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しおりを挟む結婚式と云っても、身内だけの物だ。さすがに香織にとっては二度目の結婚なので、結婚式をすることすら憚られた。けれど陽一の「どうしてもウェディングドレスを着せたい」という願いで、しぶしぶ了承したのだった。
式は順調に進んだ。終わる頃に、母が笑って祝ってくれた。
「今度はちゃんと、幸せになりなさい」
そう言ってくれた母に、自分はこんなにいい母親を持って幸せだと改めて実感した。
式が終わるなり、誰にも邪魔されたくないとそのまま旅行に行った。
「新婚さんですか?」
そんなことを聞かれる度に恥ずかしくなったけれど、陽一は始終上機嫌だった。
「ねぇ、陽一さん」
「結婚したんだから、呼び捨てにしてくれ」
「で、でも…」
「昔は呼び捨てにして怒ってただろ?」
「陽一さん!」
ケラケラと笑う陽一に、昔のことを思い出す。
『ちょっと。何で電話してって言ったのにしてくれなかったの?』
『いやその、ちょっと…忙しくて』
『はぁ?本当は女の子と飲みに行ってたの知ってるのよ?』
『落ち着けって…』
『陽一は彼女よりサークルの女の子が大切ってことよね?分かったわ、私も彼氏より飲みサー男の人優先するね?いいよね?』
『いや、それは駄目だろ!』
そんなやり取りがあったのが、まるで昨日のことのように思い出せる。あれも今となってはいい思い出の一つだ。
「…陽一」
「やっと呼んだ」
まるで勝ったような顔をしている陽一に、香織のイタズラ心が湧いた。
「愛してる」
「ーーいきなり!そういうこと言うな!!」
真っ赤な顔をした陽一に、こちらも笑った。
なによ、人のこと言えないじゃない。
「…それに、俺の方が愛してる」
こうなるまでに色々あった。私はここへ来るまでの間、沢山間違えた。和樹がいたのに、陽一を連れ込んだ。けれどもう気にしても仕方ない。
「…大好き。私を愛してくれて、ありがとう」
今は幸せなんだから。
そう思ったのが顔に出ていたのかもしれない。
「こちらこそ」
陽一も、幸せそうに笑った。
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