婚約者を見限った令嬢は、1年前からやり直す。

伊月 慧

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29,二文字[リーザ視点]

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 ランディとの結婚の準備が着々と進む中、リーザは何をするでもなくただ、父の言う通りにランディと会っていた。

 初めは緊張しすぎで一言二言しか話さなかったランディも馴れてきたのか、少しは表情からぎこちなさが消えてきた。

「リーザ」
「…ランディ様」

 カイン様と全てを終わらせたことに後悔はない。けれどこんなにも虚しいのは、少しでも引き留めてもらえるくらいには愛されていると、勝手に誤解していたからなのだ。引き留めることは愚か、鼻で笑われてしまった。浅ましい自分の心が嫌だ。


 ずっとヒューリア様が憎かった。自分よりもカイン様に愛されていたから。
 けれどそれは違う。私が余りにも、愛されていなかっただけ。私のほしかった二文字。

「リーザ、好きだよ」

 この言葉が、私はずっと欲しくて仕方なかった。愛しているという、そんな言葉はいらなかった。ただ、一言でも好きだと、それが恋愛感情でなくても、好きだと言って欲しかった。

「リーザ、どうした!?」

 ランディが真っ青な顔で聞いてくる。

「…私……」

 気が付いたら、頬に涙が伝っていた。

「……駄目なんです…」

 どうしてこんなにも、悲しいのかしら。未練なんてないはずなのに、こんなにも苦しい。あの方の顔を見られないことがこんなにも辛いとは思わなかった。

「リーザ?」
「…お慕いしている方がいるのです…」

 簡単に忘れるには、リーザにとってのカインの存在は大きすぎた。

「申し訳ありません、ランディ様…」

 お父様に勘当されるかもしれない。それでも、この誠実で優しくて頼もしい、私に一心に愛情を向けてくれるこの人の心から背くことは出来ない。

「……僕じゃ、駄目かな?」

 その言葉に顔を上げる。
 ランディは困ったような顔をして、その場に立ち尽くしていた。
   
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