美少女パパと最強娘! ~前世の娘がクラス召喚されてきた!? TS転生者のパパは正体を隠しつつ娘の為に頑張る! その美貌と悪辣さで~

ちりひと

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第二章. 娘は勇者! パパは聖女!?

026. 聖女の正体

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 いま何と言った? 娘? 誰の娘だって?
 
 リズは混乱のさなかにあった。
 
 勇者の一人……スミカという人間が大切と言うのはまだいい。なぜ異世界の存在を知っているのかは不明だが、この様子だと嘘は言っていない。きっと自分の知らない何かがあるのだろう。

 だが、娘? 娘だって? どう考えても計算が合わないではないか。
 
 勇者は元の世界ではコウコウセイという学生の身分らしく、年齢は十六か十七と聞く。そしてレヴィアも十六。……ゼロ歳、下手したらマイナスの時に産んだという事になる。
 
 ありえない。嘘とかいう前に物理的におかしい。
 
(まさか前世の娘とか言わないわよね……)

 行動は色々とカオスだが、こう見えてレヴィアは常識人である。常識を知った上で『知ったことか!』とばかりに非常識をしているのだ。言ってる事がよく分からない事は多々あるが、本気で妄想めいた事を言う事は無い。何ならネイの方が妄想めいている。
 
「聖女様が泣いている」
「何て悲しそうなのかしら。私まで胸が痛くなって来ちゃう……」
「だがそのお姿も美しい」
「神よ! なぜ貴方は尊きお方に涙を流させるのですか!」

 気づけば、彼女らの周りにはいつの間にかやじうまが。泣き顔のレヴィアを見てしまったらしく、思い思いに泣いたり祈ったり怒ったりしている。
 
 魅力全開の無双状態にある事は知っていたが……今回は洒落にならないくらい影響力があるようだ。いつもと違い演技じゃないからだろうか。はた迷惑この上無い。

「ちょ、レヴィア。とりあえず移動するわよ。ここじゃ色々とヤバイわ」
「ぐすっ……。そうみたいですわね。皆さん、お騒がせしました」

 ぺこりと軽く頭を下げるレヴィアに、群衆は「何と勿体ない!」「聖女様が頭を下げる必要はありませんぞ!」などと恐縮しまくっている。恐縮のあまり五体投地し始める者までいる。
 
 ドン引きしながらもレヴィアの手を引いて歩きだすリズ。しかしこのままでは被害者が増える事に気づき……少し悩んだが、かぶっていた赤ずきんをレヴィアにかぶせる。顔を晒すとヤバイので前面を極力閉じて。前が殆ど見えないだろうが、自分が手を引けば問題ないだろう。
 
 そう思って歩きだすも、これはこれで目立ってしまう模様。顔を隠してうなだれている人物と、その手を引く人物。ものすごく怪しい。見ようによっては犯罪者とそれを連行する者のようにも見える。

(まだ注目されてる? ……大丈夫よね。バレてないわよね)

 それに気づかないリズはちょっぴりオドオドしていた。不審さがさらに増すが、幸い声を掛けられるなどといった事は無く、無事宿へと到着。借りている一室に入る。ネイはまだ帰っていないようだ。
 
 頭巾を回収し、備え付けの椅子にレヴィアを座らせる。歩いている間に涙は止まったらしく、今は普通な顔に戻っていた。彼女の対面に自分も座り、話を再開。
 
「それで、ええと……娘? だっけ?」
「ええ、娘ですわ。一人娘なんですの。わたくしにソックリでしょう?」

 そう言われてもそのスミカとやらの姿を知らないのだが。
 
 数人ならともかく、勇者は三十人以上いた。一人一人の顔など覚えていない。しかし少なくともレヴィアと同じピンク髪の者はいなかったはず。顔つきが似てるとかだろうか?
 
(待って。娘、娘…………。あっ! ペンドランの時の!)

 権力者に性的暴行を受けて、望まぬ子を産んで、それでも可愛がっていたのに権力者に奪われてしまった。そんな過去がレヴィアにはあったはず。もしかしてその子の事だろうか? いや、それでもゼロ歳は無いだろう。

「えっと……ちなみにいつ産んだの?」
「産んだ? 産んだ訳ではありませんが、純花が生まれたのはわたくしが三十四の時でしてよ」
「三十四!?」

 まさかのプラス。
 
 十八年後、しかも産んだわけではないという。ますます意味が分からない。頭痛がしてきたリズはひたいを抑えながらも確認し始める。

「ちょっと待って。話を整理すると、アンタは三十四の時に性的暴行を受けて、子供と離れ離れになって、その子供が十八年前の今になって勇者として召喚された……って事?」
「はあ? 全くもって意味がわかりませんわ。それに性的暴行? 人を強姦魔扱いしないで頂ける? わたくしは純愛タイプですのに」

 両者とも意味が分からないという顔をしていた。リズは勘違いをしており、レヴィアは言葉が足りない。こうなってしまうのは当然の帰結だった。

「そうじゃなくて……その、はっきり言っちゃうけど、襲われちゃったんでしょ? それでトラウマになったからそんな性格に……」
「襲われた? トラウマ? わたくしが?」

