恋愛ツーリスト

日向の翼

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第四稿

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飲んだら飲まれるな。俺らリーマンに無礼講なんて言葉は存在しない。だってこの前も
「おはようございます。先輩。昨日はどうも」
って切り出したら
「野呂、お前調子乗り過ぎ。俺、部長に言われた。あいつ締めとけって」
「えっマジっすか」
「ああ。って言うか。お前ガキ過ぎ。良く考えて行動しろよ。俺らの世界に無礼講なんてねえ。常に礼儀と社交辞令は存在するんだぞ」
つまり、言葉の裏を考えろって事っすね。上下の関係はきっちり守らないと。会社って奴は、社会って奴は機能しない。ゴマ擂りあいは嫌だけど、親しき仲にも礼儀有って事は重要だって事っすね。。クスクス。英語で言えば、ギグルって奴で、この会話に聞き耳を立ててる社内の連中に笑われた。石油サーチャージなるものの兼ね合いもあり、ウチみたいなそんなに大きくない会社は不況の煽りを直に受けてしまうのに。ウチの会社、社員に対する要求がキツいっす。それに加えて難癖付けて来るPAX(客)もいるし。部長だって分かってるくせに。手を変え、品を変え、時には目先を変えて。いつかあんた達を見返してやりますよ。あくまで、俺の願望ですけど。それにそこそこ皆仲がいい。いい距離感を保ってはいるが。でもこの仲の良さがプライベートまで筒抜けになる事もある。だって、皆知りたがりが多いし。親しき仲にも礼儀有っていうけど、実際はその線引きが難しい。同僚は、友達にもなりえるし、仲間にもなる。またライバルにも。やはり、会社の同僚は同僚。それで、あくまでも自然な流れて人間として付き合い、時を過ごせばいいのかも。ああでも、プライベートの事で同僚に笑われるのも尺だなと思う時も
「野呂、お前もう30だろ。仕事も女もお前の名前みたいに、のろのろしてっと、すぐ無くなっちまうぞ。もっと頑張れよ。あと、いつも言ってる事だが、顧客は言うまでもなく大事。コストも常に意識しろ。目標は高く設定しろ。改善出来る事はその都度やれ。それから情報の漏洩にはくれぐれも注意しろ。特に隣りのライバル会社には絶対もらすな。いいな」
俺って男、身の程は知ってるつもりです。壷心も得てるつもり。でも上司の手を煩わし、要領を得ない自分。同僚にも笑われ、いつまでもうだつが上がらないでいる。
ハハッまた笑われる。俺の名をいじって他人が笑う。子供の頃は良くそれでからかわれたりもしたが、大人になってやられると、子供の頃よりも頭に来るもんだ。
 そつが無く付き合うのも外堀を埋めるのも大事。郷に入れば郷に従う。時には唯々諾々も会社勤めには必要。外周りは、携帯を渡される。指示が合ってすぐに呼び出される時もあるから。だが大抵自由が与えられている。いつ、昼のランチを食べてもかまわないし、時間調整でカフェにいても本屋で立ち読みしてもいい。ネットカフェにいてもいい。でも。アポ取ってある場合のみで、約束の時間までの繋ぎだと思えば納得する。しかしその前に、ウチの会社は、飛び込み営業はやっていない。必ずアポを取ってから、訪問する。あくまで、話を聞いてやってもいいよという会社にだけ、訪問するスタイルだ。でもこの景気の悪いご時勢。どんなに優秀な営業マン、営業ウーマンでもこの不景気には早々勝てません。こう言うと俺がその優秀な営業マンと感じる人もいるかもしれないが、それは、去年までの話。だって今年は、社内の営業成績。上位と言う程、離れてはいないが良く言って中位にようやっとつけている感じ。今年は不景気だし、アメリカのサブプライムローンや、アラブの石油がどうたらこうたらが引き金になり、世界的に不況になったから。この世界が嫌な方向に向かっているなって。そういう社会情勢も原因の一つなんだなと思いながらも一応やる事はやっております。不況というウイルスが世界中に広がって行く。これがグローバル社会の陰って奴。世界が近くなった分、共倒れの危険性を孕んでいる。そんな中、営業成績を上げろなんて、無茶ぶりもいいとこだ。○か×。右か左。そんな単純な話じゃねえよ。グレイゾーン。ニュートラル。本当はそういう所にも抜け道があると思う。魚心あれば、水心ありだ。皆で知恵を出し合って話しを同じ方向に何とかまとめて頑張って行こうという気概は一応我が社にも存在する。会社っていうのは、こういう時は不条理なもので、上役や上司連中は、戦国時代で言えば、大将で。俺らは足軽、真っ先にやられるっちゅうねん。ウチの上司の危機感どないなってるん?そりゃあ、関西弁も出まっせ。俺の名前で洒落を言ってる場合じゃねえだろ。俺をやり玉に上げる前にお宅らも、頭を下げて、商品を売って来いってんだ。利害損失ばかり考えるのはナンセンス。骨を折るのは怖いけど、無為無策だと会社は簡単に潰れますってんだ。今度は江戸っ子口調っす。上役は俺達、足軽に見本を見せなさい。出来るものなら。俺は今日出来る事は全てやったなと。胸を張って今日の外周りを終えられたら最高た。ちなみに今日はまあまあです。ボチボチでっせ。だから何で関西弁だっつうの
