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第35話 動き出す邪なる者たち

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 私は細心の注意を払いながら3人の後に続いてテレビ局に入っていく。
 【不可視】のおかげで監視カメラにも映る事はないので何の問題もなく3人についていけるのだ。

 時々後ろを振り向いてニコッと笑うヒナちゃんを別にすれば……

 もう既に私の魔力を視て分かるようになっているな。もちろん私は魔力の放出を極限までおさえているのだが、巫女のヒナちゃんには通用しないようだ。コレでも一応異世界では勇者だったのだが自信がぐらつくな。

 そんな事を考えながら3人が控室に入るのを確認した。何故かヒナちゃんがチョイチョイと手招きをするが私は無視をして控室の扉横に陣取った。
 そのうちにヒナちゃんも諦めて中に入っていく。間違いなくヒナちゃんは着替えを私に見せつけようとしていた。その誘惑に勝った私を誰か、誰でもいいから褒めてほしいと思う。

 そうして私は静かに時を待つ。ランドールはまだまだ若手なので楽屋挨拶に出向く必要があるのだが最近ではそんな小さな事を気にする先輩も少なくなり、全ての先輩歌手に挨拶に行く必要は無いそうだ。
 なのでランドールも、事務所のタカシさんから言われた先輩だけに挨拶に出向くらしい。
 着替えを終えたランドールの2人が楽屋から出てきて歩き出した。私もそれに着いて歩く。
 先ずは大御所歌手の方の楽屋の前で扉をノックする2人。中からマネージャーさんが出てきてランドールの2人を招き入れた。私は外で待機していた。
 挨拶を終えて何事もなく出てくる2人はそのあと5組の先輩たちに挨拶を終えて自分たちの楽屋へと戻ってきた。

 楽屋に入る前にヒナちゃんが小さく声を出した。

「タケフミさん、居るんでしょ? 中に入ってからでいいから姿をヒナたちに見せて欲しいな」

 そこまで言われると私も弱い。けれどもマネージャーさんが居るのでおいそれとはその言葉に従えないのもある…… 私の葛藤を見抜いたのか、ヒナちゃんがマネージャーさんにジュースを買って来てほしいとお願いしている。私は【電波感知】で楽屋内を調べて、何も仕掛けられてないのを確認してから、静かに中に入り姿を現した。

「キャッ! って…… オジサン!?」

 ナミちゃんはいきなり現れた私を見て可愛らしい悲鳴を上げるが私だと知ると何故か安心したようにオジサン呼びしてくれた。ヒナちゃんは何故か私の腕を取りその胸部装甲を押し付けてくる。

「ねっ、ナミちゃん! ヒナが言ったとおりもう安心でしょう! タケフミさんがちゃんと守ってくれるんだから!」

「ちょっ!? ヒナ! 当たってるわよ!?」

「? 当ててるんだよ、ナミちゃん」

 私は慌てて腕を引き抜いた。

「ヒナちゃん、そういう事は好きな人に対してするようにね。さてと近衛騎士ロイヤルガードだったね。2人とも、私が居るから安心して収録に望んで欲しい」

 私がそう言うとナミちゃんが思い出したように言う。

「いや、サラッと会話に流されそうになったけどっ! オジサン何処から現れたの? ってかいつから居たの? まさか私たちが着替えてる時から!?」

 いや、着替えを黙って覗いたりしてないよナミちゃん。私は内心で慌てながら落ち着いて否定しようとしたら、ヒナちゃんが喋りだした。

「ナミちゃん、タケフミさんはずっと着いてきてくれてたけど着替えてる時は楽屋の扉前で待っててくれたよ。ヒナがさっき小声で入ってきてって言って中に入って貰ったんだよ」

