婚約者を見限った令嬢は、1年前からやり直す。

伊月 慧

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12,自己愛主義者の思いやり

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 まさかルイスがああまで怒り、聞くなり城へ戻るとは思わなかった。

「ヒューリア」
「お兄様」

 部屋を尋ねてきた兄が、遠慮がちに聞いてくる。

「カイン王子から婚約の申し出があったと」

 こうして兄に向き合うのは何ヵ月ぶりだろうかと考えながら、笑いかける。

「心配をかけてごめんなさい」
「ーー言っておくが、お前の心配をしていたわけではない。ただ、言いたいことはあったからな」

 そういえばそうだった、この人私のことどうでも良かったんだった。自分がよければそれでいい、自己愛主義の方でしたわね。

「なんでしょうか、お兄様」
「ーーお前はカイン王子と仲がいいようだな」
「はっ?」
「隠さなくてもいい、何度もお前たちを街で見かけている」

 なにを勘違いなさっているのか知りませんが、別にカインとはそういう仲ではないですが……?

「……私は家督など継ぎたくない。だが、それによってお前を縛り付ける気もない。お前が余計な気を利かせて後継者を作ろうなんて、十年早い」


 ーー驚いた。無自覚かもしれないけれど、あのお兄様が人のことを考えているなんて。

「これでも一応、侯爵家の長男だ。嫌だと口では言っているが、別にどちらでもいい」

 何故か涙が出そうになった。あのお兄様が、私のことを考えてこんなことを言ってくれるなんて。

「……ありがとう、お兄様。大好きよ」
「余計な愛は要らない。僕は僕に愛されているからな」

 ーー台無しね、お兄様。

 何はともあれ、順調に進みそうです。
 少し悪いけれど、お兄様も役者として使わせて頂きますわね?

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