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第三章. 最強娘を再教育
039. 領主の迎え
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「勇者のヤツめ。折角こちらから歩み寄ろうとしたものを……」
翌朝。宿のロビーでぶちぶちと愚痴るネイ。
一人キレている彼女を見て、起きてきたレヴィアは「何故?」と首をかしげる。純花に背負われてソッコーで寝てしまったので状況を把握していないのだ。
一体何があったのか。レヴィアはリズへと問いかけ、現状を知る。
あの後、秋波を送るネイを見た純花は彼女の事を『男優先のクソ女』と認識してしまった。その勘違いを正そうとネイは言い訳をするが、スミカは完全にシカト。その態度にネイがキレてしまい、再び喧嘩になってしまったのだとか。
勿論リズも仲裁しようとはした。しかし、巻き込まれた本人であるレヴィアが爆睡しており、実際にどう思っているか確認できない。故にその言葉にはイマイチ説得力が無く、上手く取り持つ事ができなかったらしい。
「そ、そうなんですの。苦労を掛けますわね、リズ」
「全くよ。アンタ全然役に立って無いじゃない。なに一人だけ寝てんのよ」
「い、いやあ、疲れてましたから……」
ジト目で見てくるリズに、レヴィアは気まずそうに視線を外す。
実際、当事者たるレヴィアが起きていればネイのフォローが出来、純花がここまで悪感情を抱く事は無かっただろう。ネイがどう思うかは分からないが、少なくとも活躍した純花を責めるような事はしないはず。肝心な時に役に立たなかったという訳だ。
「疲れてた、ねぇ。疲れてたから娘におんぶされて帰ってきたの?」
「お、おほほほほ……」
「笑ってる場合じゃないわよ。かっこいいとこ見せるってのはどうなったの? それともそういうのがアンタの中でかっこいいの? 仲間置いて逃げだすとか、見苦しく言い訳したりとかがかっこいいの?」
リズはぐちぐちとレヴィアを責めた。昨日のレヴィアはロクな事をしていない上にこの役立たずっぷり。流石の彼女とて怒っているのだろう。レヴィアは耳を押さえて聞かないフリをした。
「おはよ」
そんな微妙な空気の中、純花が部屋から出てくる。今日も別室に泊まっていたため、三人はロビーで待っていたのだ。
「あ、レヴィア。起きたんだ」
「え、ええ」
「大丈夫? 相当疲れてたみたいだけど」
「確かに疲れましたが、もう大丈夫ですわ。それより純花、ネイの事なんですけど……」
遅まきながらもレヴィアはフォローしようとする。が、名前を聞いただけで純花は嫌悪を示し、ちらりとネイを見て「ハッ」と見下した。目があったネイも腕を組んだまま「フン!」と顔をそらしている。
その悪化具合に口元を引きつらせつつもレヴィアは続けた。
「ネ、ネイの事なんですけど、彼女に悪気はありませんのよ? ほら、ネイって色々ギリギリでしょう? ちょっぴり色事優先になっても仕方ないと思いますの」
「悪気無しに男優先とか最悪じゃん。そんなのフォローしなくていいよ」
駄目だった……。一日経った事でネイの人物像が固定されてしまったのだろうか?
「ば、馬鹿! スミカ、昨日も言ったけどそんなんじゃないってば! ちょっぴりそういうところがあるのは否定しないけど、ネイってば基本正義感が強いの! 町の人を守る為に戦って、たまたま顔のいい男が現れたから――」
「もういい。リズ、そんなヤツに弁明する必要はない」
フォローになっていないレヴィアの言葉をリズが訂正。が、途中でネイが割り込み中断。二人の仲は完全に決裂しているようだ。
リズはおろおろしつつもレヴィアへと顔を向ける。
「ああもう……。もっと悪化しちゃったじゃない! ちゃんとモノ考えて言いなさいよ!」
「あれ? ……おかしいな。最高のフォローだと思ったのですが」
「どこがよ!」
結婚できない焦りを知るレヴィアにとって最適の言葉を選んだつもりだったが、逆効果だったらしい。
結婚したいのに結婚できず、適齢期を過ぎるのは中々に辛い。恋人すらいないまま三十歳に突入した時は流石の新之助とて焦りまくった。男でもそうなのだから、女ならもっと焦るだろう。まだ若い二人にはその辛さが想像できないのだろうか?
「失礼。こちらに牡丹一華の方々はいらっしゃるか」
四人が言い合いを続ける中、入口から声。そちらを向けば、一人の兵士がいた。見覚えは無いが、何の用事だろうか。
「こっちだ。兵士殿、昨日の件についてだろうか」
「これはネイ様! 昨日はありがとうございました。皆様方のご活躍に我々一同、本当に感謝しております」
「その旨、有難く受け取ろう。が、我々は当然の行いをしたまでだ。どこかの誰かはその当然が分からないようだが」
ネイはイヤミっぽく純花を見た。が、純花は見下したままで気にも留めていない。流れ弾を食らったレヴィアだけが再び耳を抑えて聞こえないフリをしている。
不穏な雰囲気にたじたじとなる兵士。冷や汗をたらしつつも彼は言葉を続けた。
「そ、それでですね。実は領主ジョセフ様がぜひ皆様方を屋敷に招待したいとの仰せでして。直接感謝を述べたいのと、あとお願いしたい事もあるらしく……」
「お願い? 依頼だろうか。どのような内容で?」
「具体的な事は直接話すそうです。何やら遺跡についてだとか――」
「「「遺跡!?」」」
翌朝。宿のロビーでぶちぶちと愚痴るネイ。
一人キレている彼女を見て、起きてきたレヴィアは「何故?」と首をかしげる。純花に背負われてソッコーで寝てしまったので状況を把握していないのだ。
一体何があったのか。レヴィアはリズへと問いかけ、現状を知る。
あの後、秋波を送るネイを見た純花は彼女の事を『男優先のクソ女』と認識してしまった。その勘違いを正そうとネイは言い訳をするが、スミカは完全にシカト。その態度にネイがキレてしまい、再び喧嘩になってしまったのだとか。
勿論リズも仲裁しようとはした。しかし、巻き込まれた本人であるレヴィアが爆睡しており、実際にどう思っているか確認できない。故にその言葉にはイマイチ説得力が無く、上手く取り持つ事ができなかったらしい。
「そ、そうなんですの。苦労を掛けますわね、リズ」
「全くよ。アンタ全然役に立って無いじゃない。なに一人だけ寝てんのよ」
「い、いやあ、疲れてましたから……」
ジト目で見てくるリズに、レヴィアは気まずそうに視線を外す。
実際、当事者たるレヴィアが起きていればネイのフォローが出来、純花がここまで悪感情を抱く事は無かっただろう。ネイがどう思うかは分からないが、少なくとも活躍した純花を責めるような事はしないはず。肝心な時に役に立たなかったという訳だ。
「疲れてた、ねぇ。疲れてたから娘におんぶされて帰ってきたの?」
「お、おほほほほ……」
「笑ってる場合じゃないわよ。かっこいいとこ見せるってのはどうなったの? それともそういうのがアンタの中でかっこいいの? 仲間置いて逃げだすとか、見苦しく言い訳したりとかがかっこいいの?」
リズはぐちぐちとレヴィアを責めた。昨日のレヴィアはロクな事をしていない上にこの役立たずっぷり。流石の彼女とて怒っているのだろう。レヴィアは耳を押さえて聞かないフリをした。
「おはよ」
そんな微妙な空気の中、純花が部屋から出てくる。今日も別室に泊まっていたため、三人はロビーで待っていたのだ。
「あ、レヴィア。起きたんだ」
「え、ええ」
「大丈夫? 相当疲れてたみたいだけど」
「確かに疲れましたが、もう大丈夫ですわ。それより純花、ネイの事なんですけど……」
遅まきながらもレヴィアはフォローしようとする。が、名前を聞いただけで純花は嫌悪を示し、ちらりとネイを見て「ハッ」と見下した。目があったネイも腕を組んだまま「フン!」と顔をそらしている。
その悪化具合に口元を引きつらせつつもレヴィアは続けた。
「ネ、ネイの事なんですけど、彼女に悪気はありませんのよ? ほら、ネイって色々ギリギリでしょう? ちょっぴり色事優先になっても仕方ないと思いますの」
「悪気無しに男優先とか最悪じゃん。そんなのフォローしなくていいよ」
駄目だった……。一日経った事でネイの人物像が固定されてしまったのだろうか?
「ば、馬鹿! スミカ、昨日も言ったけどそんなんじゃないってば! ちょっぴりそういうところがあるのは否定しないけど、ネイってば基本正義感が強いの! 町の人を守る為に戦って、たまたま顔のいい男が現れたから――」
「もういい。リズ、そんなヤツに弁明する必要はない」
フォローになっていないレヴィアの言葉をリズが訂正。が、途中でネイが割り込み中断。二人の仲は完全に決裂しているようだ。
リズはおろおろしつつもレヴィアへと顔を向ける。
「ああもう……。もっと悪化しちゃったじゃない! ちゃんとモノ考えて言いなさいよ!」
「あれ? ……おかしいな。最高のフォローだと思ったのですが」
「どこがよ!」
結婚できない焦りを知るレヴィアにとって最適の言葉を選んだつもりだったが、逆効果だったらしい。
結婚したいのに結婚できず、適齢期を過ぎるのは中々に辛い。恋人すらいないまま三十歳に突入した時は流石の新之助とて焦りまくった。男でもそうなのだから、女ならもっと焦るだろう。まだ若い二人にはその辛さが想像できないのだろうか?
「失礼。こちらに牡丹一華の方々はいらっしゃるか」
四人が言い合いを続ける中、入口から声。そちらを向けば、一人の兵士がいた。見覚えは無いが、何の用事だろうか。
「こっちだ。兵士殿、昨日の件についてだろうか」
「これはネイ様! 昨日はありがとうございました。皆様方のご活躍に我々一同、本当に感謝しております」
「その旨、有難く受け取ろう。が、我々は当然の行いをしたまでだ。どこかの誰かはその当然が分からないようだが」
ネイはイヤミっぽく純花を見た。が、純花は見下したままで気にも留めていない。流れ弾を食らったレヴィアだけが再び耳を抑えて聞こえないフリをしている。
不穏な雰囲気にたじたじとなる兵士。冷や汗をたらしつつも彼は言葉を続けた。
「そ、それでですね。実は領主ジョセフ様がぜひ皆様方を屋敷に招待したいとの仰せでして。直接感謝を述べたいのと、あとお願いしたい事もあるらしく……」
「お願い? 依頼だろうか。どのような内容で?」
「具体的な事は直接話すそうです。何やら遺跡についてだとか――」
「「「遺跡!?」」」
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