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 アリシアの悲鳴に、思わずリックにしがみつく。何があったの、と問う前に窓からアリシアが顔を覗かせる。
「ミリア様!!曲者ですっ!!!」
「へ?」
 曲者?
「て、天井から、ひとがっ!く、黒ずくめの男がぁっ!」
 黒ずくめの男って言葉が懐かしい。日本人だった頃の某人気アニメでそんなのあったよね。秘密の組織だっけ、よく知らないけど。
「天井から?」
「いま、ろ、廊下に!すぐに警備隊に連絡します!」
「あ、アリシア!」
 テンパったアリシアにミリアの声は届かない。今この状態で警備隊が来たら、私もリックも困っちゃうんだけど。
「ミリア様」
「リック。ごめんなさい、どうしましょう…」
「私は取り敢えず帰ります。…また、会って下さいますよね?」
「え、えぇ」
 あぁイケメン。至福。ミリアの偽善活動もやるだけ意味があった。
 それより、だ。リックが送ると言ったのを断って一人になったはいいけれど。どうしたものか、と考えた時だ。
「…驚いたな、これは。部屋にいると思っていた君がどうしてここに?」
 目の前に現れた男に息を飲む。それは他でもないウィリアムだったからだ。
「……これは、殿下」
「廊下に人を配置しておいたのに。窓から飛び降りるとは、想定外だったな」
 どうしてそれを、と問うことも出来ない。力のこもった瞳はジッと私を見据えている。
「…さっきね、使節団の中に見かけた男がこちらから走ってきたが」
 リックのことだ、と頭が真っ白になる。けど、でも。そうだ。この人は私の事なんか気まぐれでしか見ていないのに、何を恐れる必要がある。この日のために練習していたではないか。
「私を放して下さいませ」
「…なに?」
「この国では、王位継承権を持つ王子の正妃こそは国が定めたものですが、側室は別の話。貴方の一言で私は解放されます、でしょう?」
 つまり側室は入るのは難しいけれど、出るのは簡単なのだ。それこそ、王子の一言で。
 解放してくれ、と願った。私は道具じゃないし、イケメンは好きだけど、良いように使われるのは御免だ。
 簡単なことだろうと思ったのに。
「…あの男が」
「?」
「使節団のあの男が、捕まってもいいのか?」
 どういうことだ、と聞き返しそうとすれば、ウィリアムは歪んだ顔で笑った。
「私の側室の住まいに来たんだ、…これは最早国交問題になるぞ」
「なっ」
「いいのか?あの男をすぐに捕らえることも、私には出来るんだ…っ!」
 何故、どうして。
 だから嫌いなんだ、気まぐれな男は。
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