合コン。この感じ一文字とカタカナ二文字の言葉に潜む欲望。そこは異性と触れあいたい。そういう少し卑猥な響きがする社交の場に俺は向う。彼女、彼氏が欲しい。もしくは、ただ欲に身を任せたいだけの男と女。合コンという響きは人間の持つ欲望を簡単に浮かび上がらせる。性欲だけでは相手を敬う心が不在のままなのに。皆この響きに惹かれて集うんだ。俺だって、手前味噌だが、モテ期もあった。でもそんな俺も30になる。ここんとこはモテも停滞気味だ。最近俺の傍によって来るのは、母親、妹、おばあちゃん、そして人間以外の雌。だから、こんな言葉に今更心躍ってたら、情けない事この上ない。あるのは、徹底したリアリティだけだ。合コンの席では、俺は完全なるリアリストになる。基本文系の俺。だが、アルキメデス、パスカル、もしくはニュートンばりの大そうな公式を弾き出す。さあ、今宵はどんな公式を使おうかな。三人寄らば文殊の知恵じゃないけど、こんだけ欲の深い男達の雁首揃えれば、そこそこの戦いが出来る筈だ。
「菊池、わりい。赤羽って来た事ねえから」
「先輩。おつかれっす。一応適当に始めといたんで、その辺のつまんでいいっすよ」
「おう、サンキュ」
「何、この人がさっき言ってた先輩なの。29歳って言ってたけど、もっと若く見えますね。年、誤魔化してないですよね」
「えっ誤魔化すって。普通上から下に誤魔化すでしょ」
「何それ、ウケるんですけど」
どこがじゃい。何がどううけるんだよ。
「遅ればせながら、俺、野呂瞬次って言います。年は29歳。山羊座のA型です」
「趣味は何ですか?わあ、この人かわいい顔してるー私こういう顔好きかも」
「ほんとだー。かわいいー」
「ちょっと、あんた飲み過ぎー」
こんなんばっかかよ。今日はハズレ合コンだな。菊池、もっとマシな女。セッティングしろって。
「趣味っすか。趣味は、囲碁将棋です」
「嘘、やだ。それもウケるんですけど」
一生ウケてろよ。お前はそれで一生を終えてしまえ。
「先輩の趣味は、音楽でしょ。ギターも弾けるじゃないですか。あとサッカーと野球。それにかなりの映画好き」
余計な事を言うんじゃない。俺はもう既に早く帰る事しか考えてない。酔っ払った女とどうこうなんて嫌いなんだよ。それに第一印象から決めていました。すぐにこの場から撤退する事を。
「じゃあ、今度一緒にサッカーか野球見に行っちゃおうかなあ」
こういう見え見えの返しをしてくる女はパス。場数踏んでそうなタイプの女。顔に書いてあります。合コン好きですって。こういうめんどくさそうな女は結構でございます。20そこそこのガキだった俺なら、多少喰いついてるかもしんないが。今の俺なら絶対に手は出しません。最近、本物の大人の男を目指してる俺は、もう適当に付き合ってどうこうっていうのは棄てましたので。時に口を閉ざし、視線を外す。そして当たり障りのない話を始める。抽象論に終始して終わる。
「先輩、ちょっと」
女の子がトイレに立った時が作戦会議とはもはや合コンの常套句。「どの娘にする?」合コンの合間。仲間内での作戦会議。暇になるとショッピングしたい衝動に駆られる女。ブランドで身を固めた女は遠慮しとく。もううんざり。俺はパス。お前に譲るよで条約成立。その後の合コン。パーティジョークはそこそこウケた。取り合えずは、盛り上がった。お会い出来て光栄です。今宵は食って、飲んでそして歌い、踊りましょう。これが合コンって奴です。
「先輩、どの娘狙いっすか。俺はっすねえ」
「ちょっと待った。菊池。俺、今日はこのまま帰るわ。悪いけど、今日のターゲットは、ナシって事で」
「えっダメっすか。いい娘揃えたつもりなんですけど。ルックスは平均点超えてますよね」
「バーカ。今日のメンツ。ルックスはまあ、お前の趣味を集めた感じで、悪くはないけど。でもバカばっかじゃん。アホそうな女ばっか。全部お前に任せるわ。俺はもう帰って寝る。じゃあな、さいならー」
「そんなあ、先輩。この後、二次会行きましょうよ」
「行かねえって。ほらっ帰って来たぞあいつら」
女の子達も何やらニヤついている。たぶん、トイレで俺らと同じような品定めでもしていたんだろう。雨夜の品定めならぬ、トイレの品定め。さあ、果たして俺は彼女らのお目がねに適ったのだろうか。って俺はもう帰りますけどね。
「ねえ、そろそろ次のところ行かない?」
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