英雄伝承~森人の章2~ 落ちこぼれと言われて追放された私、いつの間にか英雄になったようです。

大田シンヤ

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終編

第50話

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 全てが遅かった。
 母様の時と同じだ。あの時も、私は遅かった。

 あれから強くなって、より速くなってこの星に生存する全ての生物よりも速い。私にはその自負があった。
 だけど、それは何の役にも立たないのだと、今更ながらに気付いた。気付くべきだった。そうすれば、少なくとも今と違う結果にはなっただろう。

 全てが燃えて崩れていく里を見て、私は佇む事しかできなかった。
 誰かの安否など気に留める余裕もない。
 目の前で崩れていく全て、それらを見て精神が崩壊させないようにするのがやっとだった。
 そんな時にまたあいつが来る。
 ふざけるな。いい加減にしろ。何でお前は私の目の前に何時も姿を現す。
 『招かれざる者ノングラータ』の魔剣まで持ち出して、ギラギラした怒りを向けて来る。
 それだけで私の怒りが抑えられなくなった。

「魔剣ヴァーテブラ!!」

 デレディオスから受け継いだ魔剣を呼ぶ。
 空から朱い稲妻を伴って飛来した魔剣を受け止めると同時に私は走り出した。
 細剣レイピアを扱っている時にはやらない大振りの一撃と肩口から炎が噴き出し、威力を増した巨大な拳鍔がぶつかり合う。
 先程までとは比べ物にならない衝撃が大森林に奔る。

 扱う者も一流であれば、武器も一流。
 武器を一振りするだけで地形が変わる。大森林が形を無くしていく。
 遠くの方で悲鳴が聞こえた。もしかしたら、森人がいるのかもしれない。だけど、どうでも良かった。
 今は、無性に目の前の獣を叩き潰したいという衝動があった。

「何なんだよ。お前!!」

 何故、そんなに怒っている。
 何故、私の愛する故郷に攻め入って来る。
 全てお前が悪いんじゃないか。
 理不尽だ。理解不能だ。
 私は母を失った。今度は愛した故郷すらも失えと言うのか。

「お前さえ来なければ、もう少しでいつもの日常が返って来たのに!!」

 ペネトラティアとウニレにはまだ教えることがたくさんある。
 アルバ様の侍女の選定もまだだ。
 少しずつ変わっていく皆を見るのは寂しいが、同時に楽しみでもあった。
 この戦いが無事に終われば、どちらが一番弟子かとくだらない喧嘩をする二人をゆっくり見ながら、剣を教えられただろうし、人間関係に悩みながらも成長していくアルバ様も見られた。
 里全体も変わっていた。
 剣術も浸透してきて、砦もできて、アルバ様が外から持って来た技術を使って里がこれから繁栄を迎えるはずだった。
 これから成長し、変わっていくであろう人々と里。そして、変わることのない故郷に包まれて過ごすはずだった。
 それが全て台無しにされた。

 勝手なことを抜かして私たちを敵に仕立て上げて来たバリエル神聖国家。そんな国の言葉に乗っかって里に攻めて来たレジオネラ連合国家も腹が立つが、一番腹が立つのは目の前の獣だった。
 他の奴等なんて纏めてかかって来ても私一人が出れば終わる程度の存在だ。
 魔剣を使うまでもない相手だ。
 天から降る槍だって手が空いていれば、私は防げたこと。
 だけど、こいつだ。目の前のこいつがいたから、私はこいつを抑え込むことになり、結果――こんな事態になってしまった。
 全身を沸騰させる怒りと言う熱。それを力に変えて魔剣を叩き付ける。

「一体何が目的なんだよ。裏切りって何なんだよ。ふざけんな。私たちを放っておいてくれよ。撒き込むな!! 何で私たちがお前のくだらない妄想に付き合わなきゃいけないんだ!!」

「ッウガアァアアア!!」

 何度目かも分からない衝突が起こる。
 力押しに弱い私は押し込まれ、地面に叩き付けられて肉塊と化すが、が横からヴェスティアの首を狙う。
 それをヴェスティアは反射神経で避ける。代わりに直線上にあった木々が消し飛んでいく。
 実力は拮抗していた。
 更に怒りが湧く。
 里を襲って来た者が自分と同等の力を有していることに――。
 里を壊滅させた者を殺すことができない自分の力の無さに――。

「あぁ、クソだ」

 体中の水分が沸騰しているのではないかと錯覚するほどの熱が体を支配する。
 もう目の前の存在が生きているのを見るのが嫌だ。殺したい。殺さなきゃいけない。
 殺意を迸らせ、私は姿勢を低くする。ヴェスティアも腰を落とし、迎え撃つ態勢を取っていた。
 地を蹴ったのは同時だった。

「『無窮一刺』!!」

「『竜殺一擲』!!」

 一直線に互いの急所を狙って距離を詰める。
 防御など考えない、相手を殺すことだけに意識を向けていた。頭を潰されようが、相手の頭も貫ければそれで良いと投げやりに考えていた。
 だが、ふとヴェスティアの後ろに映ったペネトラティアとウニレの姿に私の思考は一瞬止まった。
 二人は、満身創痍で獣人族に引き摺られていた。
 無意識に私は魔剣を獣人族に向けて投げる。
 目の前に鉄の拳が迫って来ているのは分かっていたが、動きは止められなかった。

「――――」

 ヴェスティアの拳が叩き込まれる。
 私の意識はそこで途切れた。
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