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013 作州浪人が居る
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俺とミリアは連れ立って屋敷を出た。馬車を用意すると言われたのだが丁寧に辞退しておいた。目立つのは嫌だからな。
で、町に向かって歩きながらミリアに聞いてみた。
「僕の身分証を作ってくれるって話はピオ様やマリに通っているのかな?」
そう聞くとミリアが不思議そうな顔で、
「学園証を貰ったでしょう、ケイン?」
そう問いかけてきたので頷いた。すると、
「学生の間は学園証が身分証になるのよ。だから、学園を卒業するまでは大丈夫だよ」
との事だった。それもそうだな。前世でもそうだったし…… すっかりと忘れていたけど。
身分証の問題が解決したから俺はスッキリとした気分にはなったけどね。
それから歩くこと30分、ようやくミリアの通う道場にたどり着いた。まあまあ屋敷から遠いのな。ミリアは学園からだと15分だと言ってたけど、学園に通ってなかったから道場で教えを受ける日は屋敷から通ってたって事だよな。
「師匠、今日は私の守りたい大切な人を連れて来ました。見学を許していただけますか?」
中に入るなりそう言い出すミリア。そして、それに返事をしたのは……
「ムホウッ! ミリアちゃんの守りたい大切な人じゃとっ!? どれどれ、この作州浪人宮本六三四が見極めてやろう!!」
と木刀だが二刀を手に持つご老体だった。しかし、宮本武蔵だとは。確かに前世でも宮本武蔵は作州浪人だと名乗っていたと何かで読んだ気もするが、本当にご本人なのか?
そう思った俺は道場の中に礼をしながら入り、ご老体に確認してみた。
「あの、僕はケインと言います。それで失礼を承知でお聞きします。作州というのは何処なのでしょうか? それと、お名前は本名なのでしょうか?」
道場に入る際の礼と丁寧な物言いを心がけたお陰か、ご老体は快く返事をしてくれた。
「カーッカッカッ、若いのに礼儀を弁えておるのう。作州とはな、ここではない遠い遠い国にある場所の事じゃよ。そしてワシの名前は本名じゃ。もっとも名の字は漢数字に変えてあるがのう……」
最後の呟きによって俺は目の前に立つご老体が宮本武蔵本人だと確信した。が、生涯に渡って女性は修行の妨げになると言っていた武蔵が、何故に女性であるミリアを弟子にしたのかは謎だ。まあ、まだ10才の子供だからかも知れないが。
「それよりもケインよ、お主から強者の気が漂っておるのう。お主どのような修行をしたのじゃ。いや、良い良い、手合わせすれば分かろうて。という訳でいざ、参る!!」
ちょっと待てーい! いきなり木刀を振りかぶって切りかかって来やがったよ、ご老体。
俺は化勁が間に合わずに大きく飛び下がる。が、それにピタリと張り付くようについて来られた。
「ホレホレ、どうした? このまま当てても良いのか?」
とまたまた今度は右手に持つ短刀型の木刀を振るう。左利きだったのかと少し驚いた。だが、今度は間に合う。体勢も悪くない。俺は化勁でその木刀を俺の右に流した。凡人でなくても体勢が崩れる筈! という俺の目論見は脆くも崩れて、たたらも踏まずにご老体は左手の大刀型の木刀をすくい上げるように振ってくる。
下からくる大刀を俺は慌てずに化勁で上へと流す。しかし、それでもご老体の体は崩れない。
「ほっほぅ、面白い技を使うのう。これは楽しめそうじゃ」
その言葉の後に怒濤の攻めが俺を襲ってきた。
或いは受け流し、或いは力を返し、或いは地面に叩きつけさそうと試みるがことごとくご老体には通用しない。
しかし、最後の最後で二刀をまとめて突いてきた時に、俺の化勁でご老体の体が崩れた。
「カーッカッカッ! これはしもうた。してやられたわい。ついつい焦って基本を忘れて突いてしもうた。若かりし頃はコレで何人屠ったかも数えておらぬが、ケインよ、お主には通用せなんだな」
そう言ってご老体はゴロゴロも転がり、俺から10メートル離れてから飛び起きたのだった。
クソッ、俺が荒い息を吐いてるのに何でご老体は息が乱れてないんだ? ちょっと傷ついたぞ。それに最後のあの突きはわざとだろう。俺に花を持たせたつもりか?
