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第52話 彼女の帰還

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 超速で接近した魔魂主砲のエネルギー弾が中央管理塔に降り注いだ。

「うわあッ!」

 激しい衝撃で竜弥は後方に吹っ飛ばされる。頭を強く打って、一瞬世界がちかちかと瞬いた。

「ギャ! ギャ! ギャ!」

 正面玄関の強化ガラスの向こうでは、『無邪気な箱』胴体部たちがエネルギー弾によって破壊されていた。

 奇妙な顔面、その口からは謎の液体が零れ、太い二本の筋肉質の足はあらぬ方向へと折れ曲がっている。

 魔魂シールドによって、中央管理塔そのものに損傷はない。

 竜弥が外を覗くと、同じように無数のエネルギー弾がリディガルード全域へと撃ち込まれていた。

 その全てを魔魂シールドが受け止め、『無邪気な箱』胴体部や敵魔術師のみを殲滅していく。

 しかし、依然としてその数は多い。

 敵魔術師も馬鹿ではない。金杖による防御術式を使って、己や『無邪気な箱』を守っていた。

 魔魂主砲による猛烈な攻勢も長くは続かないだろう。竜弥と違って、無尽蔵の魔魂があるわけではないのだ。

 竜弥がそう憂慮した時だった。

 頭上から何かが駆動するような爆音が聞こえてきた。竜弥はその音に聞き覚えがある。

 リディガルードを訪れる際に聞いた駆動音だ。それは魔魂誘導砲のもの。

「この状況で、魔魂誘導砲を撃つってのか!?」

 正気の沙汰とは思えない。魔魂誘導砲の威力は身を持って体感している。

 圧倒的な脅威。全てを蒸発させる超常の一撃。

 確かにそれを使えば、街に存在する『無邪気な箱』の大部分を壊滅させられるかもしれない。

 だが魔魂シールド越しとはいえ、自分たちが耐え切れるのか、と竜弥は恐ろしくなる。

 駆動音はどんどん大きくなっていく。鼓膜を震わし、供給された魔魂を極限まで圧縮していき――その一撃は、放たれた。

 街の全てを薄い魔魂シールドが被膜のように覆う。

 その恩恵を受けられないのは、敵魔術師と『無邪気な箱』だけ。

 そんな彼らの立つ地上に向けて、超大口径の魔魂レーザーが直撃する。

 一瞬にして、街の大気は蒸発し、塵一つ残さないほどに焼き尽くした。

 魔魂誘導砲はそのまま高速で砲口を回転。薙ぎ払う形で360度、リディガルードの全てを砲撃する。

 爆発が起こる。『無邪気な箱』の胴体部は溶けて消え、必死に防御術式を展開した敵魔術師も努力虚しく、血液さえ残さずに消滅していく。

 味方側だから、いい。

 もしこれを敵側の立場で見ていたら、きっと二度と立ち直ることはできない。

 爆発の衝撃で竜弥はまた床に転がってしまう。

 魔魂誘導砲の砲撃終了と共に、街に仕掛けられた環境回復術式が発動し、空気環境や気温を高速で元へと戻していく。

 宿屋でユリファと雑談している時に、そのような術式が組み込まれているという話は聞いていた。

 何はともあれ、敵の大部分は消滅したはずだ。

 特殊な防御術式を使用して、あるいはただ運よく生き残った敵はいるだろうが、これで確実に状況は逆転だ。

「大丈夫……? りゅうや」

 床に倒れた竜弥に声をかけるテリアの語気はいつもの調子に戻っていた。怠そうな様子で床に横たわっている。

「お前の方が大丈夫じゃなさそうだけど」

「いいの。どうせ、まだ何回も衝撃で倒れるだろうし。それなら最初から倒れておくよ」

 物ぐさな人間の考え方だ、と竜弥が思っていると。

 突然、背後の壁が吹き飛んだ。

「なっ――」

「ルゥ! ピーリーグァー!!」

 慌てて振り返ると、そこには前蹴りをした格好の『無邪気な箱』の胴体部の姿があった。

 不気味な顔は、先ほどとは違って大きな単眼。生き残りがいるとは予想していたが、まさかここまで近くにいるとは、と竜弥は自らの悪運を呪う。

 魔魂シールドは!? と、竜弥が外壁を確認すると、今まで全てを守ってくれていた魔魂シールドはなぜか消滅していた。

「キュウキュウ! ピィ!」

 『無邪気な箱』胴体部はその名の通り、無邪気な様子でステップを踏んで、竜弥たちに近づいてくる。

 胴体部が一歩踏み出すごとに、床が衝撃で激しく跳ね上がった。

 ――どうする? 俺とテリアじゃ、攻撃手段が……。

 竜弥は全身を硬直させ、頭を回す。だがその間にも、『無邪気な箱』は迫ってくる。

「くそっ! どうすりゃいいんだ!」

 その時だ。

『無邪気な箱』胴体部、その直上。遥か空の上で、何かが動いた気がした。

 そして、次の瞬間。

 高速で落下してきた何かが、胴体部の上方にある魔魂供給部を貫き、そのまま胴体部を真っ二つに切り裂いた。

「はあ、はあ……ちょっと無茶しすぎたわね。体内に残ってた魔魂を全て消費したわ」

 落下してきた何かは、二つに割れた胴体部の欠片を蹴飛ばしてから、竜弥と目を合わせる。

「竜弥、待たせて悪かったわ。ただいま」

 竜弥にとって、その姿は何よりも頼もしい。

 異世界アールライン、その世界で恐れられる三大魔祖が一人、ユリファ・グレガリアス。

 小柄な身体に金髪のツインテールを揺らし、黒衣を纏った幼女。


 その彼女が、帰還した。
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