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第一章. パパは美少女冒険者
008. 旅立ち
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結局、出発は翌日となった。準備の時間も必要だし、どうせなら依頼も受けておきたい。護衛等の依頼で路銀を稼ぎつつ旅をするのは、拠点を移す冒険者にとってよくある方法だ。
特に、今回の目的地は魔法都市のあるマギアード王国。かなりの長旅になる。ユークト王国を出て、セントファウス教国を経由し、さらに……といった場所なのだ。移動費も馬鹿にならない。
故に、冷静になったレヴィアもこれに賛成。旦那の金うんぬん言っているが、彼女は稼ぐ事自体は嫌いではない。むしろ好きだ。好きじゃなきゃ社長なんてやってない。
「一億かー。何に使おうかなー?」
一日経った今もレヴィアの機嫌はいい。億単位の金が手に入るかもしれないのだから当然といえば当然といえる。
既に金持ちのつもりなのか、高そうな毛皮のコートと真珠のネックレスを装備したゴージャスな成金スタイルだった。捕らぬ狸の皮算用にならねばいいが。
「そうだなー。おもちゃ屋さんを買い占めるのはやったし、駄菓子屋さんの買い占めもやったし。今度は何しよっかなー」
「いつやったんだ……。子供が泣くぞ。というか口調」
「おっと、失礼しました。因みにネイはどうなさるの? やっぱり人身売買?」
「人聞きの悪い事言うな! 全く……。それで、金があったらか。そうだな……やはりウエディングドレスの為の貯金かな。フフッ」
「死銭という訳ですか。リズは?」
「うーん、特に思いつかないのよねぇ。杖を新しくするくらい?」
「一億あれば自作農になれますわよ」
「うそっ!? 一億ってそんなにすごいの!?」
リズは目をキラキラさせた。
田舎者いじりのアメリカンジョークだったのだが、結構ガチめに受け止められてしまった。一億あれば下手したら村ごと買えるだろうに。その世間知らずのズレっぷりに「こいつマジか」と頬が引きつってしまう。……都会に出て二年ちょい、未だ物価に疎いリズであった。
夢を語りつつ歩くこと十数分、東門近くの広場へと到着。魔法都市の方向に向かう行商人の護衛依頼を受けており、その集合場所がここなのだ。
広場は行商人たちの停留所として使われており、たくさんの荷馬車が停まっている。辺りには馬が放つ濃厚な獣臭。「くっさ」と悪態をつくレヴィアは置いといて、きょろきょろと依頼人を探すネイ。
「ランド殿、ランド・エティグ殿はいらっしゃるか! 依頼を受けた冒険者だ!」
声を上げると、一人の男が手を振る。ターバンを巻いた人の好さそうな男だった。あれが依頼人だろう。
そちらへ歩き始めると、依頼人は一瞬だけぎょっとした表情を見せた。視線の先は当然の如くレヴィア。戦士、魔法使い、成金の組み合わせである。驚かない方がおかしい。
とはいえすぐに表情は戻り、親し気に話しかけてくる。流石は商人といったところか。
「牡丹一華の方々ですね。依頼人のランド・エティグと申します。今回はよろしくお願い致します」
「初めまして。リーダーのネイ・シャリークです。道中の安全は私たちが保証しましょう。こちらこそよろしくお願いします」
「名高きA級冒険者の方々に受けていただけるとは、私も運がいい。是非お頼みします」
握手を交わす二人。最初の会話で持ち上げてくるあたり、実に商人らしい。
その様子をじーっと見ている女の子がいる。栗色の髪をお下げにした小さな少女。ランドの後ろから顔半分だけを出し、ネイを見上げていた。
「お子さんですか」
「ええ。娘のルルです。ほらルル、挨拶しなさい」
さっと隠れてしまうルルという少女。後ろからランドの服の裾をぎゅーっと握っている。その反応を見たランドは苦笑しつつも言った。