ハアハアと荒い息を何とか整えようとしていると、対戦を見ていたミリアが言った。
「師匠、痩せ我慢せずに息を整えてください。死にますよ」
ミリアが言った途端にご老体は
「ぶっ! ハァーッ! ハアハア、しんどいのう……」
と大きく乱れた息を吐き出した。何だ、痩せ我慢してたのか…… その様子を見てちょっとだけホッとした俺だった。
それから互いに息が整い、俺は疑問に思っていた事をご老体に聞いてみた。
「僕の技は相手の攻撃を多彩に受け流したり、相手にその力を返したりするのですが、ムサシさんは最後の突き以外ではその体勢をくずされる事はありませんでした。何故なのか、もしも教えても構わなければ教えていただけませんか?」
「ホッホッ、素直じゃのう。素直な若者は嫌いではない。良かろう、教えてやろう。それはの、二天一流の極意は柳にあるからなんじゃ。どんな強風にさらされようが折れる事のない柳を、自身の体に身につけるのじゃよ」
なるほど、そう言うことだったのか。いわば押しても引いてもその力に逆らわずに漂う事によって体勢を崩すことがなかったんだな。ある意味化勁と同じじゃないか……
「ケインよ、お主の技は凄い。じゃが、お主と同じような技を持つ者とは初めて対戦したんじゃろう? じゃが、その技術に疑問を持つ事はないぞ。更に磨きを掛ければ折れぬ柳も折る事が出来るようになるじゃろう。どうじゃ、偶にミリアちゃんと一緒にワシの教えを受けてみんか?」
願ってもない言葉に俺は素直に頷いた。だが、教えを受ける立場ではあるが、心苦しいがこちらから一つ条件を出さなければならない。
「あの、体術のみを教えていただきたいのです。何故ならば僕は武器術が圧倒的に下手くそだからなのです……」
恥ずかしさを堪え、ミリアの前ではあるが教えて貰うのならば正直に言っておかなくてはならない。だから、俺はそうムサシの爺さんに頼んだ。
「フム…… まあ、それも良かろう。じゃが、教えの初めだけはこの木刀を持って振って貰おうかの。それを見て何かしらアドバイス出来る事もあるやも知れぬからの。それで良いか?」
「はい! よろしくお願い致します」
こうして、俺は今世でも師匠を得る事が出来た。先ずは二天一流の体術を学んでみよう。そして自分の化勁に足りない部分を探してみる。
俺は自身のスキル化勁を更なる高みに上げるべく、稽古に励む事にした。
帰り道でミリアが、
「ケイン、やっぱり師匠と同じぐらい強かったね」
と言ってくれたが、俺はそれを否定しておいた。
「ううん、ミリア。アレはムサシ師匠がお年を召されていたからだよ。もしも10年~15年前に今の僕と対戦していたら僕が負けていたよ」
俺の言葉にミリアも頷いて同意した。そして、
「私も師匠を超えられるように頑張って稽古しなくちゃ!!」
と気合を入れたミリアを見て俺は微笑みながらも、
「そうだね。でもその前に忘れずにミヤちゃんへのお土産を買って帰らないとダメだから、串焼きの屋台がある場所に案内してよ、ミリア」
と忘れずに頼んでおいた。ミリアは俺の言葉にハッとした顔になり、
「そうだった! 良かったケインが言ってくれて。コッチに色んな種類の串焼き屋台が並んでるの、行こう!」
と俺の手を引いて走り出した。
本当にありとあらゆる種類の串焼きがあり、前世の焼き鳥のような味付けの物もあったので、ミリアと2人で買いまくってはマジックバッグに詰め込んだ。もちろん、マジックバッグだとはバレないように注意しながらだけどな。
そうして山ほどのお土産を手に入れた俺とミリアはミヤちゃんの喜ぶ顔を想像しながら家路についたのだった。
で、町に向かって歩きながらミリアに聞いてみた。
「僕の身分証を作ってくれるって話はピオ様やマリに通っているのかな?」
