迫を加えてくる。
 慣れ親しんだ気持ちよさに高い声を上げれば、気を良くした毛玉ちゃんの触手の数本が一気に太さを増して、腹の奥へとその魔の手を伸ばし始めた。
「アイナああぁぁどうなってんだよこれっ!!」と慧が半泣きで叫べば『妾にも分からぬ!!』とこれまた役に立たないアイナの嘆き声が返ってくる。

『何でじゃ、んひいぃぃっ、こやつはっ、快楽も魔力に変えてしまうはずなのにいぃ……!』
「ど、どういうことだよってうああぁぁ奥やめてぇ変なところ入り込もうとするなぁぁぁ!!」

 とん、とん、と直腸の奥をノックする衝撃がどんどん深くなっていく。
 そうして、何度目かの挑戦の瞬間


 ごぼっと、してはいけない音がした気がした。


「あが…………っ……」
『あ……あ……これ、だめじゃ…………!!』

(また何かやらかしただろアイナぁ……覚えてろおおぉぉぉ……)

 腹の奥に、痛みとも快楽とも着かない衝撃が叩き込まれた次の瞬間、二人は仲良く意識を彼方へ飛ばしてしまったのだった。


 …………


『おかしい……んふうぅぅっ、こんな筈では、無かったのじゃが……』
「どんな、はずだったんだよぉ……あひいっだめぇ、そこぎもぢいいぃ……!!」

 意識が浮上したとき、既に外は明るくなっていた。
 身体がぼーっと熱くて、気持ちよくて……ああもう、頭が全然回らない。

 カラッカラに乾いた喉にとにかく水を、と慧がベッドから立ち上がれば、その拍子に深いところをぐりっと抉られ「ああぁんっ!!」と甘い声を上げて身体が床に崩れ落ちてしまう。
 きっと一晩中こんな感じで快楽に魘され続けていたのだろう、足腰がぷるぷるして言うことを聞いてくれない。

「んぐ、んぐっ……ぷは……はぁぁんっ…………も、今日休む……無理、こんなの……」
『それが、はぁっ、賢明じゃな……んあっあっあっ、だめじゃそこ、頭がおかしくなるっ!』

 目が覚めた瞬間から快楽の波の中できりもみされるのは、あまり気分の良いものでは無い。
 入口を拡げられる違和感も酷いが、それを圧倒的に凌駕する快楽が腹の浅いところと深いところから叩き込まれていて、二人は大学に行くのを早々に断念し、目を白黒させながら状況を整理することにした。

『携帯型は、快楽は感じないはずなのじゃよ……』
「どこがだよっ!もうずっと気持ちよくて、起き上がれないじゃんか!!」

 アイナ曰く、携帯型に変化した魔法生物は確かに腹の中で好き放題宿主の快楽を引き出すように出来ている。
 だがそれはあくまで快楽から魔力を引き出すため。
 だから、どれだけ刺激を与えようが、身体は快楽を覚えていても瞬時に魔力に変換されるから、脳が快楽を感じることはない。
 そのためちょっと(?)身体をヒクつかせながらにはなるが、日常生活には問題が無いのが携帯型の最大の利点なのだ。

 目を潤ませ、時折悩ましい声を上げながらもアイナは『……多幸感を取っ払ったのが原因かのう……』と推察する。

『毛玉ちゃん自身のを作るための材料が……少なくて、すむから……快楽の分まで使わなくて、良い……?』
「ふぅっ……違うぞアイナ、俺はこの1年で学んだことがある……」
『な、何じゃ……?』
「こいつら、俺の体液が大好きだよな。体液を増やすためなら何だってするよな……?」
『う、うむ……魔法生物にとって、地球人の体液は格別じゃし……まさか……』
「……単純に、ガチで感じさせて体液の分泌を増やそうとしてるんじゃね?当然脳も感じていた方が体液だって増えるんじゃねーかなって……」
『何と』

 そこまで単純かのうと呟くアイナを嘲笑うように、腹の中ではぐねぐねと活発に毛玉ちゃん(の触手)が暴れ回っている。
 一晩かけてすっかり腹の奥まで開発されてしまったのだろう、もうどこもかしこも気持ちが良くて、頭がおかしくなりそうだ。

 しかし散々暴れ回っている癖に、一向にメスイキにはたどり着かない。
 ここまでやるなら思い切り絶頂させてくれても良いのに、とアイナは独りごち、そして次の瞬間理解する。
 ――体液をなるべくたくさん引き出すために、わざと絶頂にたどり着かないように焦らされているというやつだ、これは。

『……慧よ』
「何……んぁっ……」
『お主の推測は正しいぞ。どうやら妾たちは、お尻が広がるまでメスイキもお預けされるようじゃ』
「うっそだろ……」

 ああ、げに恨むべくは地球人の美味しい体液だろうか。
「で、これでどうやって俺たちは外出しろと」と恨めしげに見つめる慧に『……気合いかの?』とアイナは何の解決策にもならない提案しか出来ない。

「取り敢えずさ、夜になったら他のものを召喚して外そうぜ」
『……それがじゃの、こやつは今肛門周囲と完全に癒着しておるから……下手に召喚すると、慧のお尻が向こうの世界に』
「ひぃっ!!ちょ、なんだよそれ完全に詰んでるじゃねーか!」
『じ、十分な大きさになったらちゃんと出てくるはずじゃ……多分、きっと……』
「だんだん確度を下げていくの止めて!!」

『大体一日くらいで排出されるはずじゃ』というアイナの言葉も虚しく、すっかり慧の中が気に入ってしまった魔法生物がようやく出てくる気になったのは、次の日の昼過ぎで。
 たった一回で5センチ近い塊を産まされ、どうにも締まりが悪くてスースーするお尻の心配をする慧に

『始めてしまったものは仕方が無い。こうなったら気合いで乗り切るのじゃ!』
「アイナはそればっかりじゃねぇか!!」
『お主じゃって妾の理想の男の娘になりたいのじゃろ!?なら、問題はあるまい!』
「問題だらけだよ!!いい加減地球人に優しい方法を提案しやがれこのエロウサギ!!」

 ……とすったもんだの末、『そうと決まればさっさと拡張を終わらせるのじゃ』と間を置かず緩んだ穴に新たな核を挿入して毛玉ちゃんを喜ばせる羽目になったのだった。


 …………


 はぁ、はぁと荒い息が止まらない。
 目の前が滲んで、講義なんて碌に聞こえやしない。

 ぽたり、と額から滴る汗がノートに落ちる。
 今が花粉症の時期で本当によかった。とてもじゃないが、今マスクを外して外を歩こうものなら、また見守る会のメンバーが増えてしまう。

(……出したい……お尻、拡げたまま、辛いっ……)

 あれからアイナの懸命の説得により「外にいる間はちゃんと脳に快楽が行かないようにするのじゃ!」と命令された毛玉ちゃんプラグは、召喚主の言いつけを渋々守ってくれるようになった。
 その分、家に帰れば途端に床に崩れ落ち、快楽に腰を振りながら腹の中で育つ塊とすっかり奥を気に入った触手に嬲られ喘ぐしか出来ないただの苗床にされてしまうが、これも単位のためだ、致し方ない。

 ただ、残念ながら脳に伝わる快楽を切ってくれれば平和な大学生活が戻ってくるほど、簡単な話では無かったようだ。

(苦しい……全部、出してすっきりしたい……)

 たかが肛門を拡げられているだけ。
 それがこれほどまでにじりじりと、ひとときも止むことのない焦燥感を募らせるものだとは思いもしなかった。

 慧は快楽の代わりに排泄欲求で満たされた頭で、ほんのり後悔を覚える。
 というか、携帯型なら日常も送れるとか言っていたエロウサギは何を考えているんだ、と呆れ果てながら眺めるのは、慧以上にぐったりしているアイナの姿だ。

 意外にもアイナは『すまぬ……気軽に使うてしもうてすまぬ……もう二度と無茶はさせぬ…………』と魂が抜けたような顔でぶつぶつ誰かに向かって謝りながら、随分大きく育つようになったプラグが叩き込む偽の排泄欲求に完全に屈している。
 120年という年月を生きてきた割に、意外にもアイナ自身は後ろの経験は無かったらしい。