「すみません。この子、少々人見知りが激しくて」
「この年ならよくある事でしょう。お気になさらず。さて、念のため確認させて頂きたい。依頼内容は道中の護衛。目的地は国境の町ペンドラン。食料その他消耗品はそちら持ち。内容に齟齬はありませんか?」
「ええ、大丈夫です。問題ありません」
「了解しました。それでは準備ができ次第出発しましょう」
荷馬車の点検、荷物の最終確認をするランド。どちらも問題なかったらしく前面の御者台にルルを乗せ、自分もその隣へ座って手綱を引く。ゆっくり進みだした馬車に一行は追従。
そのまま東門を抜け、王都を発つ。
視界には草原が広がり、それを割くように道が続いている。舗装されてない自然のままの道路だが、道幅はかなり広い。馬車が三、四台並んで歩けそうだ。王都という事で通行量が多い為だろう。
「ねえお父さん。おウチ、どれくらいで着く?」
「そうだなぁ。天気が良くて一週間くらいかなぁ」
「早くママに会いたい。お姉ちゃんにも」
「そうか。パパも会いたいな」
道を進む中、ほほえましく親子で会話している依頼人の二人。ルルは少し寂し気な様子である。
「あら、ママはペンドランにいらっしゃるの?」
そのルルに対し、馬車に並行して歩いているレヴィアが問いかけた。しかし、ルルは先ほどと同じように父親にしがみついてしまう。
「すみませんレヴィアさん」
「お気になさらず。けれど、パパといるのは何故? まだ幼稚園……じゃない、五、六歳くらいでしょう? その年で旅は大変ではなくて?」
「実は家内が妊娠中でして。上の娘が世話をしてくれているんですが、この子にまで手が回らないらしくてですね。なら試しにって事で同行させてみたんです」
「成程。頑張ってるのね、ルル」
にこりと微笑みかける。その女神と見間違わんばかりの容姿にルルは呆けてしまう。ついでに流れ弾を食らったランドも真っ赤になった。
「……お姫様だ」
「ええ、お姫様ですわ。ルルも姫様になりたい?」
「……うん」
「そう。なら少しお待ちなさいな」
そう言うと、レヴィアは道から離れて草原へと入った。生えていた花を幾つか摘み取り、馬車へと戻る。
「ちょっと失礼」
素早く御者台へと上がり、ルルを膝の上に置く。そしててきぱきと髪型を整え、摘み取った花で飾っていく。最後にどこからか鏡を取り出し、ルルの姿を見せた。
「わあ……! お姫様だ! ルルもお姫様!」
「ええ、お姫様ですわ。素敵でしてよルル」
おさげは解かれ、櫛で丁寧に梳いてストレートに。頭の上には白い花を編んだ花飾りを乗せ、同じく花で作ったネックレスを首に下げる。下半身こそ野暮ったいままではあったが、上半身はしっかりお姫様だ。
「見てお父さん! お姫様!」
「お、おおお、可愛いじゃないか。よかったなルル。レヴィアさん、ありがとうございます」
「おほほほ。頑張ってるお子様へのご褒美ですわ。お気に召したようで何より」
膝の上ではしゃぐルルをほほえましそうに見るレヴィア。何やら母性のようなものが感じられる。
そんな彼女らしからぬ様子を見たネイがすごい顔をしている。見てはいけないものを見たような顔だった。
「あ、あれは何だ。レヴィアの偽物か? いつ入れ替わった」
「一応本物よ。最初見た時は私も目を疑ったわ」
「い、一体何のつもりなんだ。懐柔して売り飛ばすとかじゃないよな……?」
「無い……と言いたいけど、一昨日の件があったわね。前科は無いから大丈夫だと思うけど……」
ルルは一連の出来事ですっかり警戒心を解いたようだ。嬉しそうに背後のレヴィアへと話かけている。
レヴィアの方も、ともすれば大人にとって退屈とも思える子供との会話を難なくこなしている様子。その慣れっぷりに疑いを強くしたのか、ネイはちょいちょいと彼女へと手招き。「ちょっと待っててくださいな」とルルを下ろし、二人の元へと歩くレヴィア。
