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第二章
01:慧都と孝太
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インターフォンもなく、自動ロックの扉すらも超えて現れたのは女性と男性の二人。
「こんばんは、あなたが麗くんか」
雨による湿気を感じさせない。濡れてすらいない、艶やかな黒髪をかき上げ、目だけで笑う。
「はい、お邪魔してます」
「私が『けいちゃん』――慧都です。けいちゃんでも慧都でも好きに呼んで。で、こっちが」
「孝太だ。よろしく」
麗より少し背の低い青年が頭を下げた。年齢もあまり変わらないようだが。
「あ、朔夜――お茶出して。ペットボトルでね」
「はいはい。どうせ零すって思ってんだろ」
「そう。朧唯が落ちてる時に家事禁止ってルール決めたもんね。守れていい子」
仕方なく――というわけでもなく、朔夜はペットボトルのお茶を人数分用意した。テーブルの上に置き、全員が座る。
「――さて、と。長話するために来たんじゃないから、手短に」
「はい」
「あ、孝太は医者なんだ。注射上手だよ」
「はい……?」
確かに、十代にしか見えない外見で医者というのは驚く。しかし。
「えっと、それが何か」
「麗くんの検査をしたい」
「……検査?」
「うん。麗くんの歪みの一部は医学的にも証明出来るかもしれないの」
「出来れば血液と――涙か、汗か。体液も少し採取させてほしい」
「……突然そんなこと言われても」
唐突な提案に、麗が視線を落とす。――麗が解決したいことはそれではない。揺れる視線が、朔夜を見る。
その先で、朔夜は袋に入れたタオルを用意していた。朧唯が、麗の涙をぬぐった時に使ったものだと気付いて、麗の目が見開かれた。
「朔夜、そのタオルがそう?」
「……ああ」
「多分、朧唯も気付いたんでしょうね。本当に感がいい」
本人の了承を取らないまま話が進み、麗が慌てたように『あの!』と声を上げた。
「俺にもわかるように説明してもらえませんか? 突然現れて、血や体液を採取させてくれだなんて。――あまりに不躾だと思いませんか」
這うような声音に、空気が張り詰めた。真っ先に異変に気付いたのは朔夜だ。少なくとも、麗はこれほど強い言い方をしない。例え、見知らぬ大人に対する警戒があったとしても。
『麗はね、優しくて臆病な感じかな。言葉ひとつにもすごく気を張ってる。最近は気を許してくれたみたいで雑な扱いされることもあるけど』
朋夜の言葉を思い出す。先ほどまでの麗とも繋がらない。
「麗くん……?」
朔夜が戸惑ったように名を呼ぶ。麗は一瞥もくれず、腕を組んだ。
「随分と、――聞いてた感じと違うのね。こんなに物怖じしないなんて」
腕を組み、上から見下すような姿勢をとった麗に、慧都が目を細めた。
そして、
「慧都。こいつは違う」
孝太が首を振る。――朔夜の唇が震える。朧唯の言葉が、繋がった。
これは、今、麗の口を借りて言葉を発しているのは。
「お前、もうひとりの方だな」
朔夜の言葉に、『それ』はぐにゃりと唇を歪めた。
「こんばんは、あなたが麗くんか」
雨による湿気を感じさせない。濡れてすらいない、艶やかな黒髪をかき上げ、目だけで笑う。
「はい、お邪魔してます」
「私が『けいちゃん』――慧都です。けいちゃんでも慧都でも好きに呼んで。で、こっちが」
「孝太だ。よろしく」
麗より少し背の低い青年が頭を下げた。年齢もあまり変わらないようだが。
「あ、朔夜――お茶出して。ペットボトルでね」
「はいはい。どうせ零すって思ってんだろ」
「そう。朧唯が落ちてる時に家事禁止ってルール決めたもんね。守れていい子」
仕方なく――というわけでもなく、朔夜はペットボトルのお茶を人数分用意した。テーブルの上に置き、全員が座る。
「――さて、と。長話するために来たんじゃないから、手短に」
「はい」
「あ、孝太は医者なんだ。注射上手だよ」
「はい……?」
確かに、十代にしか見えない外見で医者というのは驚く。しかし。
「えっと、それが何か」
「麗くんの検査をしたい」
「……検査?」
「うん。麗くんの歪みの一部は医学的にも証明出来るかもしれないの」
「出来れば血液と――涙か、汗か。体液も少し採取させてほしい」
「……突然そんなこと言われても」
唐突な提案に、麗が視線を落とす。――麗が解決したいことはそれではない。揺れる視線が、朔夜を見る。
その先で、朔夜は袋に入れたタオルを用意していた。朧唯が、麗の涙をぬぐった時に使ったものだと気付いて、麗の目が見開かれた。
「朔夜、そのタオルがそう?」
「……ああ」
「多分、朧唯も気付いたんでしょうね。本当に感がいい」
本人の了承を取らないまま話が進み、麗が慌てたように『あの!』と声を上げた。
「俺にもわかるように説明してもらえませんか? 突然現れて、血や体液を採取させてくれだなんて。――あまりに不躾だと思いませんか」
這うような声音に、空気が張り詰めた。真っ先に異変に気付いたのは朔夜だ。少なくとも、麗はこれほど強い言い方をしない。例え、見知らぬ大人に対する警戒があったとしても。
『麗はね、優しくて臆病な感じかな。言葉ひとつにもすごく気を張ってる。最近は気を許してくれたみたいで雑な扱いされることもあるけど』
朋夜の言葉を思い出す。先ほどまでの麗とも繋がらない。
「麗くん……?」
朔夜が戸惑ったように名を呼ぶ。麗は一瞥もくれず、腕を組んだ。
「随分と、――聞いてた感じと違うのね。こんなに物怖じしないなんて」
腕を組み、上から見下すような姿勢をとった麗に、慧都が目を細めた。
そして、
「慧都。こいつは違う」
孝太が首を振る。――朔夜の唇が震える。朧唯の言葉が、繋がった。
これは、今、麗の口を借りて言葉を発しているのは。
「お前、もうひとりの方だな」
朔夜の言葉に、『それ』はぐにゃりと唇を歪めた。
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