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前編
仮面夫婦の、終わり?
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言葉を失った。
以前に彼は『私は貴女に簡単に人生を諦めて欲しくなかった。だから求婚したんだ』と話していた。
この一連の話の中で、私が失脚したと思った彼は良かれと思ってやった事なのだろう。
確かにローデリヒ様がやった事は、当時の私にとっては余計な事だった。
もし、ローデリヒ様からの求婚がなかったら。あのままアルヴォネン王国に居たら、私は修道院に入ってそのまま一生を終えていたかもしれない。
修道院の方が、ここよりも穏やかに過ごせたかもしれない。
もしかすれば、どこかで襲撃されて命を落としていたのかもしれない。キルシュライト王城敷地内は警備が固いから。
でも、ローデリヒ様がいなければ、ローデリヒ様と出会わなければ、アーベルは産まれていなかった。アーベルだけじゃない。今お腹にいる子も。
余計な事をしてくれた、と当時は恨みもした。でも、こんなに穏やかな生活が送れるとは思っていなかったんだ。
大国の王太子妃なのに、公務なんてほぼしていない。
ただ引きこもっているだけの生活。王城の敷地内の邸で、アーベルの面倒を見て、好きなだけ自分の時間を自由に使える。夫はどんなに遅くとも、毎日私達のいる邸へと帰ってくる。側室を取る気配すら見せない。
それがどれだけ難しい事か、私は知っている。
私に出来ることはほとんどない。社交界には怖気付いて出れない軟弱者。穏やかな生活で忘れかけていたけれど、私は未だに狙われ続けているらしい。
後悔の表情を浮かべたローデリヒ様にどう声をかけるか、散々悩み抜いた。
余計な事だと思わなかったと言えば嘘になる。
でも、彼の気遣いはこの二年と少しで十二分に知っていた。
ベッドの傍らに座るローデリヒ様の手に、自身のをそっと重ねる。ビクリ、と大袈裟なまでに彼の肩が跳ねた。
「余計な事……とは思いました。最初は。でも私、すごい恵まれてます。……だって、貴方が私の事をちゃんと気遣ってくれていて、アーベルも可愛がってくれている。私、きっとあのまま修道院に行っていれば、アーベルとも出会えなかったでしょうし」
顔を覗き込むと、海色の瞳が頼りなく、怯えたように揺れた。
その時私は、唐突に忘れかけていた事を思い出したのだ。
骨張った手は、私よりも大きい。身長だって、私がヒールを履いても頭一つ分位高い。立場も一国を担う王太子だ。悪阻で苦しんでる時だって、頼りにしていた。ローブの少女、ティーナに襲撃された時も真っ先に飛び込んで来てくれた。
だけれど、この人だってまだ私と年の変わらない十九歳。
一児の父親で、一年以内に二人目も産まれるけれど、前世ではまだ成人にも満たない歳。
いつも大きく見えていたけれど、私みたいに怯える事だってあるはずだ。自分の行いが正しかったか、悩むことだってあるはず。
現に今、私に求婚した事が彼の中で間違いだったという結論付けをされそうになっている。
この二年、ずっと一緒にいても私達はあまり言葉を交わしてこなかった。完全に冷えきった仮面夫婦だった。
ジギスムントやゼルマのように長年連れ添った夫婦でもない。夫婦は似てくると言うけれど、私達が同じ雰囲気を持っているとは思えない。
「貴方が夫で良かったと思っています。貴方が私に求婚してくれなければ、今この生活はありませんでした。……想像すらしていなかったんです。私が誰かと結婚して、子供までいる事も、こんなに穏やかな生活が送れることも」
結婚に憧れがなかった訳ではない。それを犠牲にしてでも、アルヴォネンの社交界から離れたかった。罪悪感の中、修道院で死んでしまった13人を悼むつもりだった。
幸せになる事に後ろめたさがあった。同時に、自分が表舞台から降りられる事に安堵していた。
私は、きっと自分が幸せになれる道を諦めていたのだろう。
勿論、今でも私が殺してしまった彼らに対しての罪の意識がある。それは永遠に消える事はないだろう。
一生抱えて生きていくつもりだった。それだけで私の将来は全て完結するだろうと思っていた。
