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30,そばにいたい[リーザ視点]
しおりを挟むごめんなさい、としか言えなかった。その後は逃げるように、ランディと別れて家に帰る。
すると、お父様が慌てて降りてきた。
「リーザ!早く来い!」
「お父様?どうなさったのですか?」
「お前どういうことだ!カイン王子と親しくしていたのか!?」
カイン様?何故ここでその名前が出てくるの?
そう思い、ふと窓の外へ目をやって、心臓が止まるかと思った。
王家の印の入った馬車が、この家の外に止まっていたのだ。あの馬車は確か、カインが使っていたものだった。
「…どうして…」
「いいから早く行け!カイン王子がお前を待っておられる!もう何時間もだぞ!!!」
「えぇっ…?」
今更なんの用事だろうか。それに人目もあるのにこんなところへ来るなんて、そんなバカな人だっただろうか。変な噂が立ってしまうだろうに。
「…カイン王子?」
慎重に客室へと入ると、ティーカップをカタンと置いた彼が顔を上げた。
「……久しぶりだな。…出掛けていたようだが……どこへ?」
お父様に無理矢理着飾らされたので、新しいドレスを身にまとっている。
「…茶会か?」
「……ランディ様にお会いしておりましたけれど。何かご用でしょうか?」
「!ーーブラウンか。…結婚の日取りは決まったのか」
結婚どころではない。つい先程とんでもないことを言ってしまったのだけれど。
「えぇ、まぁ」
笑顔を崩さずに言えた私を誉めてほしい。
「…私が結婚しないで欲しいと言っても?」
「……はい?」
言ってる意味がちょっとよく分からない。それでも笑顔を崩さずに言えた私って本当頑張ってると思う。
「君がいないと駄目だとようやく気付いた」
「……申し訳ございません、おっしゃる意味がよく分からないのですが…」
「君が好きだと言っている」
「…ご冗談を」
あり得ないことだ。カインが気に入らないのはきっと、自分のモノが他の男のモノになること。
「冗談でわざわざこんなところまで来ない。噂が立つのを承知で、君に会いに来た」
「何度も言ったはずです。貴方の妾にも愛人にも、なるつもりはないと」
「残念だな」
「?」
「もう遅いよ。私を止めるなら家にいて、私がこの家に上がるのは何としてでも阻止するべきだった」
「はい?」
「男爵に言ったよ。君を正妃として…未来の、この国の王妃として迎えたいと。驚いていたけれどね、…未来の王妃の父である座と、男爵家の当主から退いて終わる人生……君の父上はどちらを選ぶか、明白だろう」
「カイン様!」
この人はなにをここまでして、私を望むのだろう。
「何をお考えなのですか!後悔なさいますよ!!」
この人の隣に相応しいのは、もっと地位も高い、綺麗な女性なのだ。それにヒューリア様がふさわしかった。だから憎かった。
私はこの人に相応しくない。
「後悔しない。…僕は一度間違えた。もう間違えはしない」
「…カイン様?」
「君が好きだ。愛している、ずっと隣にいてほしい」
「……嘘でしょう」
「こんな嘘をつく必要がある?……君はもう、私のことなんてどうでもいいのかもしれないけど」
「……本当にそう、お思いになっていて?」
「リーザ」
「…私が何年、貴方を思い続けたと思っておられるのですかっ…!」
何年も、貴方だけを見てきた。そんな気持ちが忘れられるはずもなくて。
「…愛してるって、言ってくれないかな?」
「言ったら離れられなくなるわ」
「それでいいよ。もう、君がいないのは嫌だ。君がいないと、何も上手く出来ない」
「ーー愛しているわ。ずっと、何年も、これからも」
「僕も、愛してる。王子としてじゃない。一人の男として、君を愛している。…僕と、結婚してください」
王子なのだから政略結婚が当たり前なのに。いいのかしら、という疑問は置いておく。考えたって仕方ないから。
「はいっ…!」
とりあえず私は、この人のそばにいたいってことだけを願おうと思う。
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