ようこそ★夢月館へ!~今宵の物語は~

月紅 餅兎

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第一話 

第一話 「Blu-Sky(1)」

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○お客様視点○

~暗い森の館の奥
  そこには不思議な物語
    僕らに夢を見させてくれる 優しい優しいお姉さん
 求めた瞬間黒い猫に誘われて 月の光を頼りに歩く 僕らは深い深い夢へと落ちる~♪

  ーそう小さいときから何も考えずに歌った夢月館の歌。
 子供の頃はなにも考えず歌っていたが、今思うと不思議な歌だ。
私は今まで作り話の歌かと思っていた。誰かが面白おかしく書き立てたのだろうと、それとも、たんなる替え歌かとも。

 しかし、そうではなかった。

 今、私の目の前に不気味な大きな館が聳え立つ。
 一体何処に立っているのだろう。
 深い霧がたちこめ、周りがよくみえない。
 唯一月の光で足元が見える程度だ。
 目に写るのは二つの私の影と黒い猫の影だ。

何を思ったのかふと目を開けると何時もの帰り道とは違うところにいた。

さ迷っていると猫が現れついついていってしまった。


 必死に追うと館の前まで走ってきていたのだ。
 
 私は帰る道がわからない。
 きっとこの猫に話しかけてもわからないだろう。

 どうすることもできず、中に人がいないか、助けてくれるか入ってみようと思った。
 不気味な館に入るのは気持ち悪いし、不安だがそれより興味の方が勝っていた。
 これほど好奇心旺盛だったのかと呆れて笑ってしまいそうになる。
 
 軽く触れると独りでに扉はゆっくりと開いていった。

「ひっ…。」

 多少驚いたがそれよりも、不思議な格好をした女性が出迎えていたことの方が驚いた。

 「ようこそ、夢月館へ。私は、此処で本を提供しております″彩愛″(アヤメ)と申します。今宵はどのような物語をご所望ですか?貴方の望む本があるやもしれません。」

 「はい?? あのぅ、、、此処は何処でしょう?」

 この人は何をいっているのだろう、そう思ってしまった。
 いきなりなんの物語を望むとか言われてもひたすら帰りたいしかないのに。

 私の頭の上ではハテナの文字が飛び交っていった。 

 「くすっ…これは大変失礼を致しました。 此処がどのような場所かよくおわかりではないようですね。 たまたま道に迷われたにしろ運が良いですよ。黒猫に誘われるということは、きっと何かを欲しているのは確実でしょう。このチャンスをいかし、心の荷を軽くしてみてはどうでしょうか? ここでもなんですし、こちらへどうぞ。」

 女性は軽く笑い室内へ案内をした。

その部屋には本がたくさんあり、その量は高い天井に届くまで積み上げられていた。

 思わず息をのみ、暫く立ちすくんでしまった。

 部屋にいくつもある机の上にはなにやら光を放ちつつ開かれたままの本が何冊かあった。
 直さないのかと不思議に思っていると声をかけられた。

「どうぞ、こちらへお座りください。」

 彼女は椅子を引き、紅茶を出してくれた。

 紅茶の種類はよくわからないが、とても綺麗な朱色のお茶だった。 

 ぐいっと紅茶一口飲むととても緊張が溶けたように明るい気持ちになった。
 (美味しいっ…!!)
 ほほが落ちそうなくらい美味しい紅茶はすぐ飲み干してしまった。

 こぽぽぽとまた紅茶を足してくれる。

「あ、ありがとうございます。」
 
「いいえ、それで、貴女が今心に引っ掛かっていることはなんですか?」

 へ?と唐突の質問に頭が真っ白になった。
 心に引っ掛かっていることと言われても、この人に自分の悩みを話したくもない。
 私はただ帰り道を聞きたいだけなのだが、、、。

 「……では、私のお薦めの本を持って参りましょう。」

 ずっと答えなかったからなのか、彼女は勝手に本を取りに行ってしまった。

 (どうしよう…本取りに行ってしまった。読まないといけないのだろうか。)

 悩むのもつかぬ間で彼女は本を二冊抱えて戻ってきた。

 「あの、すみません。せっかくとってきて頂いたのですが、帰り道を…」

 「帰り道なら本を読み終わってからお教え致しますよ。今は本をゆっくりとお読みくださいまし。大丈夫、ここは時空の狭間の様なところ。何冊本を読んでも戻るときは、来たときと同じ場所時刻に帰れますわ。」

 微笑む彼女は、半ば強引に話をすすめだした。

 私は諦めて本を読むことにした。

 時間も戻るようなことをいっているからだろうか、少しゆっくりしても安心して読めると思った。

 「あなた様に相応しい本が二冊出てきました。 右と左の本、どちらをお選びになりますか?」

 (え…えーと…)

 赤い本と青い本。

 赤い本は女性が二人、青い本は二つの影に青い空が描かれていた。

 私は自然に『Blu-Sky』と書かれた青い本の方をとった。

 「それでは、ゆっくりとお読みくださいまし。読書中誰も邪魔は入りませんわ。では…」

 ふと、本から目をはたし彼女を見ようとすると、もう、そこには彼女の姿はなく、広い部屋に一人取り残されてしまった。

 渋々ながらも本を開くと、本が光だし光に包まれ物語の世界へと引きづり込まれる感覚に陥った。



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