魔法学のすゝめ!

蒔望輝(まきのぞみ)

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CHAPTER_03 心の乱れは災いのもと ~whoever lives hold wave of heart~

(05)取締3日目 ~doubt~

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 取締3日目、ついに事件が起きる。

「――ん? なんだ?」

 早朝、キッチンでフライパンを振るシュウの手が止まる。
 外がやたらと騒がしい――
 登校する生徒も少なく、騒がしくなるにはいささか早すぎる時間だった。

「ずいぶんにぎやかだな」

「ダイモンさん、おはようございます」

 シュウの上司でもあるダイモンも起きてきた。不機嫌そうに窓の外を眺めている。

「なにか知ってるか?」

「分からないんですよ、見てきてもいいですか?」

 朝に強いシュウは既に制服姿だった。今すぐにでも出れる状況である。
 ダイモンは無言で頷いた。シュウは朝食作りも中途半端のままエプロンを机に置き、急いで校舎に向かって出て行った。

「――なんだよ、あれ……」

 校舎の手前には大きな十字架――
 シュウの背丈の3~4倍はある。十字架の背面には大きな≪波動魔術ジグラクタブレイカ≫の魔法陣が描かれていた。
 その十字架の前、大勢の生徒が一定の距離を取って群がっている。

「なっ! なにしてんだ!」

 十字架には、1人の女子生徒がはりつけに処されている――
 手首、脇、腰、足首を革のベルトで締められ、十字架をかたどるように女子生徒が飾られていた。
 シュウは思わず大きな声を上げていた。生徒の間をって十字架のもとに慌てて駆け寄った。

