never coming morning

高山小石

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1.少年クリオネと少女リマキナ

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 昼間だというのに暗い森の中、3人は気配を感じて立ち止まると警戒した視線をまわりに投げた。

「!」

 さっき振り切ったはずの亡霊が、ぐるりと3人を囲んでいた。剣士・魔法使い・盗賊のパーティで、遺跡のお宝探しをした帰りだった。

「ど、どうしよう? ユーリ?」
 少年クリオネは剣を構えながら、黒いローブを羽織った青年に視線を投げる。

「囲まれちゃった~。囲まれちゃった~」
 嬉しそうな幼女アニマには、この状況がわかっていないのかもしれない。

(あー、もう! オレとユーリだけならなんとかなるのに、コイツがいるからあせってるってこと、絶対わかってないなー)

 青年ユーリがふわりと少年の肩をたたく。
「大丈夫だよクリオネ。良いアイテムがあったじゃない?」

 のんびりと、いつものようにユーリは言った。
「アニマ、あれ出して」

「は~い」
 アニマはいそいそと、ヒップバッグからきらきら輝く塊を取り出し、そっと地面に置いた。

「『乱反射』!」

 ユーリの呪文に、クリオネはそのアイテムがなんだったかを思い出した。
(増幅装置……そっか、これなら少ないマジックポイントでも乗り切れる)

「二人とも目をつぶって……」
 クリオネとアニマが目を閉じたのを確認し、ユーリもフードを目深にかぶる。
「『ハレルヤ』!」

 瞬間、光のうずが森を照らした。
 砂が崩れるように、亡霊たちが消えてゆく。

「もういいよ」

 光の余韻を感じながら2人は目を開ける。亡霊は見事に一掃されていた。

「すごいや、ユーリ」

「そうかい? 僕としては、こんなアイテムを持ってるアニマのほうがすごいと思うよ」
 ユーリは地面に置いた塊を、お礼とともにアニマに返した。

「えへへぇ」
 嬉しそうに笑うと、アニマは無造作に塊をバッグに放り込んだ。
 その『四次元ヒップバッグ』にしろ『増幅装置』にしろ、レア中のレアアイテムで、見ることもまれな代物だ。

「でもレアアイテムをタイミング良く使うのはユーリじゃないか!」
「ま、ね。僕はめんどくさがりだから、より楽な方法を思いつくだけだよ」
「でも、その発想が」

「あの! すみません! お話聞いて下さい!」

 いきなりの呼び声に三人は振り返った。が、誰もいない。

「ここです、ここ!」

「あ……」
「蝶?」
「妖精さんだ~。妖精さんだ~」

 気をつけないと見落としてしまいそうに小さな妖精が、ユーリの視線より頭一つ上の空中にいた。透明の羽を動かしふらふらとおりてくると三人の前でホバリングする。

「そうです。私はこの森に住んでいる妖精……ったーい! そんなにひっぱったら羽がとれちゃうじゃない!」

 あわててアニマを押さえるクリオネ。

「コホン。なんですが、最近たくさんの亡霊が現れて困ってたんです。あなたたちが消してくれたんですね?」
 羽を忙しく動かしながら、妖精はその小さな目でクリオネを見た。

「その通りさ! オレたちが一掃してやったんだぜ。どうだい? 助かっただろ?」

「ええ。とっても……」

「! いけないっ。クリオネ避けろっ!」

 小さな妖精からとは思えないほど強力な、『魔の息』がクリオネにかかった。

「っ」

 昏倒するクリオネ。妖精の姿は毒々しい色の羽のついたトカゲの魔物に変わっていた。

「迷惑だね。まったくわざわざ集めた亡霊を消してしまうなど」
 普通に話すだけでも『魔の力』がもれる。

「クリオネ~。クリオネ~!」
 アニマはクリオネにすがりつき必死に呼びかけるが、『魔の息』をまともに浴びたクリオネの意識はない。

 アニマは薬草を取り出し、クリオネに触れた。
「『消えゆく炎の糧となれ』!」
 淡い緑の光がクリオネを癒すが、クリオネの意識は戻らない。アニマは青年を見上げて首を振った。
「ユーリぃ」

