64 / 78
CHAPTER_04 マジック・ボール ~the moon sets and the sun rises~
(13)黒い集団 ~mafia~
しおりを挟む準決勝の前日――
エリスとシャエラは、最後まで練習に顔を出すことは無かった。
練習と言っても、翌日の段取りと作戦会議をしただけだ。後で連絡を入れれば済む話なので、誰も2人がいないことを気にしてはいなかった。
しかし、グラウンドに清掃の作業着姿でシャエルが現れ、事態は一変する。
「お兄様!」
「どうしたんだシャエル、そんなに焦って……」
「それが、おねえちゃんに電話が通じなくって」
「なっ、ほんとか?!」
シャエルだけでなく、その場にいる全員が一瞬凍る。リンは慌ててデバイスを開き、一緒にいるはずのエリスにも連絡を試みた。
「……どうだ?」
「ダメ、繋がらないよ」
「ったく、何してるんだ」
「誰か行き先を知ってる人はいないの?」
ルヴィの問いかけに答える者はいない。リオラもいつになく不満げにボヤいていた。
「し、しし心配ですぅ……あ、あした、こ来れるんでしょうか?」
カホの不安は、全員が感じていた。もうすぐ日が暮れて、どこに探しに行けばいいかも分からない。
「とりあえず寮で待とっか、連絡も定期的に掛けよう」
「シャエルちゃん、お姉さんへの電話は引き続きお願いしていいかな?」
「はい、心配です……」
ひとまず、その場は解散する他なかった。
結局その日、エリスにもシャエラにも連絡が繋がることはなく、一同は不安な夜を過ごす――
○○○○○○
「――うくっ……」
手足の痺れを感じ、エリスはようやく目を覚ます。同時にシャエラも目を開けていた。
「なんですの、ここは……」
電灯が眩しく光り、目をはっきりと開けられない。それでも、エリスたちの周りを黒服姿の女性が数人囲んでいることは分かった。
「ふーぅ」
そして正面には、艶やかな大きな机――
チリチリの長い金髪を下げた女性が腰を掛け、大きな喫煙具を持って白い息を吐いていた。
女性の口から吐き出された濃い煙が、エリスたちまで漂ってくる。
「けほっ、けほっ……この、解きなさいっ」
2人とも両手を縛られ、近くの台に括り付けられていた。大きな移動は難しく、また懐に携えていたロッドも没収されていた。
「ふぅ……ユウナ」
「(こくり)」
女性の掛け声を合図に頷き、黒いセーラ服の女の子が机奥の陰から現れる。女の子は、吸い終わったパイプを手持ちの板で丁寧に受け取ると、また後ろに下がって物陰に隠れる。
「あなたは誰? まずはこの手を解きなさい」
「口の利き方を知らないのかい? 手荒な真似でわりいけど、そりゃ外せないよ」
「これは犯罪ですわよ、名乗りなさい!」
「そう焦るな、物事には順序がある」
女性は席を立ち、黒服から2つの電子手帳を受け取ってエリスたちの前に出る。意識を失っている間に、学園の学生手帳まで奪われていた。
「学園ねぇ……」
女性は2つの手帳を同時に開き、一斉に情報を読み取っていく。
「エリス・カサンドラ、シャエラ・エイブリン……もしかしてエイブリン財団の小娘かい?」
「ど、どうでしょう?」
「へぇ……特進クラスとは、恐れ多いねぇ」
一通り学生手帳を眺め、女性はそのまま後ろの床に投げ捨てた。女性の不敵な笑みが周囲の緊張感を増す。
「さて、オマエらの素性が分かったところで教えてやろうか」
「な、なにをですの」
「ミネアロープって名前に聞き覚えは……無さそうだなあ」
「あなたたちは何者? この辺を仕切ってるっていうマフィアね?」
「半分正解だ、マフィアという認識は間違ってない」
「もう半分は?」
「アタイらは、この街を仕切ってるわけじゃない。ここらは誰の手にも管理されず、だからこんなに寂れちまってるんだ」
「では、どうしてこちらに?」
「魔法軍の目が届きにくいから動きやすい、それだけだよ」
「なら、どうして私たちを――」
「そこまでだ、ここからはアタイが質問する」
ミネアロープは、厳しい顔で2人に詰め寄った。その顔には一切の隙が感じられない。
「どうしてここに来たあ? ここはオマエら子供が遊びに来るところじゃあない」
「そうね」
「熱心にここいらを嗅ぎ回っていると聞いたねえ、何が目的だい?」
「そうね、何だったかしら」
「そうかい、学園の子は聞き分けが悪いねえ」
ミネアロープは、大きな机の上に置いていたロッドを取り出すと、その先端を≪変形魔術≫で尖らせていく。さらにその尖らせた先端を、エリスの首元すぐ前まで突き出した。
今まで余裕を見せていたエリスの額にも汗が1筋垂れる。
「質問に答えな、子供だからって容赦しない」
「くっ……」
「ロッドがなきゃ魔法は使えないだろ? 答えるか殺されるか選ぶんだよ、さあ……」
首元にゆっくりとロッドの先端が近づいていく。
ロッドが触れるか触れないかのところで、エリスはゆっくりと口を開いた。
「……マザーの家を探していたわ」
「そんなのは知ってる。どうしてマザーの家に行っていたかだよ」
「それは……」
絶体絶命だった。
しかし、勝機もあることをエリスは知っていた。
エリスがゆっくりとシャエラに目を向けると、シャエラもすべてを察してゆっくりと頷いた。
「早く、アタイは焦らされるのが嫌いなんだい」
「それは……また今度ねっ!」
エリスは体勢を変え、ロッドの先端から首を遠ざける。
その隣では、シャエラの髪飾りが紫色に光り輝いていた。
「ちっ、それもロッドだったかい――」
シャエラはロッドで形成された髪飾りで周囲に≪波動魔術≫を展開する。
狙いから外してもらっているエリスでさえ、脳内を直接揺れるような振動に襲われる。
周囲に立っていた黒服たちは立っていられず、ミネアロープだけは何とか体勢を保っていた。
「エリスさん!」
「ええ」
その隙にシャエラは髪飾りの1つをエリスに投げ渡した。
エリスはそのロッドを受け取ると、周りを囲むように一気に魔法陣を展開した。
「こんのぉ!」
揺れが収まっていき、黒服たちが一斉に小型の拳銃を構えてエリスに向けた。
「――やめなっ!」
ミネアロープは、すぐに黒服たちを制する。
エリスが周囲に広がって張ったのは、≪相転≫の魔法陣だった。銃弾を放てば自分たちに向かって≪相転≫されることを瞬時に理解していた。
「逃げられるのかい?」
「悪いけど、長居してられないの」
「ふっ……」
ミネアロープが微笑むと同時に、エリスが立つ地面に大きな≪衝撃≫の魔法陣が張られる。
魔法はすぐさま発動し、雑居ビルの床を派手に崩していく。
「シャエラさん!」
「ええ、平気ですわ――」
エリスたちは浮遊を駆使し、猛スピードでそのビルから離れていく。黒服たちが威勢よく追いかける中、ミネアロープは1歩も動かずにただ微笑んでいた。
しばらく浮遊を続けて距離を稼ぎ、黒服たちの姿も一切見えなくなる。追っ手を撒けたようではあるが、2人が今いる場所は一切想像がつかなかった。
「デバイスも盗られてる」
「わたくしもですわ」
「お金は?」
「少しならありますわね」
「どうする? 歩く?」
「もうヘトヘトですわ……」
気を失っていただけではない。
今日一日で歩いた距離も相当で、明日の試合のことを考えると今すぐにでも休みたかった。
「そうね、泊まれるところを探しましょう」
これ以上外を出回るのもリスクが高い。
朝、明るくなってから移動して連絡するべきだろうと判断する。シャエラも同意見であった。
「ふぅ、こんなの初めてですわ」
「本当にごめんなさい」
「エリスさんのせいではありませんわ。あら、そちらは?」
数分歩き、シャエラは大きなベッドの看板に目が行った。
ピンク色のネオンが怪しく光るが、外観だけ見るといわゆる宿泊施設だと考えられる。
「こんなところ、泊まるのも初めてですわ」
「私もよ……」
エリスは恐る恐る扉を開く。カウンターはあれど、中は無人で怪しげな宿泊所だった。フロントの大きなモニターに空き部屋のイメージが表示される。
「この部屋がいいですわ」
やっと一息つける――
シャエラは、中でも一番高級な部屋を迷うことなく選んだ。
0
あなたにおすすめの小説
《カクヨム様で15000PV達成‼️》悪魔とやり直す最弱シーカー。十五歳に戻った俺は悪魔の力で人間の頂点を狙う
なべぞう
ファンタジー
ダンジョンが生まれて百年。
スキルを持つ人々がダンジョンに挑む世界で、
ソラは非戦闘系スキル《アイテムボックス》しか持たない三流シーカーだった。
弱さゆえに仲間から切り捨てられ、三十五歳となった今では、
満身創痍で生きるだけで精一杯の日々を送っていた。
そんなソラをただ一匹だけ慕ってくれたのは――
拾ってきた野良の黒猫“クロ”。
だが命の灯が消えかけた夜、
その黒猫は正体を現す。
クロは世界に十人しか存在しない“祝福”を与える存在――
しかも九つの祝福を生んだ天使と悪魔を封印した“第十の祝福者”だった。
力を失われ、語ることすら封じられたクロは、
復讐を果たすための契約者を探していた。
クロは瀕死のソラと契約し、
彼の魂を二十年前――十五歳の過去へと送り返す。
唯一のスキル《アイテムボックス》。
そして契約により初めて“成長”する力を与えられたソラは、
弱き自分を変えるため、再びダンジョンと向き合う。
だがその裏で、
クロは封印した九人の祝福者たちを狩り尽くすための、
復讐の道を静かに歩み始めていた。
これは――
“最弱”と“最凶”が手を取り合い、
未来をやり直す物語
異世界転生した女子高校生は辺境伯令嬢になりましたが
初
ファンタジー
車に轢かれそうだった少女を庇って死んだ女性主人公、優華は異世界の辺境伯の三女、ミュカナとして転生する。ミュカナはこのスキルや魔法、剣のありふれた異世界で多くの仲間と出会う。そんなミュカナの異世界生活はどうなるのか。
ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります
はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。
「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」
そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。
これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕!
毎日二話更新できるよう頑張ります!
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる