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CHAPTER_03 心の乱れは災いのもと ~whoever lives hold wave of heart~
(10)泣き顔のお嬢様 ~crying~
しおりを挟むどこで間違ったのか――
きっと妹のシャエルを1人にしたから、そのときからすべてが狂い始めた。
言い訳なんてしない。
――これは、わたくしの責任ですから……
勢いよく放たれたプラスチックの弾丸がシャエラに迫る。
シャエラは思わず目をつむる。
弾丸による≪衝撃≫は、一向に襲ってこなかった。
「――痛っってえぇええっ!」
シャエラは思わず目を開ける。
突然目の前で、使い古された作業着をまとった男が大声を上げる。
「だっ、誰よあんた?!」
弾丸を放った女子生徒も突然の出来事に目を見開いていた。シャエラの背後にいる2人の男子生徒も戸惑いを隠せない。
「痛いだろっ! なにするんだっ!」
シャエラに覆い被さるようにして間に立ったシュウは、背中に走る激痛に耐えながら女子生徒に振り向いた。
弾丸をモロに受けたシュウの背中がシャエラの目に映る。分厚い作業着が破れ、その下が真っ赤に腫れていた。
「だから誰なのよあんたはっ!」
シュウの気迫に女子生徒は危険を感じ、再び黒い拳銃を構える。シュウは怖気づくことなく、拳銃越しに女子生徒を睨みつけた。
「誰だろうと関係ない! どうしてこんなことするんだ!」
「な、なんであんたに言わなきゃ――」
「いいから答えろ!」
「うっ、決まってるでしょ? 先にやったのはその女、これは復讐よ!」
「本当にシャエラにやられたのか?」
「そっ、それは……」
女子生徒は戸惑いを見せる。
実は磔にされたとき意識を失っており、気づいたときには病院だった。記憶がほぼ丸一日ない。
よって、犯人がシャエラである確証はなかった。
「なに庇ってんのよ? その女が好きなワケ?」
女子生徒は言い訳がましく突っかかる。その発言にシュウは無反応だったが、シャエラは頬をほんのり赤くする。
「その女が自分で言ってんじゃん? わたくしがやりましたわーって」
「でも、シャエラは捕まってないぞ」
「どうせ金持ちの親にでも頼んで、事件を揉消してもらったんでしょ!」
「本当にそうなら、シャエラがむざむざヤラレル必要がない」
「は……?」
女子生徒にはその言葉の意味が理解できない。だが、シャエラには思い当たる節があるようだ。
「シャエラの髪に付いてるリボンはロッドで出来てる。今も魔法を使えるはずだし、シャエラの魔法なら簡単に逃げられる」
「……うそ?」
「本当だ」
「……まじ?」
「マジだ」
女子生徒はヒラヒラ動くシャエラの髪留めを見つめ、拳銃を構えていた右手を下す。
シャエラが≪波動魔術≫の使い手であることは周知である。今、この瞬間にもシャエラは、自身を包む段ボール紙を簡単に打ち破り、いともたやすく形勢を逆転できる。拳銃なんかで太刀打ちできないことは簡単に理解できた。
「……シャエラ、何が目的だ」
「え……?」
シュウは背中を向けたまま、今度はシャエラに問いただす。シャエラは気まずそうに背中から顔を背ける。
「どうして抵抗しない?」
「それは、わたくしが犯したことでございますから……」
「じゃあ、どうして彼女を傷つけたんだ?」
「ですから、わたくしは学園の乱れた風紀を――」
「まだそんなことっ!」
シュウは改めてシャエラに振り向き、厳しい顔でシャエラを問い詰める。
「マイカに聞いたぞ、誓約書に停学や退学なんて言う効力は無いって」
「そ、そうなの?!」
「それは、今から学園側に申請しようと――」
「もう一度聞くっ、何が目的だ?」
「でっですから、わたくしは――」
「シャエラっ!」
シャエラを厳しく問い詰め、。いつしかシャエラの目には涙が滲む――
「教えてくれシャエラ、どうしてこんなことするんだ」
「わたくしは、わたくしはただっ……」
涙目のシャエラにも構わず問い詰める。その必死な訴えに、やがてシャエラの我慢に限界が訪れる――
「わたくしは、ただっ……」
「……シャエラ?」
「わたくしは……わたくしはただっ、みんなを守りたかったんですのー!」
シャエラは暗い廊下で天高く、大声で叫ぶ。
それは想像以上の音量で、近くにいた女子生徒は思わず耳を塞ぐ。
「わたくしがやりました! 私がやりましたーっ!
