魔法学のすゝめ!

蒔望輝(まきのぞみ)

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CHAPTER_01 魔法学は苦難の道のり ~don't through the thorny road~

(03)訪問者 ~visitor~

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「いやあビックリですよ! 急に校長先生みずからいらすなんて――」

「……副校長です」

 シュウの姉マリコが仕事に出ようとした矢先、シュウの実家であるハナミヤ家には思わぬ客が訪れていた。

「副校長さん! アンナさんでしたっけ? お若いからビックリ! 私と同い年くらい? あ、麦茶しかないですけど――」

「お構いなく」

「ちょっと、お父さんも早く来て! 待たせちゃ失礼でしょー」

「すまんすまん」

 父のコウヘイは急いでズボンを履き、ワイシャツのボタンを締めながらリビングに戻る。
 アンナはちゃぶ台の上に置かれた麦茶には目も向けず、ジッと正座をしてハナミヤ家の様子をうかがっていた。

「それで、副校長さん? ウチなんかになんの用でしょう」

「そうですね……改めまして、副校長のアンナ・ベルトと申します」

「シュウの父、コウヘイ・ハナミヤと申します」

 アンナとコウヘイが社交辞令を交わす。マリコはコウヘイのとなりに座り、軽く頭を下げた。

「お忙しいところ突然申し訳ありません。シュウさんの入学に際して色々とお聞きしたい点があったものですから」

「そんなそんな、何も校長先生みずから出向かなくても――」

「副校長です」

 副校長は淡々と話を続ける。

「ただの入学ではありません。特進生としての入学――本来は厳しい試験と審査を経て編入が許されます」

「そんなに厳しいのですか……」

「我が校は世界屈指の魔法学専門学校です。さらに魔法省まほうしょう直属の特進クラスともなれば、生徒は上位数パーセントの魔術師であることと同義になります」

「うーん」

 コウヘイは首を傾げる。

「お分かりになりませんか? 例えばあなた方やこの街、それに国や世界の治安までも統治する魔法軍――本クラスの生徒の数人は卒業と同時に、この魔法軍の幹部候補として入隊することになります。特例中の特例が当たり前のように起きるのがこの特進クラスです」

「いえね、シュウにそんな才能あったかなあと」

 コウヘイもマリコも首を傾げて上を向く。

「そうですね。シュウさんは面接で魔法学の基礎中の基礎すら答えられませんでした」

「教えた覚えはないですね!」

 ガハハと高笑いするコウヘイ――マリコは少し恥ずかしくなりコウヘイの横腹をヒジでつく
 アンナは1つ咳払いをし、2人を黙らせた。

「ここまででお分かりになるかと思いますが、今回の入学は特例中の特例、そのさらに特例になります。よってこれからいくつか質問をさせていただき、そのすべてに嘘偽りなく正直・・に答えていただきたく思うのですが――」

「いいですよ、なんなりと」

 ドッシリと構えるコウヘイ――
 いつもはイビキをかいてばっかりだが、ここぞという時にはとても頼もしい。
 
「そうですか、では単刀直入に――」

 対するアンナも強気でおくすることなく質問を始める。

「シュウさん――お子さんはどちらで拾われたのですか?」

 場が静まり返る。コウヘイとマリコは、アンナに対する警戒心を一気に強めた。
 アンナは構うことなく話を続ける。

「シュウさんが施設にいた記録は世界中探してもどこにもありません。彼は突如としてあなた方の家に現れたのです。どこかで拾うほか――」

「ちょっと! そんな言い方――」

 トゲのある言い方にカチンときたマリコを、コウヘイは手で制する。
 コウヘイは冷静に、正直に答えた。

「シュウは、モノではありません」

「……ええ」

「沖近くで流れていた、正確にはプカプカ浮かぶ大きな容器に入っていた彼を助けました。衰弱したシュウは島唯一の診療所に入院しましたがその間に実親が見つかることは無く、私達は正式な家族として迎え入れることにしました。手続きは大変でしたがとても幸せに思っております。ですから拾ったなんて言葉で表現はしてほしくないですね」

「そうですか、失礼しました――それでどちらの島に?」

 アンナから反省している様子は伝わらい。ただ淡々と話を続ける。

「パロマ島です――島では漁師をやっていたものですから」

 小さな異国の更に離島――1日で1周できるほど小さな島できれいな海に恵まれている。人口もごくわずか、魔法はまったくと言っていいほど浸透していない。治安についてはケイサツと呼ばれる国独自の組織が観光がてらに時々訪れるだけで、魔法軍が介入することはまずなかった。
 アンナは小さく頷き、勝手に納得していた。

「では、どうしてこのペンテグルスに?」

 魔法大国の中心――セントラルを有する首都ペンテグルス。
 小国の離島とは訳が違い、都心から離れても田舎とは大きなギャップがある。観光でもなく住むともなれば、そこそこの財力が必要だ。セントラルへの入学や地域企業への就職、魔法軍への入隊の他、大きな目的が無ければ引っ越す意義は無いだろう。

「……2つ理由があります。1つ目はマリコのためです。子供の頃、シュウに出会う前から都会への憧れが強く、島を異常に出たがっていましたから」

「あははー お恥ずかしー」

 ペロッと舌をだすマリコ。照れている様子は微塵みじんもない。コウヘイも一緒になって笑うが、コホンとアンナの咳払いで再び黙らせられる。

「――2つ目の理由は何でしょう?」

「2つ目は……先生も見ましたか? シュウの背中せなかは――」

 アンナにとっても気になるワードだったのか初めて動揺したように見えた。また、返答を迷っている様子でもあった。
 結局アンナから回答が返る様子はなく、コウヘイは仕方なく話を再開する。

「私にとっては、あれが何か見当けんとうもつきません。ただ――」

 コウヘイは、アンナをジッと見据える。
 アンナはさらに動揺する。

「ただ、あれが魔法に関連することだけは素人目でも分かります。やはり本当の親――シュウのことが気になり、ここ・・なら何か分かるかもしれないと思い引っ越してきました」

「……お子さん、シュウさんはなんと?」

「最初は断られました。私たちを気遣っていたことはすぐに分かりました。説得しても中々応じませんでしたが、これは私とマリコ――2人の意向でもありましたからね」

「そうですか」

「まっ、お陰で2人にはとんでもない苦労をさせているんだがね」

「ほんとほんと、まっワタシはそれなりに今の状況楽しんでるけど」

 またもや笑い合う2人――

 アンナは満足したのか、咳払いすることなく帰り支度を始める。
 そんなアンナの前に置かれていた手付かずの麦茶をマリコは奪い取る

「お給料には期待してますね。ただ――」

 手に取ったお茶を一気に飲み干し、アンナを挑発するように見据えた。

「ワタシのシュウが傷つくようなことがあれば、ワタシが許しませんから」

「……そうですか」


 ――失礼します。


 それだけ言って帰るアンナ、マリコは終始腹が立っていた。露骨に態度に出てしまう。
 そもそも仕事に遅れそうな時間なのに――

「かんじわるー」

「まあまあ、一歩前進ってトコロだろ」

「そうだけど、イヤな予感もすんのよね……」

 マリコの勘――ことさらシュウのことでは、必ずと言っていいほど当たってきた。
 このイヤな予感がどうか当たらないで欲しい――
 そう切に願うマリコであった。
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