左遷社畜の俺、スキル〈星猫アプリ〉で崩壊ダンジョンの脱出目指し攻略中

小日向ななつ

文字の大きさ
1 / 21
第1章 ダンジョン崩壊から始まる人生の転機

◆1◆ 俺が左遷された理由《わけ》

しおりを挟む
 俺の人生は順風満帆だった。苦労したものの国立大学に入りその後はやりたいことを見つけ、ずっとそれにのめり込んだ。いつしか趣味でしかなかった地図作成が花を開き、そのスキルに目を止めたダンジョン調査会社に入社することになる。
 入ったばかりは初めてづくしで苦労したものだ。だけどどうにか仕事を覚え、顧客に満足してもらえる仕事をしてきた。

 いつしかこの仕事が俺の生きがいに変わっていたが、全てを終わらせる出来事が起きる。

「コスト削減のために全部安物にしろって、そんなのありえませんよ!」
「予算を考えろ! 大体なんだこの出費は。そんな金、あると思うのか!」

 それは首都近くに出現したダンジョン調査をするために行われた事前会議でのやり取りだった。俺が所属するチームは成績が優秀だったということもあり、恩師である会長直々に孫の面倒を見て欲しいと頼まれ一緒に調査することになったんだ。
 だが、何を思ったのか次期社長の肩書きがあるバカ孫こと森居義樹が命にも関わるアイテムと装備を全て安いものに変えろと言ってきた。

「それ以上の利益があるでしょ! そもそも命を落とすかもしれない新規ダンジョンですよ。できるだけ万全な状態で突入するのが当たり前でしょ!」
「その利益が出費よりもなかったらどうする!? いいか、今回のアタックは人数も減らす。俺とあと三人で調査だ」
「死ぬ気ですか! 新規ってことはどんなトラップやモンスターが待ち受けているのか全くわからないんですよ。それなのに最低限の人数でアタックって――」
「ええい、うるさい! 二流大学出身のお前が次期社長の僕に口答えするな! いいか、これは決定事項だ!」

 そう森居が言い切ると、見ていた取り巻きが「バカな奴」「ウケる」という小バカにした言葉が聞こえてきた。だけどそんな言葉を聞いても俺は引き下がることができない。
 俺達の命、そして会社の命運がかかっている事業だ。それをこんな形で失敗し、何もかも終わらせるなんてことはしたくなかった。

「考え直してください! 下手したら死者が出るかもしれないんですよ。その責任をあなたは取れるんですか!」
「そんなことは起きん! 俺が選んだ人材は特にな!」
「ダンジョンに潜ったことあるんですか? 地図はいつも頼れませんよ。今回は特にです。モンスターは地位なんて知らないし気にしない。弱いと判断されれば真っ先に襲われます。あなたはそんな危険地帯を――」
「うるさい! もう黙れ!」

「黙りませんよ! いいですか、あなたは厄災星級と想定されるダンジョンを安い装備で、必要最低限しかない安いアイテムで、右も左もわからない状態で進むんですよ。もしかしたら自分が死ぬかもしれない危険地帯を進むんです。それをわかっているんですか!」

 力を込めて俺は問い質す。すると完全に言い返せなくなったのか、森居は力一杯に会議室のテーブルを両手で叩いた。
 一気に空間が静かになると、森居が俺を睨みつけながら決定的な言葉を言い放つ。

「もういいと言っているだろ、甲斐界人。そこまで僕の邪魔立てするならこっちにも考えがある。お前はクビだ」
「……は?」
「どっかに行け! もうお前の顔なんて見たくない!」

 このバカヤロー。そんな権限なんてお前にはないだろうが。
 そうか、そういう態度か。会長に恩があったからちゃんと育ててあげようと思ったがもういい。
 こんな奴との仕事なんてこっちが願い下げだ。

「わかりました。もう口出ししません。荷物をまとめて出ていきますね」

 俺がそう言い放つと部下がざわついた。しかし、俺を切った当人はとても満足そうな顔をしている。
 勝ち誇ったように笑い、何かを叫んでいるがもうどうでもいい。俺は部下に目配せし、適当に切り上げろと伝えて部屋を出た。
 乱暴に扉を開き、閉じることを忘れ怒りに任せ通路を歩く。後々、俺を見た同僚が「とても怖かった」と言われるほど顔に怒りが出ていたようだった。

 こうして企業を上げた大切なダンジョン調査に俺は参加せず、次期社長であるバカ孫の森居義樹が先頭に立って準備を進めることになり、結果は当然失敗に終わった。
 運良く死者は出なかったものの心配してついていった部下を含め半数以上が大ケガをするというもので、森居は無様に逃げ帰ってきたらしい。しかもかすり傷程度で泣き喚いたそうだ。

「こうなったのは全て甲斐界人のせいだ! 俺は悪くない。悪くない!」

 だが、あろうことか森居は失敗の責任を全部俺に押しつけようとしてきたんだ。次期社長の言葉ということもあり、俺は役員会議に呼び出され、その当時のことを聞かれることとなる。
 しかし、多くの役人は森居の息がかかっていたらしく全然俺の言葉を聞いてくれなかった。

 たまたま話を聞きつけ駆けつけてくれた会長のおかげでクビは免れたけど、それでも俺にとってあまりいい時間ではなかったな。

 こうして俺は出世コースから外れ、地方へと左遷されることになる。何もかも最悪な結末を迎えた俺だが、それが大きな転機になるなんてことをこの時はまだ知らないでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...