『お尻も……気持ちいいのは大丈夫じゃが……この、中に詰め込まれたままなのは辛すぎるのじゃ……』
「じゃあ、諦めれば」
『それはない、これは慧の、そして妾の理想のためなのじゃ……』
「何でそうなるかなぁ……」

 だから、いつもならどんな状態でも『全く、慧はよわよわじゃのう』と余裕をかましながら優しく慰めてくれるアイナの存在が、今は無い。
 無いどころか慧が励ましながら日々を過ごさなければならない始末である。

「姫里、今日も挿れているのか?」
「米重さん、う、うん……あのさ、米重さんもこっちに、その、挿れたことがあるんだよね」
「ん?ああ。7センチくらいまでは少し慣らせばすぐに入るよ」
「ひえっ思った以上に開発されてた」

 洗浄用の道具を分けて貰った段階で、拡張をしていることは紅葉には筒抜けだ。
 こんなにキツいのによく拡張したねと慧が冷や汗を掻きながら感嘆すれば「辛いのは最初だけだよ」と紅葉は相変わらず表情の無い顔で断言する。

「じきにその辛さが癖になる」
「癖に」
「もう1週間くらいだっけ。抜いたら何となく物寂しくて埋めたくならないか?……それがだんだん、埋まっているのが当たり前になって、もっと太い物で埋めて欲しくなって」
「ちょ、米重さんが言うと説得力しか無いんだけど……」
「すぐに5センチくらいなら平気な顔で日常を過ごせるようになるよ。もっとも張り付かないように時々ジェルの塗り直しは必要だけどさ。……今、私が挿れているのに姫里は気付いていないだろう?」
「…………マジかよ」

 これを挿れているんだ、と紅葉がスマホに表示したのは、どう考えても奥の壁をがっつり貫くであろう長さの巨大ディルドだった。
 流石のアイナも『……クレハはどうなっておるんじゃ……サイファでもこんなものを平然と入れて生活する者は少数じゃぞ……?』と呆然と、じゃない、尊敬の眼差しで眺めている。というかそこは尊敬になるんだ、流石は変態揃いの異世界だな。

「時々……アクメだって決めてるけど。バレてないなら問題ないから」
「ええええ、前々から思ってたけど、どうやったらそんなに平然とエロいことをできるのさ……」
「んー、自然と、かな。……でも、見習わなくて良いよ姫里は」

 姫里はそうやって、何でも素直に出せるところが魅力なんだから。
 私なんかよりずっと「可愛い」の、素敵だなって思うけど。

「じゃ、また明日」と手を上げて姿勢良くすっと去って行く紅葉の背中を眺めながら「……やっぱり米重さんは格好いいな……」と慧は呟く。

 そしてふと気付くのだ。
 ずっと女みたいだ、可愛いと言われるのは嫌だったはずなのに、アイナや紅葉に言われる「可愛い」は嫌じゃ無いどころか、どこか嬉しいと思っていることに。

『……慧よ、早う家に帰らぬか?……もう、お尻が辛くて……出したくて、苦しくて叶わんのじゃ。家でたっぷり快楽に浸って紛らわせたい……』
「ったく、皇女様は弱々お尻過ぎるんじゃね?まぁでも、俺も……気持ちいいのが、いいな」

 そろそろお尻を塞いでいるプラグが外れる気配を感じる。
 ああ、今日は帰ったらまたあの『出産』が待っているのかと熱い吐息を漏らしながら、慧は家路を急ぐのだった。


 …………


 テーブルの上には、キラキラ光るガラスのなまこのような塊が20個近く並べられている。
 左の端はピンポン球くらいだろうか。そこからちょっとずつ大きくなって、一番右に鎮座する塊は、直径が7センチ近く、長さも15センチはありそうだ。

 そして今、慧はまさにこの右側に置かれるであろう塊を産まんと息を荒げ、涎と共にあえかな声を漏らしていた。
 
「はーっ、はーっ……んぁぁ、きもちいぃ……もっと、もっとぉ……!」

 窓の外には、春の気配が訪れている。
 初めて毛玉ちゃん(携帯型)をお尻に挿入した日から、はや1ヶ月が経とうとしていた。

 最初のうちは、4センチの塊を産むのすら「もうお尻壊れちゃう」なんて泣きながらだったのに。
 今や最初からプラグの茎部は4センチの太さとなり、核を挿入した段階では物足りなさすら感じるようになっている。