みんなを守りたくて、わたくしがやりましたっ!
わたくしがやりましたのーっ!」
「しゃ、シャエラ……落ち着いて――」
段ボール紙に包まれながら泣きわめく。段ボール紙を自力で引き千切らんばかりに暴れ出す。
男子生徒の2人は見ていられなくなり、そっと魔法を解いた。シャエラを包んでいた段ボール紙が「パタン」と床に倒れ、解放されたシャエラは勢いよくシュウの胸に飛び込んだ。
「――ぐぇっ!」
「わたくしがやりましたのおぉぉおーっ!」
その後はシュウの胸を借り、シャエラは数分間泣きわめいた。
○○○○○○
「――私たち、もう行っていい?」
「あ、ああ。時間もないからな」
女子生徒と男子生徒は、廊下の隅で気まずそうに立っていた。そろそろ監視システムが作動し、学園から出るには面倒な申請が必要になってしまう。
そんな中、シュウの胸では未だにシャエラが「ぐすんっ」と泣きじゃくっている。
「……ひとつだけ忠告」
「なんだ?」
「私みたいな考えの人が女子寮にいっぱいいるから、今日は戻らないほうがいいかも」
「わかった、ありがとう」
3人は、最後まで気まずそうに立ち去って行った。
暗くて静かな廊下に、シャエラとシュウだけが取り残される。それから、もうしばらく経ち、シャエラはシュウの胸から顔を上げた。
「落ち着いたか?」
「ぐすんっ、お見苦しい姿を……」
腫れ上がった瞼を押さえながら、シャエラはゆっくりと立ち上がる。
シュウもひと安心だった。
「良かった。大事にはならなかったな」
「……あなた、背中がボロボロでございましてよ」
「あ、やっぱそう?」
「ひゃっ――」
シュウは作業着の破れ具合を確認したく、何も考えずに脱ぎ始めてしまう。シャエラは慌てて目を隠した。
「ご、ごめん……」
「か、構いませんからっ……早く、確認して下さいまし……」
改めてシュウは上着を脱ぎ、肌寒い廊下で上半身裸になる。
「うえっ、シャツまでボロボロじゃん……」
シャエラはどうしてもその様子が気になり、顔を覆っていた指の隙間を開き、こっそりと目を凝らす。
その目には、シュウの引き締まった背中が映る。
背中いっぱいに描かれた1つの魔法陣――
その魔方陣に被さる、大きな傷痕――
「ミスタ・ハナミヤ、それ……」
痛々しくも寂しい背中に、シャエラは思わず声を掛けていた。
「あ、見ちゃった?」
「はわっ?! みっ、見えちゃいましたの!」
シャエラは慌てて指の隙間を閉じた。シュウは背中を隠すように振り返り、恥ずかしそうにシャツを着直す。
「覚えてないんだ、これが一体なんなのか……」
「そうでしたの……」
シュウの背中に描かれていたの魔法陣――
それは、エリスとの模擬戦で繰り出した白い魔法陣の模様と同じだった。当然シャエラにも心当たりはない。
お互い何から話せばいいか分からず、静かになった学園の廊下で気まずい空気だけが流れる。
『――ぐうぅぅ……』
静けさだけが包む中、シャエラのお腹が激しい主張で音を鳴らした。静かな廊下には広く響き渡る。
シャエラは顔を赤く染め、恥ずかしそうにお腹を押さえた。
「な、泣き疲れてしまいましたわっ」
すっかり元気を取り戻したらしい。
シュウからも笑みが零れ、シャエラは余計に恥ずかしくなる――
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