「ここまでか。仕方ないな」

 ユーリは横たわるクリオネの上空を向いた。
「リマキナ。僕らもここで帰るよ。また再開するときはメールを送る!」

 --OK! その時もよろしく。

 ユーリの目線の空中に文字が現れると、クリオネごとかき消えた。

「アニマもまたね」
「うん。でも、すぐに会うんじゃない?」
「そうだね」
 意味深な笑顔を交わすとユーリとアニマの姿も消えた。

 暗い森には、空中に浮いた魔物だけが、時を止めたように残っている。



 クリオネと同じ顔を持つ双子の少女リマキナは、いまだ目覚めぬ双子の兄クリオネをつついていた。
「アニキは詰めが甘いよ」

 クリオネは南半球総合学校の寮にある、自分の部屋のベッドに横たわっていた。個人情報が記された『アダマス』と呼ばれる耳につけられた管からは、『アース』をプレイするためのコードがマシンに接続されている。マシンのモニターには先ほどの暗い森が映っている。リマキナはコードをマシンから外した。

「あ~、またやっちゃったよ」
 クリオネはぼやきながら瞬きした。

「おはよ。しゃーないじゃん? あの状況じゃわかんなかったよ」

「ま、ね」
 ふぅ、と身体を起こすクリオネ。
「せっかくユーリと一緒なのに、毎回カッコ悪いとこ見せてるような気がする」

「ユーリったって、あのユークリッド博士と決まったわけじゃないだろ?」

「うん。でもさぁ、ユークリッド博士って、あんな人なんじゃないかな? すっごくかしこいけど、全然そんな風じゃなくて。でもいざって時には頼りになる……」

 まるで恋人のことのように話すクリオネに、やれやれとリマキナは頷く。

「そうだね。天才博士なのにプライベートな情報はちっともわからない。それって、公にしたらまずいってことだもんね」

「どういう意味だよ?」
「顔がイケてないってこと」
 リマキナにつかみかかるクリオネ。
「『アース』でのユーリはカッコいいよ!」
「だからぁ、『アース』のユーリがユークリッド博士ってわけじゃ」

 マシンがメールの受信を知らせた。
 クリオネをはがし、マシンのそばにいたリマキナがメールをチェックする。

「誰から?」
「顧問のリヒト先生だ……『ユーリもしくは天才に関する情報』って!」
「オレが見る!」
 リマキナを押しのけて、クリオネがモニターにへばりついた。

--二人とも元気かい?
--この前話していた『ユーリもしくは天才に関する情報』について調べてみたよ。
--残念ながらユーリに関しては、情報部の権限を使っても一般的に知られていることしかわからなかった。
--でも、天才については気になる情報が手に入ったよ。
--ノースに天才がいるらしい。
--一般的に我らがサウスにユーリがいると言われているので、ユーリとは違うかもしれないが。
--どうする? ノースに行ってみるかい?
--行くのなら、ノースへのパスとくわしい情報を送るので、連絡してくれ。
--以上だ。

「先生なんて?」
「ノースに天才がいるって」
「ノースに? なんで? ユーリはサウスにいるんじゃ」
「ユーリじゃないかもしれない。でも」

 クリオネとリマキナは顔を見合わせる。

「行こう! 先生からパスをもらう」
「じゃ、ボクは準備しとくよ」

 クリオネが耳管アダマスにパスをダウンロードする間、リマキナは情報部の制服に着替えた。
 白シャツにチェックのパンツにベスト。ネクタイの色は情報部ひよっこの印である赤だ。年少組とはいえ、情報部の一員であることは2人の誇りだ。

「情報部だってわかったら、ユーリだってきっと会ってくれる!」
 なんだかんだ言っても、リマキナだってユーリのことは気になっているのだ。
「地球外科学を地球科学の方程式にした天才博士……いったいどんな人なんだろう?」

「リマキナ、交代!」
「ラジャ」
 クリオネが着替える間に、リマキナが自分の耳管アダマスにパスをダウンロードする。
「二十一世紀始まってすぐなのに、二十一世紀最大の天才と言われるサウスの英雄……ユーリ」
 クリオネはずっと彼に会いたかった。彼に会って、聞きたいことが山ほどある。

 クリオネとリマキナは、今の地球の移動機関『光』に向かった。
 『光』は地下にある。地球外科学の産物で、地球上ならどこへでも、5分とかけずに行くことができる。ただ、目的地へのパスがないとどこにも進まない。

 『光』の乗り場である、薄暗い地下、光るコンソールに2人はアダマスをつないだ。

「リマキナ、先に乗る?」
「うん。お先」
 リマキナは『光』に向かって歩くと、見えない座席を手探りで探す。やわらかい感触を手がつかんだ。座ると、

 --Lady?
 --OK or NO 

 の文字が目の前に現れる。
「アニキ、後でね」
「ん」
 ためらわずOKをなぞるリマキナ。
 一瞬後、リナキナの姿は消えていた。

 同じようにクリオネも座席に座り、OKを選択する。軽くかかる重力。そしてぐんぐんと加速する感じがして、ゆっくりと減速していく。
(これの仕組みも知りたい。ユーリならきっと知ってるはずだ)

