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CHAPTER_02 バカなチカラは使いよう ~what’s the strength on my mind~
(10)衝撃の重み ~weightful~
しおりを挟む「――ヒューっ、ヒューっ……」
シュウの上で、リオラは細く息をする。
何もできない――
「リオラ……しっかりしろ、リオラっ――」
目の前でリオラが苦しんでいる。
それなのに、なにもできない。どうすることもできない。
――どうして魔法が使えない!
いま魔法を使えなくては、何のための魔法か。
少しの間でいい。
魔法を、力を貸してくれ――
*
このチカラ、魔法にして魔法にあらず――
ときに人を救い ときに人を傷つける
世を直し 世を乱す
災いを止め 災いを呼ぶ
6つのコトワリを司る
絶対君主の超魔術――
この魔法はあまりに強大だ。
喜劇か 悲劇か
すべては魔法の定めるまま――
*
「――それでも、必要なんだ。そのチカラが……」
シュウは、倒れこむリオラの腕を自身の肩に回す。
「……ああ、きっと――」
激痛に耐えながら、ゆっくりと立ち上がる。
目を閉じ、歯を喰いしばり、最後の力を振り絞って立ち上がる。
「きっと、使いこなして見せるさ――」
シュウの右目――
瞳の奥が白く光り輝いた。
異様な空気を感じ取り、タケルは咄嗟に振り返る。
シュウ、そしてリオラと再び対峙する。
「……どういうつもりだ」
「どうもこうも、今から本当の魔法をレクチャーしてやる」
息も切れ切れなシュウとリオラ――
そんな2人の周りに、白い光が淡く浮かび上がる。
いつの間にか、2人の足元に大きな魔法陣が現れる。白く光り輝く、六芒星の魔法陣――
「その体でなにができる」
「これからだ。それに、教えるのはおれじゃない……」
魔法陣はゆっくりと回転を始め、白い光も明るさを増していく。
「……リオラ、いけるか?」
シュウの肩にぶら下がるリオラは、かろうじて目を開く。
そして、眩しい光が2人を包み込んだ。
「――きれい……」
リンの口が自然と開く。
エリスもその光を呆然と見つめる。
「シュウ……」
シュウを見つめていたリオラの顔に血の気が戻る。体中の細胞がみなぎり、失った体力が回復していく。
タケルだけは危険を察し、猛スピードでシュウに突撃する。
「はぁあああっっ!」
タケルの強烈な一撃――
対するシュウは手をかざし、タケルに向かって白い魔法陣を新たに繰り出した。
強い≪衝撃≫が響き渡るも、白い魔法陣は壊れない。タケルはその反動で後ろにのけ反った。
「リオラ……リオラが教えてやるんだ」
「ワタシ、が……?」
活力を取り戻したリオラは、やがてシュウの肩から離れ、タケルのことを見据える。
シュウは、リオラに語りかけながらタケルの拳を防いでいく。
「――こんなものっ……だぁああ゛っっ!」
先程よりも強い一撃――
今度ばかりは魔法陣も耐えきれずバラバラに割れ、シュウはリオラを抱えて横に飛ぶ。ついさっきまで寄り掛かっていた車は、原型を留めないほどに大破した。
「リオラは遠くのセントラルにわざわざ入学して何を学んだ?」
「学んだ……?」
「何かを学んだからリオラは今特進にいる。それはきっと、おれなんかじゃ到底たどり着けない、想像もできない努力を積み重ねたリオラだから気づけことで――」
シュウはリオラの両肩を強く掴み、まっすぐ目線を合わす。
まっすぐリオラの目だけを見つめる。
「それをそのまま、ぶつけてやるんだ」
「そのまま、ぶつける……」
タケルの拳からはボタボタと血が垂れる。それでも痛がる素振りは一切見せず、シュウとリオラを睨みつける。
「初めて見る魔法陣だな、それが本当の魔法とでも言うのか?」
「言っただろ。教えるのはおれじゃない、リオラだ」
