あと1年、彼の隣に

伊月 慧

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番外編

雨の日の二人~弘樹side~

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 朝に家を出るとき、兄が傘を持っていけと言った。確かに天気予報でも雨だと言っていたけれど、少し考えてやっぱり、持っていくのはやめた。
 煌夜なら絶対、持っていかないだろう。少しでも彼のようになりたい。それで、いつかあの子が俺のことを意識してくれるようになりたい。
 そんな夢のようなことを考えていた自分を、まさか恨むときが来ようとは。


 やはり天気予報通りに雨が降った。けれどバスケ部は天気など関係なく体育館から学校の敷地を一周、走り込みしていた。
 折り返し地点の昇降口についたとき、一人の少女に目を引かれる。
「…えっ」
 中西、と。あれは確か…煌夜の友達。
 二人は恥ずかしそうに同じ傘に入り、話ながら歩いていった。
 相合い傘。えっと?つまり、どういうことだ。中西は煌夜のことが好きなはずで、彼氏なんかいないはずで。ていうか、偶然を装って中西に会いにいったりもしていたけれど、あの二人が話しているところなんて見たことない。
(てか、煌夜のこと放って帰るってことは…今日は中西と話すチャンスないってことか……)
 傘を忘れた自分がバカらしい。
(…マジで、彼氏…?)
「湯島先輩?」
「わっ……こ、煌夜」
「なんで止まってるんスか?」
「あ、いや。別に…」
 煌夜は昇降口をチラッと見てから、また俺の方に視線を戻した。
「…煌夜?」
「……雨、降ってますね。傘ないからヤバイっス」
「いつもの…幼馴染みは?」
「あぁ。もう帰ったみたいですね。…本当、変なやつ」
(……え、真面目に中西に彼氏できたのか?)
 ぐるぐると思考を回すが、やはりそれ以外の可能性は考えられなかった。

 雨が降ってようが、雪が降ってようが、台風が来たとしても。いつも昇降口で煌夜を待っている彼女の顔が浮かぶ。煌夜以外見えていなくて、いつも嬉しそうに練習試合にだってきていた。

「…あれ?小早川?」
「湯島くんっ!お疲れさま!」
 体育館の鍵を返しに行くと、小早川が笑って手を振ってきた。
「…なんで」
「傘、忘れちゃって。どうせなら、湯島くんを待とうかなって。朝、湯島くん傘忘れたって言ってたでしょ?」
 確かに友達に話したけれど。ていうか、わざわざ待ってたのか。さっきやみかけてたのに。
「…あ、煌夜が待ってるから一声かけてくる」
「ついていくよ」
「いいって」
 煌夜がこの女を好きということは知ってる。どこがいいのかは知らないけれど。けれど、小早川を連れていって牽制だと捉えられたら困る。
「いいって、マジで。すぐ戻ってくるし」
「いいじゃない」
 この女のこういうところが嫌いだ。人がいいって言ってるんだから、大人しく待っててくれればいいのに。
「…好きにすれば」



「…あれ、中西?」
 ここにいるはずのない女にドクリと心臓が鳴る。どうして、と思いながら慎重に、言葉を紡ぐ。
「こんにちは、湯島先輩」
 なんでここに。帰ったんじゃないのか。ていうか、なんで煌夜はそんな風に嬉しそうな顔してんだよ。
 てか、傘二つあるし。わざわざ持ってきたのか。
「先輩、俺、咲良と一つの傘で帰るんで。咲良、この傘先輩に渡していい?」
「え…あ、うん」
 え。つまりそれ、相合い傘ってことか?は?
「え、いや、煌夜!俺はいい!いいから、」
 そんなことさせてたまるか。
「ありがとう、秋野くん」
 小早川、お礼なんか言ってんじゃねぇよ!
「じゃ、先輩。お疲れ様でした。咲良、行くぞ」
「ちょっ…煌夜!」
「う、うん。えっと…じゃ」
 ペコリと頭を下げた中西が隣を抜けていく。
「湯島くん、よかったね」
「…は?なにが良かったんだよ」
「えっ…」
 しまった。
「あ、いや。煌夜に迷惑かけたからさ」
「あ…そうね」
 雨の中、遠くなっていく二人の背中が見える。
(…サイアク…)
 俺の心も、当分は雨だろう。
 まぁ、それを承知で好きなのだから仕方ないとは思うけれどさ。
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