never coming morning

高山小石

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22.融合の代償

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 家族と一緒の久しぶりの食事は楽しかった。4人そろっていた頃の懐かしい思い出話や、ジーニィがいなかった時の話で時間は過ぎていった。ユーリが目覚めて動けるようになってから、リハビリを兼ねて、しばらくここで一緒に暮らしていたらしい。「ジーニィが育ったのがよくわかる」とユーリは笑っていたそうだ。
「で、ユーリ、どうするね?」
 父親の問いにジーニィは即答した。
「融合するよ」
「もう決めていいの? もっと考えてからでもいいのよ?」
 母親の言葉に、ジーニィは首を横に振る。
「これでもいっぱい考えたよ。確かに、前みたいに自分のしたいこと続けていくのもいいと思った。でも、俺がここに戻れたのはユーリとイエティのおかげだ。ユーリの代わりを演じていた時は、ずっと俺の小ささを感じてた。だから、変わりたいんだ。もっともっと大きな人間になりたい! だから、融合するよ」
「そうか。決めたんだな。大丈夫だ。きっと成功するよ」
「う~ん。それが一番心配なんだけど」
(でもユーリもマリアも成功したんだ。きっと大丈夫!)
「手術の日取りはイエティに聞いてからになる。イエティにリズムがあるらしいからね」
「へぇ」
「今日明日ではないから、それまではゆっくり過ごすといい」
「うん」
 デザートまで食べてお腹いっぱいになったジーニィは、研究室に戻った。メッセージも出したことだし、クリオネが来ているかと思ったのだ。
「まだいない、か。そうだよな。夜だし」
 からっぽの研究室で息をつくジーニィ。
 その晩は研究室で寝た。

 翌日、『北半球総合学校ノースへ行ってきます』と書き置きを研究室の目立つ場所に貼って、ジーニィは久しぶりの学校を訪れた。
「変わってないなぁ」
 あふれる学生、色とりどりの柱、広い校舎。少し汚れているのは、雨が降らないせいだろう。黒ずんできた屋根を見ながら、ジーニィはあてもなく歩く。
(そうだ! ウッディとリーフはどうしてるんだろ?)
 調べると、二人とも結婚しているようだった。
(会いに行ってもいいけど、またのろけ話されるのがオチだし……。いっか)
 リマキナの話で懲りたジーニィは、ただ思い出の場所を1人で巡って1日を過ごした。
 研究室に戻ると人はおらず、誰かがメモを見た形跡もなかった。
「クリオネ、メッセージに気づいていないのか?」
 前回ばらまいた範囲を大幅に広げて、同じメッセージを流した。そして夕飯を食べに部屋に戻った。

 そんな風にして1週間が過ぎた。もはやメッセージはネットのあらゆる所に流れていて、目に入らないようにする方が難しいくらいになっていた。それでもクリオネは研究室に来なかった。
 その晩、父親がジーニィに手術の日を告げた。
「イエティから連絡が入ったよ。急で申し訳ないが明日がいいそうだ。明日を逃すと十年後になるらしい。どうする?」
「明日でいいよ」
「本当に、いいの?」
 母親の問いにジーニィはうなずく。
(だってさ。ここまでクリオネから連絡もこないのって、すっごく怒ってるか、考えたくないけど死んでるかだもんな)
 ジーニィの脳裏に、最後に見たクリオネの傷ついた顔がよぎる。
(謝りたいんだけどなぁ)
 そう思いつつ、会ったらあったで、またケンカになりそうで不安だ。
(あー、もう! ほんともっと人間でっかくなりたいぜ!)
 ジーニィはこの日も研究室で眠った。

 翌朝、早くに目が覚めたジーニィは、メッセージを追加した。
『今日、俺はすごいことをするんだ! 朝8時までに研究室に来てくれ! ジーニィより』
 メッセージを流した後でジーニィは苦笑した。
「なんだかんだ言って、俺、手術すんのが怖いのかな?」
 クリオネを研究室で待っていたジーニィは、父親に呼ばれて別の部屋に向かった。
 時間になったのだ。
 残念なことに、クリオネからは連絡もなかったし、研究室にも現れなかった。
「応援しているぞ!」
「祈っているからね!」
 父親と母親に見守られる中、ジーニィは手術台で横になった。朝の8時半から夕方までかかる大手術だ。すぐに麻酔がきいて、ジーニィは眠りの世界へと落ちていった。

「ここは……?」
 ジーニィはどこか懐かしい森に来ていた。
「現実にこんな森なんてないのに見覚えがある。そうか、『アース』だ。試作品の頃の『アース』だ。なつかし~。そうだ、ここで亡霊が出て、妖精が竜になったんだ」
 しかし今歩く森には亡霊もいない。なのにあの暗い雰囲気ではないが嫌な感じが漂っていた。
「なにか来る?」
 ジーニィはそっと木陰に隠れた。
 近くの道を、銃を持った男が走ってきた。
「どこだ? どこにいやがる! さぁ、出てこい! 勝負しようぜ!」
 男の足取りは怪しく、とても正気とは思えない。
(なんだ? これはただの夢じゃない。耳管を経由して、なにかを受信しているのか?)
 ジーニィが考えていると、男の後ろに音もなく、もう1人別の男が現れた。
「!」
 派手な銃声が響き、初めの男が倒れる。
 男の周りに血がどくどくと流れていく。
 撃った男はそれを見届けると、何事もなかったかのように去っていった。
(あの後ろ姿。まさか、クリオネ?)

 クリオネは赤道上の研究室の一室で、卵形の接続器を外した。
「どうだい師匠? 良かっただろ?」
 そばにいた少年が勢いこんで話しかける。
「う~ん。ちょっとなぁ……って、まだ夕方か。時間はそれほどかかってないのは救いか」
「違うよ。7日目の夕方だよ」
「はぁ?」
 聞いた途端、クリオネのお腹がなった。
「なんだよそれ! 時間かかりすぎ! これでもオレ、最速でプレイしたつもりだぞ?」
「うん。すっごく速かったよ。普通なら2週間くらいかかるもん」
「はああ?」
 クリオネはポケットから携帯食料を出し、それを飲みながら話しだした。
「全然ダメだよ! だからテンポが悪かったのか。長くても期限は丸一日まで。それ以上はダメだ。肉体に負担がかかりすぎる。だからか? 相手の男かなり弱ってたぞ?」
「あ~、最後の男は3週間ほどいるんじゃないかな? 見つけるのに苦労したでしょ? あいつ途中から空腹で動けないみたいで、ずっとベッドで横になってたもん」
 クリオネは大きなため息をついた。
「おまえの提案していた随時参加可能プレイもいいけど、やっぱり参加者は最初に決めて途中で増やさない方がいいな。もしくは期限を決めておくか。初めからいる人にとっちゃ、ゲームが終わるまで拘束されるなんて、たまんないだろ。あー、でも、期間だけ決めても最後に参加して逃げ切られたらムカつくよな。参加人数と期間は最初に決めて。あと、最初っからメンツが割れてるのもどうかと思った。私怨で狙い打ちされてんの見たら、ゲームとしてはちょっとなぁ。でも、そんな各自の事情までは事前にわからないし。名前や外見を変えられた方がいいかもな」
 少年は感心したようにクリオネを見つめる。
「なんだよ。気持ち悪い」
「嬉しいなぁと思って。師匠はお子様向けのゲームばっか作ってたからさ。こんな殺伐としたゲーム、作りたくないんだと思ってた」
「別に。どこまで技術が通用するか試したいだけだし。おまえが作るんなら、師匠のオレがチェックするのは当然だろ? そうだ、1週間の間になにかあったか?」
 クリオネは誤魔化すように携帯食料の容器をつぶしながら聞いた。
「あ、そうそう。しつこくメッセージが来てたけど」
「なんて?」
「『落魄の天才帰還。研究室で待つ』」
「! 他にもあったか?」
「『今日、俺はすごいことをするんだ! 朝8時までに研究室に来てくれ! ジーニィ』」
「!!」
「なんか、いかにも胡散臭いから、師匠を起こさなかったんだけど」
「いつだ?」
「え?」
「ふたつ目のメッセージが入った日はいつかって聞いてるんだよ!」
 クリオネににらまれて少年は縮こまった。
「きょ、今日だよ」
「今、何時だ?」
「え……もうすぐ午後5時」
「このバカっ!」
 クリオネは急いで出かける用意を始めた。アダマスがないことがわからないように、疑似耳を付ける。
「それはオレの昔のダチなんだよ! ったく。出かけるから、留守番しっかりな!」
「はぁい」
 感情にまかせてドアを閉めると大きな音がしたが、気にしていられない。
 『光』のコンソールに向かうと、コードを疑似耳にさした。
(ジーニィに会える!)
 一瞬後、久しぶりの赤道地下の研究室に現れた。
(懐かしいな)
 『光』用の広めの部屋に出たクリオネは、その奥のジーニィの研究室へと進んだ。
(これでこの疑似耳はパーか。まぁいい。ジーニィに会えるんなら安いもんだ)
 ゆっくりと歩き、扉の前にくる。
 クリオネはそっと研究室の扉を開いた。
「ジーニィ?」
 研究室には簡素な白いベッドが運び込まれていた。
(なんだ? 寝てるのか?)
 入った場所からは誰が寝ているのかも見えないので、クリオネはベッドを回り込んだ。枕元に見覚えのある金髪が見え、ほっとする。
「ジーニィ……」
 やっと顔が見えた。老けてはいるが、懐かしい顔だった。
(相変わらずきれいな顔だな)
 クリオネは思わず手を伸ばし、ジーニィの額にかかる巻き毛を払った。
 と、ジーニィの目が開いた。
「……」
「……」
 二人はしばらく見つめ合った。
「ジーニィ……おかえり!」
 本当は、会っていっぱい文句を言ってやるつもりだったのに、クリオネはジーニィにしがみついていた。
「良かった! ジーニィが戻って本当に良かった! また一緒に研究しようよ。オレ、今、弟子ができてるんだぜ? 笑えるだろ? そいつと『アース』みたいに夢の世界のゲームを作ってるんだ。ジーニィも一回見に」
「そのアダマスは偽物ですね」
「え?」
 クリオネはジーニィから体を離した。その間も、ジーニィの目線はクリオネの片耳から離れない。
「ああ、そうさ。あちこち移動するのに邪魔だったから、耳ごと切ってやったんだ。それより」
「あなたにはこの研究室に入る権限がありません」
「……ジーニィ?」
 違和感を覚えてクリオネがジーニィから距離をとると、ジーニィはベッドの上で体を起こした。クリオネはジーニィをあらためて観察した。薬品の匂いがすることから、どうもただの寝起きではないようだ。
「ジーニィ、今日、すごいことするって、なにをしたんだ?」
「私は今日、イエティと融合しました」
「はぁ? イエティってなんだよ? おまえはジーニィじゃないのか?」
「イエティは私です。融合したので、今の私はジーニィでありイエティです」
「…………」
(いったいどうしちゃったんだ? ジーニィはおかしくなったのか?)
「いいえ。私は正常です」
「!」
(こいつ、オレの考えがわかるのか?)
「はい。能力は、記憶は、イエティとジーニィの両方が残っているようです。ただ、意識が、2人の自我が、ありません。博士が言ったような最悪の事態ではありませんが、2人の自我は、私の中のどこにもありません」
「……つまり、おまえはジーニィじゃないってことか?」
「いいえ、私はジーニィです」
「そんなわけあるか! だいたいジーニーはそんな話し方じゃない!」
「クリオネ、あなたは話し方だけで個人を判別するのですか?」
 クリオネは悪い冗談だと思いたかった。遅れてきたクリオネをジーニィがからかっているのだと思いたかった。だが、話し始めてからは、顔つきすらも違うのだ。
「……おまえはジーニィじゃない。それだけでオレには充分だよ」
「何故です? 私はジーニィの記憶も持っています。クリオネ、あなたに対する記憶も」
「そんなもんなんになる? くそっ。なんだってジーニィはこんなことしたんだ」
 しばらく考えてジーニィは口を開いた。
「私がユーリの役から解放されたのは、イエティとユーリのおかげなのです。ユーリが生きていて、今ユークリッド博士として活動しています」
「まさか」
「本当です。ユーリはイエティと一緒にいて、永い眠りから目覚めることができました。だから私は、イエティと融合することにしたのです」
「ユーリ……。またユーリか」
 クリオネはベッドから離れた。
「クリオネ? どこに行くのですか?」
「同じ声でオレを呼ぶな! どこだっていいだろ。あんたにゃ関係ない。それと、ジーニィを名乗るのはやめろ。おまえはジーニィじゃない!」
「では、なんと名乗ればよいのでしょう?」
「知るか! オレはもう帰る」
「クリオネ、待ってくださ」
「さよなら」
 ジーニィの呼びかけにこたえないまま、クリオネは部屋を出ていった。
「あなたに謝るつもりだったのに……」
 ジーニィのつぶやきは誰にも届かないまま消えていった。

(なんだってんだ、なんだってんだ、なんだってんだー!!)
 クリオネは怒りにまかせてノースの地上を足早に歩いていた。
「ジーニィ? 笑わせるな! あんなのがジーニィなわけない! ジーニィはあんなやつじゃない!」
(くそっユーリ!! あんたはなんで余計なことばっかりジーニィにさせるんだ? 地球を守るってお題目のためか? そのためにはジーニィを犠牲にしてもいいっていうのか?)
 怒りに震える拳を握りしめ、クリオネは道ばたに立ちつくしていたが、視線を感じて顔を上げる。
「じろじろ見てんじゃねーよ!」
(そうだ。ユーリが地球を守ろうとするんなら、オレが壊してやる!!)
 クリオネは『光』へ向かうと別の疑似耳を使って赤道付近まで行き、足がつかないように離れた場所から歩いて自分の研究室へと戻った。
「師匠!」
「おい! さっきのソースよこせ!」
「え?」
「さっきのやたら時間かかるヤツだよ!」
「あ、はいはい」
 少年からデータを受け取ると、クリオネは猛スピードで手直しを始めた。
(そうだな。期間は2時間から24時間まで選べるようにしよう。バトルロワイヤルで生き残った者だけが勝者だ。同時参加人数は6人で、チームを組んでもいい。チームに入れなかったらどのチームからも追われて不利だろうけど、ここらへんは駆け引きだな。最初は賞品でもつけた方がいいか? いや、まずはこれだけでいってみよう。最初はただのゲームだ。でも、じょじょに難易度とフィードバック率を上げていけば……)
 憑かれたように動く師匠の手を見て、弟子の少年は感嘆のため息をついた。
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