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17.門の向こうへ
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携帯電話を耳にあてたまま、ルージュはゆっくりと緑の丘を踏みしめながら登っていた。
「うん。記憶はまだ完全には戻ってないけど、今はそれでもいいかなって思ってる。アクアの生体共振振動が『家族の定義』を世界中に送ったとき、私の中のなにかも揺り動かされたみたい。スイレンも、あの時、なにか感じたのよね? 劉さんも緑川さんも、懐かしいことを思い出したって言ってた。あの時、世界中の人がなにか感じていたのかしら? もう一人のクウヤはね、劉さんが引き取ることになったの。もともと劉さんは、そのつもりだったみたい。第二の『ナガセクウヤ』に? ううん。そんなこと、劉さんは望んでないわ。ただ、一緒に暮らしたいだけなんだって。亡くなった息子さんやアクアの話は、よくしてるみたいだけどね。あのクウヤ、もう話せるようになってたのよ。それのほうが驚いたわ。新しい名前をつけようと思うのに、なかなか決まらないんですって。緑川協会はちょっと変わったのよ。近々、新しい制度を発表するんじゃないかしら? 上原社長は、暴走の原因も消えたし、このままなにもなければ、やがて技師制度はなくなるだろうって。あはは。確かに、なくなったら困るわよね。暴走の可能性がなくなった今、こんな割のいい仕事、他にないわよね。スイレンは、もし技師制度がなくなったらどうするの? 結婚? いつの間にそんな相手ができたのよ? なんだ、早く見つかるといいわね。私はまだよ。だって、クウヤったら、全然そんなこと思いつきもしないのよ。相変わらずアクアのことばっかり。アリスシステムって話したでしょ? あれを小規模な、たとえば同系列の会社のみで使用できるように、今テスト設定してるって。そうすると、品物の流れやデータの整理が効率的になるみたい。今後、そういうアクアが増えるのかもしれないわね。あのシステムって、元々は、クウヤが自分の家族、血縁者を探すために作ったんですって。結局、見つからなかったんだけどね。アクアはあの時、クウヤの家族は見つけられなかったけど、家族の可能性を見つけたんじゃないかしら? そのことに、早くクウヤにも気づいて欲しいんだけど。小百合ちゃんは手強いし、意外に、社長も強敵なのよねぇ。四人で出かけることが多いわ。そうね、出かけるだけ、少しはクウヤも変わったのかも。バッグ? 渡したじゃない。え、それとは別の分? 悪いけど、そろそろ切るわ。目的地に着いちゃった」
緑の丘、山の中腹にある赤い柵状の門の前で、ルージュは立ち止まった。
(会って、まず、なんて言おう? やっぱり怒られるわよね? ううん。ここで考えてるより、まず会わなくっちゃ。たとえなにか言われても、大丈夫。私が、私から、家族として接するんだから。そうすれば、きっと伝わるわ)
そうして、ルージュは門をくぐった。
「うん。記憶はまだ完全には戻ってないけど、今はそれでもいいかなって思ってる。アクアの生体共振振動が『家族の定義』を世界中に送ったとき、私の中のなにかも揺り動かされたみたい。スイレンも、あの時、なにか感じたのよね? 劉さんも緑川さんも、懐かしいことを思い出したって言ってた。あの時、世界中の人がなにか感じていたのかしら? もう一人のクウヤはね、劉さんが引き取ることになったの。もともと劉さんは、そのつもりだったみたい。第二の『ナガセクウヤ』に? ううん。そんなこと、劉さんは望んでないわ。ただ、一緒に暮らしたいだけなんだって。亡くなった息子さんやアクアの話は、よくしてるみたいだけどね。あのクウヤ、もう話せるようになってたのよ。それのほうが驚いたわ。新しい名前をつけようと思うのに、なかなか決まらないんですって。緑川協会はちょっと変わったのよ。近々、新しい制度を発表するんじゃないかしら? 上原社長は、暴走の原因も消えたし、このままなにもなければ、やがて技師制度はなくなるだろうって。あはは。確かに、なくなったら困るわよね。暴走の可能性がなくなった今、こんな割のいい仕事、他にないわよね。スイレンは、もし技師制度がなくなったらどうするの? 結婚? いつの間にそんな相手ができたのよ? なんだ、早く見つかるといいわね。私はまだよ。だって、クウヤったら、全然そんなこと思いつきもしないのよ。相変わらずアクアのことばっかり。アリスシステムって話したでしょ? あれを小規模な、たとえば同系列の会社のみで使用できるように、今テスト設定してるって。そうすると、品物の流れやデータの整理が効率的になるみたい。今後、そういうアクアが増えるのかもしれないわね。あのシステムって、元々は、クウヤが自分の家族、血縁者を探すために作ったんですって。結局、見つからなかったんだけどね。アクアはあの時、クウヤの家族は見つけられなかったけど、家族の可能性を見つけたんじゃないかしら? そのことに、早くクウヤにも気づいて欲しいんだけど。小百合ちゃんは手強いし、意外に、社長も強敵なのよねぇ。四人で出かけることが多いわ。そうね、出かけるだけ、少しはクウヤも変わったのかも。バッグ? 渡したじゃない。え、それとは別の分? 悪いけど、そろそろ切るわ。目的地に着いちゃった」
緑の丘、山の中腹にある赤い柵状の門の前で、ルージュは立ち止まった。
(会って、まず、なんて言おう? やっぱり怒られるわよね? ううん。ここで考えてるより、まず会わなくっちゃ。たとえなにか言われても、大丈夫。私が、私から、家族として接するんだから。そうすれば、きっと伝わるわ)
そうして、ルージュは門をくぐった。
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