シュウは、タケルに向かって手をかざす。すると、リオラの左右から魔法陣が出現し、リオラの体を白く照らす。
「強い魔法こそ強いチカラだと信じているようだが、おまえの魔法はチカラじゃない……ただの暴力だ」
左右には、同じ大きさの魔法陣がさらにたくさん――
リオラからタケルに向かって一直線に出現する。
「暴力はつねに害悪だ。そんなまがいもののチカラでいっちょ前に正しい武術なんて語るな!」
魔法陣は明るさを増し、リオラからタケルに向かう『道』を作り上げる。
「本当は怖いんだろ! リオラの拳を受けるのが――」
「なに?」
「だったら無理にでも受けさせてやる――さあいけ、リオラ! 一発どでかいのぶちかましてやれ!」
「まてよ、ワタシいまロッドも持ってないぜ?」
リオラは戸惑った顔でシュウを見る。
シュウはの本気は変わらない。
「できるはずだ。その拳で、宿る力で――」
リオラは、自身の拳を見つめ直す。
シュウが出した魔法の影響か、拳からは淡く白い光を放つ。
リオラはゆっくりと頷き、タケルに向き合った。
「……いくぞ、タケル――最後の一発だ」
「リオラ、本気だな……?」
リオラの構えを確認し、タケルも同じ構えをする。
お互い一言も発さず、ジリジリと目を合わせる。
2人の間には、何人も立ち入れない神聖な領域が広がった。
2人が拳を放つのは、同時だった――
『りゃああっ!』
離れたまま、2人の拳がぶつかり合う。
今まで以上の≪衝撃≫が辺り一帯を震撼させる。≪衝撃≫は止まない。激しくぶつかり合ってなお、2人はチカラを放ち続ける。
ほぼ互角の勝負に見えた。
「……くっ」
しかし、しばらくするとタケルの赤黒いチカラが勢いを増し、リオラのチカラが押されてしまう。
「とどくか? その拳――」
――リオラにとって、タケルは憧れだった。
強く、勇ましく、自信に満ち溢れたタケルの拳が眩しかった。その眩しさは、どれだけ強い魔法でも表現できなかった。
その拳に近づくため、リオラは日々道場に通っていた。
その道場が無くなった。
この頃から、リオラは髪を黒く染めるのをやめた。
どうすれば道場は無くならなかっただろうか。考えても答えは出ない。
それでもリオラは、答えを求め続けた。
学園への留学を決意したとき、最初に立ちふさがったのは座学だった。
生まれて初めて座る学習机――
居心地の悪さに耐えながら睡眠時間を削り、教科書を我慢して開く。
始めは、インクで描かれた黒いカタマリが羅列してあるだけにしか見えなかった。眺めているだけで体が拒絶反応を示す。
対策として道場に置いてあった麻縄を使用し、自身の体を椅子に縛り付けた。文字が文字として認識できるまで教科書を睨み続ける。
うっかり寝てしまわないよう、道場に飾ってあった生け花の剣山を教科書の手前に置いた。何度顔に刺さったかは覚えていない。
2日目に文字が読めるようになり、3日目に言葉として認識できるようになった。書いてあることの意味が分かるには、ほど遠かった。そんな状況で2つ目の壁が立ちはだかる――
学費だった。
アルシア大陸出身の者が海を渡り、長期間滞在するには多額の金銭を要する。両親は一般的な会社員で、祖父は破綻ギリギリまで道場を経営していたロイーザ家――
とても裕福とは言えなかった。
勉学のかたわら、祖父の紹介で魔法カラテ道場の補助講師を務め、試験費用と海を渡るためのお金を何とか工面した。あとは留学借金と現地でのアルバイトに頼ればいい。
それだけ留学のハードルは高かった。
そして念願の入学決まっても、≪衝撃魔術≫にのみ適性が突出していたリオラは、特進クラスへの編入は叶わなかった。
リオラには、魔法カラテを突き詰める必要があった。そのためにも魔法を極めなくてはいけなかった。
リオラは、ひた向きに答えを求め続けた。
食費を浮かすため、なるべく簡単な食事で1日を過ごす。
