never coming morning

高山小石

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21.それぞれの行く末

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「初めまして。どうぞゆっくりしていって下さい」
「初めまして、おじゃまします」
 ジーニィを迎えたのはリマキナの夫だった。リマキナは現在妊娠中ということで、部屋で待っていた。昔はクリオネそっくりで少年のようだったリマキナは、今はふっくらとしていて、妊婦独特の優しさがにじみ出ていた。リマキナの向かいに座るなりジーニィは言った。
「リマキナ、きれいになったね」
「ありがと。久しぶりねジーニィ。の活躍はよく聞いているわ。今日はいいの?」
「ああ、そのことなんだけど……」
 リマキナの夫の存在を気にして言葉を濁すジーニィをリマキナは察し、「悪いんだけど、お茶をいれてきてもらってもいい?」と夫に頼んだ。夫が出ていくのを確認して、ジーニィは小声で手早く話し出した。
「実はユーリは生きていたんだ」
「ええっ? 本当に?」
「うん。さっき交代してきた。これで俺も元の『落魄の天才』に戻れる」
「そうなの。じゃあ、ひとつお願いしてもいいかしら?」
「いいよ。なに? 赤ちゃん用のオモチャならいくらでも」
「クリオネを、兄を探して欲しいの」
「え?」
 ジーニィはクリオネがアダマスを捨てたことを初めて知った。そんなクリオネを何年もかけて探し出したこと、でも次の日には消えてしまったことをリマキナは話した。
「なんでそんなことに」
「きっとね、兄はジーニィが好きだったのよ。ユーリにももちろんあこがれていたけれど、同い年であるジーニィのほうが近い存在でしょ? だから、兄弟のような気持ちだったんだと思う」
「それは、俺だってそう思ってる!」
「でも、あなたはあの時からユーリの代わりになってしまった。あの時、兄はあこがれの人と兄弟を一緒に亡くしてしまったのよ」
「…………」
 お茶をお盆にのせた夫が入ってきた。笑顔で紹介するリマキナ。
「サウスの研究室で一緒だったの。すごく優しい人よ」
「はは。照れちゃうなぁ」
 はにかむ夫は優しげで、リマキナが心から幸せそうなのがジーニィにも伝わってきた。
「私にはこの人がいるから大丈夫。でも、兄には」
「わかった。クリオネにはぜひともかわいい赤ちゃんを見てもらわなくっちゃね」
「ええ」
 それから二人の馴れ初めを聞いたり、近況をたずねたり、夫と研究の話で盛り上がったりして、ジーニィは研究室に戻った。
(あのリマキナが母親になるのか……。そんなに時間がたったんだなぁ)
 しみじみしながら、今度はマリアのアダマスを検索する。
(マリアも見つけられない。まさか、マリアにもなにかあったのか?)
 ネット上で『ブラウン・マリア』を検索した。
(ブラウン・マリアはある。連絡してみるか)
 ジーニィはブラウン・マリアに「頼み事がある」とメールを出した。
 送ったと思ったら、すぐに返事が返ってきた。
「すぐ伺います? マリア、暇なのか?」
 ノースの喫茶店で待ち合わせることになり、ジーニィは久しぶりに町に出た。
「変わったなぁ」
 研究室のハシゴだった数年の間に、町はよりすっきり整備されていた。乾いた空気が汗を吹き飛ばす。
 指定された喫茶店に入ると個室に案内された。アダマスをつなぎ注文する。指定されただけあって、機密性の高い喫茶店なのだろう。テーブル中央に注文の品が出てくる。ジーニィが手元に引き寄せた時、
「お待たせしました」
 心地よい声と共に、個室の扉を通りジーニィの向かいのイスに女性が座った。女性はジーニィより若く見える。長い髪をおさげにしているからかもしれない。
「マリア?」
「はい」
「『ブラウン・マリア』?」
「そうです」
「本当に?」
 学生のように見える女性はにっこり笑った。
「初めてお会いになる方は皆様そうおっしゃいます。大丈夫ですよ。私が『ブラウン・マリア』です」
(これは……偽業者か? でも『ブラウン・マリア』は偽物が出ないようにチェックも厳しかったから、同名の業者はいなかったはずだけど)
 口に手をあて考え込むジーニィを気にせず、『ブラウン・マリア』だと自称する女性は話し始めた。