「何か御用?」
「いや…………一応、一応言っておきたいんだが、その……あんまり高く売れないと思うぞ? 流石にまだ小さすぎる」
「? ……ああ、そういう事。流石に見境なく売ったりはしませんわ。アレはレアものな上に、社会的地位が低そうでしたので」
悪事を考えている雰囲気は無い。しかしネイはまだ安心できないようだ。彼女の考えるレヴィア像と違いすぎるからだろう。
「だ、だが妙に手馴れてないか? お前の事だ。まさか本当に子ども好きという訳ではなかろう」
「まあ別に大好きってほどではありませんが」
「やはり。なら何であんなにも慣れて……」
「そりゃ一人いましたから。娘が」
「「……は?」」
目が点になる二人。
「ちょうどあの子くらいの年齢でしたわ。それなりに子育てには参加してましたから、そこそこは慣れてますの。まあその時は男の子の遊びしか出来な……あら?」
ようやく二人の様子に気づくレヴィア。その様子を見て首をかしげるも、そういえばそうだったと納得する。
「ごめん。嘘。妹がいるんですのよ。だから子供相手はお茶の子さいさいという訳ですの」
「そ、そうよね。ビックリした……」
「本気で信じかけたぞ。全く、心臓に悪い」
安心する二人。一人は「先を越されてたかと思ったじゃないか」なんて小声でつぶやいている。
別に本当の事を言ってもよかったのだが、最初から説明しなければならないので面倒なのだ。加えて相手が信じるかどうかも疑わしい。
輪廻転生や異世界云々といった考えはこの世界にも存在するが、どちらも宗教書か娯楽本の中で描かれるのみ。現実に異世界TS転生したなどと言えば頭の病気を疑われる。
「レヴィアちゃーん、まだー?」
「はいはい。もう宜しい? 呼ばれてるんですが」
「あ、ああ。疑って悪かった」
「ごめんねレヴィア」
馬車へと戻り、ルルの隣に座る。仲良さそうにお喋りする様子はまるで姉妹。
姉妹、なのだが……
16 - 6 = 10。
「……いかん。妙な想像をしてしまった。護衛に集中せねば」
「ランドさんがロリコンに思えてきたわ。あんまり近づかないようにしましょ」
特に、今回の目的地は魔法都市のあるマギアード王国。かなりの長旅になる。ユークト王国を出て、セントファウス教国を経由し、さらに……といった場所なのだ。移動費も馬鹿にならない。
故に、冷静になったレヴィアもこれに賛成。旦那の金うんぬん言っているが、彼女は稼ぐ事自体は嫌いではない。むしろ好きだ。好きじゃなきゃ社長なんてやってない。
「一億かー。何に使おうかなー?」
一日経った今もレヴィアの機嫌はいい。億単位の金が手に入るかもしれないのだから当然といえば当然といえる。
既に金持ちのつもりなのか、高そうな毛皮のコートと真珠のネックレスを装備したゴージャスな成金スタイルだった。捕らぬ狸の皮算用にならねばいいが。
「そうだなー。おもちゃ屋さんを買い占めるのはやったし、駄菓子屋さんの買い占めもやったし。今度は何しよっかなー」
「いつやったんだ……。子供が泣くぞ。というか口調」
「おっと、失礼しました。因みにネイはどうなさるの? やっぱり人身売買?」
「人聞きの悪い事言うな! 全く……。それで、金があったらか。そうだな……やはりウエディングドレスの為の貯金かな。フフッ」
「死銭という訳ですか。リズは?」
「うーん、特に思いつかないのよねぇ。杖を新しくするくらい?」
「一億あれば自作農になれますわよ」
「うそっ!? 一億ってそんなにすごいの!?」
リズは目をキラキラさせた。
田舎者いじりのアメリカンジョークだったのだが、結構ガチめに受け止められてしまった。一億あれば下手したら村ごと買えるだろうに。その世間知らずのズレっぷりに「こいつマジか」と頬が引きつってしまう。……都会に出て二年ちょい、未だ物価に疎いリズであった。
