3 / 102
3
しおりを挟む「い、今の、笹野さんか…?」
男の悲痛な呼び掛けに、妻の香織がコロコロと笑った。
「もしかしなくても、笹野さんね。…あぁ、ご飯の準備しなくちゃね?」
そう言って風の早さで服を着た妻が、いつものようにエプロンをつけて台所に立つ。
「…香織」
和樹の呼び掛けに、今度は答えない。
「香織!」
もう一度強く呼び掛けると、ようやく香織が振り向いた。
「もう…なに?あなた。朝から大声なんて出さないで」
「わ、悪い」
咄嗟に謝ってしまい、「いやいや」と呟く。
「お前、なんでよりにもよって笹野さんと…!」
お前は俺を愛していたんじゃないのか。
なぁ、香織。なんで会社の先輩の笹野さんなんだよ。よりにもよって、なんで俺が知ってる男なんだよ。
「…好きなの」
「……は?」
「陽一さんのことが、好きなの。…ずっと、忘れられなかったの」
「ずっと…?」
「運命だって思ったわ。貴方との結婚式に現れて、貴方の会社の先輩って聞いて」
ちょっと待て。どういうことだ。
「お前、笹野さんと知り合いだったのか…?」
和樹が知っているのは、笹野と香織は面識があるくらいだということだ。
「そうよ。…貴方と出会うずっと前に、私と陽一さんは恋人だったの」
(な…に…言ってるんだ…?)
「私は貴方に尽くそうとした。今更陽一さんに現を抜かしたりしないように、必死で貴方を愛した。けれど貴方は私だけのそばにはいてくれない」
淡々と告げる妻の顔に、見惚れた。
家事に疲れくたびれていた妻は、こんなにも美しかっただろうか。
「…陽一さんね、私だけを愛しているって言ってくれているの。だから私、」
「笹野さんのせいか…!」
「え?」
笹野さんのせいで、そんなにも若返るのか。昔のように綺麗になるのか。
「っ……お前とは離婚だ!」
そんな、あの人に気があるようなことを言うな。俺に泣いてすがって、別れたくないと、いつものように下手に出ろよ。
頼むから、お願いだから。
「…分かりました」
…なんでだよ。
「本当は私から言うつもりだったけれど、いいわ。今日にでも一緒に離婚届けを貰いに行きましょう」
なんでお前はそう、平然としていられるんだ。
妻の顔を見て、当たり前のことを叩きつけられた。
この女はもう、俺のことをなんとも思っていないのだ。
15
あなたにおすすめの小説
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
今さらやり直しは出来ません
mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。
落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。
そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた
しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。
すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。
早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。
この案に王太子の返事は?
王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。
【完結】捨てたものに用なんかないでしょう?
風見ゆうみ
恋愛
血の繋がらない姉の代わりに嫁がされたリミアリアは、伯爵の爵位を持つ夫とは一度しか顔を合わせたことがない。
戦地に赴いている彼に代わって仕事をし、使用人や領民から信頼を得た頃、夫のエマオが愛人を連れて帰ってきた。
愛人はリミアリアの姉のフラワ。
フラワは昔から妹のリミアリアに嫌がらせをして楽しんでいた。
「俺にはフラワがいる。お前などいらん」
フラワに騙されたエマオは、リミアリアの話など一切聞かず、彼女を捨てフラワとの生活を始める。
捨てられる形となったリミアリアだが、こうなることは予想しており――。
※他サイト様にも載せています。
夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。
だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。
失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。
どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。
「悪女に、遠慮はいらない」
そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。
「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。
王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」
愛も、誇りも奪われたなら──
今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。
裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス!
⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる