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第10話 王都戦
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二、三階建ての煉瓦造り家屋が並ぶ住居地区。
その間を縫うように作られた通り。
そこを突風の如く突き抜けていくのは、ただの男子高校生と幼女の二人組。
物が散乱し、あちこちで叫び声と火の手が上がる荒れ果てた町中を疾走していく。
「竜弥ッ!」
ユリファの求めに応じ、竜弥は両手を広げた彼女の懐に飛び込んだ。
小さくて柔らかいユリファの身体に抱き締められ、それと同時に初めてほどではない、鈍い痛みが走った。
ユリファの周囲には例の黒光が展開し、その中に竜弥から喰らった虹色の『魔魂』が取り込まれていく。
三大魔祖が一人、ユリファ・グレガリアス。
その強大な力――黒光の一部が地面を介して雷撃のように溢れ出て、周囲に置いてあった木製のタルを跡形もなく砕く。
二人の正面に立ちはだかるのは、金色の杖を手にしたスーツ姿の魔術師二人。
「金杖よ、この場に最適な術式を展開せよ!」
魔術師の金杖から発せられた強烈な黄金の光がユリファの黒い雷撃を阻んだ。
しかし、取り戻した三大魔祖の力を完全には殺し切ることはできない。
数秒の間、互いの力が拮抗した後、黄金の光を突き抜けて黒の雷撃が相手二人を襲う。
「な、なぜだぁぁぁぁぁぁ!」
「金杖に刻まれた術式は完璧だったんじゃないのかよッ!」
金杖への絶対的な信頼が崩れ、魔術師たちは絶叫と共に、黒い雷撃に呑み込まれた。
白目を剥いて卒倒した二人を確認し、竜弥とユリファは住居地区の通りを抜ける。
ユリファ主導で行われている魔術師の掃討は順調に進んでいた。
今の魔術師二人もカウントすれば、おそらく十人弱ほどの相手を無力化したはずだ。
王都強襲の手助けをした際、敵勢力と接触する機会があったユリファの見立てでは、被害の派手さに比べて、実働部隊の人数は多くなく、三十人から五十人ほどの規模らしい。少なくとも五分の一ほどは潰せた計算だ。
「異国の魔術師め! リーセアの尊厳、打ち砕かせはせぬ!」
「尊厳? 笑わせるねぇ! んなもん、家畜の餌にでもしちまえ!」
住居地区の敵を排除し、王城から真っ直ぐに続くメインストリートに竜弥たちが出ると、至るところで敵の魔術師とリーセアの王国騎士たちが戦闘を繰り広げていた。
元々、城下町の警備にあたっていた騎士たちは、王城の火災に巻き込まれることもなく、抵抗を試みているようだ。
だが、敵は王国騎士の戦闘パターンを金杖により完全に予測済みであるため、騎士たちの形勢は著しく悪い。
全ての攻撃を受け止められてしまうのだ。
そのため、騎士たちは敵の動きを釘付けにするのが、精いっぱいの状況のようだった。
「よく持ちこたえたわね! あとはわたしが引き受ける!」
砂埃を巻き上げ、高速で大通りの中心に滑り込んだユリファの周囲に、黒光で作られた柱状の物体が、地面の下から四本突き出るように出現した。
月の下で禍々しく輝いた黒い光柱は、それぞれが竜巻のように激しく回転を始めると、無数の黒光の弾丸を全方位に射出する。
「ぐあぁぁぁ! なんだその力はぁ!」
敵の絶叫。
ユリファの攻撃はただばらまいているように見えたが、打ち出された弾丸の雨は恐ろしいまでの精度で敵の魔術師の身体のみを貫通していた。
鮮血が地面に飛び散り、ユリファの背後から様子を見ていた竜弥はそっと目を背ける。
「増援か!? 助かる!」
近くにいた王国騎士の一人に感謝の言葉をかけられ、ユリファの顔がほんの少しだけ歪む。
「感謝されるようなことはないわ。当然の責任だから」
そう言い残して、彼女は騎士から離れた。騎士は意味がわからずにきょとんとしていたが、ユリファの心境は複雑なのだろう。
リーセア王城襲撃の原因、その一端は彼女にある。
そうせざるを得ない理由があったとしても、責任を感じているはずだ。
「……あんま、背負い込むなよ」
竜弥はユリファの背中に声を投げるが、
「何も知らない竜弥に言われても、説得力がないよ」
と、振り向いた彼女に小さく微笑み返されてしまった。
当たり前のことだが、出会って半日も経っていない竜弥に、ユリファが心を開くことはない。
しかし、ユリファの浮かべる笑顔には危うさがあって、どうしても心配になってしまうのだ。
「まだ敵は残ってる。頑張らなきゃね」
ユリファがわざと明るく、そう言った時だった。
「――あぁ、なんてことだ。我が金杖魔術師部隊がここまで壊滅するとは」
甲高くて気色の悪い声が大通りに響き渡った。
その間を縫うように作られた通り。
そこを突風の如く突き抜けていくのは、ただの男子高校生と幼女の二人組。
物が散乱し、あちこちで叫び声と火の手が上がる荒れ果てた町中を疾走していく。
「竜弥ッ!」
ユリファの求めに応じ、竜弥は両手を広げた彼女の懐に飛び込んだ。
小さくて柔らかいユリファの身体に抱き締められ、それと同時に初めてほどではない、鈍い痛みが走った。
ユリファの周囲には例の黒光が展開し、その中に竜弥から喰らった虹色の『魔魂』が取り込まれていく。
三大魔祖が一人、ユリファ・グレガリアス。
その強大な力――黒光の一部が地面を介して雷撃のように溢れ出て、周囲に置いてあった木製のタルを跡形もなく砕く。
二人の正面に立ちはだかるのは、金色の杖を手にしたスーツ姿の魔術師二人。
「金杖よ、この場に最適な術式を展開せよ!」
魔術師の金杖から発せられた強烈な黄金の光がユリファの黒い雷撃を阻んだ。
しかし、取り戻した三大魔祖の力を完全には殺し切ることはできない。
数秒の間、互いの力が拮抗した後、黄金の光を突き抜けて黒の雷撃が相手二人を襲う。
「な、なぜだぁぁぁぁぁぁ!」
「金杖に刻まれた術式は完璧だったんじゃないのかよッ!」
金杖への絶対的な信頼が崩れ、魔術師たちは絶叫と共に、黒い雷撃に呑み込まれた。
白目を剥いて卒倒した二人を確認し、竜弥とユリファは住居地区の通りを抜ける。
ユリファ主導で行われている魔術師の掃討は順調に進んでいた。
今の魔術師二人もカウントすれば、おそらく十人弱ほどの相手を無力化したはずだ。
王都強襲の手助けをした際、敵勢力と接触する機会があったユリファの見立てでは、被害の派手さに比べて、実働部隊の人数は多くなく、三十人から五十人ほどの規模らしい。少なくとも五分の一ほどは潰せた計算だ。
「異国の魔術師め! リーセアの尊厳、打ち砕かせはせぬ!」
「尊厳? 笑わせるねぇ! んなもん、家畜の餌にでもしちまえ!」
住居地区の敵を排除し、王城から真っ直ぐに続くメインストリートに竜弥たちが出ると、至るところで敵の魔術師とリーセアの王国騎士たちが戦闘を繰り広げていた。
元々、城下町の警備にあたっていた騎士たちは、王城の火災に巻き込まれることもなく、抵抗を試みているようだ。
だが、敵は王国騎士の戦闘パターンを金杖により完全に予測済みであるため、騎士たちの形勢は著しく悪い。
全ての攻撃を受け止められてしまうのだ。
そのため、騎士たちは敵の動きを釘付けにするのが、精いっぱいの状況のようだった。
「よく持ちこたえたわね! あとはわたしが引き受ける!」
砂埃を巻き上げ、高速で大通りの中心に滑り込んだユリファの周囲に、黒光で作られた柱状の物体が、地面の下から四本突き出るように出現した。
月の下で禍々しく輝いた黒い光柱は、それぞれが竜巻のように激しく回転を始めると、無数の黒光の弾丸を全方位に射出する。
「ぐあぁぁぁ! なんだその力はぁ!」
敵の絶叫。
ユリファの攻撃はただばらまいているように見えたが、打ち出された弾丸の雨は恐ろしいまでの精度で敵の魔術師の身体のみを貫通していた。
鮮血が地面に飛び散り、ユリファの背後から様子を見ていた竜弥はそっと目を背ける。
「増援か!? 助かる!」
近くにいた王国騎士の一人に感謝の言葉をかけられ、ユリファの顔がほんの少しだけ歪む。
「感謝されるようなことはないわ。当然の責任だから」
そう言い残して、彼女は騎士から離れた。騎士は意味がわからずにきょとんとしていたが、ユリファの心境は複雑なのだろう。
リーセア王城襲撃の原因、その一端は彼女にある。
そうせざるを得ない理由があったとしても、責任を感じているはずだ。
「……あんま、背負い込むなよ」
竜弥はユリファの背中に声を投げるが、
「何も知らない竜弥に言われても、説得力がないよ」
と、振り向いた彼女に小さく微笑み返されてしまった。
当たり前のことだが、出会って半日も経っていない竜弥に、ユリファが心を開くことはない。
しかし、ユリファの浮かべる笑顔には危うさがあって、どうしても心配になってしまうのだ。
「まだ敵は残ってる。頑張らなきゃね」
ユリファがわざと明るく、そう言った時だった。
「――あぁ、なんてことだ。我が金杖魔術師部隊がここまで壊滅するとは」
甲高くて気色の悪い声が大通りに響き渡った。
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