彼に求婚されて、震える手で結婚誓約書に記入した時。産まれたばかりのアーベルを、初めてこの腕に抱いた時。
私は確かに将来が広がった気がしたんだ。
全部全部、彼のおかげだ。
重ねた手が緊張で震える。言葉が喉に突っかかる。
気恥しいと、ほんの少しの怖さ、そして聞かなければいけないという急いた気持ちでごちゃごちゃになる。
それはどこか、恋の告白にも似ていた。
「わ、私、まだローデリヒ様の妻でいていいですか?」
ローデリヒ様の手を握り締めて、更に言葉を重ねる。彼の体温をすぐ側に感じながら。
「貴方が私を大事に思ってくれているように、私も貴方の事を大事に思っています」
最後の方は彼の反応が怖くて、俯いてしまった。繋がった手ばかりに目を落としていると、力強く握り返される。
わたしは、と切り出した彼の声も微かに震えていた。
「私は……、貴女の良い夫に、なれているのだろうか?」
その言葉に顔を上げる。ローデリヒ様は目を伏せて、眉間に皺を寄せていた。苦しそうな表情に私も思わず顔が歪む。
「勿論です。ローデリヒ様は私の道に光を与えてくれましたから」
「そ……、うか。そうか、良かった……」
ローデリヒ様は俯いたまま、空いた手でグイッと目元を乱暴に擦る。金色のまつ毛がほんの少しだけ濡れていたのは、気のせいではないはずだ。
僅かに潤んで充血した青い瞳が、私を捉える。
「貴女がいい。貴女だけが、私の妻であってほしい」
意味を理解すると共に、じわじわと口元が緩む。ローデリヒ様もくしゃりと泣きそうになりながら、少年のように微笑んだ。
「はい。不束者ですが、改めてよろしくお願いします」
「ああ。未熟者だが、改めてよろしく頼む」
手を握り合う。交わした言葉に、感じる温もりに、なんだか仮面夫婦を卒業する事が出来そうな気がしたんだ。
数秒お互いに見つめあって、ローデリヒ様が意を決したように顔を近づけてくる。何となくこの部屋の雰囲気が変わった。私もまぶたを閉じて――、
「アリサ!!容態はどうじゃ?!」
部屋の扉が開いた。同時に、ローデリヒ様が驚きのあまり椅子から転げ落ちた。私も唖然としながら扉を開けた人、太った中年男性である国王様を見る。
国王様は片腕で慣れたようにアーベルを抱き上げていて、その後ろからジギスムントさんが申し訳なさそうな顔で、「すみませんな。この馬鹿が話を聞かなくて……」なんて謝っていた。
国王様に馬鹿って言っていいの……?
「なんじゃ、チューする一歩手前じゃったか」
「ちょっ、ち、違います!!」
雰囲気を察知したらしい国王様が肩を竦めたけれど、ローデリヒ様は椅子を戻しながら必死に噛み付く。顔が真っ赤なので、説得力が全くない。
なんか図書室の一件を思い出すなあ……。
「若いんじゃから、遠慮なくイチャついて良いんじゃぞ?……ん?ローデリヒ、お主泣いて……」
「泣いてませんから!!」
目ざとくローデリヒ様が泣いていた事に気付いた国王様は、デリカシーなく触れてくる。ローデリヒ様も最後まで言わせずに途中で強制終了させた。
「それで父上、要件はなんですか?くだらないことだったら怒りますよ」
半眼になったローデリヒ様に、国王様は口を尖らせる。
「なんか父に冷たくない?のう?ジギスムント」
「あんたは女子ですか」
ジギスムントさんの容赦ない突っ込みに、肩を落とした国王様だったが、アーベルがモゾモゾと動き出したのでアーベルをゆっくり床に降ろしてあげていた。
「あーたま!」
とてとて、なんて可愛い効果音が付きそうな足取りで、私の方へと手を伸ばしてくるアーベル。ローデリヒ様がアーベルを後ろから抱き上げて、私の寝ているベッドに乗せた。
「あーたま、いたいいたい?」
「母様はもういたいいたいないよー」
伝わったのか、キャッキャと笑いながらぐりぐりと胸に顔を埋めてくる。ギューッと抱き締めてあげると、子供特有の匂いがした。
私達の様子を恐ろしく真剣な表情で見ていた国王様は、重々しい口調で告げた。
「こやつ……きっと将来相当な女好きになりそうだぞ……」
「何言っているんですか父上」
「何言ってんだあんた」
ローデリヒ様とジギスムント、冷静な二人の突っ込みが飛んだ。
本当にこの人一国の国王やっているんだろうか……?