そう聞くとミリアが不思議そうな顔で、
「学園証を貰ったでしょう、ケイン?」
そう問いかけてきたので頷いた。すると、
「学生の間は学園証が身分証になるのよ。だから、学園を卒業するまでは大丈夫だよ」
との事だった。それもそうだな。前世でもそうだったし…… すっかりと忘れていたけど。
身分証の問題が解決したから俺はスッキリとした気分にはなったけどね。
それから歩くこと30分、ようやくミリアの通う道場にたどり着いた。まあまあ屋敷から遠いのな。ミリアは学園からだと15分だと言ってたけど、学園に通ってなかったから道場で教えを受ける日は屋敷から通ってたって事だよな。
「師匠、今日は私の守りたい大切な人を連れて来ました。見学を許していただけますか?」
中に入るなりそう言い出すミリア。そして、それに返事をしたのは……
「ムホウッ! ミリアちゃんの守りたい大切な人じゃとっ!? どれどれ、この作州浪人宮本六三四が見極めてやろう!!」
と木刀だが二刀を手に持つご老体だった。しかし、宮本武蔵だとは。確かに前世でも宮本武蔵は作州浪人だと名乗っていたと何かで読んだ気もするが、本当にご本人なのか?
そう思った俺は道場の中に礼をしながら入り、ご老体に確認してみた。
「あの、僕はケインと言います。それで失礼を承知でお聞きします。作州というのは何処なのでしょうか? それと、お名前は本名なのでしょうか?」
道場に入る際の礼と丁寧な物言いを心がけたお陰か、ご老体は快く返事をしてくれた。
「カーッカッカッ、若いのに礼儀を弁えておるのう。作州とはな、ここではない遠い遠い国にある場所の事じゃよ。そしてワシの名前は本名じゃ。もっとも名の字は漢数字に変えてあるがのう……」
最後の呟きによって俺は目の前に立つご老体が宮本武蔵本人だと確信した。が、生涯に渡って女性は修行の妨げになると言っていた武蔵が、何故に女性であるミリアを弟子にしたのかは謎だ。まあ、まだ10才の子供だからかも知れないが。
「それよりもケインよ、お主から強者の気が漂っておるのう。お主どのような修行をしたのじゃ。いや、良い良い、手合わせすれば分かろうて。という訳でいざ、参る!!」
ちょっと待てーい! いきなり木刀を振りかぶって切りかかって来やがったよ、ご老体。
俺は化勁が間に合わずに大きく飛び下がる。が、それにピタリと張り付くようについて来られた。
「ホレホレ、どうした? このまま当てても良いのか?」
とまたまた今度は右手に持つ短刀型の木刀を振るう。左利きだったのかと少し驚いた。だが、今度は間に合う。体勢も悪くない。俺は化勁でその木刀を俺の右に流した。凡人でなくても体勢が崩れる筈! という俺の目論見は脆くも崩れて、たたらも踏まずにご老体は左手の大刀型の木刀をすくい上げるように振ってくる。
下からくる大刀を俺は慌てずに化勁で上へと流す。しかし、それでもご老体の体は崩れない。
「ほっほぅ、面白い技を使うのう。これは楽しめそうじゃ」
その言葉の後に怒濤の攻めが俺を襲ってきた。
或いは受け流し、或いは力を返し、或いは地面に叩きつけさそうと試みるがことごとくご老体には通用しない。
しかし、最後の最後で二刀をまとめて突いてきた時に、俺の化勁でご老体の体が崩れた。
「カーッカッカッ! これはしもうた。してやられたわい。ついつい焦って基本を忘れて突いてしもうた。若かりし頃はコレで何人屠ったかも数えておらぬが、ケインよ、お主には通用せなんだな」
そう言ってご老体はゴロゴロも転がり、俺から10メートル離れてから飛び起きたのだった。
クソッ、俺が荒い息を吐いてるのに何でご老体は息が乱れてないんだ? ちょっと傷ついたぞ。それに最後のあの突きはわざとだろう。俺に花を持たせたつもりか?
ハアハアと荒い息を何とか整えようとしていると、対戦を見ていたミリアが言った。
「師匠、痩せ我慢せずに息を整えてください。死にますよ」
ミリアが言った途端にご老体は
「ぶっ! ハァーッ! ハアハア、しんどいのう……」
と大きく乱れた息を吐き出した。何だ、痩せ我慢してたのか…… その様子を見てちょっとだけホッとした俺だった。
それから互いに息が整い、俺は疑問に思っていた事をご老体に聞いてみた。
「僕の技は相手の攻撃を多彩に受け流したり、相手にその力を返したりするのですが、ムサシさんは最後の突き以外ではその体勢をくずされる事はありませんでした。何故なのか、もしも教えても構わなければ教えていただけませんか?」
「ホッホッ、素直じゃのう。素直な若者は嫌いではない。良かろう、教えてやろう。それはの、二天一流の極意は柳にあるからなんじゃ。どんな強風にさらされようが折れる事のない柳を、自身の体に身につけるのじゃよ」
なるほど、そう言うことだったのか。いわば押しても引いてもその力に逆らわずに漂う事によって体勢を崩すことがなかったんだな。ある意味化勁と同じじゃないか……
「ケインよ、お主の技は凄い。じゃが、お主と同じような技を持つ者とは初めて対戦したんじゃろう? じゃが、その技術に疑問を持つ事はないぞ。更に磨きを掛ければ折れぬ柳も折る事が出来るようになるじゃろう。どうじゃ、偶にミリアちゃんと一緒にワシの教えを受けてみんか?」
願ってもない言葉に俺は素直に頷いた。だが、教えを受ける立場ではあるが、心苦しいがこちらから一つ条件を出さなければならない。
「あの、体術のみを教えていただきたいのです。何故ならば僕は武器術が圧倒的に下手くそだからなのです……」
恥ずかしさを堪え、ミリアの前ではあるが教えて貰うのならば正直に言っておかなくてはならない。だから、俺はそうムサシの爺さんに頼んだ。
「フム…… まあ、それも良かろう。じゃが、教えの初めだけはこの木刀を持って振って貰おうかの。それを見て何かしらアドバイス出来る事もあるやも知れぬからの。それで良いか?」
「はい! よろしくお願い致します」
こうして、俺は今世でも師匠を得る事が出来た。先ずは二天一流の体術を学んでみよう。そして自分の化勁に足りない部分を探してみる。
俺は自身のスキル化勁を更なる高みに上げるべく、稽古に励む事にした。
帰り道でミリアが、
「ケイン、やっぱり師匠と同じぐらい強かったね」
と言ってくれたが、俺はそれを否定しておいた。
「ううん、ミリア。アレはムサシ師匠がお年を召されていたからだよ。もしも10年~15年前に今の僕と対戦していたら僕が負けていたよ」
俺の言葉にミリアも頷いて同意した。そして、
「私も師匠を超えられるように頑張って稽古しなくちゃ!!」
と気合を入れたミリアを見て俺は微笑みながらも、
「そうだね。でもその前に忘れずにミヤちゃんへのお土産を買って帰らないとダメだから、串焼きの屋台がある場所に案内してよ、ミリア」
と忘れずに頼んでおいた。ミリアは俺の言葉にハッとした顔になり、
「そうだった! 良かったケインが言ってくれて。コッチに色んな種類の串焼き屋台が並んでるの、行こう!」
と俺の手を引いて走り出した。
本当にありとあらゆる種類の串焼きがあり、前世の焼き鳥のような味付けの物もあったので、ミリアと2人で買いまくってはマジックバッグに詰め込んだ。もちろん、マジックバッグだとはバレないように注意しながらだけどな。
そうして山ほどのお土産を手に入れた俺とミリアはミヤちゃんの喜ぶ顔を想像しながら家路についたのだった。
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