幽霊になった僕

くろねこや

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身体に戻ったおかげで、耐えがたい臭いは感じなくなった。

でも。


見えるんだよなぁ…、【母さん】の幽霊。


僕も幽霊になってたからかな。

それとも『母さんに僕が似ている』せいで、チャンネルのようなものが合ってしまってるのかもしれない。



ソファに座った兄さん。その脚の間に挟み込まれるように背中からすっぽり抱かれた僕。

相変わらず【母さん】は兄さんのことだけを見ている。


「母さんのこと、兄さんは好きだった?」

『母さん』という言葉に反応したのか、黒い人間が傾いたままピクリと動くのを視界の端に見た。

怖っ。自分の母親だと思っていても怖っ。

兄は両親の死を知って喜んでいたくらいだ。たぶん『嫌っていたんだろうな』、と思いながらも母に気を遣う癖がついた僕は『好きだった?』という言葉を選んだ。


「優弥に似てたから、顔は嫌いじゃなかった」

兄さんの言葉が聞こえたのだろう。

こっちを見てくる視線の圧が増えた気がする。

怖っ!


「でも、感情の起伏が激し過ぎて、正直相手をするのが面倒だったな」

ん…?

少し影が薄くなった?


「それに、お前を虐げる姿は大嫌いだった」

あ、すぅっと薄く?

ショックを受けると存在が薄くなるの?

しょんぼりしちゃった?


なんだか、母へ抱いていたマイナスの感情全てがスゥッと溶けていくようだった。

兄の言葉でショックを受けて薄くなっちゃうとか、笑える。


相変わらず傾いだままの不気味な黒い影。


「あの女はお前に怪我をさせて、僕たちを引き離した」

急激にビクンビクンし始めた【母さん】。

溺愛してた兄さんに『あの女』扱いされておかしくなっちゃった?


カクカクと少しずつ、動く黒い足。

え…、動けるの?


「どうした優弥?」

兄さんは僕の異変に気付いてくれた。

でも、ギュッと抱き締めた腕に力が込められたせいで、こっちに向かってゆっくりゆっくり近づいてくる黒い影から逃げられない。

怖っ、怖っ…!!


こっち来るな! こっち来るな!

恐怖に背筋が強張って息が吸えない。

声が出ない。

離して、嫌だ、嫌だ、嫌…、


『ゴメ…ン…ネ、』


ギュッと目を瞑った瞬間、耳元に囁かれたのはノイズがかった声。

怖い筈だった。

それなのに…その声色の切なさに驚き、思わず目を開けていた。


『ユウ…ヤ…』


ふわっと薄くなって、消えていく影を見た。

そこには虚な穴が2つ。

“母さん”の目だ。


その目は兄さんじゃなくて、

…僕だけを見ていた。


母さんが僕を見てくれた…!!




後ろから温かな手のひらに頬を撫でられた時、はっと気がつくと既に黒い影は見えなくなっていた。


消えてしまった。

もう、母さんは、いない。


「お母さん…」

ぽろりと目から零れた熱いもの。


僕の呟いた声は小さすぎて兄の耳には届かなかっただろう。

なのに、僕の頬を横からぺろりと舐めた兄は、

「優弥。…好きだ。愛してる」

こんなにも柔らかな声で愛を囁いてくれるのだ。


「うん。…僕も、」

背中から僕を包む兄の腕をグイッと持ち上げる。

身体の向きをぐるりと変え、膝の上に乗るように座り直すと、兄は驚いたように目を見開いていた。

ぴたり、胸と胸を合わせる。

トクン、トクン、と規則正しい鼓動が伝わってきた。


「兄さん。好きだよ」

宙に浮いたままの兄の手へ、甘えるように頬を擦り寄せてみる。


「優弥!!」

ピシリと固まっていた兄が、ガバッと僕の身体を抱き締めた。

その必死な声に驚き、

なんかおかしな気持ちになった。


もそりと身じろげば、尻の下にゴリッと当たる硬いモノ。


ちゅ、ちゅ、と唇が落ちてきた。

目蓋、頬、唇、首…。


口付けを受けながら僕は、初めて自分から服のボタンを外していくのだった。
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