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しおりを挟む立ち話も何なので、使節団に充てがわれた一角の客間で、茶を飲むことになった。
「…さて、何から話そうか」
先に口を開いたのはオーゼルだ。侍女達は下がらせたし、人払いは済ませている。
「それにしても驚いた。まさかこんなところで同じ転生者に会えるとは思わなかったからね」
「私も驚い…驚きましたわ。まさか私以外に居たなんて」
「敬語はやめよう、お互い。…それにしても驚いた。今回の使節団のメンバーに選ばれて返って良かったかもしれない」
「そうなの?どうでもいいけど、貴方は誰?」
「僕の名前はオーゼル……じゃない、昔の名前ね。田中功一、普通の大学生だった」
「大学生?死んだの?」
「そう、交通事故で。貴女は?」
「私は二十六歳で、えっと…」
記憶の糸を辿りながら、思い出す。大して気にしていなかったけれど、思い出した。
「火事で。隣人のタバコの不始末で、一度は避難したんだけど。通帳とか取りに帰ったら火に囲まれて、出られなくなったのよ」
今思い出しても笑える。貴重品なんか取りに帰るべきではなかった。命よりも大切なものなんてないはずなのに。
「馬鹿だな」
「私もそう思う」
本当に馬鹿だった。けれど思うんだよね。自分の家が火事になって、冷静でいられる人間なんている?私の中での大切なものがその時、命を差し置いて貴重品へと変わっていただけだ。
「…まぁ、置いといて。ていうか転生後に王子って、どんな気分?」
「夢でも見ているのかと思ったけれど。現実より酷い現実が、夢ではないことを教えてくれた」
「何それ?」
「兄上ーー第一王子と第三王子の王位を巡った争い」
「なに、貴方の国そんな物騒なの」
「物騒なんてものじゃないね。三年前に、その争いに巻き込まれた第四王子の弟が死んだよ」
「ええっ」
「まぁ、所詮は赤の他人なんだけど。どうせみんな母親は違うんだし。つくづく、日本の安全さを教えてくれるね」
「それは思う」
「ていうか貴女は?側室って」
「あー、側室になった途端に記憶を取り戻したの。おかげで百年の恋も冷めたわ」
「そうなんだ?僕は生まれた時から記憶があったけど」
「へー」
侍女の淹れて行った紅茶を口に含む。やはり高級なものはいい。香りが普通のものとは比べ物にならない。街で買ったものも、不味くはないんだけどね。
「そういえば。つい連れてきたけれど、側室の人がこんなところにいていいの?」
「いいんじゃない?」
「向こうの王子、嫉妬深そうだったけど」
「それはナイ。殿下、私のこと何とも思ってないから」
と、丁度その時だ。失礼します、とアリシアが入ってくる。
「アリシア?どうしたの?」
「申し訳ございません。殿下が参られまして、是非お話に参加なさりたいと。取次を…」
「殿下が?」
驚いている私を横目に、オーゼルはにっこり笑った。
「お通ししてくれ。…だから言ったのに」
え?私が悪いの?ていうか殿下がいたら出来ない話なんだけどなぁ。
まぁいっか。
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