はじめてを君と

マイユニ

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幸せで満たされる

 長い長い受験シーズンを乗り越えて、僕と拓海は無事に第一志望の大学に合格した。そして高校を卒業し、この春から二人で暮らし始めた。
 二人で生活を始めたばっかりの頃は、お互い慣れなくて喧嘩することもあったけど、半年ほど経った今は少し落ち着いてきた。
 
「拓海、そろそろ起きないと遅刻するぞ」

「起きてる……」

「僕先に行くから。行ってきます」

「いってらっしゃーい」

 拓海の声を聞いて慌てて大学へと向かった。

 眠い……。ずっとレポートをやっていて昨日はほとんど寝ていない。

「おはよう、理仁」

「おはよう、響介」

 大学に入ってできた友達。僕にも友達と呼べる人が何人かできた。いい人ばかりで、毎日とても楽しい。 

「眠そうだな。また朝までやってたの?」

「ん?」

「拓海と」

「今日は違う」

「今日は違うね……」

「あっ、いや。いつも違う」

「アハハ、ほんと仲良いよな」

「響介は?あの色白黒髪ショートの子とうまくいってんの?」

「あぁ、別れた」

「そうなんだ」
 
「何か違うんだよな」

「何が?」

「何かが」

「よく分からん」

「俺も分からん」

「きょうちゃーん」

「うるさいのが来た」

「翔太おはよ。今日はもっちーと一緒じゃないの?」

「理仁おはよ。うん。さくら達と一緒なんじゃない?きょうちゃん挨拶は?」

「はいはい、おはよう」

「翔太、響介別れたんだって」

「おい。理仁」

「マジで?」

「お前は俺の好みじゃないから」

「ひどーい」

 ワイワイ騒ぎながら教室に入ると、もっちーとさくら、瑞穂がこれまたワイワイ騒いでいる。挨拶をして、僕達も輪の中に加わる。こんなふうに友達と過ごせるようになるなんて高校時代の僕には考えられない事だ。

 授業を終えて昼ごはんを食べるために食堂に向かう。

「りーとー」

 馬鹿でかい声で僕を呼ぶのは他でもない拓海だ。

「また来た」

 響介がぼそっと呟いた。

「よかった。りといて。一緒に食べよ」

 拓海の後ろには大分強面の佐伯くんがいる。

「佐伯くん、いいの?」

「別にいい」

 みんなの目を見ると当たり前になり過ぎてもう誰も気にしていない。

「りと、何にする?」

「家でも一緒なのに昼もってすごいな」

 響介がまた呟く。

「悪い虫がついたら困るからな」

 なぜか響介にはあたりが強い。同じαだからなのか、ものすごく警戒している。

「うーん、何にしようかな。拓海は?」

「俺はB定食」

「僕も同じにしようかな」

「うん」

 同じにすると言うと喜ぶからつい同じものを選んでしまう。拓海の嬉しそうな顔はやっぱり好きだ。

 窓際の席を陣取ってみんなそれぞれ食べ始める。僕の隣は当然拓海だ。

「この唐揚げ熱いから気をつけたほうがいいよ」

「そうなんだ」

 息を吹きかけて唐揚げに齧り付く。確かに熱い。ご飯を頬張ってまた唐揚げに手を伸ばす。

「りと、ご飯ついてる」

「どこ?取って」

「ここ」

 僕の口元についた米粒を取ってそれを食べた。

「ん、ありがと。あれ、佐伯くんは?」

「あそこ」

 視線の先をたどると瑞穂の隣に座って楽しそうに食べていた。

「あれ……いつのまに?」

「だよな。あいつ狙った獲物は絶対に落とすらしいぞ」

「おぉ、すごい。付き合うのかな?」

「さあ?時間の問題じゃない?」

 唐揚げを頬張りながら心底どうでもいいという感じで拓海が答えた。うまくいくといいな。

「そうだ、響介。前に借りた本まだ読めてないんだけど大丈夫?」

「うん、いつでもいいよ」

「何か借りてんの?」

「うん」

「買ってあげるのに」

「すぐにそういう事言うな。親に援助してもらってる身分なのに」

「貯金あるし」

「将来のために貯めといてって言ってるじゃん」

「だって何か嫌だ」

「子供みたいなこと言うな」

「痴話喧嘩は家でやってくんない?」

「そんなんじゃないし」

「理仁が拓海しか見てないの誰でも分かるのに何が心配なんだろうな?」

 呆れたように響介が言った。

「や……拓海しか見てないってそんな……」

「俺しか見てないよな?」

「見てないです」

「毎日毎日ほんと飽きないな」

「まぁ、でも理仁モテるから心配になるんじゃない?ほら、この前も可愛い子に告られてたじゃん?」

「何それ、聞いてない」

「あー、さくら言わないでよ」

「ごめん」

「また?」

「うーん、まぁ……」

「見た目が抜群にいいからねー。中身を知ったらますますモテそうだよね」

「りとは俺のだから」

「うん、知ってる。あんたがいるのに手を出そうとする兵はここにはいないから」

「もう次の講義始まる」

 響介が冷静に言って、慌ててみんなで片付けた。

「じゃあね、拓海」

「離れたくない」

「家で会えるんだから。また後で」

 嫌がる拓海を佐伯くんに託して別れた。

 講義が終わって、二人で暮らすマンションへ向かって歩く。僕達の我儘を聞いて援助してくれている双方の両親には頭が上がらない。両親と拓海の両親のためにもより一層勉強を頑張らないといけないと自分に
活を入れる。

「ただいまー」

「りとー、おかえり」

 先に帰っていた拓海が手を広げて迎えてくれた。その腕の中に飛びこんで抱きしめてもらう。

「今日は俺がご飯作る」

「そうなの?楽しみだな。洗い物は僕がするから」

「分かった」

 部屋に入って寛いでいると鼻歌を歌いながら包丁を動かす音が聞こえてきた。機嫌いいな。
 まだ二人共家事に慣れていなくて、拓海の不規則な包丁の音が続く。何かを炒める音とか、何かを洗う音とかを聞くと、何かいいな、二人で暮らしてるなと実感してうれしくなる。

「できたよー」

「おぉ、オムライスだ。何この絵。なんの生き物?」

 黄色い卵の上にケチャップで謎の生命体が描かれていた。

「クマだよ。見たら分かるじゃん」

「え……クマ?」

 なぜクマ……?ハートとか書きそうなのに。

「かわいいだろ?」

「まぁ、かわいい」

「食べよう。頂きます」

「頂きます。美味しい!!」

「ほんと?よかった」

「拓海天才」

「えっ、そう?」

「また作ってよ」

「いいよ」

 最初は野菜炒めの日々が続いたけど、今はだいぶバリエーションが増えた。

「なぁ、りと。ヒートっていつ?」

「うーん、いつだろ」

 普段薬を飲んでヒートを抑えているから、自分がΩだと忘れそうになる。

「冬休み中だと思う」

「じゃあ大丈夫か」

「何が?」

「ヒートが来ても」

「いや、来ないよ?薬飲んでるし」

「番になりたい」

 口に運びかけたオムライスを落としてしまった。

「どうしたの?突然」

「ずっと考えてた。りとを俺だけのものにしたいって」

「もう拓海のものだけど」

「りとが友達に囲まれて楽しそうなのは嬉しいんだけど、誰かに取られそうで不安になる」

 僕は拓海以外に興味がないと言ってもきっと拓海の不安は消えない。口じゃなくて行動で示さないと僕の気持ちは伝わらないか。拓海しか僕には必要ないという僕の気持ちは。

「いいよ」

「本当に?」

「うん。僕も拓海の番になりたいって思ってたし」

「俺にしか発情できなくなるよ?」

「うん。そうだな」

「そんなあっさり……」

「だって拓海はずっと僕のことを大切にしてくれてるし、僕もずっと拓海の事が好き。拓海が側にいると安心する。この先もきっと変わらないと思う。だから番になることに迷いはないよ」

「りと……」

「番にしてくれないのか?」

「する」

「一生僕から離れんなよ?」

「絶対に離さないから。一生大切にする」

「待て、まだキスしちゃダメ」

「なんで?」

「ご飯食べてから」

「キスだけ」

「ダメ、抱いて欲しくなるから」

「早く食べよう」

 勢いよく食べだす拓海を見て笑ってしまう。付き合ってもうすぐ2年になるけど、未だに毎晩のように僕を求めてくる。次の日に影響が出るから流石に毎晩はしないけど。明日は休みだから思う存分抱いてもらおう。

 お互いの両親には番になることを報告した。ずっと見守ってくれていたから反対はされなかった。むしろ喜ばれた。
 その年の冬、僕らは番になった。初めて経験するヒートは怖かった。自分では抑えられない程にセックスしたくて堪らなくて、気が狂いそうになるくらい拓海を求めた。
 番になった事で僕は拓海の子供を産める体になった。いつか僕は拓海との子供を授かるんだろうか。全く想像ができないけれど。
 拓海は独占欲がさらに増して、周りへの警戒心がますます強くなった。不安だというから番になったのに、よく分からない。

「拓海、そろそろ起きよう?今日出かけるって言ってたじゃん」

 土曜日の朝。隣で眠る拓海を揺り起こす。「ん――」と言いながらモゾモゾ動いているから起きるだろう。先に起きて用意をしようと起き上がった僕は腕を掴まれてまたベッドに倒れ込む。倒れ込んだ僕の体に拓海が吸い付いた。

「拓海?」

「ちょっとだけ」

「もう出かけるんじゃなかったのか?」

「やっぱやめる」

「こら、買い物行こうよ」

「じゃあエッチしてから」

「えー、あっもう触んな。あっ、ヤダ……あっ……」

 今日もこうして拓海に愛されて、予定は狂っていく。それでも拓海が好きな僕は簡単に許してしまう。たくさん愛されて、今日も心は幸せで満たされる。
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