 ヒナちゃんの言葉にナミちゃんが絶句している。

「も、もしかしてヒナがここに来る途中で後ろを振り返ってジッと見てたのって……」

「そうだよ。タケフミさんの気配を感じたからだよ。凄いよね見えないけどちゃんとソコに居たんだよ!?」

 ヒナちゃんがキッパリ言い切る。いや、何故かヒナちゃんの中では私がそう出来る事は当たり前認定になってるけど、普通はナミちゃんの反応が正しいんだよ……

「オジサン…… 何者なの……?」

 ナミちゃんが私を疑いの眼差しで見ながらそう聞いてきた。それに答えようとしたがまたもヒナちゃんに先を越されてしまった。

「ナミちゃん、何を言ってるの? タケフミさんはヒナとナミちゃんのボディガードだよ?」

 はい、有難うございます、ヒナちゃん。その言葉が私の立場を一番的確に表しているよ。
 あっけらかんとそう言ってるヒナちゃんを見てナミちゃんがハア~と大きくため息を吐く。

「分かった…… 私はヒナを信じてるから、ヒナがそう言うならそうなんでしょ。だからオジサン、ちゃんと守ってね」

 ナミちゃんは私の事を詮索するのを諦めたようだ。良かった私の秘密を2人に明かす訳にはいかないから助かったよ。そう思いながらナミちゃんの言葉に頷いていたら、楽屋の扉がノックされた。
 私はマネージャーを装う為に咄嗟に返事をした。

「どちら様でしょうか?」

 私の問いかけに扉の向こうが一瞬ざわつくのが分かる。

「オイッ、情報と違うぞ? ランドールのマネージャーは女だって聞いてたのに……」
「ホントだな? 何でだ?」
「警戒して男のマネージャーも付けてるんだろ?」
「まあまあ、僕に任せてよ。ちゃんと洗脳してやるから」
「そうだな、ミッチーが居たら大丈夫だよ」

 私は聞き捨てならないその言葉をシッカリと聞いた。洗脳だと!? そんな事が出来るのか。私は【魔視】を発動して扉の外に居る5人をた。すると1人だけハッキリとスキルが発動していて、自覚もしているようだ。確かに【洗脳】と出ている。
 危なかった。ランドールの2人に渡した腕時計は物理的な防御は完璧だが【洗脳】などの状態異常には弱い。ここに私が居た事は幸いだったな。
 私がそこまで考えた時に扉向こうから私の問いかけに対する答えが聞こえた。

「どうも~、ダニーズ事務所所属の近衛騎士ロイヤルガードですっ! 今をときめく女性アイドルのランドールさんに挨拶に来ましたーっ!?」

 その言葉に私はランドールの2人を振り返って見た。2人とも緊張はしているが、私が居るからか気丈に頷いている。それを確認した私は扉を開けた。

「わざわざ有難うございます。本日の収録ではご迷惑をおかけするかも知れませんが、2人をどうかよろしくお願いしますね」

 扉を開けて私はそう言って中に入れるように体をずらした。その時、私の目を見ながら一番年下だと思われる青年が力を使用した。【洗脳】だ。

 私はソレに掛かったフリをする。脳内に響くその青年からの指示は大人しくソコに立っていろだったので私は無表情になり立つ。

 そんな私を見たランドールの2人の顔が不安そうになるが、私は我慢した。

「いやー、やっぱり可愛いねぇ! 今日の収録はよろしくね! あ、俺が近衛騎士ロイヤルガードリーダーのシバタケだよ、よろしくー!」

 そう名乗って体をずらすシバタケの後ろから【洗脳】使いの青年がランドールの2人の目を見て力を使用した。2人の目が虚ろになる。

「よし、掛かったよ。コレで2人はもう僕の傀儡くぐつだよ。命令はどうしようか?」

「良くやった、ミッチー。そうだな収録は普通にしとかないとダメだから、収録後に俺たちと打ち上げに行くと周りに言うように指示をしてそれからマネージャーには着いてこさせないように指示しとけ。収録が終わったらいよいよお楽しみだぜっ!!」

 リーダーのシバタケがそう言って一足先に楽屋を出ていく。他の3人も楽屋を出たので私は素早く行動を開始した。
 動いた私を見てミッチーと呼ばれていた【洗脳】使いの青年の顔が驚愕している。

「なっ!? 何でだっ! 何で動けるんだっ!」

 私はその言葉を無視してミッチーに【闇魔法】の【思考支配】を掛けたのだった……
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