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目の治療の件

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 俺達三人は町の宿をとるためにまた冒険者ギルドへとやって来た。ギルドに入ると中が騒がしい。どうやら侯爵の部下がやって来て中で何かを命令しているようだ。

「だからここにヨッパという女が居るだろうが! 侯爵様の有難い計らいでその女の目を治してやろうと言っているのだ。だから早くその女をここに連れて来い!」

 それに対処しているのはどうやらこのギルドのマスターのようだ。

「ヨッパなら先ほどから言っているように誰かに目を傷つけられてウチのギルドを退職したぞ。何回も同じ事を言わせるな!」

「貴様、侯爵様の部下にして子爵である私に何という口の聞きようだ! この国に居れなくしてやるぞ!」

「だーかーらー、それもさっきから何度も言ってるが、俺はこの国の人間じゃないしそもそも冒険者ギルドは国からの圧力は受けない組織なんだよ! 頭悪いだろ、あんた」

「キーッ、貴様ー! 産まれたときから聡明な頭脳を持つこの私に対して何という事をっ!」

「聡明だってんなら人の話を一度聞いたら理解しろよ!」

「くあーっ! もう良い、おい、お前たち。ギルドの中を探して来いっ!」

 頭の悪い子爵が、連れて来ていた男達にそう命令する。恐らく侯爵の私兵だろうが、その男達が動こうとした瞬間に冒険者達が行く手を塞いだ。

「おいおい、何を勝手に動こうとしてるんだ。ここのマスターが許可を出してないのに勝手にギルドの中を動いて貰ったら困るな。あっ、因みに俺はA級冒険者のナラズって言うんだ。腕に覚えがあるなら戦っても良いぞ」

 そう言った冒険者を前にして動こうとしていた男達は動きを止めて子爵を見た。男達に見られた子爵だが、相手がA級の冒険者だと知り躊躇している。そこにギルドマスターが言った。

「言ってなかったが、俺は元S級の冒険者だ。今でも影響力はそれなりにあるぞ」

「グヌヌ、たかが冒険者風情のクセに。おい、お前達、気にする事はない。やってしまえ」

 そう言って私兵を煽る子爵。そこまで後ろから見ていた俺は私兵達が動くのを見て乱闘になると思い無空間を使って冒険者と私兵の間に割り込んだ。
 私兵の先頭にいた男が驚いて止まる。

「なっ! どこから来た! 何者だ、お前は?」

 そう聞いて来るので俺は返事をしてやった。

「俺はS級冒険者のトウジという。ハーベラス侯爵には一度忠告したんたが、届いてなかったようだな」

「むっ! 貴様がトウジか! 貴様も今回の対象の一人だ。大人しく俺達に捕まれ!」

「アホか、お前は。そんなに俺を連れて行きたいなら表に出ろよ。そこで相手をしてやるよ」

「よし、言ったな。おい、表に整列しろ!」

 単純な男なのか俺の言葉に表に出る私兵達。慌てる子爵。

「こ、こら! 私をおいて勝手に話を進めるな! そんな男は放っておいて、ヨッパを探すんだ」

 その言葉に私兵の男が反論した。

「子爵閣下、私達は侯爵閣下から優先順位を言われております。その中でこの冒険者トウジを捕まえるのは最優先事項となっております」

 それだけ言って表に出る私兵達。後に残った子爵に俺は言ってやった。

「あんた、残るのは良いけど、そのままここに居たら冒険者にボコボコにされるぞ」

「くそ、ま、待て、お前達! 私も一緒に出る!」

 俺の言葉に慌ててギルドを飛び出す子爵。それを見て笑い出す冒険者達。そしてギルドマスターらしい男が俺に声をかけてきた。

「おう、お前さんがトウジか。『剣風』と『破壊の魔女』を妻にするなんて凄い男だと思ってたが意外とまともなんだな」

「あのな、俺の妻二人は素晴らしい女性なんだ。あんた達は二つ名で判断し過ぎなんだよ」

「ハッハッハッ、それもそうだな。これは俺達が悪い。で、今からどうするんだ? 何か考えがあるんだろう?」

「ああ、少しだけな。マコト、この建物自体に結界を張ってくれるかな? サヤは念のためにヨッパちゃんの側にいてやってくれ」

「分かった。結界を張るのはトウジが出てからで良い?」

「ああ、それで良い」

 そこでギルドマスターらしい男が俺に言う。

「ちょっと待て。一人で出るつもりか? それなら俺もこのギルドのマスターとして一緒に出るぞ」

 俺はどっちでも良いから好きにしてくれと言って、サヤとマコトに頼むと言ってギルドを出た。すると、マスターとA級のナラズも一緒に出てきた。そういやマスターの名前を聞いてないな。まあオッサンの名前はどうでも良いか。

 表に出た俺達に私兵の先ほど口を聞いた男が文句を言ってきた。

「たった三人で我々を相手にするつもりか? 嘗められたモノだな。仮にも侯爵閣下の私兵である我々はA級冒険者なんぞより鍛えているぞ!」

 そう言って町中にも関わらず剣を抜く男。俺は私兵達に無音をかけた。突然、何も聞こえなくなった私兵達は慌てだす。それでもさすがは鍛えられた男達だ。果敢にも俺達に向かってきた。そこで俺は俺の目の前に無空間を作り出して、私兵達を魔境の森の奥深くに招待して、無空間を閉じた。
 突然全ての私兵が居なくなり呆然とする子爵閣下。幼い頃から頭脳明晰と言われたならこれぐらいの事態には対処して欲しいモノだ。

「で、あんた一人でどうする? 俺達を相手に戦うか?」

 俺がそう声をかけるとビクリと震える子爵閣下。そして、

「お、!」

「お?」

「覚えてろぉーー!」

 そう言って俺達三人に背を向けて走り出した。ナラズが腹を抱えて大笑いしている。

「ギャハハハ、口だけは威勢が良いオッサンだったな!」

 俺はそこで二人を見た。マスターが俺を見て言う。
 
「ゴルバードのゼムから聞いてはいたが、とんでもないスキルを持っているな。なるほど確かにこれならSS級でもおかしくない実力だな」
 
 ギルドマスターのその言葉にナラズが反応する。

「さすがバーム商会伝説の男っすね。トウジさん、俺はナラズと言います。よろしくお願いします」

 うーむ、伝説になるほど年はとってないつもりなんたが······ しかし、このナラズという青年は名前の割にはイケメンだな。羨ましくなんかはないが。本当だぞ。俺がバカな事を思っていると、ギルドマスターが名前を言っていた。アブねえ、聞き逃すトコだったよ。

「俺はこの冒険者ギルドのマスターで、元S級冒険者のザーバスという。しかし、戦闘にならずに済んで良かったよ。助かった」

「ああ、いや。俺にも少し事情があってな。それで手出しさせてもらったんだ」

「ふむ、まあ詳しくは聞かないでおこう。しかし、これで確実にハーベラスに目をつけられるな。どう対処するか······ 国王に進言するために出した書簡は今日にも届くだろうが、それから国王が動いてくれるまでは凌ぐ必要があるしな」

 そこまで聞いて俺は情報を開示することにした。

「実は、ゴルバードの宰相閣下と親しくさせてもらっていてな。宰相からカイン国王に連絡をしてもらってあるんだ。国王はご立腹のようでな。二~三日後にはこの町に来られる筈だよ」

「何だと。それは本当か? それなら何とか出来るな。そうだ、破壊の魔女の結界は魔石でもいけるのか?」

「ああ、大丈夫だよ」

「良し、それならお前達のパーティーにギルドからの緊急依頼を出すとしよう。報酬は金貨一枚(五十万円相当)だが、受けてくれるか?」

「ああ、妻二人が良いなら受けるよ」

 そして俺達三人はギルドの中に入る。そして俺はサヤとマコトに緊急依頼の件を告げた。二人は直ぐに了承してくれたので、受ける事をザーバスに言った。

「それじゃあ、済まないがマコトはこの魔石を利用してギルドに結界を張ってくれ。それが終わればトウジとサヤと一緒に俺の部屋に来てくれ」

 マコトは言われた通りに魔石を利用してギルドに結界を張った。そして、サヤの案内でギルドマスターの部屋に行く。どうやらヨッパちゃんはマスターの部屋に匿われていたようだ。ノックをして部屋に入るとザーバスの隣にヨッパちゃんがいた。

「今回は俺の娘、ヨッパの為に尽力してくれて有り難う。心から礼を言わせてもらう。そして、これは緊急依頼とは別で親としての気持ちだ。どうか受け取ってくれ」

 おお、ギルマスの娘さんだったよ。そりゃ、冒険者達も張り切るよな。俺はもう習慣となっている無音を部屋にかけてあるが、更にここに居る全員に無在をかけた。ザーバスとヨッパちゃんは気がついてないが。サヤとマコトは気付いたようだ。

 この部屋には隠し部屋があって、そこに潜んでいる者がいた。俺は無謬で、サヤは気配察知で、マコトは魔力感知で気付いたようだが、ギルマスも元S級冒険者だと言うが分からないんだろうか? 俺は先ずはそれを確認してみた。

「この部屋にある隠し部屋から人の気配があったけど、それはギルマスの差し金なのか?」

 俺の直球の質問にザーバスは悪びれる事なく返事をした。

「そうだ。俺が頼りにしている冒険者達二人に入ってもらっている。気付かれないと思ったがな······」

「ふむ、何故かは分かるよ。ゴルバード王国からと言っても侯爵と繋がってないとは限らないからな。用心するのは当たり前だ。また、そうじゃなきゃギルマスなんてつとまらないだろうしな」

「理解してくれて助かるよ。それで、トウジよ。お前はどっちなんだ?」

「その前に、ここでの話はその頼りにしている冒険者達にも聞こえないし、見えなくさせてもらった事を先に告げておく。それは俺の為にした事なんだ。他意はない。そして、ヨッパちゃん。君の目を治せると俺が言ったら信じてくれるかな?」

 俺の言葉に先ず反応したのはザーバスだった。

「とんでもスキルか? しかし、仮にもアイツらは同じS級冒険者だぞ。それが聞こえないし見えないなんて事を出来るのか? 更にヨッパの目は高位の聖職者の治癒魔法でも治らなかったんだ。あと治す手段としては神霊薬アムタールしかない!」

 ザーバスがそう言った後にヨッパちゃんが言った。

「私は、知らなかったとは言え一介の受付嬢に過ぎない私に、無礼な事を言って済まなかったと謝罪してくれたトウジさんを信じます」

「良し、それなら良いか? サヤ、マコト?」

「私達が止めても治すんでしょ?」

「トウジ、妻は私とサヤだけだからね!」

 妻二人の返事を了承と受け取って俺はヨッパちゃんに無傷をかけた。

「さあ、ヨッパちゃん。治ったよ。眼鏡を除けてごらん」

 俺の言葉に恐る恐る眼鏡を外すヨッパちゃん。その顔を見たザーバスが涙を流してヨッパちゃんに抱きついた。

「治った、治ってるぞ、ヨッパ。長い間、済まなかった。お前を守れもせず、治すことも出来なかった情けない父を許してくれ」

「お父さん、本当に、本当に治ったの! ああ、でも見える! 前みたいにちゃんと見えるから、治ったんだね! お父さんが謝ることなんてないよ。私の為に一所懸命に治癒士さんを探してくれたりしてくれたのを私は知ってるよ」

 二人とも抱き合いながら嬉し涙を流していた。俺達は二人が落ち着くのを微笑みながら待っていた。 

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