「どうすれば……」

 近くにたどり着いたのはいいものの、3m以上の高さに飾られている女子生徒を助ける手段が思いつかない。
 とりあえず、十字架によじ登るしかないか――

 考えなしに、シュウは十字架に足をかけた。

「シュウくん!」

 後ろからリンの声がする。
 シュウが振り返ると、部活の朝練中だったのかスポーツウェア姿のリンが走って寄ってきた。

「なにが起きたの?!」

「わからない、でも助けなきゃ」

「うん……シュウくん、下で支えてられる?」

「わかった、頼む」

 リンは早くも詠唱えいしょうを始めた。女子生徒を縛る革のベルトそれぞれに魔法陣が浮かぶ。
 シュウも慌てて女子生徒を受け止める姿勢を取った。

「――うおっ」

 女子生徒がシュウの腕に倒れこむ。
 女子生徒の顔には、見覚えがあった。
 昨日、この校舎前でかたくなに誓約書へのサインを断っていた生徒だった。

 リンが女子生徒の口元に耳を寄せ、息を確認する。

「どうだ?」

「……うん、大丈夫そう」

 気絶して寝ているだけらしい――
 呼吸は正常で外傷も見当たらない。≪治癒≫の必要も無さそうだ。

「誰がこんなこと……」

 リンは神妙な面持ちでつぶやいた。
 まもなくして、救急のサイレンが学園に鳴り響く――




 ○○○○○○




 <なんだよあれ、やりすぎだろ>

 <ひどすぎるわ>

 シャエラが登校したときには、校舎前の騒ぎは落ち着いていた。
 十字架は何事も無かったように撤去され、集まっていた生徒たちも教室に戻されていた。

「……何ごとかしら?」

 しかし、シャエラはすぐに異変に気付いた。
 すれ違う生徒はみんなシャエラをにらみ、ヒソヒソと陰口を叩く。

「シャエラさん!」

 シャエラが事態を把握できないまま教室に向かっていると、途中で先生に呼び止められる。

「なんでございましょう?」

「シャエラさん、悪いけど職員室に来てくれるかしら」

「……? ええ、問題ありませんわ」

 職員室に呼び出されるのは初めてだった。
 先生に言われるがまま着いて行く。生徒会の用事以外で職員室に入るのも初めてだった。

 職員室は、不穏な空気に包まれていた。

「君がシャエラ・エイブリンかい?」

 尋ねてきたのは軍服を着た男――
 姿格好から魔法軍と推測できる。

 職員室に緊張感を振りまいている元凶だった。
 いったい何の用だろうか――

「ええ、そうですけど……」

「これを見てくれるかな?」

 軍の男は手元のタブレットを指差した。誰か先生の持ち物だろう。
 シャエラは、おぼつかない様子で近づいてみる。

「……こちらは?」

 タブレットの画面をのぞき込むと、画質の荒い監視カメラの映像が映し出されていた。
 変哲へんてつもない校舎前、早送りで映像が再生される。

「私や他の生徒たち、学園中にこの映像が出回っているの」

「皆さまに……?」

「今日の未明、学園の監視ロボが撮影した映像だ。このあとだがね……」

 軍の男が映像を通常の再生速度に戻したところで、突如として校舎前に人影が現れる。

 女の子だろうか――
 遠目でよく見えないが、サロペットの作業服に身を包み、華奢きゃしゃな体で大きな十字架を運んでいる。
 その人影は、仮面を付けているせいで顔は見えないが、銀色・・の髪が良く目立つ――

「そんなっ……」

 大きな十字架を校舎前の中心に運んだあと、人影は1度カメラの外に姿を消した。
 そして、すぐに別の台車を引きずって戻ってくる。台車の上には学園の生徒が1人、気絶したように乗っていた。

 仮面の人物は、シャエラによく似ている。着ている服は違い、仮面で顔は見えずとも、背丈せたけと髪色、雰囲気がそっくりだった。
 シャエラには、心当り・・・があった。

「映像から犯人は特定できません。ですが……」

 シャエラは何とか平静を保つも、軍の男には勘づかれてしまう。

「お話、うかがえますかな?」

 心配そうに見つめる先生たち――
 シャエラは軍の男に連れて行かれ、別室へと移動した。




 ○○○○○○




「あれ? シャエラは来てないのかよ」

 特進クラスの教室では、リオラが普段通りの格好で登校する。特進クラスもまた、不穏な空気に満ちていた。

「リオラ、知らないのか?」

 喧嘩でも期待していたのか――
 リオラは、シャエラがいないことを非常に残念がっている。

「なんだよ、まだ何かあんのか?」

「――はーい、みんな席について。授業始めまーす」

 シュウが説明しようとしたところで授業が始まってしまう。

 シャエラによく似た人物が『十字架』と『女子生徒』を運ぶ映像は、主に一般クラスの生徒を中心に出回っていた。シュウも友人のロイに見せてもらっていたが、映像の出どころは誰にも分からないらしい。
 確かにシャエラに似ていることは間違いないのだが、それよりも映像に違和感を感じてならなかった。


「――それで、なにがあったんだよ」

 授業が終わると、リオラはすぐにシュウのもとに詰め寄った。

「あ、あのあの、シャエラさんに……なにか、あったのでしょうか?」

 隣の席にいるカホも心配で思わず声を掛けてくる。シュウはそんな2人に向かって自身のデバイスを傾けた。

「これ、まずは見て欲しいんだ」

 2人にも疑惑の映像を見てもらう。ロイからあらかじめ送って転送してもらっていた映像だ。

「こ、ここれ、シャエラさん、でしょうか……?」

「分からない。映像も荒いし、それに……」

「なんだこの仮面?」

 違和感は画質の荒さや仮面だけではない。疑惑の生徒は、シャエラと髪型も異なるし、決めつけるには材料が少なすぎる。
 何より、生徒会の言うことを聞かないとは言え、シャエラがここまで悪質な処罰を下すとも思えなかった。

「シュウ、それは?」

 たまたま教室を出ようとしたエリスも、気になって映像を覗き込む。

「学園内で出回ってる映像で、荒くて見づらいし、つくりモノにも見えるんだけど――」

「とめて!」

 映像の途中でエリスは声を張る。
 シュウは戸惑いながらも、仮面を被った人物が台車を使い、女子生徒を運ぶシーンで一時停止する。

 エリスは、その中央に映る仮面の人物をマジマジと見つめた。

「……シュウ、それからリオラさん」

「なんだ?」

「今日のお昼、時間を貰ってもいい」

「ワタシは構わないぜ?」

「いいけど、エリスと昼飯なんて珍しいな」

「ええ、ご飯は置いといて……話したいことがあるの」

 珍しくエリスに誘われ、リオラも状況を飲み込めていない。
 エリスは不穏な表情を浮かべている――
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