没落した俺、異世界商会で生き延びる

failgom

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EP 4 新任の日常は軍隊並み?

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(記録室・初出勤)

初めての場所へ向かう緊張感を抱きながら、シボネンは印の刻まれた手をかざし、記録保管室の扉に向かって暗号を唱えた。

「待て。所属を教えてくれ。」

中年の男性が立ちはだかった。
豊かな白髭と大柄な体格、眼鏡越しの目は冷静だった。

「執行……いえ、プレート現場部新人のシボネン・ヘドウィカーです。」

身元を明らかにすると、司書らしき男はわずかに頷き、扉を開けた。

「自由に閲覧していい。ただし、持ち出すなら申請書を出すことだ。」

無機質な口調に若干戸惑いながらも、シボネンは地図棚へ向かった。
帝国全図、北部王国地図、西部開拓地地図を手に取り、距離、補給、リスクを慎重に計算し始めた。

(夜・宿舎)

資料をまとめ終えたシボネンは、静かに宿舎へ戻った。
そして今日出会った人々を思い出す。

直属の上司イスリンは、北部王国特有の純白の肌に赤髪が映える、凛々しい美貌を持った女性だった。
現場部長リシェは、艶やかな黒い肌に漆黒の瞳を持つ、まるで黒豹のようなカリスマ性を纏った女性だった。

(まさか、女性の上司たちと働くことになるとは……)

それでも――

(彼女たちは有能だ。俺も、きっとやれるはずだ。)

そう思いながら、シボネンは静かに目を閉じた。

(翌朝・現場部事務所)

夜明け前に目覚めたシボネンは、誰よりも早く事務所に到着した。
現場部の執務室には、すでにリシェが座っており、コーヒーの香りが漂っていた。

昨日は編み込んでいた髪をほどき、豊かな黒髪を流している。
陽の光を浴びた肌は、滑らかな光沢を放っていた。

「新入り!こんなに早く出勤とは感心だ。」

リシェは嬉しそうに笑い、立ち上がってシボネンを迎えた。

「おはようございます、部長。こんなに早いとは思いませんでした。」

リシェはコーヒーを淹れ、テーブルの引き出しからパンも取り出して差し出した。

「私はここに住んでるのさ。だから出勤はない。」

「えっ……家族は……?」

驚きつつ尋ねるシボネンに、リシェはカップを持ち上げながら笑った。

「家族なんて、最初からいないわよ。
それより新入り、お前、結婚は?」

「いえ、まだです。」

「ふふ、帝国じゃ晩婚化が進んでるって言うけど、私みたいに歳取ったらもう無理ね。
ま、仕事しながら考えなさい。」

冗談めかした口調だったが、リシェのどこか寂しげな笑みに、シボネンは胸が痛んだ。

(彼女も……いろいろあったのかもしれない)

そう思いながら、彼は黙ってパンにかじりついた。

(イスリン出勤・報告提出)

パンとコーヒーを片付けた頃、現場部担当官イスリンが出勤してきた。
シボネンはすぐに立ち上がり、丁寧に挨拶する。

「おはようございます、担当官。」

「おはよう、シボネン。ずいぶん早いわね。」

イスリンは微笑みながら席に着き、シボネンが差し出した分厚い報告書を受け取った。
手早くページをめくりながら内容を確認していく。

「マラン王国北門経由……なるほど、予算内。補給計画も細かい。
開拓地ルート案もリスク評価済みね。」

イスリンは頷き、顔を上げた。

「今日、ウィスパーのイジ先任秘書のもとへ直接報告に行くわ。あなたも一緒に来て。」

「イジ先任秘書……ですか?」

思わず硬直するシボネン。
ウィスパー、上層部の中でも特に権限を持つ存在。
イジはプレートの現場部に対しても強い影響力を持つ。

「緊張しなくていいわ。イジ様は合理的な方よ。
いい仕事をすれば、きちんと評価してくれる。」

イスリンは柔らかく微笑んだ。

「リシェ部長は現場の取りまとめで忙しいから、今回は私たちだけで向かうわ。」

「……はい、了解しました。」

シボネンは深く一礼した。

(ウィスパー・イジの執務室)

執務棟の上層階、ウィスパー専用フロア。
シボネンとイスリンは、重厚な灰色の扉の前に立った。

扉に刻まれた細やかな紋章――
これもまた、魔法的な結界と暗号によるものだった。

イスリンが軽くノックし、静かに告げる。

「プレート現場部担当官、イスリンと、新人シボネン・ヘドウィカー、輸送計画の報告に参りました。」

しばしの静寂の後、扉の向こうから低い声が返った。

「入れ。」

その声に従い、二人は扉を開けた。

(イジとの面会)

執務室の中央には、一人の女性が静かに立っていた。
灰色のシュミーズドレスに身を包み、ベビーブルーの髪を肩まで流している。

雪のように白い肌。
まるで冷たい霧の中に佇む女神のような、圧倒的な存在感。

それが、ウィスパーのイジ先任秘書だった。

彼女は静かにこちらを見据え、感情の色をほとんど見せずに言った。

「資料を。」

イスリンが手早く報告書を差し出し、シボネンが補足説明を始めた。

(シボネンの報告)

シボネンは落ち着いた声で、準備してきた輸送計画を説明し始めた。

「今回の輸送において、最適と判断されるルートは、マラン王国北門経由です。
国境通過には協力金が必要ですが、総補給費は予算内に収まり、輸送日数も最短で7日間に抑えられます。」

イジは無言のまま、報告書に目を通していた。

「開拓地経由の場合は?」

冷たく短く問う声。

「補給費用が倍増し、道路状況の悪化と野盗の出現リスクにより、輸送日数は最悪20日以上かかる恐れがあります。」

イジは淡々とページをめくり、静かに一言だけ告げた。

「マラン王国経由を承認する。」

そう言って、机の上の承認印を押す。

「……よくまとめた。」

感情の起伏はほとんどないが、それは確かな評価だった。

イスリンは静かに一礼し、シボネンにも目で合図した。

「失礼いたします。」

二人は静かに頭を下げ、執務室を後にした。

(事務所に戻る途中)

シボネンは内心で息をついた。
あのイジという存在――冷徹だが、確かに実力を認める人物だった。

(ここなら、本当に努力が報われるかもしれない)

まだ不安はあった。
だが、今日一日の積み重ねが、確かに彼の中に小さな自信を生み始めていた。

(夜・宿舎)

夜、ベッドに横たわったシボネンは、ぼんやりと天井を見つめていた。

リシェの黒豹のような鋭い瞳。
イスリンの柔らかな笑顔。
そして、氷の女神のようなイジの存在。

(俺はまだ、ここで成長できる――)

そんな思いを胸に抱きながら、シボネンは静かに目を閉じた。
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