魔法学のすゝめ!

蒔望輝(まきのぞみ)

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CHAPTER_04 マジック・ボール ~the moon sets and the sun rises~

(13)黒い集団 ~mafia~

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 準決勝の前日――
 エリスとシャエラは、最後まで練習に顔を出すことは無かった。
 練習と言っても、翌日の段取りと作戦会議をしただけだ。後で連絡を入れれば済む話なので、誰も2人がいないことを気にしてはいなかった。

 しかし、グラウンドに清掃の作業着姿でシャエルが現れ、事態は一変する。

「お兄様!」

「どうしたんだシャエル、そんなに焦って……」

「それが、おねえちゃんに電話が通じなくって」

「なっ、ほんとか?!」

 シャエルだけでなく、その場にいる全員が一瞬凍る。リンは慌ててデバイスを開き、一緒にいるはずのエリスにも連絡を試みた。

「……どうだ?」

「ダメ、繋がらないよ」

「ったく、何してるんだ」

「誰か行き先を知ってる人はいないの?」

 ルヴィの問いかけに答える者はいない。リオラもいつになく不満げにボヤいていた。

「し、しし心配ですぅ……あ、あした、こ来れるんでしょうか?」

 カホの不安は、全員が感じていた。もうすぐ日が暮れて、どこに探しに行けばいいかも分からない。

「とりあえず寮で待とっか、連絡も定期的に掛けよう」

「シャエルちゃん、お姉さんへの電話は引き続きお願いしていいかな?」

「はい、心配です……」

 ひとまず、その場は解散する他なかった。
 結局その日、エリスにもシャエラにも連絡が繋がることはなく、一同は不安な夜を過ごす――




 ○○○○○○




「――うくっ……」

 手足のしびれを感じ、エリスはようやく目を覚ます。同時にシャエラも目を開けていた。

「なんですの、ここは……」

 電灯がまぶしく光り、目をはっきりと開けられない。それでも、エリスたちの周りを黒服姿の女性が数人囲んでいることは分かった。

「ふーぅ」

 そして正面には、つややかな大きな机――
 チリチリの長い金髪を下げた女性が腰を掛け、大きな喫煙具パイプを持って白い息を吐いていた。

 女性の口から吐き出された濃い煙が、エリスたちまでただよってくる。

「けほっ、けほっ……この、解きなさいっ」

 2人とも両手を縛られ、近くの台に括り付けられていた。大きな移動は難しく、またふところに携えていたロッドも没収されていた。

「ふぅ……ユウナ」

「(こくり)」

 女性の掛け声を合図に頷き、黒いセーラ服の女の子が机奥の陰から現れる。女の子は、吸い終わったパイプを手持ちの板で丁寧に受け取ると、また後ろに下がって物陰に隠れる。

「あなたは誰? まずはこの手を解きなさい」

「口の利き方を知らないのかい? 手荒な真似でわりいけど、そりゃ外せないよ」

「これは犯罪ですわよ、名乗りなさい!」

「そう焦るな、物事には順序がある」

 女性は席を立ち、黒服から2つの電子手帳を受け取ってエリスたちの前に出る。意識を失っている間に、学園セントラルの学生手帳まで奪われていた。

学園セントラルねぇ……」

 女性は2つの手帳を同時に開き、一斉に情報を読み取っていく。

「エリス・カサンドラ、シャエラ・エイブリン……もしかしてエイブリン財団の小娘かい?」

「ど、どうでしょう?」

「へぇ……特進クラスとは、恐れ多いねぇ」

 一通り学生手帳を眺め、女性はそのまま後ろの床に投げ捨てた。女性の不敵な笑みが周囲の緊張感を増す。

「さて、オマエらの素性が分かったところで教えてやろうか」

「な、なにをですの」

「ミネアロープって名前に聞き覚えは……無さそうだなあ」

「あなたたちは何者? この辺を仕切ってるっていうマフィアね?」

「半分正解だ、マフィアという認識は間違ってない」

「もう半分は?」

「アタイらは、この街を仕切ってるわけじゃない。ここらは誰の手にも管理されず、だからこんなに寂れちまってるんだ」

「では、どうしてこちらに?」

「魔法軍の目が届きにくいから動きやすい、それだけだよ」

「なら、どうして私たちを――」

「そこまでだ、ここからはアタイが質問する」

 ミネアロープは、厳しい顔で2人に詰め寄った。その顔には一切の隙が感じられない。

「どうしてここに来たあ? ここはオマエら子供が遊びに来るところじゃあない」

「そうね」

「熱心にここいらを嗅ぎ回っていると聞いたねえ、何が目的だい?」

「そうね、何だったかしら」

「そうかい、学園セントラルの子は聞き分けが悪いねえ」

 ミネアロープは、大きな机の上に置いていたロッドを取り出すと、その先端を≪変形魔術リフォルムドレイカ≫で尖らせていく。さらにその尖らせた先端を、エリスの首元すぐ前まで突き出した。
 今まで余裕を見せていたエリスのひたいにも汗が1筋垂れる。