カップ麺をすすりながら教科書を開き、素の食パンをかじりながら魔法陣を描く。ただ、ひた向きに努力を続けた。
これだけやっても、祖父の道場は蘇らない――
タケルには届かないかもしれない。
それでも、どうすればいいか、考え続けなければいけない。
考えることをやめてはいけない。
止まったら、そこで終わりだから――
続けさえすれば、いつかきっと――
「――だめ、かもっ……」
タケルの力は、強力だった。
始めは均衡していたはずの2つのチカラが、ジワジワとリオラの方に偏っていく。
このままでは、後ろにいるシュウもろとも≪衝撃≫を被り、深手を負ってしまう。
このままでは――
「まだだっ!」
シュウの声が響き渡る。
「あいつは考えることから目を背け、楽な道を選ぼうとまがいものに手を出した。リオラはいつだって考え続けてきたんだろ?!」
タケルは進化を排除し、武術を残そうとした。
リオラは進化を取り入れ、武術を残そうとした。
どちらが正解かなんて分からない。
それでも、きっと――
「考え続けることがチカラなんだろ? リオラのチカラは、そんなものじゃないだろ!」
リオラは再び拳にチカラを込める。呻き声が自然に漏れる。
押されていたリオラのチカラが、再び均衡を取り戻す。
「教えてやれ! 本当の力を、正しい武術を!」
「――おおりゃあぁああぁっ!」
一気に形勢を巻き返す。
リオラの力がタケルの力を押し出していく。
強く、勇ましく、自信に満ち溢れたリオラの拳――
「――やっぱり強いな、リオラは……」
タケルの顔が優しく微笑んだ。
リオラの≪衝撃≫がタケルの魔法を打ち破る。
タケルの体は、白い光に包まれた――
○○○○○○
「タケル……」
道路の真ん中で倒れたタケル――
ゆっくりと立ち上がるが、何かを思い、空を見上げる。
リオラとシュウは、タケルのすぐ近くまで歩み寄る。
「リオラ、俺は……」
「……タケル?」
「――うっ……がはっ!」
「おいっ!」
タケルの口から血と一緒に、キラキラと赤黒い石が吐き出される。
血しぶきのように石が舞う。タケルの体は、再び地面に倒れこんだ。
「タケルっ!」
リオラは、走り寄ってタケルの体を支える。
シュウは残りのチカラで白い魔法陣を出すが、血は止まらない。魔力が足りない。シュウも限界に近かった。
「その石はどうしたんだ?! どうしてそれを……」
シュウの意識が遠のいていく。
エリスとリンも駆け寄る。
同時に、遠くからはサイレンの音が聞こえる。
魔法軍も来ているらしい。
力が無くなり、シュウは意識を保てなくなる。
心残りを覚えながら、シュウはゆっくり目を閉じた。
○○○○○○
「うーん、もっとド派手のが見たかったねー」
とある道場の屋根の上、赤髪の少年は前回同様、オペラグラスでシュウたちの様子を眺めていた。
今回は、あまりお目に適わなかったらしい。残念そうにオペラグラスをしまう。
「中途半端すぎる。セントラルの生徒もあなどれないね……メイシアはどう思う?」
隣にはポニーテールの少女――
少女は、従順に少年の問いに答える。
「そうですね、魔術適正が高いことは確かです。ですが、実戦不足は否めません」
「そうだねぇ……おろ、魔法軍も来ちゃった。そろそろ行こうか」
2人は、屋根の上で同時に立ち上がる。
「まあ、これはこれでイイものが見れたのかな」
「結果的には成功だと思います」
珍しく前向きな少女の発言に、少年も満足げであった。
学園の生徒たち――
そして、徐々に目覚めつつあるシュウの魔法――
「全知全能たる絶対魔術のその力、果たして善か悪か――」
少年は、怪しげに笑う。
「これからが、おたのしみだね」
鳴り響く魔法軍のサイレン――
屋根の上にいた2人は、忽然と姿を消す。
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