(あぁ……確かに米重さんの言うとおりだ。本当に物足りなくなっている)

 ごりごりと前立腺を抉られる気持ちよさと、直腸から肛門へとずるりと塊が降りてくる快感が混じり合って、四つん這いではぁはぁと喘ぐ慧の口からはぽたぽたと涎が垂れていく。
 ぐっといきんで、肛門括約筋を通り過ぎる質量に身体を跳ねさせ、力を抜けばまたちょっと引っ込んで……中途半端に広がったままの状態は苦しくてさっさと出し切ってしまいたいのに、心のどこかではもっとこの限界まで拡げられた状態を楽しみたいと思っているのが丸わかりだ。

 いつしか、出産の時間が苦痛から悦楽の時間に変わっていることに、慧は気づいていない。

『はぁっ……慧っ……まだ、か……?』
「もう、ちょっと……きっついの、いい……なか、ゴリゴリするぅ……!」

 相変わらずアイナはこの辛さには慣れないようだ。
 毎度毎度涙目になりながら、それでも慧が満足いくまで文句を言いつつも待ち続けてくれる。
『お主が後ろの快楽をしっかり覚え込まねばならぬからのう』と、こんな状況でもアイナの理想とする男の娘を作るためには妥協しないらしい。ある意味見上げた根性だなと思う。

 20分くらい、そうして堪能していただろうか。
 ようやく重力に負けゴトリと音を立てて床に産み出した魔力の塊が転がり落ちれば「おほおおぉぉっ!!」と慧は白目を剥いて奇声を上げ、その場に倒れ伏した。
 貞操具で封じられたままのペニスからは、たらたらと白濁が力なく流れ落ちていて、それでも射精した快楽は全く感じないから、どうやら最後の一押しで精嚢部分をクリティカルに抉ったらしい。

 手を震わせながら、アイナがまだ体温の残る魔力の塊を手にする。
 落ちた衝撃なのか既に魔法生物の本体は離れていて、また新たな核を作っては早く埋めてくれと催促しているようだ。

『……立派な塊じゃな』

 アイナが思わず呟くのも無理は無い。
 今、慧の尻から生まれ落ちた塊は直径7センチ、長さも20センチを超える大物だったのだから。

『3日も出てこぬからどうなるかと思ったが……もう、十分広がったようじゃの、慧』
「うぁ……も、お尻、閉じない……」
『毛玉ちゃんの体液の効力が切れれば多少は締まるじゃろ。じゃが、もうここまで育てば十分行けるはずじゃ』

 抜け落ちた後も穴はぽっかり開いたままなのだろう、お尻にスースーした感触を覚える。
『では、確かめようぞ』とアイナは慧の手を上にかざして、召喚用の魔法陣を展開する。
 役目を終えた毛玉ちゃんと交代で呼び出すのは……もう、あれしかない。

「……ほれ、慧よ。ベッドで四つん這いになるのじゃ」
「アイナ……」
「残念ながら妾にはちんちんがないからのう。……じゃが頑張ったお主へのご褒美じゃ、この手でたっぷり奥まで愛でてやろう」

 うっそりと微笑むアイナの幻影が、慧をお姫様抱っこする。
 そっとベッドに降ろされた慧が期待の眼差しで見つめる中、アイナは右腕のロンググローブを脱ぎ捨て、触手の体液でぐっしょり濡れたその指先をそっと口を開いたままの慧の後孔に添えた。

「……ゆっくり、深呼吸をするのじゃ。痛みがあればすぐに言うのじゃぞ、無理はさせとうない」
「だい、じょぶ……だから、アイナを、埋めて」
「…………愛い子じゃ」

(ああ、叶うならば繋がるものが欲しかったのう)

 ちょっとだけ寂しさを感じながら、アイナの白い手がずっと緩みきった孔に入っていく。
 まだ毛玉ちゃんの体液の効力が残っている上に、触手服の粘液をたっぷり纏っているお陰だろう。大した抵抗もなくアイナの腕はずぶずぶと泥濘の中に消えていくのだ。

「あひっ……ぁ……あぁぁ……」
「ここ、が……前立腺じゃの」
「うがあぁぁっ……!!」

(やばいっ、これ、やばい!!質量が全然……熱さも、なにもかも、全部違う!!)

 この1ヶ月、延々と繰り返される拡張ですっかり身体は太い物を咥える事に慣れきったと慧は高をくくっていた。
 途中で『最後は拡張できているか、妾の手で確かめてやるからのう』と宣言されたときも、この毛玉ちゃんの拡張の続きにあるもの、位の認識しか無かったのだ。

 けれど。
 幻影といえど、これは魔法生物では無い。アイナなのだ。
 そう、これは突如として慧の身体の中に降臨し、所有権を主張して居座り、その礼にと何故か人を男の娘に堕とそうと抜かして人を振り回し続けた、立派な耳がご自慢の、うっかりものの皇女様の御手――

(アイナが、中にいる)

 この1年、ずっと自分の中にいたのだから、今更なのかも知れない。
 けれど、物理的な繋がりを持つことがこれほどとは……ああ、言葉にならない。
 涙だけがぽたぽたと頬を伝って、嬉しいのにグズグズの顔しかアイナに見せられない。

 そんな慧の気持ちは、やっぱりアイナには筒抜けで。
 アイナもどこか泣き出しそうな顔をして『本当に……可愛いのう……』と呟いては、奥の入ってはいけないところまでずぶっとその白い腕を押し込んだ。

「ぁ…………」

 目の前に、星が散る。
 全ての思考が、感情がかき消され……もはや言葉は用を為さない。


(アイナと、繋がっている)


 ただ、その事実だけが慧の心に溢れる。
 全てが満たされる。ずっと、ずっと気付かなかった、自分の欠けたところを埋めてくれたような、不思議な充足感。


(…………アイナ、俺は)


 想いは、言葉にならない。
 その口から紡がれるのは、濁った喘ぎ声だけ。

 だから、だけど、慧は必死で叫び……そして、アイナもまたその想いを受け取る。


(俺は、アイナが、好きだ)


『…………妾もじゃ。まったく、ただ一人のものを好きになるなど……こんな幼い想いをこの歳になって抱くなど、思いもしなかったわい』


 その答えは、激情の中に揺蕩う慧には届かない。
 ……届かなくて良いのだ。このチョロい青年は、きっとアイナの想いを知ればこれから先、余計に辛い思いをしてしまうから。


『感謝するぞ、慧。お主こそが妾の理想の……お主が、そして妾がなりたかった、男の娘じゃ……!』


 アイナの手が、奥を抉る。
 真っ白な世界に意識を手放す慧を抱き締めながら、アイナはそっと……その唇に口付けを施すのだった。


 …………


(……これは、夢……?)

 ふわふわした、世界。
 真っ白で温かな世界で、慧は誰かと抱き合っていた。

『ふふ……慧や……』
「んっ、アイナぁ……」

 いや、誰かだなんて確かめるまでも無い。
 桃色の髪をなびかせ、ふかふかの耳をピンと立てて笑うのは、愛しい皇女様だ。

 ちゅ、ちゅっと何度も何度も口付けを繰り返す。
 アイナの唇は砂糖菓子のように甘くて、ふんわり柔らかくて、ついばんでいるだけで蕩けていきそうだ。

「んむぅ……!」

 ぬるり、とアイナの舌が慧の中に入ってくる。
 慧の口の中を舐め回し、啜り、二人の唾液が混ざり合って……あまりの甘さに頭がぐずぐずになって。

「……慧は、ほんっとうによわよわじゃのう」
「アイナが、そうしたんじゃん……」
「そうじゃの。ほうら、一緒に繋がるのじゃ……」

 繋がる。
 その言葉にふと慧は自分の股間を見て……あるべきものが無いことに気付く。
 いつも存在を一生懸命主張している欲望も、たっぷり溜め込まされたままの双球も存在せず、つるりとした……まるであの触手服を着ているときのような股間が目の前に拡がる。