 レヴィアの目が点になり、ぱちくりとまばたきを一つ。
 
「一体どこからそんな話が。そんな事実は一切ありませんわ」
「で、でも、男の人が嫌いって。この体になってから無性愛になったって……」

 しばらく首をかしげて考え込むレヴィアだが、「ああ、あの時の」と思い出した様子。ペンドランでの自分の発言を思い出したらしい。経緯は分からないだろうが、リズが勘違いしているのは察したようで、一つため息を吐きながら口を開く。

「よく分かりませんが、リズ。わたくしは誰? アナタとどこで出会った?」
「どこって……………………あっ」

 しばらく考えたリズはレヴィアの過去に思い至る。お陰でようやく自分が勘違い状態にあると認識した。
 
「気づいたみたいですわね。わたくしに暴行できるとしたら、それこそ皇帝とかそのレベルですわよ?」
「……そうだった……」

 出会ってからはずっと一緒だったのでありえない。だとすると出会う前という事になるが……もっとありえない事を思い出したのだ。
 
 今でこそ冒険者という地位のレヴィアだが、元々の出自を考えればその辺の権力者が手を出せる存在では無い。

「ハァ……。ま、わたくしも色々と言葉が足りなかったようですし、最初から説明しましょう」



 * * *



「はあっ!? アンタは元異世界人でスミカって子はその時の子供で、死んでこの世界に転生してきて挙句の果てに元々は男!?」
「ええまあ。そういう事ですわね」

 驚愕するリズ。勘違いが判明したと思ったら、ありえないと判断した予想がまさかの大当たり。流石に元男という辺りは予想外だったが。

「……ちょっと設定盛りすぎじゃない?」
「ですが事実ですし。因みに何でこうなったかはわたくしにも分かりませんわ。トラックにもひかれてませんし」

 トラック? 何のこっちゃ?
 
 そう思うリズだが、いつもの意味不明ワードだと判断。重要度は低そうなのでスルーする。
 
 いや、もしかして意味不明ワードは異世界の用語だったのだろうか? そう考えると元異世界人というのは納得できるようなできないような……。
 
「加えて時間の流れも異なるかもしれません。純花は当時六歳でしたが、今は十六歳。わたくしも十六歳。恐らくこちらの世界の方が1.5倍ちょっと早いのでしょう。こちらも理由は神のみぞ知る、というところですが」

 頭が痛くなってくる。嘘を言っているようには見えないが、流石にちょっと信じられない。

「……証拠は? 証拠はあるの? 今の話がホントっていう」
「あの子が六歳までのエピソードは知ってますから、確認すればそれが証拠になりますわね。後は異世界の歴史を知ってるとかかしら。これも勇者の誰かに確認を取る必要はありますが」
「な、成程。その辺は後で確認するとして……他には?」
「確実な証拠はそれくらいでしょうか。後はわたくしがたまに男言葉を使うところ? 証拠としては弱いでしょうけど」

 そういえば出会った当初から男言葉はあった。レヴィアの出自はそれを覚えるような環境ではないし、むしろ覚えてはいけない。加えて素が出た状態では非常に男っぽい。演技とは思えないほどに。
 
「……ん?」
 
 ふと、思いつく。
 
「……待って。男? 男なの?」
「ええ。体はこのとおり美少女ですが、中身は美男子ですわ」
「………………」
 
 リズは腕組をして思い出す。頭の中で流れるのは冒険者になってからの日々。
 
「……アンタ、私と一緒に風呂入ってたわよね?」
「ええ。入ってましたわね」
「……着替えとかも一緒にしてたわよね?」
「してましたわね」

 平然と言うレヴィア。その答えを聞いたリズの顔が羞恥に染まっていく。

「へ、変態! 何考えてんの!? 信じらんない!」

 顔を赤くさせ、胸を隠すような仕草で身を守るリズ。対し、レヴィアは平然としたまま。それが何、という感じだ。
 
「別に女の身体なんて見慣れてますし。わたくし自身で。あと前に言った通り欲情もしませんのでご安心を」
「そういう問題じゃない! デリカシーの問題よ!」
「いやいや、最初は遠慮してましたわよ? けれどリズ自身が一緒でいいと言ったんじゃありませんか」

 ……そんな事言ったっけ? ……言ったかもしれない。最初の頃、着替えるたびにレヴィアが出ていくので『何恥ずかしがってんの~?』みたいに言った気が。からかい半分で。
  
「そ、それは! けどそれはアンタが男だと知らなかったからで!」
「分かった。分かりましたから。今度からは遠慮しますから。それより本題に戻って宜しい?」

 メンドクセーという表情をしながらレヴィアは言った。ものすごく釈然としないリズだが、確かに本題からは外れまくっているので感情を抑える。未だ顔は真っ赤なままではあるが。
 
「とにかくそんな感じなんですが、どうしたものかと悩んでいますの。会えて嬉しいという気持ちは勿論あるのですが、なにせ十六年ぶり。いえ、あっちからしたら十年ぶりでしょうか。どうしたらいいのか……」
「う、うーん……」

