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好きとは?
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初めて訪れてから度々須藤の家に遊びに行くようになった。立派な門構えにも少しずつ臆することはなくなってきた。
慣れた手付きでインターホンを押して門の鍵を開けてもらい中へ入ると、玄関から誰かが出てくるのが見えた。
「じゃあ、またね」
「うん、またよろしく」
須藤と親しげに話す男の人。
「あっ、りと」
「こんにちは」
柔和な笑みをたたえたその人が挨拶をして頭を下げた。慌てて僕も挨拶をする。
「君がりとくんか。なるほどねー」
「なんだよ、さっさと帰れよ」
「はいはい、邪魔しちゃいけないもんね。じゃあまたね」
知らない大人の男の人……。須藤と親しそうだけど、どういう関係なんだろう。あぁ、胸がモヤモヤする。
「あの人誰?」
「ん?家庭教師」
「そうなんだ。仲良さそうだったね」
「なに、気になる?」
「別に気になるとかではない」
「なーんだ。ちょっと気にしてくれたのかと思ったのに」
気にはなる。家庭教師ということはあの人と二人でずっと部屋にいるということだろう?須藤のことをいやらしい目で見ている可能性だってあるわけだ。
「そうそう、あの人俺の婚約者候補だったから」
「なんだって?」
「気になる?」
「……別に」
めちゃくちゃ気になる。婚約者候補だと?あの爽やかな男の人が?全然勝ち目がない気がする。
……あれ、どうしてあの人に勝ちたいと思うのだろう。この気持ちは何だろう?
いつもと変わらず須藤と過ごしていても、頭の中には婚約者候補だったというあの男の人の残像が浮かぶ。候補に上がるという事はご両親からも信頼されているだろうし、仲も良いのだろう。まさか元恋人だったりしないよな?だから候補だったという過去形になっているとか?いや、でも元彼が家庭教師という事はないか。気まず過ぎるだろう。恋人がいた事がないから想像でしかないけれど。
「りと?」
「あぁ、ごめん。何だっけ?あれ、今何時?」
「もうすぐ4時」
いつの間にか帰らないと塾に間に合わない時間になっていた。
「ごめん、そろそろ帰るよ」
「分かった。塾だっけ?」
「あぁ、うん」
「そこまで送るよ」
「そこまでって?」
「塾まで」
「いや、いいよ。なにを言ってるんだ」
「暇だし。どんなとこか見てみたい」
「電車乗るけどいいのか?」
「うん。よし、行くぞ」
まぁ、いいか。もう少し話したい気もするし。
「お邪魔しました」
玄関まで見送ってくれたお母さんに挨拶をした。
「ちょっと出かける」
「遅くなるの?」
「いや、りとが行ってる塾まで送るだけだから」
「あら、そうなの?りとくんこれから塾なのね」
「はい、そうなんです」
「あまり無理しちゃだめよ?気をつけてね」
「ありがとうございます」
いつも優しく接してくれるお母さんの姿に胸が痛んだ。
最寄り駅まで歩いて、電車に乗る。
「人多いな」
「いつもこんな感じ」
「そうなんだ」
ドアを背にして、目の前に須藤が立っている。混雑しているから必然的に距離が近くなる。緊張してきた。
「どんくらい乗ってんの?」
「二駅だけ」
「ふーん」
さり気なく須藤の顔を見つめる。窓の外を見ている須藤をかっこいいと思ってしまう。ふいに目が合った。顔が熱くなって目を伏せた。目が合った瞬間に目を伏せたのおかしかっただろうか。顔を上げることができなくて、降りる駅に到着するまでずっと下を向いていた。
駅に到着して、人に押し出されるようにしてホームに降り立った。
「目の前のビルだからここでいいよ」
「いや、そこまで行く」
「えー?」
先に歩き出す須藤を仕方なく追いかけて、改札を出て二人で歩いた。
「ここだから」
「へー、ここに通ってるんだ」
「そう。送ってくれてありがとう」
