35 / 78
CHAPTER_03 心の乱れは災いのもと ~whoever lives hold wave of heart~
(05)取締3日目 ~doubt~
しおりを挟む取締3日目、ついに事件が起きる。
「――ん? なんだ?」
早朝、キッチンでフライパンを振るシュウの手が止まる。
外がやたらと騒がしい――
登校する生徒も少なく、騒がしくなるにはいささか早すぎる時間だった。
「ずいぶん賑やかだな」
「ダイモンさん、おはようございます」
シュウの上司でもあるダイモンも起きてきた。不機嫌そうに窓の外を眺めている。
「なにか知ってるか?」
「分からないんですよ、見てきてもいいですか?」
朝に強いシュウは既に制服姿だった。今すぐにでも出れる状況である。
ダイモンは無言で頷いた。シュウは朝食作りも中途半端のままエプロンを机に置き、急いで校舎に向かって出て行った。
「――なんだよ、あれ……」
校舎の手前には大きな十字架――
シュウの背丈の3~4倍はある。十字架の背面には大きな≪波動魔術≫の魔法陣が描かれていた。
その十字架の前、大勢の生徒が一定の距離を取って群がっている。
「なっ! なにしてんだ!」
十字架には、1人の女子生徒が磔に処されている――
手首、脇、腰、足首を革のベルトで締められ、十字架をかたどるように女子生徒が飾られていた。
シュウは思わず大きな声を上げていた。生徒の間を縫って十字架のもとに慌てて駆け寄った。
「どうすれば……」
近くにたどり着いたのはいいものの、3m以上の高さに飾られている女子生徒を助ける手段が思いつかない。
とりあえず、十字架によじ登るしかないか――
考えなしに、シュウは十字架に足をかけた。
「シュウくん!」
後ろからリンの声がする。
シュウが振り返ると、部活の朝練中だったのかスポーツウェア姿のリンが走って寄ってきた。
「なにが起きたの?!」
「わからない、でも助けなきゃ」
「うん……シュウくん、下で支えてられる?」
「わかった、頼む」
リンは早くも詠唱を始めた。女子生徒を縛る革のベルトそれぞれに魔法陣が浮かぶ。
シュウも慌てて女子生徒を受け止める姿勢を取った。
「――うおっ」
女子生徒がシュウの腕に倒れこむ。
女子生徒の顔には、見覚えがあった。
昨日、この校舎前で頑なに誓約書へのサインを断っていた生徒だった。
リンが女子生徒の口元に耳を寄せ、息を確認する。
「どうだ?」
「……うん、大丈夫そう」
気絶して寝ているだけらしい――
呼吸は正常で外傷も見当たらない。≪治癒≫の必要も無さそうだ。
「誰がこんなこと……」
リンは神妙な面持ちでつぶやいた。
まもなくして、救急のサイレンが学園に鳴り響く――
○○○○○○
<なんだよあれ、やりすぎだろ>
<ひどすぎるわ>
シャエラが登校したときには、校舎前の騒ぎは落ち着いていた。
十字架は何事も無かったように撤去され、集まっていた生徒たちも教室に戻されていた。
「……何ごとかしら?」
しかし、シャエラはすぐに異変に気付いた。
すれ違う生徒はみんなシャエラを睨み、ヒソヒソと陰口を叩く。
「シャエラさん!」
シャエラが事態を把握できないまま教室に向かっていると、途中で先生に呼び止められる。
「なんでございましょう?」
「シャエラさん、悪いけど職員室に来てくれるかしら」
「……? ええ、問題ありませんわ」
職員室に呼び出されるのは初めてだった。
先生に言われるがまま着いて行く。生徒会の用事以外で職員室に入るのも初めてだった。
職員室は、不穏な空気に包まれていた。
「君がシャエラ・エイブリンかい?」
尋ねてきたのは軍服を着た男――
姿格好から魔法軍と推測できる。
職員室に緊張感を振りまいている元凶だった。
いったい何の用だろうか――
「ええ、そうですけど……」
「これを見てくれるかな?」
軍の男は手元のタブレットを指差した。誰か先生の持ち物だろう。
シャエラは、おぼつかない様子で近づいてみる。
「……こちらは?」
タブレットの画面を覗き込むと、画質の荒い監視カメラの映像が映し出されていた。
変哲もない校舎前、早送りで映像が再生される。
「私や他の生徒たち、学園中にこの映像が出回っているの」
「皆さまに……?」
「今日の未明、学園の監視ロボが撮影した映像だ。このあとだがね……」
軍の男が映像を通常の再生速度に戻したところで、突如として校舎前に人影が現れる。
女の子だろうか――
遠目でよく見えないが、サロペットの作業服に身を包み、華奢な体で大きな十字架を運んでいる。
その人影は、仮面を付けているせいで顔は見えないが、銀色の髪が良く目立つ――
「そんなっ……」
大きな十字架を校舎前の中心に運んだあと、人影は1度カメラの外に姿を消した。
そして、すぐに別の台車を引きずって戻ってくる。台車の上には学園の生徒が1人、気絶したように乗っていた。
仮面の人物は、シャエラによく似ている。着ている服は違い、仮面で顔は見えずとも、背丈と髪色、雰囲気がそっくりだった。
シャエラには、心当りがあった。
「映像から犯人は特定できません。ですが……」
シャエラは何とか平静を保つも、軍の男には勘づかれてしまう。