 難しい問題だ。リズは考え込む。
 
 例えば自分だったらどう思うだろう。父が死に、十年後に父を名乗る女が『パパだよ!』とか言ってきたら。しかもそれがレヴィアだったら。
 
 レヴィアの過去の行動が思い浮かぶ。



『わたくし、美少女ですもの』

『金払えコラァッ!』

『勿論、売り飛ばすんですわ』



「……び、微妙……」

 嫌いじゃない。レヴィアの事は決して嫌いじゃないのだが、こんな父親はイヤだ。中身が男であるにも関わらず女をエンジョイしている。そうでなくても行動がカオスすぎる。自分の父とは別ベクトルで嫌だ。
 
 しかし、会いたいか会いたくないかと言われれば会いたいかもしれない。
 
 もし自分がレヴィアと死に別れたとしたら寂しいに違いない。もう一度会いたいと願うだろう。
 
 ただそれは二人が仲良しだからであって、不仲であれば逆の感想になると思われる。
 
「家族仲はどうだったの? 奥さんと喧嘩とかしてなかった? お金の問題とかで」
「これ以上なく良好でしたわ。喧嘩という喧嘩も無かったですし、金は腐るほどありましたし。育児にもそこそこ関わっていたので純花も懐いてくれていました」
「ふうん……」

 ランドの娘、ルルへの対応を見れば懐いていたことは予想がつく。
 
 ならば夫婦仲と経済状況が問題になるが、両方とも問題ないらしい。夫婦仲が悪ければ子供にもその雰囲気は伝わるし、経済状況が悪ければ余裕がなくなる。どちらも子供にとって健全とは言えない。
 
「なら大丈夫なんじゃない? 受け入れてくれるのに時間はかかるかもだけど、喜んでくれると思う」

 そう結論づけた。
 
 父が女体化、それもレヴィアというのは微妙ではあるが、家族なら彼女に慣れているだろう。混沌とした行動にも耐性があるはず。何なら『あ、パパ。今度は女になったの?』という感じで普通に受け入れそうだ。故に問題なかろうと判断した。

「ええ。それは疑ってません。ですが、決断が出来ないというか……」

 ハァ、とため息を吐くレヴィア。普段の即断即決っぷりからすれば非常に珍しい態度だ。拒絶されるのを恐れているのだろう。それほどに家族が大切らしい。
 
「レヴィア……。死に別れた人ともう一度会えるなんて普通は無いのよ? なら……」
「分かってますわ……」

 レヴィアはうなだれている。そんな彼女にリズはわざと厳しい態度を取る。
 
「分かってない。いい? 人ってすぐ死ぬんだから。アンタ自身、死ぬなんて思ってなかったでしょ?」
「それはそうですが……」
「なら分かんないわよね? ……スミカって子が、いつ死んじゃうかってのも」
「!!」

 驚愕に目を見開くレヴィア。その発想はなかった、という感じだ。
 
「特に今は勇者なんでしょ? 魔王とか魔族とかがどんなヤツらなのか知らないけど、戦いに行くのよね? 死ぬ確率は高いし、そうでなくても大けがするかもしれない。そんな状況なのよ? なら迷ってるヒマなんかないわ」
「…………」

 レヴィアは天井の方を向いて何かを思い出している。次いで腕を組み、考え始める。

「……確かに……俺の娘にしてはクソ弱いような……。けどちょっと前は……うーん……」

 独り言。声が小さく全部は聞こえなかったが、一部は聞こえた。それを聞いたリズはダメ押しとばかりに言う。
 
「弱いんなら余計によ。というか娘なんでしょ? 娘が戦地に行くのを黙って見てるつもり? やめさせるとか、それが無理でも手助けするとかしなきゃ」
「!!」

 はっとした様子になるレヴィア。

「手助け……。そう、そうですわ! 流石はリズ!」

 そして喜び始める。予想外の反応。リズは『えっ、喜ぶ要素あったっけ』といぶかしむ。
 
「そうか。ならあの問題は何とかなりそうだ。よーし、こうしちゃいられねぇな。早速純花のトコ行こう」

 ぶつぶつと呟きつつも準備し始め、剣や道具を服の中にしまい始める。
 
 一体何をするつもりなのだろう? 気になったリズは理由を聞こうとし……
 
「ねぇ、レヴィア……」
「という訳で行ってまいりますわ。遅くなるかもしれませんので、ネイにも言っておいてくださいまし。ま、あの馬鹿は気にもしないでしょうけど」

 そう言って出ていく。
 
 一体何だったのだろう? 疑問に思うリズだが、とにかく娘の元に行くことにはしたようだ。つまり決心できたのだろう。とりあえず一安心……

「あ、リズ。もし純花に会ってもわたくしの事は黙っていて下さいな。今のところ父親という事を明かすつもりはありませんから」
「えっ。それじゃ意味が……」
「ではまた。リズ、本当にありがとう」

 お願いとお礼を言われ、今度こそ本当に出て行ってしまった。

「……大丈夫かしら?」

 レヴィアが出て行った扉を見ながらもリズは思った。本当に一安心なのだろうか、と。
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