「全然。ちょっとでも長くりとといたかっただけだから」
「な……なんだそれは」
「じゃあね、勉強頑張って」
「うん」
手を振って離れていく須藤を見送った。長く僕といたかったって……その一言が嬉しくて顔がニヤけてしまう。
「理仁?」
「あぁ、誠一」
「今の誰?彼氏?」
「いや、友達だよ」
「にしては距離感近くなかった?」
「付き合ってるフリをしてるから」
「じゃあ、付き合ってないってこと?」
「うん、まぁそう」
「なんだ、びっくりしたー」
ここでは僕の噂を知ってる人がいないし、僕がΩだということを知られていないから、普通に話すことができる。誠一とは1番よく話すと思う。
教室に入ると須藤と一緒にいるところを他の人にも見られていたようで、なぜか質問攻めにあった。友達だと答えると、あの子かっこよかったよねという話になって心の中で大きく頷いた。「紹介して欲しい」と言われて「恋愛には興味ないみたいだよ」と嘘をついた。彼に興味を持たれるのが嫌だった。
この日の授業は集中できなくて、ぼんやりしてる間に終わってしまった。こんな事は初めてだ。家に帰って復習しないと……。
「理仁、途中まで一緒に帰ろう」
「いいよ」
誠一とは帰る方向が一緒だから、こうして一緒に帰ることが多い。
「誠一もさ、須藤……えっと僕と一緒にいた子のことをかっこいいと思ったりした?」
「うーん、まぁ顔はいいかもしんないけど、ヤンキーっぽくて怖そうだなって思った」
「そっか、なるほどね」
「どうして?」
「いや、何となく聞いてみただけ」
「ふーん。理仁はああいう人がタイプなの?」
「え、タイプ?いや、そんなんじゃないけど」
「好きなのかと思った」
「は?いや、そんな訳ないじゃん」
「そんな否定しなくても」
僕が須藤を好き?そんな事ある訳がない。須藤だぞ?そもそも好きってどんな感じなんだろう。
帰宅して教科書を開くけれど、好きという言葉が気になって集中できない。
「ダメだ、好きってなんだ?」
スマホで『好きとは』と検索する。
辞書によると『心が惹きつけられること。気持ちにぴったり合うさま。嫌いの反対』という意味をもつとある。なるほど。
連絡が来るかこまめに確認するかはしないな。自分ではない他の誰かと仲良くしていると嫉妬する……当てはまる。一緒にいたい、過ごしたいと思う……当てはまる。会えないと寂しい……うーん、寂しくはないかな?
調べていくうちに、自分のこの感情が恋なのではないかと思う節がいくつもでてきた。
僕は須藤のことが好きなのか?未だに疑問符が浮かぶ。やめだ、やめ。考えてもよく分からない。自分の中でこの気持ちに名前がつく日は来るのだろうか。
慣れた手付きでインターホンを押して門の鍵を開けてもらい中へ入ると、玄関から誰かが出てくるのが見えた。
「じゃあ、またね」
「うん、またよろしく」
須藤と親しげに話す男の人。
「あっ、りと」
「こんにちは」
柔和な笑みをたたえたその人が挨拶をして頭を下げた。慌てて僕も挨拶をする。
「君がりとくんか。なるほどねー」
「なんだよ、さっさと帰れよ」
「はいはい、邪魔しちゃいけないもんね。じゃあまたね」
知らない大人の男の人……。須藤と親しそうだけど、どういう関係なんだろう。あぁ、胸がモヤモヤする。
「あの人誰?」
「ん?家庭教師」
「そうなんだ。仲良さそうだったね」
「なに、気になる?」
「別に気になるとかではない」
「なーんだ。ちょっと気にしてくれたのかと思ったのに」
気にはなる。家庭教師ということはあの人と二人でずっと部屋にいるということだろう?須藤のことをいやらしい目で見ている可能性だってあるわけだ。
「そうそう、あの人俺の婚約者候補だったから」
「なんだって?」
「気になる?」
「……別に」
めちゃくちゃ気になる。婚約者候補だと?あの爽やかな男の人が?全然勝ち目がない気がする。
……あれ、どうしてあの人に勝ちたいと思うのだろう。この気持ちは何だろう?
