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第61話 婚約
しおりを挟む深野さんの突然の結婚という言葉にカオリちゃんも顔を赤くしながら異論を唱えた。
「ママ、私はまだ結婚しません。仕事をちゃんとしないとダメだと思うの」
魔王カーナだった時も思ったが相変わらず責任感が強い娘だ。魔王だった時は慕って集まってくれた民の為に必死になっていたな。そんな気質は地球に転生しても変わってないようだ。
「私も新しい依頼がありますから直ぐに結婚なんてはできませんよ。2日後に打合せもありますし」
私も重ねてそう言うと深野さんは残念そうな顔になる。
「でもね、愛し合ってた2人がやっと長い時を経て出会えたんだから早く一緒になるべきだと私は思うの。2人もその方が良いでしょ?」
あーそこに誤解があるようだから一言いっておいた方がいいかな?
「あの、深野さん。長い時を経たのはカオリちゃんだけで、私的には別れ別れになってからそんなに時が経ってないといいますか…… その…… 地球に戻ってまだ1年も経ってないぐらいなので」
そう、私自身が魔王カーナと離されたのはそれぐらいである。カオリちゃんは私が居なくなった後も魔王として事後処理を3年ほどしたそうだ。慕ってくれていた民たちが虐げられない様に手をうち、どうやら何とかなりそうだと思ったら創生神によって転生させられたらしい。
民たちが虐げられないようにする為に、私の仲間だった者たち(最終決戦についてきていた3人やその前にパーティーを組んでいた者も)が魔王カーナに力を貸して、更には自分たちの目の黒いうちは必ず守ると誓ってくれたそうだ。
それに今はコチラに転生しているあの困ったお貴族様にも世話になったらしい…… あいつ、そんな事は一言も言ってなかったぞ。次に来たときには少しだけ優しくしようと思う。
ちなみにカオリちゃんは会って直ぐに分かったそうだが、自分の正体はローレンには分からないように隠蔽しておいたそうだ。
良かった…… 私に賛同してくれ、パーティーを組んでくれた者たちや私を手助けしてくれた者は皆、私が居なくなっても心はそのままでいてくれたんだな。
カオリちゃんは言う。
「タケフミのお陰よ。私が魔王として君臨して人と敵対していた頃は【魔の者たち】や【邪なる者】なんて名称を民は人族に付けられてたけど、私が転生する前には【魔力の民】と呼ばれるようになってたわ…… 本当に有難う」
「いや、良いんだ。それに私がそうした訳じゃない。かつての仲間や君が努力した証じゃないか。私なんか何もしてあげられなかったんだから……」
「ううん、そんな事ないわ。タケフミが居なくなって、途方にくれていた時にあのエルフの聖騎士と、ジャガー族の拳聖、それからサキュバスの魔女っ娘が来てくれて、私に力を貸すって言ってくれて…… それから昔のタケフミの仲間にも連絡してくれて…… 何でそこまでしてくれるの? って聞いたら、みんながみんな、それが勇者タケフミが望んだ事だからって言ったのよ…… だから、タケフミには一番感謝してるのよ」
不覚にも涙が零れそうになる。みんな有難うと心の中で思っていたら、そこに非常に良いタイミングでツッコミが入った。
「もお~、ママを放っておいて2人の世界に入らないで~!!」
しまった! 深野さんが居たのだった。かつての仲間の話が懐かしくてついつい話し込んでしまった。
「でも、ママは直ぐにタケフミさんと私を結婚させようとするから話に入らせないようにタケフミさんと私にしか分からない話をしてたの」
おお! さすがは実の娘だ。怒ってもどこかアンニュイな雰囲気の深野さんを恐れずに言い返した。私には無理だな。
「スミマセン、つい懐かしくなってしまって。深野さんを蔑ろにしていた訳ではないんです。ただ、やっぱり直ぐに結婚とかは私たち2人には無理ですよ。桧山さんの了承も必要でしょうし。けれども深野さんのそのお言葉は私には心強いです。有難うございます」
そう言って私は深野さんに頭を下げた。私の言葉を聞いた深野さんはニコニコと笑顔になって、カオリちゃんに言う。
「ほら~、カオリちゃん。コレが大人の対応よ。貴女も見習いなさい。でも、鴉さんは本当にそれで良いの?」
「はい、先ずは私もカオリちゃんも目の前にある仕事を投げ出したりは出来ませんし、こうして出会えたのだから慌てる事は無いかと考えてます」
私はそう言って深野さんに納得してもらったのだった。こうして話合いは終わり、私とカオリちゃんは深野さんが認める婚約者となった。
深野さん曰く、桧山さんも認めているとの事だが、私は実際に会って話をするまでは楽観視しない事にしたのは言うまでもない。
そして2日後の朝、私はスターフェス東京事務所にやって来た。スーツは新調してある。
「おはよう、タケフミ。ちょっとだけ待っていてくれ。ナツキに引き継ぎがあるから」
そう言われて私は事務所の外に出て自販機でブラックコーヒーを買い飲んでいた。そこにランドールの2人とカオリちゃんがやって来た。
「おめでとう、オジ…… じゃなかった、カラスさん。ヒヤマさんと婚約したのね。ヒヤマさんから聞いたよ」
ナミちゃんが私にそう言って祝福してくれた。
「ムゥ~、ヒナもタケフミさんを狙ってたけど、ヒヤマさんには勝てそうにないから…… おめでとうございます」
ヒナちゃんも祝福してくれている。
「有難う、2人とも。そういう事だからよろしくね」
私は2人にそう返事した。しかし、ヒナちゃん狙ってたって言うけどヒナちゃんは私で遊んでただけだよね? 【不可視】を使用した私を見つけては楽しそうな顔をしてたし。それにオジサンちょっと巫女さんには苦手意識があるから、ゴメンね。
それからカオリちゃんに予定を聞き、私もこれから違う事務所からの依頼を受ける事になるようだと伝え終えた時に相川先輩が出てきた。
「オッ! 来たか。中でナツキが待ってるから行ってくれ。それじゃ、タケフミ行こうか」
私はハイと返事をして先輩のあとに続いた。駅に向かい新宿方面に行く電車に乗った。
「木山さんはどうも誰かに狙われてるようでな。警察にも相談してあるそうだが、四六時中ついてくれる訳じゃないから外にいる間は守って欲しいそうだ」
電車の中は空いていたので先輩は小声でそう私に言ってきた。私は軽く頷いておく。そして、どこで誰が聞いてるのか分からないので、ここでは仕事の話は止めておきましょうと小声で先輩に伝えた。
「おお、そうだな。悪かった。それじゃ向こうの事務所に着いてから話をしよう」
そして、オジサン2人が黙ったまま電車に揺られること10分。目的の駅で降りた私たちは徒歩で事務所に向かった。駅から徒歩5分ほどのビルに入る先輩。
受付で名刺を出してアポイントはとってあると伝えると受付のお姉さんが
「伺っております。あちらのエレベーターで5階にお上がり下さい。降りて右に進んでいただきますと、正面に社長室がございますのでそちらにお願い致します」
と丁寧に教えてくれた。
私たちは教えられた通りに進んだ。社長室の扉をノックする先輩。中から扉が開き、顔を出した女性が相川先輩に親しそうに声をかけた。
「アラ、相川くん早かったわね。でも良かったわ、木山ちゃんももう来てるのさあ中に入ってちょうだい」
「ご無沙汰してます、社長。こちらがボディガードの鴉武史です。では、失礼します」
へえ、女性の社長さんだったのか。それにしても随分と腰の軽い社長さんだな。後ろに立ってるのが秘書さんだろうに、その人に扉を開けさせずに自分で扉を開けるとは…… ある意味この社長さんは秘書泣かせな人なんだろうな。
「鴉武史です。本日はよろしくお願いします」
私はそう挨拶をして先輩に続いて部屋に入った。
「アラー、とってもいい男!! どう? 私と一夜のアバンチュールを楽しまない?」
中にいた木山美登利さんにいきなりそう言われたのでビックリして固まってしまったが……
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