以前に彼は『私は貴女に簡単に人生を諦めて欲しくなかった。だから求婚したんだ』と話していた。
この一連の話の中で、私が失脚したと思った彼は良かれと思ってやった事なのだろう。
確かにローデリヒ様がやった事は、当時の私にとっては余計な事だった。
もし、ローデリヒ様からの求婚がなかったら。あのままアルヴォネン王国に居たら、私は修道院に入ってそのまま一生を終えていたかもしれない。
修道院の方が、ここよりも穏やかに過ごせたかもしれない。
もしかすれば、どこかで襲撃されて命を落としていたのかもしれない。キルシュライト王城敷地内は警備が固いから。
でも、ローデリヒ様がいなければ、ローデリヒ様と出会わなければ、アーベルは産まれていなかった。アーベルだけじゃない。今お腹にいる子も。
余計な事をしてくれた、と当時は恨みもした。でも、こんなに穏やかな生活が送れるとは思っていなかったんだ。
大国の王太子妃なのに、公務なんてほぼしていない。
ただ引きこもっているだけの生活。王城の敷地内の邸で、アーベルの面倒を見て、好きなだけ自分の時間を自由に使える。夫はどんなに遅くとも、毎日私達のいる邸へと帰ってくる。側室を取る気配すら見せない。
それがどれだけ難しい事か、私は知っている。
私に出来ることはほとんどない。社交界には怖気付いて出れない軟弱者。穏やかな生活で忘れかけていたけれど、私は未だに狙われ続けているらしい。
後悔の表情を浮かべたローデリヒ様にどう声をかけるか、散々悩み抜いた。
余計な事だと思わなかったと言えば嘘になる。
でも、彼の気遣いはこの二年と少しで十二分に知っていた。
ベッドの傍らに座るローデリヒ様の手に、自身のをそっと重ねる。ビクリ、と大袈裟なまでに彼の肩が跳ねた。
「余計な事……とは思いました。最初は。でも私、すごい恵まれてます。……だって、貴方が私の事をちゃんと気遣ってくれていて、アーベルも可愛がってくれている。私、きっとあのまま修道院に行っていれば、アーベルとも出会えなかったでしょうし」
顔を覗き込むと、海色の瞳が頼りなく、怯えたように揺れた。
その時私は、唐突に忘れかけていた事を思い出したのだ。
骨張った手は、私よりも大きい。身長だって、私がヒールを履いても頭一つ分位高い。立場も一国を担う王太子だ。悪阻で苦しんでる時だって、頼りにしていた。ローブの少女、ティーナに襲撃された時も真っ先に飛び込んで来てくれた。
だけれど、この人だってまだ私と年の変わらない十九歳。
一児の父親で、一年以内に二人目も産まれるけれど、前世ではまだ成人にも満たない歳。
いつも大きく見えていたけれど、私みたいに怯える事だってあるはずだ。自分の行いが正しかったか、悩むことだってあるはず。
現に今、私に求婚した事が彼の中で間違いだったという結論付けをされそうになっている。
この二年、ずっと一緒にいても私達はあまり言葉を交わしてこなかった。完全に冷えきった仮面夫婦だった。
ジギスムントやゼルマのように長年連れ添った夫婦でもない。夫婦は似てくると言うけれど、私達が同じ雰囲気を持っているとは思えない。
「貴方が夫で良かったと思っています。貴方が私に求婚してくれなければ、今この生活はありませんでした。……想像すらしていなかったんです。私が誰かと結婚して、子供までいる事も、こんなに穏やかな生活が送れることも」
結婚に憧れがなかった訳ではない。それを犠牲にしてでも、アルヴォネンの社交界から離れたかった。罪悪感の中、修道院で死んでしまった13人を悼むつもりだった。
幸せになる事に後ろめたさがあった。同時に、自分が表舞台から降りられる事に安堵していた。
私は、きっと自分が幸せになれる道を諦めていたのだろう。
勿論、今でも私が殺してしまった彼らに対しての罪の意識がある。それは永遠に消える事はないだろう。
一生抱えて生きていくつもりだった。それだけで私の将来は全て完結するだろうと思っていた。
彼に求婚されて、震える手で結婚誓約書に記入した時。産まれたばかりのアーベルを、初めてこの腕に抱いた時。
私は確かに将来が広がった気がしたんだ。
全部全部、彼のおかげだ。
