血蝕の月華~春夏秋冬~

月見こだま

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第一章

03:春夏秋冬兄弟

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 それはまだ、春夏秋冬麗ひととせれいが中学二年生になったばかりの頃。

 朝早く鳴る目覚ましの音。
 土日も関係なく、一日はこの時間から始まるのだ。

 まずは洗濯機に衣類を押し込みスイッチオン。その間に朝食、昼食―――弁当の準備だ。
 おかずは昨晩作った金平牛蒡を多めに詰めてしまおう。どうせ奴らはだし巻き卵さえ入っていればご機嫌なのだからとエプロンをつける。

 彼は春夏秋冬憂ひととせゆう、二十一歳。三人兄弟の長男だ。
 長身痩躯。和食を好み間食もしないためか、幼い頃から太ったことがない。

「あ、…と。母さん、父さん、おはよう」

 これも日課だ。炊き立てのご飯を仏飯器に盛り、味噌汁と漬物、それと水を遺影の前に置く。憂が二十歳を迎えたばかりの頃に事故死した両親のための食事。喧嘩をしてはいけないからと二人分。

 実際には、喧嘩というよりは文句を言っていているようだが――

 ガチャ、と奥の方で扉が開く音がした。
 もうそんな時間かと、『おはよう』と声をかける。
 
「おはよう、かい。朝飯出来てるぞ」
「…おはよー、憂…」

 ふあああ、と豪快な欠伸をしたのは三男の諧。年齢は憂の八つ下。中学一年生になったばかり。

「……あ、」

 はた、と諧の動作が止まった。

「ちょ、成仏したと思ったのに!!」

 青ざめた諧が指さした先には何もない。……何もないはずなのだが、諧の目にはしっかりと見えているのだ。
 亡くなった両親の姿が。

「お、父さんと母さんそこにいるのか」
「いるよ! ここに! 卵焼きないのって言ってる!」
「どうせ食べれないのに……」

 諧は霊感が強い。それも生者と死者の区別もつかないほどはっきり見える。
 ただし、お祓いなどは出来ないため、度々怖い経験をしている為か、両親の霊にすら怯えている。

「うるさいなぁ……」

「麗。起きたのか」
「諧の声がうるさいんだよ……、あ、父さんと母さんじゃん。おかえりぃ」

 うるさい、と起きて来たのは次男の麗。諧の一つ上、中学二年生だ。
 麗も霊感が強い。諧より強いのではないかと時に思うほど、霊を見ても動じない。

 ――つまり、兄弟三人居て、霊感がないのは長男の憂のみ。
 正確には、全くないというわけではなく、ぼんやりと『いるかもしれないなぁ』ぐらいの感覚はあるが、二人ほどはっきり見えることはない。

「一か月もいなかったし、成仏したと思ってた……え、ハワイ行ってきたの? いいね、飛行機代かかんないし」

 けたけた笑う麗とうずくまる諧。その弟たちにため息をついて、

「ほら、冷めないうちに飯食ってくれ。片付けと洗濯物はいつも通りよろしく」
「はぁい。諧、冷めちゃうよ」
「……はーい。もう、はやく成仏すればいいのに」
「はいはい。遅刻するからさっさと食べちゃおうな」
「「「いただきます」」」

 両親の死から一年。
 家事一つにも四苦八苦していたが三人で分担すればこなせるようになってきた。突然の別れに取り乱した日が懐かしいと思うほど、日々は過ぎる。
 不幸中の幸いか、長男の憂が成人していたこともあり、遺産を巡る争いは思いのほかあっさりと解決した。
 もしかすると、死後も現世に残っている両親が動いたのかもしれないが――それは想像の域を出ない。目まぐるしい日々を過ごしていたらいつの間にか一年経っていた。


(――遺産があったからこうして三人暮らせるんだよな)


 憂は大学生、弟二人は中学生。それでも暮らしていけるのはお金があるからだ。

「やっぱり憂の味噌汁が一番美味しい」
「ほんと、卵焼きも美味しいしね」
「お前ら、そんなに褒めても弁当のおかずは豪華にならないからな」
「晩御飯の方、期待してるから大丈夫!」
「とんかつ食べたい」
「仕方ないなあ」

 麗と諧にも笑顔が戻った。両親と早くに死に別れたため心配ごとも多かったが、それ以上に日常が崩れることなどないと思っていた。

 麗が事件に巻き込まれるまでは。
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