浮気癖夫が妻に浮気された話。

伊月 慧

文字の大きさ
41 / 102

41

しおりを挟む


 俺は相変わらず、香織ともう一度会える理由を探している。
 もしも偶然会うことがあったなら運命だと思うだろう。自分でもドン引きだ。


 けれどその運命とやらは、本当に起こった。


「和樹!?」


 駅の階段を下りる時だった。
 という女の声がして、それと共に背中に鈍痛が走った。耐えきれず階段を転げ落ちた俺に周りの悲鳴。その中で聞こえた、彼女の声。

「ーー香織…?」
「和樹!」

 駆け寄ってきた彼女が、俺のすぐ側に座る。

「…幸せだな」

 意識がシャットアウトする前に見えたのは、真っ青になった香織の顔だった。


***


「広瀬」

 病室に入ってきた男に、ドクンと心臓が鳴った。

「ーー笹野さん」

 もう会いたくなかった人と、ずっと会いたかった人が寄り添っている。

「…明海ちゃん、周りの人が取り押さえて警察に引き渡されたって。もうすぐお前の両親が来てくれるハズだ」
「そう…ですか、ありがとうございます…」

 お大事に、と小さく呟いた香織が病室を出ようとした。

「香織!」
「…なに?」

 しまった。名前で、とっさに。

「ありがとう」

 とにかくお礼を言う。なんとか意識を強く持てたのも、香織が駆け寄ってくれたからだ。

「…いいえ。お大事に、広瀬さん」

 それからはもう、振り向くこともなく病室を出ていった。それに連れられるようにして、笹野も病室を出ていく。

「…運命、か…」


***


 和樹を偶々見かけた。それは病院へ行った帰りのことだ。駅の階段を転がり落ちる和樹に、顔が真っ青になってしまった。

「和樹!」

 確かにその男は和樹で、背中にはナイフが刺さっていた。階段の上には高笑いする、…見たことのある、確か…和樹の会社の女。

「幸せだな…」

 そう言って意識を失った和樹に、どうしても最後まで付き添わなければならない気がした。


「…陽一?」
「ん?」
「ごめんね」

 念のために謝ると、陽一が笑った。

「いいよ。香織も驚いただろ?ちゃんと俺に連絡くれたんだし、怒ってない」
「ありがとう」

 それより、と陽一が続ける。

「病院って、どこか悪かったのか?ごめんな、朝に気付かなくて…」
「あ、それはね、」

 理由を言おうとした時だ。


「ーー香織さん?」

 廊下の向こうに、元義母がいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

今さらやり直しは出来ません

mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。 落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。 そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

【完結】捨てたものに用なんかないでしょう?

風見ゆうみ
恋愛
血の繋がらない姉の代わりに嫁がされたリミアリアは、伯爵の爵位を持つ夫とは一度しか顔を合わせたことがない。 戦地に赴いている彼に代わって仕事をし、使用人や領民から信頼を得た頃、夫のエマオが愛人を連れて帰ってきた。 愛人はリミアリアの姉のフラワ。 フラワは昔から妹のリミアリアに嫌がらせをして楽しんでいた。 「俺にはフラワがいる。お前などいらん」 フラワに騙されたエマオは、リミアリアの話など一切聞かず、彼女を捨てフラワとの生活を始める。 捨てられる形となったリミアリアだが、こうなることは予想しており――。 ※他サイト様にも載せています。

今から婚約者に会いに行きます。〜私は運命の相手ではないから

毛蟹
恋愛
婚約者が王立学園の卒業を間近に控えていたある日。 ポーリーンのところに、婚約者の恋人だと名乗る女性がやってきた。 彼女は別れろ。と、一方的に迫り。 最後には暴言を吐いた。 「ああ、本当に嫌だわ。こんな田舎。肥溜めの臭いがするみたい。……貴女からも漂ってるわよ」  洗練された都会に住む自分の方がトリスタンにふさわしい。と、言わんばかりに彼女は微笑んだ。 「ねえ、卒業パーティーには来ないでね。恥をかくのは貴女よ。婚約破棄されてもまだ間に合うでしょう?早く相手を見つけたら?」 彼女が去ると、ポーリーンはある事を考えた。 ちゃんと、別れ話をしようと。 ポーリーンはこっそりと屋敷から抜け出して、婚約者のところへと向かった。

処理中です...