重ねた手が緊張で震える。言葉が喉に突っかかる。
気恥しいと、ほんの少しの怖さ、そして聞かなければいけないという急いた気持ちでごちゃごちゃになる。
それはどこか、恋の告白にも似ていた。
「わ、私、まだローデリヒ様の妻でいていいですか?」
ローデリヒ様の手を握り締めて、更に言葉を重ねる。彼の体温をすぐ側に感じながら。
「貴方が私を大事に思ってくれているように、私も貴方の事を大事に思っています」
最後の方は彼の反応が怖くて、俯いてしまった。繋がった手ばかりに目を落としていると、力強く握り返される。
わたしは、と切り出した彼の声も微かに震えていた。
「私は……、貴女の良い夫に、なれているのだろうか?」
その言葉に顔を上げる。ローデリヒ様は目を伏せて、眉間に皺を寄せていた。苦しそうな表情に私も思わず顔が歪む。
「勿論です。ローデリヒ様は私の道に光を与えてくれましたから」
「そ……、うか。そうか、良かった……」
ローデリヒ様は俯いたまま、空いた手でグイッと目元を乱暴に擦る。金色のまつ毛がほんの少しだけ濡れていたのは、気のせいではないはずだ。
僅かに潤んで充血した青い瞳が、私を捉える。
「貴女がいい。貴女だけが、私の妻であってほしい」
意味を理解すると共に、じわじわと口元が緩む。ローデリヒ様もくしゃりと泣きそうになりながら、少年のように微笑んだ。
「はい。不束者ですが、改めてよろしくお願いします」
「ああ。未熟者だが、改めてよろしく頼む」
手を握り合う。交わした言葉に、感じる温もりに、なんだか仮面夫婦を卒業する事が出来そうな気がしたんだ。
数秒お互いに見つめあって、ローデリヒ様が意を決したように顔を近づけてくる。何となくこの部屋の雰囲気が変わった。私もまぶたを閉じて――、
「アリサ!!容態はどうじゃ?!」
部屋の扉が開いた。同時に、ローデリヒ様が驚きのあまり椅子から転げ落ちた。私も唖然としながら扉を開けた人、太った中年男性である国王様を見る。
国王様は片腕で慣れたようにアーベルを抱き上げていて、その後ろからジギスムントさんが申し訳なさそうな顔で、「すみませんな。この馬鹿が話を聞かなくて……」なんて謝っていた。
国王様に馬鹿って言っていいの……?
「なんじゃ、チューする一歩手前じゃったか」
「ちょっ、ち、違います!!」
雰囲気を察知したらしい国王様が肩を竦めたけれど、ローデリヒ様は椅子を戻しながら必死に噛み付く。顔が真っ赤なので、説得力が全くない。
なんか図書室の一件を思い出すなあ……。
「若いんじゃから、遠慮なくイチャついて良いんじゃぞ?……ん?ローデリヒ、お主泣いて……」
「泣いてませんから!!」
目ざとくローデリヒ様が泣いていた事に気付いた国王様は、デリカシーなく触れてくる。ローデリヒ様も最後まで言わせずに途中で強制終了させた。
「それで父上、要件はなんですか?くだらないことだったら怒りますよ」
半眼になったローデリヒ様に、国王様は口を尖らせる。
「なんか父に冷たくない?のう?ジギスムント」
「あんたは女子ですか」
ジギスムントさんの容赦ない突っ込みに、肩を落とした国王様だったが、アーベルがモゾモゾと動き出したのでアーベルをゆっくり床に降ろしてあげていた。
「あーたま!」
とてとて、なんて可愛い効果音が付きそうな足取りで、私の方へと手を伸ばしてくるアーベル。ローデリヒ様がアーベルを後ろから抱き上げて、私の寝ているベッドに乗せた。
「あーたま、いたいいたい?」
「母様はもういたいいたいないよー」
伝わったのか、キャッキャと笑いながらぐりぐりと胸に顔を埋めてくる。ギューッと抱き締めてあげると、子供特有の匂いがした。
私達の様子を恐ろしく真剣な表情で見ていた国王様は、重々しい口調で告げた。
「こやつ……きっと将来相当な女好きになりそうだぞ……」
「何言っているんですか父上」
「何言ってんだあんた」
ローデリヒ様とジギスムント、冷静な二人の突っ込みが飛んだ。
本当にこの人一国の国王やっているんだろうか……?
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