あと1年、彼の隣に

伊月 慧

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番外編

雨の日の二人

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 午前中の晴れとはうって変わって、午後は大雨となっていた。
「わー…折り畳み、持ってきててよかった……あれ、中西さん?」
「あ…、瀬尾くん」
「…傘、ないの?」
 少しぎこちなさが残るのは、今日、初めて話す言葉が「一目惚れしました」だったからだ。
 ごめんなさい、と言ったものの、瀬尾がまずは友達になってほしいと食い下がってきた。
「…入っていく?」
「え、いいよ。狭くなっちゃうし、止むまで待つから…」
「しばらく止まないよ」
「えっと…じゃあ、入らせて貰おうかな。瀬尾君は?電車?」
「いや、バス。ちゃんと駅まで送るよ」
 バス停と駅は真反対だ。
「いいよ!私は何なら、走って帰るから!」
「こけたらどうすんの。いいから入りなよ」
「えっと…」
 その時ふと、廊下を走っていた煌夜と目があった。運動部は大変だな、なんて思って手を振ろうとすると、ふいっと顔を背けられた。
「…ごめんね、瀬尾君。すぐそこのコンビニまで入れてもらっていい?そこで傘、買うから」
「いや、でも…」
「どうせ最寄り駅から歩かないといけないし」
「そっか」


 部活が終わり、汗をタオルで拭う。
 空は一向に晴れず、大雨が続いていた。
「なんだ、煌夜。傘持ってきてないのか?」
「湯島先輩」
「俺もだよ。本当、タイミング悪いよな」
 どうやら傘を持ってきてないのは俺と湯島先輩だけだったらしい。俺の場合、天気予報を見ないので、傘なんて折り畳みすらも入れていない。
「あー…どうしましょうか」
 この時間ならほとんど誰も残っていない。いつもは昇降口で待っててくれる咲良も、智樹と帰っていった。
(てかアイツ…智樹から告られたくせに、下心見え見えなのに、相合い傘なんかしてんじゃねぇよ!!)
 本当、なんなんだ。
(なんで俺、こんなにイライラするんだ…?)

「…あ、煌夜っ!」

 昇降口で座り込む女子が、顔をあげた。
「咲良!?」
「部活、やっと終わったの?お疲れ様。どうせ煌夜のことだから、傘なんて持ってきてないんでしょ?」
 笑いながら、透明な二本の傘を掲げる。
「お前も傘、忘れたんじゃ…てか、智樹と帰ったんじゃねぇのかよ?」
「まぁね。けど、戻ってきちゃった。煌夜は明日も部活だし、まぁ馬鹿は風邪引かないって言うけど、一応ね」
「…俺のために戻ってきたのかよ、バッカじゃねぇの?」
「煌夜ほどじゃないわよ」
 そんな会話をしていると、後ろから湯島と…小早川がいた。
「あ、煌夜。悪い、小早川も傘なかったらしくて…って、あれ?中西?」
「こんにちは、湯島先輩」
 知り合いか?
「先輩、俺、咲良と一つの傘で帰るんで。咲良、この傘先輩に渡していい?」
「え…あ、うん」
 いつもなら多分、小早川が先輩といるたびに心が沈んでいた。けれど今はそれよりも、咲良が待っててくれたことが純粋に嬉しい。
「え、いや、煌夜!俺はいい!いいから、」
「ありがとう、秋野くん」
 小早川に礼を言われ、思わず頭を下げる。
「じゃ、先輩。お疲れ様でした。咲良、行くぞ」
「う、うん」


「智樹とやっぱ付き合うことにしたんだと思った」
「…まさか。私、好きな人いるもん」
「は?え、初耳なんだけど!?俺も知ってるヤツ!?」
「うん、よく知ってるよ」
「だ、誰だよ!」
 何となく焦ってしまう。咲良の隣にいるのは自分なのだと、当たり前に思っていたから。
「…ナイショ!いつか教えてあげるっ!」
 笑った咲良の顔は可愛い。
(あぁ、そっか、俺)
 ただ、咲良のとして、まるで父親のような心境になっていたのだ。寂しいと思うあまり、あんな風に苛ついていたのだ。
「…いつか、絶対に教えろよ?」
「……うん」

 俺が咲良を好きだったのだと気付くのは、まだまだ先の話。
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