異世界と現実世界が融合してしまったので、復元しようと思います。

月海水

文字の大きさ
28 / 63

第27話 『無邪気な箱』

しおりを挟む
「……『無邪気な箱』?」

 ユリファが告げた眼前の魔導兵器の名を聞いて、竜弥は不気味だと思った。

「キュアキュア! クルゥゥゥ!」

『無邪気な箱』の本体と思しき、胴体部が鳴き声を上げる。

 横に伸びた長方体のような形の金属の胴体。そこから伸びた四本の太い足。胴体から浮かび上がる顔。四方の壁が隆起するようにして生え出た無数の手。
 
 それが『無邪気な箱』の構成要素だ。

 まるで理解のできない前衛的な芸術品のような見た目だった。

「幼児程度の知能を持った自立型魔導兵器、それが『無邪気な箱』よ。箱と呼ばれる所以は、この保管庫のように、外部と隔絶された一定の範囲を魔法によってそのまま魔導兵器に変容させ、侵入者を排除するから」

「攻撃意識を持った部屋ってことか」

「そんなとこ。『無邪気な箱』の厄介な点は、その幼児性と極限まで強化された身体。魔導兵器に高度な意思を持たせることはできない。あの胴体みたいな、不完全な自意識が限界。でもね、その幼児性を生かすため、『無邪気な箱』の発案者たちはこの兵器にもう一つの性質を持たせた。それがあのふっとい腕とか足」

「あれに殴られた時は死んだかと思ったぞ」

 苦い顔で竜弥はぼやく。体内にある無尽蔵の魔魂により回復してもなお、背中はズキズキと鈍く痛んでおり、それが『無邪気な箱』の脅威を物語っている。

「幼児って何も考えていないからこそ、行動の予測ができないし、凶暴、残酷でもあるのよ。けれど身体が小さくて被害が少ないから、普段はあまり脅威だと認識されない」

 だけど、とユリファは言葉を続ける。

「『無邪気な箱』の場合はその攻撃能力が極限まで高められている。するとどうなると思う? 攻撃能力の高い身体を幼児のようにぶんぶん振り回したりしたら、それを食らった周囲の人間は全員死ぬわ」

 自立型の弱点を逆手に取った魔導兵器。それこそが『無邪気の箱』であるらしい。

 しかし、魔導兵器であるのなら、魔魂を使用して動くという前提からは逃れられないはずだ。
 
 そう考えた竜弥は素早く周囲を見回すが、魔魂の供給源らしきものは何も見つからなかった。

「魔導兵器も魔魂を使って動くんだよな?」

 彼は焦りながらユリファに確認する。質問を受けた彼女は身に纏った黒光で、『無邪気な箱』の腕を押さえ込みながら、顔をしかめて返答した。

「魔魂を使用しない魔導兵器なんて、もはや世界の原理を超越した存在だし、絶対にありえない。でも、目の前の奴には、動力として魔魂を受け取る受容器が見当たらないし、近くに大容量の魔魂を直接送り込めそうな魔術師もいない……」

 ユリファは苦い顔で様々な可能性を検討する。

「他物質――たとえば空気なんかを媒介にして、溶け込ませた魔魂を送り込むこともできるけど、今回の場合はどの供給方法が採用されているのかしら……」

「キィ! キョ! フィイィッ!」

『無邪気な箱』の胴体部がけたたましい奇声を上げる。最初は狂っているのかと思っていたが、詳細を知った今では、赤子が意味のない声を発するのと同じ行為だとわかる。

 だからといって、愛らしいと思うことは竜弥には不可能だったが。

「ンギャ!」

『無邪気な箱』の胴体部が突如、竜弥に向かって猛烈な突進を始めた。床が激しく揺れ、蹴り出された胴体部の前脚が竜弥の右頬をかする。

 彼は地面すれすれまで屈み、間一髪のところでそれを回避したが、起き上がった彼の眼前には壁から生え出た剛腕が迫っていた。

 竜弥が迫る脅威に対して反射的に目を閉じたのと同時、床から出現したユリファの黒光の柱がそれを受け止め、代わりに無数の黒の光弾を至近距離から剛腕へと激しく叩き込む。

「ギャギャッ!」

 悲鳴を上げた胴体部は、ふらふらとその場で揺れた後、正気に戻ったのか後ろへと逃げるように後退して、ユリファから距離を取った。

「これじゃ、埒が明かないな。何か攻略法はないのかよ」

「『無邪気の箱』は部屋自体が魔導兵器だから、基本的には相手の魔魂が切れるまで圧倒的に不利な状況が続くわね。でも、供給源が見つからない。仮に体内に魔魂を貯めていたとしても、こんなに長くは動けないはずだわ。ほんとなんなのかしら……」

 ユリファはそうやって頭を悩ませつつも、攻撃の手を緩めることはなかった。

『無邪気の箱』の胴体部の懐に、疾風のように潜り込んだ彼女は、敵の金属製の腹に黒光で強化した右拳を打ち込む。

 周囲に強烈な衝撃波が発生したが、筋肉質の太い脚に支えられた胴体部は微かによろめいただけで、確かに有効なダメージは与えられていないようだった。

「ユリファ、俺は魔魂の供給源を探してみる。しばらく、そいつの相手をしていてくれ!」

 竜弥は黒の幼女の背に声をかけると、『無邪気な箱』の胴体部から大きく離れた。

 途中、横壁が隆起し、形成された新たな剛腕が彼の足を払おうとしたが、その腕を思いっきり踏みつけて、竜弥は高くジャンプしてそれを乗り越える。

 考えろ。

 まずは、前提だ。

 魔導品保管庫の二階全てが『無邪気な箱』である。そんな大型の魔導兵器に魔魂を供給するにはどんな方法があるだろうか。
 
 思うに、魔魂を受け取っているのはあの奇妙な形の胴体部だ。

 その他の腕は出現したり消えたりを繰り返していて、安定して魔魂を補給することができない。
 
 魔魂を受け取った胴体部から魔魂が部屋全体へと広がり、壁を隆起させて形成している多数の腕に供給されるという仮説が有力だろう。

 もし、その仮説が正しいなら、床下に配管のようなものを通して魔魂を供給するような方式ではないと言える。

 胴体部は常に移動しているし、接続された配管、配線の類も見受けられない。

 であるなら、あの胴体部が室内を縦横無尽に移動しても、魔魂の供給が途絶えないようにするには、ユリファが言っていたように何かを媒介にして魔魂を送る手段が有効なはずだ。

 部屋のどこにいても受け取れるもの。

 一番有力なのは、さっきも話していた空気だ。

 それなら送風機のようなもので、室内に送り込むことも十分可能である。魔魂を含んだ空気を特殊な受容機で変換し、体内に取り込む。

 十分考えられることだが、だとすると戦闘開始前にあそこまで室内が静かだったのはおかしい。

 魔魂が溶け込んだ空気を送り込む送風機の音が聞こえてきて然るべきだからだ。
 
 となると、空気の線は否定される。

 部屋中に行き届き、なおかつ音がしないもの。他に何かないだろうか。

 竜弥が頭を悩ませていたその時だった。

 ユリファが胴体部の側面に強化した右足で渾身の回し蹴りを叩き込んだことで、胴体部が派手に横転して音を立てた。相変わらずダメージは入っていないようだったが、そちらに向けられた竜弥の視線はある一点を捉えた。

 そして、竜弥は確信する。


 ――見つけた。あれこそが、逆転の一手だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

処理中です...