夢を語りつつ歩くこと十数分、東門近くの広場へと到着。魔法都市の方向に向かう行商人の護衛依頼を受けており、その集合場所がここなのだ。
広場は行商人たちの停留所として使われており、たくさんの荷馬車が停まっている。辺りには馬が放つ濃厚な獣臭。「くっさ」と悪態をつくレヴィアは置いといて、きょろきょろと依頼人を探すネイ。
「ランド殿、ランド・エティグ殿はいらっしゃるか! 依頼を受けた冒険者だ!」
声を上げると、一人の男が手を振る。ターバンを巻いた人の好さそうな男だった。あれが依頼人だろう。
そちらへ歩き始めると、依頼人は一瞬だけぎょっとした表情を見せた。視線の先は当然の如くレヴィア。戦士、魔法使い、成金の組み合わせである。驚かない方がおかしい。
とはいえすぐに表情は戻り、親し気に話しかけてくる。流石は商人といったところか。
「牡丹一華の方々ですね。依頼人のランド・エティグと申します。今回はよろしくお願い致します」
「初めまして。リーダーのネイ・シャリークです。道中の安全は私たちが保証しましょう。こちらこそよろしくお願いします」
「名高きA級冒険者の方々に受けていただけるとは、私も運がいい。是非お頼みします」
握手を交わす二人。最初の会話で持ち上げてくるあたり、実に商人らしい。
その様子をじーっと見ている女の子がいる。栗色の髪をお下げにした小さな少女。ランドの後ろから顔半分だけを出し、ネイを見上げていた。
「お子さんですか」
「ええ。娘のルルです。ほらルル、挨拶しなさい」
さっと隠れてしまうルルという少女。後ろからランドの服の裾をぎゅーっと握っている。その反応を見たランドは苦笑しつつも言った。
「すみません。この子、少々人見知りが激しくて」
「この年ならよくある事でしょう。お気になさらず。さて、念のため確認させて頂きたい。依頼内容は道中の護衛。目的地は国境の町ペンドラン。食料その他消耗品はそちら持ち。内容に齟齬はありませんか?」
「ええ、大丈夫です。問題ありません」
「了解しました。それでは準備ができ次第出発しましょう」
荷馬車の点検、荷物の最終確認をするランド。どちらも問題なかったらしく前面の御者台にルルを乗せ、自分もその隣へ座って手綱を引く。ゆっくり進みだした馬車に一行は追従。
そのまま東門を抜け、王都を発つ。
視界には草原が広がり、それを割くように道が続いている。舗装されてない自然のままの道路だが、道幅はかなり広い。馬車が三、四台並んで歩けそうだ。王都という事で通行量が多い為だろう。
「ねえお父さん。おウチ、どれくらいで着く?」
「そうだなぁ。天気が良くて一週間くらいかなぁ」
「早くママに会いたい。お姉ちゃんにも」
「そうか。パパも会いたいな」
道を進む中、ほほえましく親子で会話している依頼人の二人。ルルは少し寂し気な様子である。
「あら、ママはペンドランにいらっしゃるの?」
そのルルに対し、馬車に並行して歩いているレヴィアが問いかけた。しかし、ルルは先ほどと同じように父親にしがみついてしまう。
「すみませんレヴィアさん」
「お気になさらず。けれど、パパといるのは何故? まだ幼稚園……じゃない、五、六歳くらいでしょう? その年で旅は大変ではなくて?」
「実は家内が妊娠中でして。上の娘が世話をしてくれているんですが、この子にまで手が回らないらしくてですね。なら試しにって事で同行させてみたんです」
「成程。頑張ってるのね、ルル」
にこりと微笑みかける。その女神と見間違わんばかりの容姿にルルは呆けてしまう。ついでに流れ弾を食らったランドも真っ赤になった。
「……お姫様だ」
「ええ、お姫様ですわ。ルルも姫様になりたい?」
「……うん」
「そう。なら少しお待ちなさいな」
そう言うと、レヴィアは道から離れて草原へと入った。生えていた花を幾つか摘み取り、馬車へと戻る。