 これじゃ繋がれない、とどこかで理性が囁く。
 けれども慧は分かっている。

 ――そうじゃない。アイナと繋がるのは、そこじゃないんだと。

 その思いに同調するように、アイナが取りだしたのは蛇のように長い魔法生物だ。
 両端に瘤のような膨らみがあるその片方を、アイナは「ほら」と慧に渡してくる。

(そう、これ)

 自分が本当にしたかった交わりは、こっち。

 ぽやぽやした頭で、慧は何の躊躇いも無く後孔にその蛇を添える。
 アイナもまた、己の泥濘に先端を導いて……

「んっ……」
「はぁっ…………!」

 二人の口から、同時に甘くて高い声が響く。
 ぎゅっと両手を繋いで、涙に潤んだ瞳で見つめ合い、唇を交わす。

 ああ、甘い、どこまでも甘くて、優しい交合。
 二人でメスの快楽に酔いしれ、抱き締め合い、ドロドロに溶けていく。

(……そっか)

 絶頂の白い波を感じながら、慧は自然と……そう、本当に当たり前のようにその事実を受け入れる。

 どうしてあんなに、尻を狙われるのが嫌だったのか。
 どうしてあれほど彼女が欲しいと思いながらも、己のペニスを使うことに違和感があったのか。

(……俺は、ずっと男の娘になりたかった)

 慧の性自認は、まごうこと無く男だ。
 好きなのは、誰が何と言おうが女の子だ。
 それは何も変わらない。

 ただ、一つ違うのは。

(俺は、あの百合の甘い世界を……外から眺めるんじゃ無い、その中に入って堪能したかったんだ)

 男を捨てたい訳では無い。どこまで行っても自分は男だし、息子さんを無くすなんて考えるだけでぞっとする。
 けれどもこの欲望は、女性を抱くためでは無くただ管理されるためにあればいい。

 そうして……自分も女の子のように睦み合いたい。
 ただ二人で高め合うような、そんな甘ったるい交わりがしたい。

 そんな倒錯した願いを叶える、男の娘という存在になりたかったのだ。

「……ようやく気付いたのう」

 気がつけば目の前のアイナは、快楽にうっとりと目を蕩けさせながらも嬉しそうに慧を見つめている。
 その顔を見て、慧はようやく知るのだ。

 アイナは最初から、慧のこの秘めたる思いに気付いていて。
 それが故に、居候の対価として自分を立派な男の娘に仕立て上げると決めた事を。


 …………


 ピッ、ピッ、ピピッ……

 いつものように、目覚まし時計が鳴り響く。

(ああ、夢か)

 慧はぼんやりと、昨日の夢を思い起こす。
 夢だけれどあれは己の願望だと、今の慧には何故かすんなりと受け止められるのは……昨日のまぐあいがあったからだろうか。

 気怠い身体を起こして目覚ましを止めれば、ずんと腹に響くのは、昨夜アイナが奥の奥まで自らの手であやしてくれた証。
 鈍い痛みと重さでしんどいはずなのに、その痛みすら愛しくて……何も咥えていないお尻が、ちょっとだけ寂しい。

「……なぁ、なんで教えてくれなかったんだよ。男の娘になることが、俺の望みなんだって」

 そう呟けば『……自分で気付かなければならなかったのじゃ』と優しい声が返ってくる。

『自分で気付かなければ、お主はきっとこんなに穏やかにこの願望を認められなかったじゃろう?』
「そう、かもな」

 それは確かにそうかもしれない。
 アイナの導きが……いや、半分くらいはおっちょこちょいによる事故に巻き込まれただけだが……無ければ、きっと自分は永遠にこの思いに気付くこと無く、ただの百合好きな青年として時折この封じられた欲望を使う違和感に襲われながらも、穏便に人生を過ごしたのだろうと思う。

『のう慧よ』

 柔らかな朝の光の中、アイナの口から紡がれたのは、在りし日の自分が全力で否定した思いで。
 けれど今なら、その言葉がすんなりと心に染みこんでくる。

『もう、お主は素直になれるかのう?』

 問いかけながら、アイナはもうその答えを知っている。
 分かっている癖に、と笑いながら慧は今度こそ首を縦に振るのだった。

「ああ。……俺は、女の子に管理される男の娘になりたい変態だ。そして……アイナのお陰で、夢を叶えたんだな」
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