「お話、うかがえますかな?」
心配そうに見つめる先生たち――
シャエラは軍の男に連れて行かれ、別室へと移動した。
○○○○○○
「あれ? シャエラは来てないのかよ」
特進クラスの教室では、リオラが普段通りの格好で登校する。特進クラスもまた、不穏な空気に満ちていた。
「リオラ、知らないのか?」
喧嘩でも期待していたのか――
リオラは、シャエラがいないことを非常に残念がっている。
「なんだよ、まだ何かあんのか?」
「――はーい、みんな席について。授業始めまーす」
シュウが説明しようとしたところで授業が始まってしまう。
シャエラによく似た人物が『十字架』と『女子生徒』を運ぶ映像は、主に一般クラスの生徒を中心に出回っていた。シュウも友人のロイに見せてもらっていたが、映像の出どころは誰にも分からないらしい。
確かにシャエラに似ていることは間違いないのだが、それよりも映像に違和感を感じてならなかった。
「――それで、なにがあったんだよ」
授業が終わると、リオラはすぐにシュウのもとに詰め寄った。
「あ、あのあの、シャエラさんに……なにか、あったのでしょうか?」
隣の席にいるカホも心配で思わず声を掛けてくる。シュウはそんな2人に向かって自身のデバイスを傾けた。
「これ、まずは見て欲しいんだ」
2人にも疑惑の映像を見てもらう。ロイからあらかじめ送って転送してもらっていた映像だ。
「こ、ここれ、シャエラさん、でしょうか……?」
「分からない。映像も荒いし、それに……」
「なんだこの仮面?」
違和感は画質の荒さや仮面だけではない。疑惑の生徒は、シャエラと髪型も異なるし、決めつけるには材料が少なすぎる。
何より、生徒会の言うことを聞かないとは言え、シャエラがここまで悪質な処罰を下すとも思えなかった。
「シュウ、それは?」
たまたま教室を出ようとしたエリスも、気になって映像を覗き込む。
「学園内で出回ってる映像で、荒くて見づらいし、つくりモノにも見えるんだけど――」
「とめて!」
映像の途中でエリスは声を張る。
シュウは戸惑いながらも、仮面を被った人物が台車を使い、女子生徒を運ぶシーンで一時停止する。
エリスは、その中央に映る仮面の人物をマジマジと見つめた。
「……シュウ、それからリオラさん」
「なんだ?」
「今日のお昼、時間を貰ってもいい」
「ワタシは構わないぜ?」
「いいけど、エリスと昼飯なんて珍しいな」
「ええ、ご飯は置いといて……話したいことがあるの」
珍しくエリスに誘われ、リオラも状況を飲み込めていない。
エリスは不穏な表情を浮かべている――
0
あなたにおすすめの小説
《カクヨム様で15000PV達成‼️》悪魔とやり直す最弱シーカー。十五歳に戻った俺は悪魔の力で人間の頂点を狙う
なべぞう
ファンタジー
ダンジョンが生まれて百年。
スキルを持つ人々がダンジョンに挑む世界で、
ソラは非戦闘系スキル《アイテムボックス》しか持たない三流シーカーだった。
弱さゆえに仲間から切り捨てられ、三十五歳となった今では、
満身創痍で生きるだけで精一杯の日々を送っていた。
そんなソラをただ一匹だけ慕ってくれたのは――
拾ってきた野良の黒猫“クロ”。
だが命の灯が消えかけた夜、
その黒猫は正体を現す。
クロは世界に十人しか存在しない“祝福”を与える存在――
しかも九つの祝福を生んだ天使と悪魔を封印した“第十の祝福者”だった。
力を失われ、語ることすら封じられたクロは、
復讐を果たすための契約者を探していた。
クロは瀕死のソラと契約し、
彼の魂を二十年前――十五歳の過去へと送り返す。
唯一のスキル《アイテムボックス》。
そして契約により初めて“成長”する力を与えられたソラは、
弱き自分を変えるため、再びダンジョンと向き合う。
だがその裏で、
クロは封印した九人の祝福者たちを狩り尽くすための、
復讐の道を静かに歩み始めていた。
これは――
“最弱”と“最凶”が手を取り合い、
未来をやり直す物語
異世界転生した女子高校生は辺境伯令嬢になりましたが
初
ファンタジー
車に轢かれそうだった少女を庇って死んだ女性主人公、優華は異世界の辺境伯の三女、ミュカナとして転生する。ミュカナはこのスキルや魔法、剣のありふれた異世界で多くの仲間と出会う。そんなミュカナの異世界生活はどうなるのか。
ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります
はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。
「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」
そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。
これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕!
毎日二話更新できるよう頑張ります!
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる