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第五章. 悪嬢 vs 悪役令嬢!? 真なるヒロインはどっちだ!
068. 黒ローブの女
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ヴィペール王国東部にある村。
なんの変哲もない村であり、観光資源や特産品といったものもない。場所も辺鄙で、訪れる者といえば役人か、あるいは行商人といったところ。そんな村に男は生まれた。
平和で牧歌的。多少の貧しさはあるが、それでも食うに困るほどではない。若いころはそれをつまらなく思い、都会に出てそれなりの冒険者となり名を挙げた男だが、結局はここに戻った。都会に出て、初めてここがかけがえのない場所だと気づいたのだ。
戻った男は畑を耕す傍ら、村を守る為に尽力した。冒険者としての腕を活かし、賊や魔物の脅威を幾度も退ける。その時に助けた女が自分に惚れてくれたらしく、結婚して夫婦となった。数年後は子にも恵まれた。男は幸せだった。このまま幸せが続くと思っていた。
だが、そうはならなかった。
「ふーん、この程度なのね」
嘲るように言う目の前の人間。声や体格から女という事は察せられるが、全身を覆う黒いローブのせいで他は何も分からない。そんな女が男の前に立ちふさがっていた。
周囲には死体。異形の魔物が数体と、たくさんの守れなかった村人のもの。だがそれを後悔している暇はない。男は剣を構え、女と相対する。
「何故こんな真似をする! 俺たちが何をした!?」
「特に何も? けど敵に容赦する必要はないわよね。人間に生まれた事を後悔しなさい」
「敵、だと……?」
敵。自分を敵と呼ぶ女。確かに冒険者時代は恨みを買った事もあるが、ここまでされるほどのものではなかったはず。しかし万が一もある。
「俺に対する恨みか? なら俺だけでいいはずだ! 俺が目当てなら俺だけを狙え!」
「プッ……! あははははは! アンタどれだけ自意識過剰なのよ! そんな訳ないでしょうが!」
腹をかかえ、可笑しそうに笑う女。
隙だらけな姿だったが、男が切りかかることはしない。安易に攻めるべきではないという理由もあったが、これは時間稼ぎも兼ねているからだ。
(逃げてくれ……! 俺が抑えている間に、出来るだけ遠くへ……!)
この辺りでは見ないどころか冒険者時代にも見た事がない異形の魔物。突然現れたそれらが村を襲ったのだ。
一人では守り切れない。そう考えた男は妻と子を含めた生き残りを馬車で逃がした。そして自分はここに残り、彼らに危害が及ばないよう囮となって戦い続ける。元Aランクなのは流石というべきか、魔物に対し一歩も引かず、彼は約半数の魔物を倒す事に成功していた。
しかし、男の快進撃はそこまでであった。途中で現れた黒ローブの女。奴は自分の攻撃を余裕でいなす。
――強い。A級冒険者だった自分が手も足も出ない。恐らく現役時代でも無理だろう。
故に男は出来るだけ時間を稼ごうとしていた。決死の覚悟で。妻と子供の為に。
「あー可笑しい。あ、それと一応言っとくけど、意味ないからね? アンタ、時間稼ぎしてるっぽいけど」
「!?」
「本当はすぐに終わらせられたのよ? けどこうした方が面白そうだから。ほら、後ろ後ろ」
男は警戒しつつも振り向く。言葉で翻弄するつもりかとも思ったが、後ろから異様な気配を感じたからだ。
そこには先ほど戦っていた異形。しかし決定的に違うものがある。それは――
「そ、そんな……!」
見覚えのある村人たち。そして愛する妻と子の――
なんの変哲もない村であり、観光資源や特産品といったものもない。場所も辺鄙で、訪れる者といえば役人か、あるいは行商人といったところ。そんな村に男は生まれた。
平和で牧歌的。多少の貧しさはあるが、それでも食うに困るほどではない。若いころはそれをつまらなく思い、都会に出てそれなりの冒険者となり名を挙げた男だが、結局はここに戻った。都会に出て、初めてここがかけがえのない場所だと気づいたのだ。
戻った男は畑を耕す傍ら、村を守る為に尽力した。冒険者としての腕を活かし、賊や魔物の脅威を幾度も退ける。その時に助けた女が自分に惚れてくれたらしく、結婚して夫婦となった。数年後は子にも恵まれた。男は幸せだった。このまま幸せが続くと思っていた。
だが、そうはならなかった。
「ふーん、この程度なのね」
嘲るように言う目の前の人間。声や体格から女という事は察せられるが、全身を覆う黒いローブのせいで他は何も分からない。そんな女が男の前に立ちふさがっていた。
周囲には死体。異形の魔物が数体と、たくさんの守れなかった村人のもの。だがそれを後悔している暇はない。男は剣を構え、女と相対する。
「何故こんな真似をする! 俺たちが何をした!?」
「特に何も? けど敵に容赦する必要はないわよね。人間に生まれた事を後悔しなさい」
「敵、だと……?」
敵。自分を敵と呼ぶ女。確かに冒険者時代は恨みを買った事もあるが、ここまでされるほどのものではなかったはず。しかし万が一もある。
「俺に対する恨みか? なら俺だけでいいはずだ! 俺が目当てなら俺だけを狙え!」
「プッ……! あははははは! アンタどれだけ自意識過剰なのよ! そんな訳ないでしょうが!」
腹をかかえ、可笑しそうに笑う女。
隙だらけな姿だったが、男が切りかかることはしない。安易に攻めるべきではないという理由もあったが、これは時間稼ぎも兼ねているからだ。
(逃げてくれ……! 俺が抑えている間に、出来るだけ遠くへ……!)
この辺りでは見ないどころか冒険者時代にも見た事がない異形の魔物。突然現れたそれらが村を襲ったのだ。
一人では守り切れない。そう考えた男は妻と子を含めた生き残りを馬車で逃がした。そして自分はここに残り、彼らに危害が及ばないよう囮となって戦い続ける。元Aランクなのは流石というべきか、魔物に対し一歩も引かず、彼は約半数の魔物を倒す事に成功していた。
しかし、男の快進撃はそこまでであった。途中で現れた黒ローブの女。奴は自分の攻撃を余裕でいなす。
――強い。A級冒険者だった自分が手も足も出ない。恐らく現役時代でも無理だろう。
故に男は出来るだけ時間を稼ごうとしていた。決死の覚悟で。妻と子供の為に。
「あー可笑しい。あ、それと一応言っとくけど、意味ないからね? アンタ、時間稼ぎしてるっぽいけど」
「!?」
「本当はすぐに終わらせられたのよ? けどこうした方が面白そうだから。ほら、後ろ後ろ」
男は警戒しつつも振り向く。言葉で翻弄するつもりかとも思ったが、後ろから異様な気配を感じたからだ。
そこには先ほど戦っていた異形。しかし決定的に違うものがある。それは――
「そ、そんな……!」
見覚えのある村人たち。そして愛する妻と子の――
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