はじめてを君と

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挨拶①

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 あの日以来、須藤はひっつき虫になった。そして、常に僕の体の何処かに触れている。二人きりのときはいいのだが、公衆の面前でも普通に触ってくるから窘めるのが大変だ。

「りと、もう食べ終わる?」

 僕を包み込むようにして後ろに座っている須藤が話しかけてきた。普通に隣に座りたいのに須藤は許してくれない。

「うん、食べた」

「よし、いけるな」

「何が?」

「ちょっと来て」

 手を引かれて連れてこられたのは普段あまり使われていないトイレだった。何だか嫌な予感がする。

「須藤?なぜここに?」

「トイレ行きたくなった」

「じゃあ、ここで待ってるよ」

 にっこり笑う彼に抱きかかえられてトイレの個室に連れ込まれた。

「りと、ちょっとだけ」

「ちょっとだけ何?」

「挿れないから。挟ませて」

「はぁ!?」

「りとの匂い嗅いでたら勃った」

「普通に隣に座ればいいだろ。もうあの座り方禁止」

「それは無理。お願い、りとー」

「はぁ、絶対に挿れちゃダメだからな」

「分かってる」

 もう、僕は須藤に弱すぎる。キスをしながら、須藤の股間に手を這わせて、勃ちあがったものに触れる。ベルトを外してズボンとパンツをずらして解放してやると、須藤も同じように僕のズボンとパンツをずらした。お尻の穴を擦られて否応にも感じてしまう。須藤の首に手を回してキスをしながら股間を擦り合わせるように腰を揺らす。

「後ろ向いて」

「ん」

 念のためトイレペーパーを握りしめて、壁に手をつき股の間に須藤のものを挟んだ。僕のもの扱きながら腰を揺らされて声が漏れ出てしまう。

「りと、声」

 誰のせいだと思ってるんだ。必死に声を我慢して襲い来る快感に震える。須藤の先走りと僕の愛液が混ざり合って滑りがなめらかになったのか、さらに律動が激しくなった。挿れて欲しいという衝動に駆られながら高みに達して、持っていた紙を股間に押しあてた。須藤は器用に僕から離れて射精していた。荒い息を吐きながら出したものを拭う。学校でなんてことをしてるんだ……。

「学校でしてしまった……」

「あぁ、挿れたくてヤバかった」

「僕だって挿れて欲しくなったじゃないか」

 キッと睨みつけて文句を言うと「そうなの!?かわいい」と嬉しそうに言った。

「もう、もう」

 本当は叩きたかったけれどこの手で触るのはどうかと思って我慢した。トイレを出て手を洗ってからとりあえず背中を叩いた。

「もうしないからな」

 と宣言したのに、須藤のお願い攻撃に負けてしまう僕はその後、何度もしてしまう事になるのだった。

◆◆◆

 週末、須藤が家に来ることになった。母に付き合っている人に会って欲しいと話すと楽しみだと喜んでくれた。まさか自分にこんな日が訪れるなんて思わなかった。

「駅まで迎えに行ってくる」

「気をつけてね」

 何度か家まで送ってもらったことはあるけど、何となく待ち合わせは駅にした。駅に到着して辺りを見回す。まだ来てないのかなと思ってスマホを取り出すと「りと」と呼ぶ須藤の声が聞こえた。

「須藤!?髪の毛どうしたんだよ。それにピアスもついてないし」

「長いよりは短いほうが清潔感あるかなーと思って。挨拶に行くのにピアスも良くないかと思って外してきた。まぁ、穴が開いてるのは丸わかりだけど」

 短く切り揃えられた髪の毛に触れた。サラサラとしたいつもの手触りじゃなく、ツンツンとしている。

「よく似合ってる」

「短くするのもいいもんだな。髪の毛洗うの超楽」

「僕はずっと短いからよく分かんないや」

「りとが長髪にしたらさらに美人度が増すんじゃない?」

「美人ってなんだよ」

「きれいだもん」

「ふーん」

「緊張してきた」

「僕もめちゃくちゃ緊張したんだからな。しかもあのときは付き合ってなかったし」

「そうだったかな」
 
「そうだよ。何も聞かないでくれーって思ってた」

「フォローよろしく」

「須藤は何もしてくれなかった」

「そんな事言うなよ」

「冗談だよ。ちょっと顔見せたら僕の部屋行くつもりだから」

「分かった」

 歩いている間、ずっと「緊張する」と呟く須藤を安心させようと「大丈夫だって」と声をかけ続けた。

「着いたけど、いけるか?」

「大丈夫」

 顔が強張っている須藤の手を握って家の扉を開けた。出てきた母にすごい勢いで頭を下げて「はじめまして、須藤拓海と申します」と挨拶をして、母を驚かせた。「入って入って」と言われてぎこちない動きで靴を脱ぐから、ちょっとハラハラしてしまう。

「大丈夫か?」

 小声で話しかけると、どうにか頷く須藤を連れてリビングに入った。
 椅子に腰掛けると「あっ、これ」と言って紙袋を差し出した。これはきっとお母さんセレクトだな。
 向かいに父と母が座る。ふたりとも須藤に負けないくらい緊張していそう。

「えっと、付き合ってる須藤拓海くん。父と母です」

「はじめまして、理仁くんとお付き合いさせて頂いている須藤拓海です」

「はじめまして、よく来てくれたね」

「会えるのを楽しみにしてたの。すごくかっこいいわね」

「いやいや」

 まだ何か話した方がいいんだろうか。挨拶したしもういいかなと思った時須藤が口を開いた。

「何年先になるか分からないんですけど、将来結婚したいと考えています」

 思わず須藤の方を見てしまった。まさかここで言うとは思わなかった。

「あっ、今すぐ認めてほしいってわけじゃないんです。僕の事だってまだ全然知ってもらえてないし。あの……結婚したいくらい大切に想ってるという事を伝えたくて」

 必死に思いを伝える須藤を見て胸がいっぱいになった。なんて格好いいんだろう。

「僕も……須藤と同じ気持ちでいる。認めてもらえるように頑張りたいと思ってる」

「まさか結婚という言葉が出てくると思わなかったな」

「本当、驚いちゃった」

「すみません」

「理仁の事を大切に想ってくれてる気持ちは伝わったよ。複雑だけどね。これから先、いろいろな出会いもあるだろうし、環境が変わってお互いに変化することがあるかもしれない。それでも二人の気持ちが変わらなければ僕達が反対する理由はないよ。ねぇ、母さん」

「そうね、私達は応援してるから」

「ありがとう」

「ありがとうございます」

「親バカだって思われちゃうかもしれないけど、本当にいい子に育ってくれたから。これからも理仁のことよろしくね」

「大切にします。絶対に」 

「まだまだ先の話だと思っていたのに寂しくなるな」

「父さん、まだ先の話だから。そんなに早く結婚しないよ」

 しょんぼりする父をフォローする。母さんが「本当に結婚の挨拶に来た時泣いちゃうんじゃない?」と笑いながら言った。二人で顔を見わせて、つられて笑ってしまった。

「じゃあ、僕の部屋行くね」

 そう声をかけて須藤と一緒に部屋を出た。
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