「ちょっと失礼」
素早く御者台へと上がり、ルルを膝の上に置く。そしててきぱきと髪型を整え、摘み取った花で飾っていく。最後にどこからか鏡を取り出し、ルルの姿を見せた。
「わあ……! お姫様だ! ルルもお姫様!」
「ええ、お姫様ですわ。素敵でしてよルル」
おさげは解かれ、櫛で丁寧に梳いてストレートに。頭の上には白い花を編んだ花飾りを乗せ、同じく花で作ったネックレスを首に下げる。下半身こそ野暮ったいままではあったが、上半身はしっかりお姫様だ。
「見てお父さん! お姫様!」
「お、おおお、可愛いじゃないか。よかったなルル。レヴィアさん、ありがとうございます」
「おほほほ。頑張ってるお子様へのご褒美ですわ。お気に召したようで何より」
膝の上ではしゃぐルルをほほえましそうに見るレヴィア。何やら母性のようなものが感じられる。
そんな彼女らしからぬ様子を見たネイがすごい顔をしている。見てはいけないものを見たような顔だった。
「あ、あれは何だ。レヴィアの偽物か? いつ入れ替わった」
「一応本物よ。最初見た時は私も目を疑ったわ」
「い、一体何のつもりなんだ。懐柔して売り飛ばすとかじゃないよな……?」
「無い……と言いたいけど、一昨日の件があったわね。前科は無いから大丈夫だと思うけど……」
ルルは一連の出来事ですっかり警戒心を解いたようだ。嬉しそうに背後のレヴィアへと話かけている。
レヴィアの方も、ともすれば大人にとって退屈とも思える子供との会話を難なくこなしている様子。その慣れっぷりに疑いを強くしたのか、ネイはちょいちょいと彼女へと手招き。「ちょっと待っててくださいな」とルルを下ろし、二人の元へと歩くレヴィア。
「何か御用?」
「いや…………一応、一応言っておきたいんだが、その……あんまり高く売れないと思うぞ? 流石にまだ小さすぎる」
「? ……ああ、そういう事。流石に見境なく売ったりはしませんわ。アレはレアものな上に、社会的地位が低そうでしたので」
悪事を考えている雰囲気は無い。しかしネイはまだ安心できないようだ。彼女の考えるレヴィア像と違いすぎるからだろう。
「だ、だが妙に手馴れてないか? お前の事だ。まさか本当に子ども好きという訳ではなかろう」
「まあ別に大好きってほどではありませんが」
「やはり。なら何であんなにも慣れて……」
「そりゃ一人いましたから。娘が」
「「……は?」」
目が点になる二人。
「ちょうどあの子くらいの年齢でしたわ。それなりに子育てには参加してましたから、そこそこは慣れてますの。まあその時は男の子の遊びしか出来な……あら?」
ようやく二人の様子に気づくレヴィア。その様子を見て首をかしげるも、そういえばそうだったと納得する。
「ごめん。嘘。妹がいるんですのよ。だから子供相手はお茶の子さいさいという訳ですの」
「そ、そうよね。ビックリした……」
「本気で信じかけたぞ。全く、心臓に悪い」
安心する二人。一人は「先を越されてたかと思ったじゃないか」なんて小声でつぶやいている。
別に本当の事を言ってもよかったのだが、最初から説明しなければならないので面倒なのだ。加えて相手が信じるかどうかも疑わしい。
輪廻転生や異世界云々といった考えはこの世界にも存在するが、どちらも宗教書か娯楽本の中で描かれるのみ。現実に異世界TS転生したなどと言えば頭の病気を疑われる。
「レヴィアちゃーん、まだー?」
「はいはい。もう宜しい? 呼ばれてるんですが」
「あ、ああ。疑って悪かった」
「ごめんねレヴィア」
馬車へと戻り、ルルの隣に座る。仲良さそうにお喋りする様子はまるで姉妹。
姉妹、なのだが……
16 - 6 = 10。
「……いかん。妙な想像をしてしまった。護衛に集中せねば」
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