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 サシャは頑なに、グラシルクの言葉を受け入れはしなかった。
「脈はあるはずなんだが」
「妄想じゃなくて?」
「そんな都合のいい妄想を浮かべられるのなら、いくらでも浮かべてるさ。…何か、私を拒む理由でもあるのか…」
「あるから断り続けているんだろうよ」
 毎日のようにグラシルクは愛の言葉をサシャに告げ、酷い時では花束を持って教室中に響き渡る声で告白した。
 さすがにこの頃には「またやってるよ」くらいにしか捉えられず、それを断られるのを見るのがクラスメートの日課となっていた。

 それからしばらく、本当にしばらくして。
 グラシルクが泣きながら寮に帰ってきた。
「お、お前、どうした?おい、グラシルク?」
「っ…モラン!!!」
 いきなり寮の玄関で抱き付いてきたグラシルクに、俺は思わず後ろに倒れた。
 それを見ていた女子は何故かガン見していたけれど。
「なんだよ!いてーよ!」
「さ、サシャに、いいよって、言ってもらえた!!」
「……なにに?」
「サシャに!」
「なにが?」
「付き合っても、いいよって!!」
「……妄想?」
「違う!!!!」
 初めての告白から何ヶ月も経った日。グラシルクは今日も駄目だろう、けれど覚悟して行ったその日。サシャはグラシルクにいいよと返事をしたのだ。
 丁度その日からだった。浮かれて周りも見えなくなっているグラシルクと反対に、シーラの顔色が悪くなっていったのは。



「シーラ」
「…モラン。どうしたの?こんな所で」
 裏庭のベンチに座っているのが見えたので声をかけた。見たところ、何かをしているわけではなさそうだし。
 ゆっくりと顔を上げた彼女に、私は笑おうとしてやめた。あまりにも神妙な顔付きだったので、流石に心配になったのだ。
「…何かあった?」
 そう聞いた途端。シーラがボロボロと涙を零し始めた。
「シーラ!?どうした!?」
 隣に座ったモランに、シーラは涙を流しながら抱き付いた。こちらから触れることはあっても、シーラからのスキンシップは初めてで。
「…サシャの、ことか?」
 最近、サシャの様子も沈んでいた。浮かれまくりのグラシルクは一向に気付いた様子もないが。
「……どうして、それを」
 驚いた顔をするシーラに、当たりかと心の中で安堵する。
「二人ともずっと変だから」
 その言葉で、シーラがまた涙を流した。
「…ねぇ、モラン」
「うん?」
「たすけて…」
「……どうしたの。ゆっくりでいいから、教えて」
「っ…サシャが、…サシャが、もう、永くは生きられないって…!」
「………どういうこと?」
 言葉の意味が分からなかった。あのいつも元気なサシャが、何だと?
「サシャ、昔から、身体が弱くて、二十歳まで生きられないって、分かってた、らしくて、」
「…嘘だろう」
 だとしたら。いや、違う。どうすればいいのか分からない。
 あれほど喜んでいるグラシルクはなにも知らないのだ。
「サシャも、ずっと、グラシルクが、好きだったの…!」
「…そう、なのか?ならどうして…」
「元気な状態で、何でも許された状態で、付き合いたかったって…!けれど、もう、永くは持たないって言われて、死んじゃうって分かったら、どうしてもグラシルクに側にいて欲しかったって」
 どうして、何故。サシャは一体どんな気持ちで、日々の告白を聞いて、断っていたんだ。
「ねぇ、私はどうしたらいい?グラシルクにずっと黙っておくの?私は、」
「黙っておくんだ」
 それは咄嗟に出た、私の言葉。
「絶対にグラシルクに言ってはいけない、バレても、悟られても駄目だ」
 サシャの数ヶ月間の苦しみを無駄にしたくなかった。それから、グラシルクを、親友を悲しませたくなかった。
 その決意が、どれだけ親友を苦しませるかも知らないで。
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