「『ブラウン・マリア』はプライバシーを保護しています。絶対に秘密をもらしません。お話を聞いた時点で、無理なことでしたらお断りします。なお、成功報酬は一切いただきません。納得できましたら、お名前とご用件をお話し下さい」
(どう考えてもマリア本人じゃないな。どうするかな。ま、せっかくだから探してもらおうか? 見つからなければ俺が探せばいいだけだし)
「名前はジーニィ。用件は『マリアを探すこと』」
「ジーニィ? 今、ジーニィとおっしゃいましたか?」
「ああ」
 びっくりした様子の女性にジーニィはめんどくさそうに答える。
「では、確認させていただきます」
 女性は自分のアダマスとジーニィのアダマスをコードでつないだ。
「確認! あなたが『落魄の天才』ですね! お会いできて光栄です! 私はマリア501、初代『ブラウン・マリア』に作られた人形です」
「え。じゃあ、マリアは?」
「研究室にいます。彼女はイエティから移植を受けて、今学習中なのです」
「移植は成功したのか?」
「はい」
「そりゃ良かった。しかしなんでまた移植なんて」
「今の彼女の目標は『この仕事を続けること』です。人類のサポートですね。そのために知識と力が欲しかったのです」
「そっか。会えるかな?」
「意識だけなら、今、私を通して会えますよ?」
「へぇ。すごいな。イエティの能力か」
 ジーニィはつながったままのアダマスを通して、マリアに話しかけた。
(マリア……。マリア、いるのか? 俺はジーニィ)
 ややあって、声ではないけれども懐かしい気配がした。
(……ジーニィ? 久しぶりね、どうしたの?)
(ユーリが生きていたんだ。だから俺は戻ってきた)
(そうだったわね。私もユーリ本体に会ったわ。新しい式ができたって喜んでいた)
(相変わらずだよな)
 ジーニィとしてマリアと話すのは久しぶりだが、ユーリの姿ではマリアと仕事上接点があったので、特に近況を尋ねることもなく、ジーニィは本題を口にした。
(あのさ、クリオネ知らない? 前まで赤道上にいたらしいんだけど、今はいないんだ)
(ちょっと待ってね…………。う~ん。私の網にもひっかからないわ)
(クリオネに言いたいんだよ。ユーリが生きていたって。俺はジーニィに戻るって)
(そうね。闇雲に探しても見つからないでしょうから、メッセージを送ってみたら?)
(なるほど。ありがとうマリア)
(どういたしまして)
(ところでさ、移植はどんな感じ?)
(そうね、まだ私は学習不足だから。でもいい感じよ。自分が広がった気分)
(ふうん。今度、直接会いたいな)
(いいわよ。他に聞きたいことはある?)
(んー、今はないかな。会ったときにじっくり聞けるように考えとくよ)
(あら楽しみ。じゃあ、またね)
(またね)
 ジーニィはアダマスからコードを外した。
「もういいのですか?」
「うん。また会えるしね」
「今お話に出てきたクリオネさん。ご本人かどうかわかりませんが、この区域のネットに出現したことがあります」
 マリア501は手持ちのモニターに地図を出して説明する。
「ここにメッセージを流すと伝わるのではないでしょうか?」
「なるほど。この地図くれるの? ありがと」
 モニターにアダマスをつなぎ地図を受け取るジーニィ。
「マリアも見つかったことだし、助かったよ」
「どういたしまして。今稼働中のブラウン・マリアは5千体です。皆様のお役に立てるようにこれからも頑張ります」
 にっこり笑うマリア501に手をふって、ジーニィは研究室へと戻った。
 地図を見ながら教えてもらった区域を確認する。
「赤道上ではあるんだけどバラバラか。微妙だな。まぁ、なにもしないよりマシか」
(『落魄の天才』帰還。研究室で待つ……っと。これでよし!)
 ひとまずの仕事が終わり、ジーニィはぼんやりと研究室を見まわした。
(みんながいる頃は楽しかったなぁ。秘密基地な気分だった。今、ユーリはあの大変な最前線に戻った。マリアは『ブラウン・マリア』を続けている。リナキナは結婚した。俺は? 俺は、どうしよう?)
 考えている間に眠ってしまったらしい。
 もうすぐ夕食の時間だ。久しぶりの両親との食事に遅れてはまずいと、ジーニィはあわてて部屋へと向かった。
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