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本編
15日目---3
しおりを挟むその日、煌夜が来たのは夕方だった。弘樹が帰ってから一時間ほど経った後だった。
咲良が煌夜の顔を見た瞬間に思わず顔を逸らしたので、煌夜は来るのが遅かったことに怒っているのだと思った。
「悪い、ちょっと野暮用で来るの遅くなった」
「え、あ、うん」
咲良の表情で、特に怒ってるわけではないのだな、と考える。
「…なんかあったか?」
「へっ!?」
「変な顔してるから」
困ったような、泣きそうな顔。咲良はいつも我慢すればするほど、こんな顔になる。
「…また、弘樹先輩来てたのか」
弘樹が来ていたのは知っているけれど、あくまでも知らないフリをする。
小早川のことで咲良に余計な心配をかけたくはないからだ。
「……来てないよ」
…ん?
「…ゆ、湯島先輩は来てない…」
…嘘つけ。見たんだぞ、咲良の病室の階で降りていくの。確かに見たんだ。
「……今日の話だぞ?」
「来てないって!来るはずないでしょ!?」
今だけの表情を見れば、騙されそうになる。一瞬迷った顔をして、それから息をするように嘘をついた。明るく、当たり前に、いつものように、笑顔で。
「……なぁ」
だんだんと、最近の咲良の笑顔が嘘臭くなっていってしまう。
「…なに?」
「お前、いつ退院するんだよ」
思えば、おかしいことは色んなところにあった。
ただの高熱でここまで長い入院をする。ほとんど寝たきりで、少し大声で笑うだけで看護師が飛んでくるような個室。
「…本当は、…本当に、なにもないんだよな?」
「ないってば」
間もなく、咲良が返してくる。
「大体、なにがあるっていうの」
「ー……」
言えば、バカみたいに笑って否定してくれれば、まだこの不安もマシになるのかもしれない。
湯島は本当に咲良のところには行っていなくて、他の用事があっただけ。そう願いたい。
「心臓病、とか」
バカな俺でも知っている。簡単に治ることはないということも、そのうちの数割が二十歳まで生きることなく死んでしまうことも。
「…言わないよな?」
すぐに笑って否定してくれたら、それだけで安心できる。ほんの少しも間をあけず、笑って、笑い飛ばしてくれたら。
「…え…?」
…どうして、そんな顔をするんだよ。
笑い飛ばして、バカにしろよ。
「…そんなわけ、ないでしょ…」
否定するなら、笑ってしろよ。バカみたいに笑って、俺のこと小突けよ。
「っう…!」
「…咲良?」
「あ、っ、…!」
突然、本当に突然、咲良が胸を押さえて倒れた。
「咲良!!」
どうした、と聞く前に、咲良が自力でナースコールを押す。
駆けつけた看護師に煌夜はあっけなく病室から出て行かされてしまった。
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