いつもと変わらず須藤と過ごしていても、頭の中には婚約者候補だったというあの男の人の残像が浮かぶ。候補に上がるという事はご両親からも信頼されているだろうし、仲も良いのだろう。まさか元恋人だったりしないよな?だから候補だったという過去形になっているとか?いや、でも元彼が家庭教師という事はないか。気まず過ぎるだろう。恋人がいた事がないから想像でしかないけれど。
「りと?」
「あぁ、ごめん。何だっけ?あれ、今何時?」
「もうすぐ4時」
いつの間にか帰らないと塾に間に合わない時間になっていた。
「ごめん、そろそろ帰るよ」
「分かった。塾だっけ?」
「あぁ、うん」
「そこまで送るよ」
「そこまでって?」
「塾まで」
「いや、いいよ。なにを言ってるんだ」
「暇だし。どんなとこか見てみたい」
「電車乗るけどいいのか?」
「うん。よし、行くぞ」
まぁ、いいか。もう少し話したい気もするし。
「お邪魔しました」
玄関まで見送ってくれたお母さんに挨拶をした。
「ちょっと出かける」
「遅くなるの?」
「いや、りとが行ってる塾まで送るだけだから」
「あら、そうなの?りとくんこれから塾なのね」
「はい、そうなんです」
「あまり無理しちゃだめよ?気をつけてね」
「ありがとうございます」
いつも優しく接してくれるお母さんの姿に胸が痛んだ。
最寄り駅まで歩いて、電車に乗る。
「人多いな」
「いつもこんな感じ」
「そうなんだ」
ドアを背にして、目の前に須藤が立っている。混雑しているから必然的に距離が近くなる。緊張してきた。
「どんくらい乗ってんの?」
「二駅だけ」
「ふーん」
さり気なく須藤の顔を見つめる。窓の外を見ている須藤をかっこいいと思ってしまう。ふいに目が合った。顔が熱くなって目を伏せた。目が合った瞬間に目を伏せたのおかしかっただろうか。顔を上げることができなくて、降りる駅に到着するまでずっと下を向いていた。
駅に到着して、人に押し出されるようにしてホームに降り立った。
「目の前のビルだからここでいいよ」
「いや、そこまで行く」
「えー?」
先に歩き出す須藤を仕方なく追いかけて、改札を出て二人で歩いた。
「ここだから」
「へー、ここに通ってるんだ」
「そう。送ってくれてありがとう」
「全然。ちょっとでも長くりとといたかっただけだから」
「な……なんだそれは」
「じゃあね、勉強頑張って」
「うん」
手を振って離れていく須藤を見送った。長く僕といたかったって……その一言が嬉しくて顔がニヤけてしまう。
「理仁?」
「あぁ、誠一」
「今の誰?彼氏?」
「いや、友達だよ」
「にしては距離感近くなかった?」
「付き合ってるフリをしてるから」
「じゃあ、付き合ってないってこと?」
「うん、まぁそう」
「なんだ、びっくりしたー」
ここでは僕の噂を知ってる人がいないし、僕がΩだということを知られていないから、普通に話すことができる。誠一とは1番よく話すと思う。
教室に入ると須藤と一緒にいるところを他の人にも見られていたようで、なぜか質問攻めにあった。友達だと答えると、あの子かっこよかったよねという話になって心の中で大きく頷いた。「紹介して欲しい」と言われて「恋愛には興味ないみたいだよ」と嘘をついた。彼に興味を持たれるのが嫌だった。
この日の授業は集中できなくて、ぼんやりしてる間に終わってしまった。こんな事は初めてだ。家に帰って復習しないと……。
「理仁、途中まで一緒に帰ろう」
「いいよ」
誠一とは帰る方向が一緒だから、こうして一緒に帰ることが多い。
「誠一もさ、須藤……えっと僕と一緒にいた子のことをかっこいいと思ったりした?」
「うーん、まぁ顔はいいかもしんないけど、ヤンキーっぽくて怖そうだなって思った」
「そっか、なるほどね」
「どうして?」
「いや、何となく聞いてみただけ」
「ふーん。理仁はああいう人がタイプなの?」
「え、タイプ?いや、そんなんじゃないけど」
「好きなのかと思った」
「は?いや、そんな訳ないじゃん」
「そんな否定しなくても」
僕が須藤を好き?そんな事ある訳がない。須藤だぞ?そもそも好きってどんな感じなんだろう。
帰宅して教科書を開くけれど、好きという言葉が気になって集中できない。
「ダメだ、好きってなんだ?」
スマホで『好きとは』と検索する。
辞書によると『心が惹きつけられること。気持ちにぴったり合うさま。嫌いの反対』という意味をもつとある。なるほど。
連絡が来るかこまめに確認するかはしないな。自分ではない他の誰かと仲良くしていると嫉妬する……当てはまる。一緒にいたい、過ごしたいと思う……当てはまる。会えないと寂しい……うーん、寂しくはないかな?
調べていくうちに、自分のこの感情が恋なのではないかと思う節がいくつもでてきた。
僕は須藤のことが好きなのか?未だに疑問符が浮かぶ。やめだ、やめ。考えてもよく分からない。自分の中でこの気持ちに名前がつく日は来るのだろうか。
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