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本編
8日目~咲良side~
しおりを挟む今日は通院の日だ。
週に一度、少し家から離れた大学病院に行って、こうして主治医である湯島晃先生に診てもらっている。
「咲良ちゃん、高校はどう?変わりない?」
「えぇ。いつも通りですよ?」
「そっか。…心配事とか相談とか、遠慮なく言ってね」
「…ありがとうございます」
「薬はちゃんと飲んでいるかな?」
「あ、はい。ちゃんと…」
「そっか。もし体調少しでも悪くなったら無理しないで、すぐに病院においでね」
「…はい、分かってます」
少しだけ顔を曇らせたのが分かったのか、湯島先生は笑って言う。
「大丈夫だよ。容体は安定してるし、すぐに丈夫な身体になるからね」
きっと、少し前なら先生のこの優しい嘘に騙されていたのかもしれない。
けれど少し考えれば分かる。この先生は十数年間、毎週、私に同じことを言ってくる。丈夫な身体になんてならない。けれどそれを言ったら、お母さんもお父さんも悲しむでしょう?
(…煌夜は……私が死んだら、少しは悲しんでくれるかな?)
でもまぁ、煌夜が悲しむなんて想像つかない。
思い浮かべて、ふふっと笑ってしまう。
「どうしたの?」
「あ、いえ…。…ちゃんと薬飲んで…早く良くなりますね。ありがとうございました」
少しだけ意地悪を言ってみた。
先生の顔が、すごく歪んだから。
嘘が下手な人でも、不意打ちには勝てないんだね。そう思うと、またおかしくなってきて笑った。
涙が出たのは、きっと笑ったせいだ。
両親を待つ間、咲良は受付の前の椅子に座り、携帯をいじっていた。
「…まだかな…」
時計を見ると、さっき両親が行ってから四十分は経とうとしている。
「…また、私のせいで時間取らせちゃってるのかな…」
時計から目をそらし、ボーッとしようかと視線を下にやり、…目を見張った。
「……あ…」
受付で看護師と喋っていた女に、視点があった。
「…煌夜、の…」
中学の時の、元カノ。
「……名前…」
なんだっけ。確か…そう、確か。
「小早川…センパイ…」
そのまま受付を去ろうとした女を見て、思わず立ち上がる。
思わず走りそうになりながら、早足で追いかける。
その女が入り口を出た瞬間、声をかけようとしたその時…。
「咲良?どこに行くの?」
「っ…お母さん!」
思わず振り返り、それからもう一度入り口を見た。が、もういなかった。
「どうしたの?」
「あ………うん、なんでもない…」
見失って良かった、と思ってしまう。
私が声をかけたところで憶えられているのか分からないし、第一言うこともない。
(…なんで追いかけたんだろ、私…)
本当、なにをやっているんだろう。
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