「アニキ!」
 いつの間に着いたのか、目の前ではリマキナが早く早く、とせかしている。
(ユーリについて語ってたら、いっつも文句いうくせに)

 でもそのワクワク感はクリオネも同じだった。南半球サウス北半球ノースは敵対しているわけではないが、競い合ってより発展するようにと分けられたもので、理由がないと行き来できない。二人は今回が初めてのノース旅行なのだ。

「ここが……ノース?」
「なんだか、サウスと変わんないね」
 クリオネとリマキナはあたりを見回す。薄暗い『光』の乗り場に特別変わった様子はない。
「地上に出よう!」
「うん!」

 リヒト先生からもらった住所を元に、近くの出口を探して上る。

「町だ」
「町だね」
 地上は住宅街だった。住所の場所へは少し歩かなくてはいけない。
「場所からして、たぶん北半球総合学校の一部だとは思うんだけど」
(ノース時間で、今は午前九時をまわったところ。天才が学校に所属しているなら、いるはず……ん?)
「アニキ、あれ」

「ジ――ニィ――!!」

 教会の屋根へ続く窓から、屋根の上の少年に、シスターが身を乗り出して叫んでいる。

「お待ちなさい! あなたは久しぶりに、しかも今来たばっかりじゃないの! なのにもう帰るのですか? いくらあなたでも私は許しませんよ!」

「すみません、シスター。俺、ちょっと用事ができたんで。また今度来ますから、つもる話はその時にでも」
 少年は金髪をきらきら輝かせながら屋根から木へ飛び移り、するすると地上へおりた。

「ジーニィ!」

 くやしそうなシスターにお祈りのポーズで答えると、少年は走り出した。
 少年は二人に向かって走ってくる。

「あ、アニキ」
 クリオネはリマキナをかばうように立った。

 しかし金髪の少年は二人になにをするでもなく、すれ違いざまに楽しそうに言った。
「あなたたちに天使の御加護がありますように!」

「……」
 リマキナが呆気にとられていると、クリオネが教会の標識を見て声を上げた。
「ああ! この教会、住所の場所だ!」
「え? どうする? 中に入って聞いてみようか?」
「ここに天才いるって聞いたんですけど……って?」
 それはどうだろう? と二人が顔を見合わせていると、クリオネの視線が固まった。

 リマキナがクリオネの視線の先を追い、振り返る。
 そこにはやわらかなウェーブの金髪を羽のように背中へたらす、美しい少女が立っていた。
「てん……」
「し……?」
 ほぅ、と思わず見入る二人。
 少女は唇に人差し指をあて微笑むと、少し歩いた。そこでふり返り再び微笑む。

「……黙ってついてこいってことか?」

 クリオネとリマキナは、どちらからともなく少女を追いかけ始めた。
 少女は少しも迷うことなく軽やかに、迷路のような住宅街を走る。

(この女の子どこかで見たような?)
 リマキナは記憶を探る。でも、知り合いの知り合いにもいない。
(気のせい? いや、でも、あの服も見たことあるような?)
 少女はいかにも天使っぽい、白いひらひらした服を着ていた。見た感じ、二人と同い年か少し下のように見える。
「そうだ。アンジュだ」
 リマキナの呼び声に少女はふり返り、花の咲くような笑顔を向けた。

「アンジュって、雑誌『アーンジュ』のモデル?」
「アニキも見たことあったっけ? そう。間違いないよ! へぇ、どっかにいるとは思ってたけど、こんな所で会えるなんて」
「なんで雑誌のモデルがオレたちを……扉?」
 かなり走った三人の周りには人影がなく、少女は大きな壁にある扉を前に立ち止まった。
 少女はゆっくりと手を伸ばし、扉に触れる。

「!?」

 少女と扉は、二人の目の前でかき消えた。壁だけが同じように存在している。

「リマキナ。ここは『アース』の中じゃないよな?」
「うん。だって、コードもつないでないし」
「だよな」

 クリオネはおそるおそる壁に近づいた。
 リマキナも壁に手を伸ばし、壁に触れた瞬間、リマキナの身体が揺らぐ。

「アニ……」
「リマキナっ」
 とっさにクリオネはリマキナの手をつかんだ。

「!!」
 二人の視界が真っ暗になる。そしてぐんぐんかかる重力。

(この感じ……『光』と同じだ!)
(アニキっ! だめだ。声が、出ない……)

 そうして二人の意識もブラックアウトした。
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