8 / 9
声
しおりを挟む
身体に戻ったおかげで、耐えがたい臭いは感じなくなった。
でも。
見えるんだよなぁ…、【母さん】の幽霊。
僕も幽霊になってたからかな。
それとも『母さんに僕が似ている』せいで、チャンネルのようなものが合ってしまってるのかもしれない。
ソファに座った兄さん。その脚の間に挟み込まれるように背中からすっぽり抱かれた僕。
相変わらず【母さん】は兄さんのことだけを見ている。
「母さんのこと、兄さんは好きだった?」
『母さん』という言葉に反応したのか、黒い人間が傾いたままピクリと動くのを視界の端に見た。
怖っ。自分の母親だと思っていても怖っ。
兄は両親の死を知って喜んでいたくらいだ。たぶん『嫌っていたんだろうな』、と思いながらも母に気を遣う癖がついた僕は『好きだった?』という言葉を選んだ。
「優弥に似てたから、顔は嫌いじゃなかった」
兄さんの言葉が聞こえたのだろう。
こっちを見てくる視線の圧が増えた気がする。
怖っ!
「でも、感情の起伏が激し過ぎて、正直相手をするのが面倒だったな」
ん…?
少し影が薄くなった?
「それに、お前を虐げる姿は大嫌いだった」
あ、すぅっと薄く?
ショックを受けると存在が薄くなるの?
しょんぼりしちゃった?
なんだか、母へ抱いていたマイナスの感情全てがスゥッと溶けていくようだった。
兄の言葉でショックを受けて薄くなっちゃうとか、笑える。
相変わらず傾いだままの不気味な黒い影。
「あの女はお前に怪我をさせて、僕たちを引き離した」
急激にビクンビクンし始めた【母さん】。
溺愛してた兄さんに『あの女』扱いされておかしくなっちゃった?
カクカクと少しずつ、動く黒い足。
え…、動けるの?
「どうした優弥?」
兄さんは僕の異変に気付いてくれた。
でも、ギュッと抱き締めた腕に力が込められたせいで、こっちに向かってゆっくりゆっくり近づいてくる黒い影から逃げられない。
怖っ、怖っ…!!
こっち来るな! こっち来るな!
恐怖に背筋が強張って息が吸えない。
声が出ない。
離して、嫌だ、嫌だ、嫌…、
『ゴメ…ン…ネ、』
ギュッと目を瞑った瞬間、耳元に囁かれたのはノイズがかった声。
怖い筈だった。
それなのに…その声色の切なさに驚き、思わず目を開けていた。
『ユウ…ヤ…』
ふわっと薄くなって、消えていく影を見た。
そこには虚な穴が2つ。
“母さん”の目だ。
その目は兄さんじゃなくて、
…僕だけを見ていた。
母さんが僕を見てくれた…!!
後ろから温かな手のひらに頬を撫でられた時、はっと気がつくと既に黒い影は見えなくなっていた。
消えてしまった。
もう、母さんは、いない。
「お母さん…」
ぽろりと目から零れた熱いもの。
僕の呟いた声は小さすぎて兄の耳には届かなかっただろう。
なのに、僕の頬を横からぺろりと舐めた兄は、
「優弥。…好きだ。愛してる」
こんなにも柔らかな声で愛を囁いてくれるのだ。
「うん。…僕も、」
背中から僕を包む兄の腕をグイッと持ち上げる。
身体の向きをぐるりと変え、膝の上に乗るように座り直すと、兄は驚いたように目を見開いていた。
ぴたり、胸と胸を合わせる。
トクン、トクン、と規則正しい鼓動が伝わってきた。
「兄さん。好きだよ」
宙に浮いたままの兄の手へ、甘えるように頬を擦り寄せてみる。
「優弥!!」
ピシリと固まっていた兄が、ガバッと僕の身体を抱き締めた。
その必死な声に驚き、
なんかおかしな気持ちになった。
もそりと身じろげば、尻の下にゴリッと当たる硬いモノ。
ちゅ、ちゅ、と唇が落ちてきた。
目蓋、頬、唇、首…。
口付けを受けながら僕は、初めて自分から服のボタンを外していくのだった。
でも。
見えるんだよなぁ…、【母さん】の幽霊。
僕も幽霊になってたからかな。
それとも『母さんに僕が似ている』せいで、チャンネルのようなものが合ってしまってるのかもしれない。
ソファに座った兄さん。その脚の間に挟み込まれるように背中からすっぽり抱かれた僕。
相変わらず【母さん】は兄さんのことだけを見ている。
「母さんのこと、兄さんは好きだった?」
『母さん』という言葉に反応したのか、黒い人間が傾いたままピクリと動くのを視界の端に見た。
怖っ。自分の母親だと思っていても怖っ。
兄は両親の死を知って喜んでいたくらいだ。たぶん『嫌っていたんだろうな』、と思いながらも母に気を遣う癖がついた僕は『好きだった?』という言葉を選んだ。
「優弥に似てたから、顔は嫌いじゃなかった」
兄さんの言葉が聞こえたのだろう。
こっちを見てくる視線の圧が増えた気がする。
怖っ!
「でも、感情の起伏が激し過ぎて、正直相手をするのが面倒だったな」
ん…?
