聖火

青山喜太

文字の大きさ
7 / 11

王都行き魔道機関車事変④

しおりを挟む
 ネクス達は列車の外に駆け出した、幸い、車両の連結部分が近くにあったので、ドアを開ければ容易く外に出ることができた。

(問題なく外に出られた! 後は……!)

 果たしてあの化け物が正直に追ってきてくれるか。追ってこなければそれでいいのだが、しかし無差別に他の車両を襲うのであればやはり誘導しなければならない。

 そのネクスの不安は一瞬で解消される。
 車両に切れ目が走った、かと思いきやまるで爆発したかのように車両だった破片が四散する。

 化け物はネクス達が外に出たと認識した瞬間に追うことを決意したようだ。

「こいつ! やっぱり私たちを……!」

 そういいながら、ネクスは武器を構え、大地を踏みしめる。幸いここは、魔導列車用に整備され開拓された道、開けている部分も多く、戦いを邪魔するものはない。

「リリベル! ミケッシュを頼んだわよ!」

「え! 待って!」

 リリベルの制止を振り切り、ミケッシュとリリベルの二人を置いて、ネクスは風を切りながら走る。およそ四~五メートルはあっただろうか。

 並の人間ならば到底、一瞬では辿り着けぬ距離。それをネクスはたったの一呼吸のうちに常人が超えられない距離を超えた。
 このままではやられる、肉塊の化け物はその事実を一瞬で察したのか、迎撃に出る。

 迎撃方法はシンプル、複数の触手を生成、先端を刃物のように鋭利に硬化させ、振り回す。

 ただそれだけ。
 故に厄介であり、そして──。

(逆に!!)

 ネクスは確信する。
 圧倒的物量、圧倒的手数の触手による猛攻、だがそれ操るのは化け物ただ一匹、単体の脳の処理速度にすぎない。

 無造作に振り回しているようで、ある一定のパターンが存在している。
 化け物の癖とも言うべきその挙動はおそらく、化け物自身が直感的に編み出した最適の行動なのだ。

 その直感的で、ワンパターンな動かし方を化け物は変える気もなくそのまま動かしている。
 幸い、触手自体も鞭ほどの柔軟性を併せ持ってはいないようで、予測しやすさに拍車をかけている。

「舐めるなぁ!!」

 ネクスはそう叫びながら、触手を剣の峰ではたき落とし、剣の刃で切り落とす。
 そしてどんどんと化け物に肉薄していくネクスに化け物は対応できないでいた。

 触手の先端に刃を生成したはいいものの、それは見方を変えれば有効射程を決定づけたといってもいい。
 触手の刃は先端にしか付いていない、つまり刃の部分を注意して避けて近づいてしまえば、残りの部分は刃のない殺傷能力が数段落ちるの肉の紐だ。

 つまり、刃さえなんとかすれば、接近するだけで化け物の制圧能力はゼロになる。

 実際、触手をある程度伸ばしたのが仇になった。切り落とされなかった触手も確かにあったがネクスの接近スピードは触手の伸縮スピードよりも速い。

 化け物は咄嗟にこのままでは無防備な己が斬られることを察したのか新たに体から二本の触手を生成しまるで槍のようにネクスに向かって突き出した。

 化け物からしてみれば反射的に行った最速、最善の防御反応。
 だがネクスにしてみれば──。

「遅すぎ……!」

 ネクスが肉塊の化け物の横を光と共に通り過ぎる。
 その光が剣の反射光だとリリベルが気がついたのは、いつのまにか化け物の体に走っていた切れ目から雨のように血が吹き出した後からだった。

 ネクスはすれ違いざまに再び会心の斬撃を化け物に打ち込んだのだ。

「ぎゃあぃあぁぁ!!」

 化け物は叫ぶ、そして蒸発する音と共に、高温の血が地面に篠突いた。
 化け物がひとしきり叫んだ後、自らの血が作り出したちっぽけな海の中に化け物は倒れ伏す。

 それが緊張の切れ目だった。

「終わった……!」

 そう言ってリリベルは吸い込まれるように腰を地面に下ろし、

「ふぐ……! うええええ!!」

 ミケッシュは遂に今まで緊張で我慢していた分の涙を涙腺から垂れ流した。

「ふぅ……」

 息を吐き、何事もなさそうに、リリベルとミケッシュの方に振り向いたネクスは不敵に笑う。

「ミケッシュ! 何泣いてんの! 終わったわよ!」

「だって! だって!」

 泣き止まない、ミケッシュ。
 すると彼女の服の胸部がモゾモゾと膨らみ始めた。

「み、ミケッシュ?!」

 リリベルが驚きの声を上げたことで、ミケッシュは自身の服の変化に気がつく。

「あ、や! でてきちゃだめ! ジェミール!」

 ミケッシュの服の胸元から出てきたのは──。

「ど、ドラゴン……!? ……の赤ちゃん?」

 リリベルの推理は正しかった。蛇のような、細長い胴体に生えた、しっかりとした四つ足。そしてコウモリのような膜のある4枚の羽。

 これだけの説明ならば立派なドラゴンともいえる。しかし実際に姿を見せたのは、小さな少女の服の胸元に収まるサイズのドラゴンであった。

「あのこれは……!」

 本来、ドラゴンを飼育することは国の許可がなければ許されない。
 焦るミケッシュに、リリベルは言う。

「大丈夫……言わないよ……」

 リリベルはネクスの方を見つめた。

「あー私も、化け物退治したばかりだし? 達成感に浸ってるから、何も見てないわよ」

 その二人の言葉にミケッシュはただありがとうと、小さく返事をした。

「おーい!」

 列車の前方から声がする。
 ビクりと、体を震わせたミケッシュは急いで胸元を手で隠した。


 ネクスはリリベルの方に向き直りアイコンタクトをする。
 ミケッシュを守れと言う意思表示だ。
 ドラゴンの件がバレれば、ミケッシュは入学前に退学になりかねない。

 リリベルは辺りを見回す。するとちょうどよく吹き飛ばされたカーテンが地面に落ちているの見て急いでミケッシュに被せた。

 声をかけてきたのは、護衛の冒険者小隊と、列車の乗務員だった。

「大丈夫か!! お嬢さん!」

 乗務員が声をかける。列車の前部からやってきた彼らは、倒れる化け物と、その傍に立つ抜剣した少女、つまりネクスをみると目を見開いた。
 どのような状況か理解したらしい。

「この、化け物……嬢ちゃんがやったのかい?」

 おそらく冒険者の中でも一番、年齢の高く、経験豊富そうなリーダー格の雰囲気をまとわせた男が言った。

 その質問にネクスは首を横に振る。

「いえ、友人達の助言や手助けのおかげです」

 ネクスの言葉にリリベルは若干の配慮があるような気がした。
 ネクスの行動力、ミケッシュの助言がなければ、確かに化け物は倒せなかった。

(でも僕は……)

 僕は何もできていない、そんな事を考えている時だった。視界の端の肉塊が蠢くのをリリベルは見逃さなかった。

「! 離れて!!」

 瞬間、誰かの右腕が宙を舞った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。 【あらすじ】   異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。  それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。  家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。  十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。   だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。  最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。  この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。  そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。  そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。  旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。 ☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。 ☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。

今更……助けてくれと……言われても……

#Daki-Makura
ファンタジー
出奔した息子から手紙が届いた…… 今更……助けてくれと……言われても……

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります

はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。 「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」 そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。 これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕! 毎日二話更新できるよう頑張ります!

処理中です...