「質問に答えな、子供ガキだからって容赦しない」

「くっ……」

ロッドこいつがなきゃ魔法は使えないだろ? 答えるか殺されるか選ぶんだよ、さあ……」

 首元にゆっくりとロッドの先端が近づいていく。
 ロッドが触れるか触れないかのところで、エリスはゆっくりと口を開いた。

「……マザーの家を探していたわ」

「そんなのは知ってる。どうしてマザーの家に行っていたかだよ」

「それは……」

 絶体絶命だった。
 しかし、勝機もあることをエリスは知っていた。
 エリスがゆっくりとシャエラに目を向けると、シャエラもすべてを察してゆっくりと頷いた。

「早く、アタイは焦らされるのが嫌いなんだい」

「それは……また今度ねっ!」

 エリスは体勢を変え、ロッドの先端から首を遠ざける。
 その隣では、シャエラの髪飾りが紫色に光り輝いていた。

「ちっ、それもロッドだったかい――」

 シャエラはロッドで形成された髪飾りで周囲に≪波動魔術ジグラクタブレイカ≫を展開する。
 狙いから外してもらっているエリスでさえ、脳内を直接揺れるような振動に襲われる。

 周囲に立っていた黒服たちは立っていられず、ミネアロープだけは何とか体勢を保っていた。

「エリスさん!」

「ええ」

 その隙にシャエラは髪飾りの1つをエリスに投げ渡した。
 エリスはそのロッドを受け取ると、周りを囲むように一気に魔法陣を展開した。

「こんのぉ!」

 揺れが収まっていき、黒服たちが一斉に小型の拳銃を構えてエリスに向けた。

「――やめなっ!」

 ミネアロープは、すぐに黒服たちを制する。
 エリスが周囲に広がって張ったのは、≪相転≫の魔法陣だった。銃弾を放てば自分たちに向かって≪相転≫されることを瞬時に理解していた。

「逃げられるのかい?」

「悪いけど、長居してられないの」

「ふっ……」

 ミネアロープが微笑むと同時に、エリスが立つ地面に大きな≪衝撃≫の魔法陣が張られる。
 魔法はすぐさま発動し、雑居ビルの床を派手に崩していく。

「シャエラさん!」

「ええ、平気ですわ――」

 エリスたちは浮遊を駆使し、猛スピードでそのビルから離れていく。黒服たちが威勢よく追いかける中、ミネアロープは1歩も動かずにただ微笑んでいた。


 しばらく浮遊を続けて距離を稼ぎ、黒服たちの姿も一切見えなくなる。追っ手をけたようではあるが、2人が今いる場所は一切想像がつかなかった。

「デバイスもられてる」

「わたくしもですわ」

「お金は?」

「少しならありますわね」

「どうする? 歩く?」

「もうヘトヘトですわ……」

 気を失っていただけではない。
 今日一日で歩いた距離も相当で、明日の試合のことを考えると今すぐにでも休みたかった。

「そうね、泊まれるところを探しましょう」

 これ以上外を出回るのもリスクが高い。
 朝、明るくなってから移動して連絡するべきだろうと判断する。シャエラも同意見であった。

「ふぅ、こんなの初めてですわ」

「本当にごめんなさい」

「エリスさんのせいではありませんわ。あら、そちらは?」

 数分歩き、シャエラは大きなベッドの看板に目が行った。
 ピンク色のネオンが怪しく光るが、外観だけ見るといわゆる宿泊施設モーテルだと考えられる。

「こんなところ、泊まるのも初めてですわ」

「私もよ……」

 エリスは恐る恐る扉を開く。カウンターはあれど、中は無人で怪しげな宿泊所だった。フロントの大きなモニターに空き部屋のイメージが表示される。

「この部屋がいいですわ」

 やっと一息つける――
 シャエラは、中でも一番高級な部屋を迷うことなく選んだ。
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