少し影が薄くなった?
「それに、お前を虐げる姿は大嫌いだった」
あ、すぅっと薄く?
ショックを受けると存在が薄くなるの?
しょんぼりしちゃった?
なんだか、母へ抱いていたマイナスの感情全てがスゥッと溶けていくようだった。
兄の言葉でショックを受けて薄くなっちゃうとか、笑える。
相変わらず傾いだままの不気味な黒い影。
「あの女はお前に怪我をさせて、僕たちを引き離した」
急激にビクンビクンし始めた【母さん】。
溺愛してた兄さんに『あの女』扱いされておかしくなっちゃった?
カクカクと少しずつ、動く黒い足。
え…、動けるの?
「どうした優弥?」
兄さんは僕の異変に気付いてくれた。
でも、ギュッと抱き締めた腕に力が込められたせいで、こっちに向かってゆっくりゆっくり近づいてくる黒い影から逃げられない。
怖っ、怖っ…!!
こっち来るな! こっち来るな!
恐怖に背筋が強張って息が吸えない。
声が出ない。
離して、嫌だ、嫌だ、嫌…、
『ゴメ…ン…ネ、』
ギュッと目を瞑った瞬間、耳元に囁かれたのはノイズがかった声。
怖い筈だった。
それなのに…その声色の切なさに驚き、思わず目を開けていた。
『ユウ…ヤ…』
ふわっと薄くなって、消えていく影を見た。
そこには虚な穴が2つ。
“母さん”の目だ。
その目は兄さんじゃなくて、
…僕だけを見ていた。
母さんが僕を見てくれた…!!
後ろから温かな手のひらに頬を撫でられた時、はっと気がつくと既に黒い影は見えなくなっていた。
消えてしまった。
もう、母さんは、いない。
「お母さん…」
ぽろりと目から零れた熱いもの。
僕の呟いた声は小さすぎて兄の耳には届かなかっただろう。
なのに、僕の頬を横からぺろりと舐めた兄は、
「優弥。…好きだ。愛してる」
こんなにも柔らかな声で愛を囁いてくれるのだ。
「うん。…僕も、」
背中から僕を包む兄の腕をグイッと持ち上げる。
身体の向きをぐるりと変え、膝の上に乗るように座り直すと、兄は驚いたように目を見開いていた。
ぴたり、胸と胸を合わせる。
トクン、トクン、と規則正しい鼓動が伝わってきた。
「兄さん。好きだよ」
宙に浮いたままの兄の手へ、甘えるように頬を擦り寄せてみる。
「優弥!!」
ピシリと固まっていた兄が、ガバッと僕の身体を抱き締めた。
その必死な声に驚き、
なんかおかしな気持ちになった。
もそりと身じろげば、尻の下にゴリッと当たる硬いモノ。
ちゅ、ちゅ、と唇が落ちてきた。
目蓋、頬、唇、首…。
口付けを受けながら僕は、初めて自分から服のボタンを外していくのだった。
18
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
幼馴染みが屈折している
サトー
BL
「どの女もみんな最低だったよ。俺がちょっと優しくしただけで、全員簡単に俺なんかと寝てさ」
大学生の早川 ルイは、幼馴染みのヒカルに何をやっても勝てないといつも劣等感を感じていた。
勉強やスポーツはもちろんヒカルの方ができる、合コンはヒカルのオマケで呼ばれるし、好みの女子がいても皆ヒカルの方にとられてしまう。
コンプレックスを拗らせる日々だったが、ある日ヒカルの恋愛事情に口を挟んだことから急速に二人の関係は変化していく。
※レオとルイが結ばれるIFエピソードについては「IF ROOT」という作品で独立させました。今後レオとのエピソードはそちらに投稿します。
※この作品はムーンライトノベルズにも投稿しています。
お兄ちゃんができた!!
くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。
お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。
「悠くんはえらい子だね。」
「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」
「ふふ、かわいいね。」
律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡
「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」
ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。
普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。
山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。
お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。
サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。
飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。顔立ちは悪くないが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
2025/09/12 ★1000 Thank_You!!
Original drug
佐治尚実
BL
ある薬を愛しい恋人の翔祐に服用させた医薬品会社に勤める一条は、この日を数年間も待ち望んでいた。
翔祐(しょうすけ) 一条との家に軟禁されている 平凡 一条の恋人 敬語
一条(いちじょう) 医薬品会社の執行役員
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
ヤリチン伯爵令息は年下わんこに囚われ首輪をつけられる
桃瀬さら
BL
「僕のモノになってください」
首輪を持った少年はレオンに首輪をつけた。
レオンは人に誇れるような人生を送ってはこなかった。だからといって、誰かに狙われるようないわれもない。
ストーカーに悩まされていたレある日、ローブを着た不審な人物に出会う。
逃げるローブの人物を追いかけていると、レオンは気絶させられ誘拐されてしまう。
マルセルと名乗った少年はレオンを閉じ込め、痛めつけるでもなくただ日々を過ごすだけ。
そんな毎日にいつしかレオンは安らぎを覚え、純粋なマルセルに毒されていく。
近づいては離れる猫のようなマルセル×囚われるレオン
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる