魔法学のすゝめ!

蒔望輝(まきのぞみ)

文字の大きさ
9 / 78
CHAPTER_01 魔法学は苦難の道のり ~don't through the thorny road~

(01)悪魔の囁き ~temptation~

しおりを挟む

 静かな部屋で向かい合った机――
 窓からは、夕日が差し込んでいる。

「悪いけど、このままだと……」

 向かいに座った担任の先生は、歯切れが悪そうだ。
 それもそのはず、この状況は先生だって不本意じゃない。


 田舎町出身の少年ムーヴは、地元では有名なほど成績優秀で芸術にもけていた。
 親の後押しもあり、世界一難関と言われる国立魔法学中央学園セントラルの受験に挑戦することにした。

 地方では、魔法学が浸透していないところはまだまだ多い。
 ムーヴは、血眼ちまなこになって勉強した。大好きな絵描きも我慢し、毎日夜遅くまで魔法について勉強した。

 そしてギリギリの点数で掴んだ入学キップ――

 セントラルの学費は決して安くない。
 魔法省直轄の特進生・・・を除いては――

 それでも母親は涙をハンカチで拭きながら、満面の笑顔で見送ってくれた。


 それなのに――


 一般クラスでは、ままある入学ギャップ――
 いくら難しい座学を攻略しようが、魔法が使えなくては意味が無い。魔法の才能が無ければ実技の成績はままならない。
 それは、ムーヴも例外ではない。


「……なにが、ダメですか?」

「座学は悪くないけど、もう少しね。それからやっぱり実技がね……」

 要は全部だ。

 入学当初は緊張感で頑張れた。しかし、学校に慣れてくれば、受験で一度燃え尽きた脳は、勉強を強く拒む。

「とにかく、次の試験は頑張ってね……」

 頑張る、何をだろう。
 留年と高い学費を前に、今さら何を頑張ればいいのだろう。


「……むりだよ」

 面談を終え、ムーヴは廊下に出る。

 人とすれ違うたびに視線を感じる。

 勝手に感じているだけで、実は自分のことなんて誰も見ていないのかもしれない。
 そう信じたい。


 <あいつ留年だって>

 <才能が無いんだよ>

 <かわいそう>


「――やめろっ!」

 ムーヴは、両手で耳を閉じる。
 それでも脳に直接響いてくる噂声――

 気分が悪くなり、吐き気をもよおしてしまう。

「やめ、て……」

 廊下がゆがむ、先が見えない。
 何メートルも続いて見える。

 フラフラになりながら必死に歩く。
 どこにもない、出口を探して――

「もう、いやだ……」

 暗い廊下の中で、ふと光が差し込む場所を見つける。ムーヴは、一筋の希望を求めてその場所に逃げこんだ。


「はぁ、はぁ……ここは――」

 ――美術室だ。

 去年までは美術部員として足しげく通った部屋、それが今では補習に追われている幽霊部員。

 壁に立てかけられたパレットに、木や絵の具の匂い、校内で唯一落ち着く空間だった。


 しばらく部屋中を眺めていると、部屋の後ろに人影に気付く。

「やあ!」

「――っ?!」

 同じ学年だろうか、背丈は同じくらいの赤髪・・の少年――
 顔は、壁側を向いていたので見えなかった。

「び、びっくりしたあ……」

 少年が見据える壁には、昨年受賞した美術作品がずらりと横に並ぶ。

「……これ、きみの作品?」

「う、うん……」

「すごい、才能にあふれているね」

 大きな太陽と照らされる広原――
 その絵の下には、受賞時に貰ったアクリル製のシンプルなトロフィーも飾ってある。
 今のムーヴにとっては、過去の栄光に過ぎない。

「こんなに才能があるのに、どうしてだろうね」

「……君も知ってるの?」

 馬鹿にされている気分だ。
 周りには敵しかいない。

 少年は、無視して話を続けた。

「絵が描けても魔法、魔法……この学園で魔法が使えない者には人権が無い。ただ搾取さくしゅされる。それだけ」

「……そんなの、分かってる」

「分かってないよ」

 呆れる少年に、ムーヴは少しイラっとする。

「君じゃない、特進生・・・のことさ」

 少年は、後ろを向いたまま両手を広げた。その両手にはロッドが握られている。
 ロッドの周りには、青く光る魔法陣が現れる。

 魔法により、ロッドは手人形・・・へと姿を変えた。
 左手にはキレイな制服を着た女の子の人形、右手にはボロボロな男の子の人形――

「一般生が必死になって特訓に励んでいることを彼らは知らない。興味もない。魔法が他人ひとよりも使えるだけで、呑気のんきに学園生活を楽しんでいる」

 男の子は白い棒を両手に持ち、何度も素振りしている。
 女の子は、優雅に紅茶を飲んでいる。

「彼らは自分たちの給料が、一般生の学費から出ていることを分かってない。一般生の苦労を何も分かってない」

 男の子は、疲れてきている。
 女の子は、満足したのかウトウト眠そうにする。

「彼らは、何も悩むことなく卒業し、就職する」

 女の子はいなくなり、男の子はついぞ両手をついて膝から落ち込んでしまう。

「その一方で、一般生の1割以上が努力むなしくこの学園をこころざし半ばで去っていく。卒業しても就職できない子を含めればもっといるね」

 いつの間にか、男の子も見えなくなってしまった。

「それで、君はどうするの?」

「それは……」

 簡単に辞められるなら辞めていた。

「いいんじゃない? こんな学校、やめてもさ」

 何度も辞めようと考えた。その度に見送ってくれた母親の笑顔が頭に浮かぶ。
 今まで払った学費を、簡単な気持ちで無下にはできない。

「やめるの? やめないの?」

「だからそれは――」

「やめられないの?」

「ぐっ……」

 結局、いつも答えが出なかった。

 どうしたら良いか分からない日々が続く。
 毎日が息苦しい。

「ぼくはっ……どう、すれば――」

「変えればいいんだよ」

 少年は、再び右手を上げる。

 指の隙間から赤黒あかぐろい光が漏れる。血管が透き通っているような淡い光――

 ムーヴは少年の右手から目を離せない。
 少年は振り返り、右手を差し出した。

「変える……」

「そう、キミが変えるんだ。この学園を、このオカシイ世の中を――」

 ムーヴは少年の顔を見上げる。
 彼の顔は、仮面で覆われていた。

 白銀色の仮面で、片方の目元から血の涙のような真紅しんくの模様が垂れている。

「ボクが、変える……?」

 少年が右手を広げる。

「この絵が君にしか描けないように、これは君にしかできない」

 手のひらの上には、半透明で赤黒く輝いた石が乗っている。まるで、生き物の鮮血せんけつをそのままダイヤモンドの形に固めたような、不思議な魅力――

「できるかい?」

「ボクが、変える……」 

 ムーヴは、覚悟を決めた。
 少年の手からゆっくりと石を取り上げた――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

《カクヨム様で15000PV達成‼️》悪魔とやり直す最弱シーカー。十五歳に戻った俺は悪魔の力で人間の頂点を狙う

なべぞう
ファンタジー
ダンジョンが生まれて百年。 スキルを持つ人々がダンジョンに挑む世界で、 ソラは非戦闘系スキル《アイテムボックス》しか持たない三流シーカーだった。 弱さゆえに仲間から切り捨てられ、三十五歳となった今では、 満身創痍で生きるだけで精一杯の日々を送っていた。 そんなソラをただ一匹だけ慕ってくれたのは―― 拾ってきた野良の黒猫“クロ”。 だが命の灯が消えかけた夜、 その黒猫は正体を現す。 クロは世界に十人しか存在しない“祝福”を与える存在―― しかも九つの祝福を生んだ天使と悪魔を封印した“第十の祝福者”だった。 力を失われ、語ることすら封じられたクロは、 復讐を果たすための契約者を探していた。 クロは瀕死のソラと契約し、 彼の魂を二十年前――十五歳の過去へと送り返す。 唯一のスキル《アイテムボックス》。 そして契約により初めて“成長”する力を与えられたソラは、 弱き自分を変えるため、再びダンジョンと向き合う。 だがその裏で、 クロは封印した九人の祝福者たちを狩り尽くすための、 復讐の道を静かに歩み始めていた。 これは―― “最弱”と“最凶”が手を取り合い、 未来をやり直す物語

異世界転生した女子高校生は辺境伯令嬢になりましたが

ファンタジー
車に轢かれそうだった少女を庇って死んだ女性主人公、優華は異世界の辺境伯の三女、ミュカナとして転生する。ミュカナはこのスキルや魔法、剣のありふれた異世界で多くの仲間と出会う。そんなミュカナの異世界生活はどうなるのか。

ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります

はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。 「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」 そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。 これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕! 毎日二話更新できるよう頑張ります!

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

処理中です...