魔法学のすゝめ!

蒔望輝(まきのぞみ)

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CHAPTER_04 マジック・ボール ~the moon sets and the sun rises~

(14)間に合わない ~behind~

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『さあ始まりました! 『マジック・ボール』準決勝――』

 会場には実況席からの興奮した声が響き渡る。観客席はビッシリと埋まり、その声援もすさまじかった。今回の試合は姉のマリコと父のコウヘイにも伝えており、2人もTVのモニター越しに応援してくれているはずだ。

 コートの中央には、準決勝に進む4チームが集まっていた。
 プロの3チームに囲まれる中、シュウたちは初めて『サンルナール』と顔を合わせる。

「血の涙の仮面……」

 エリスの言う通り、シュウにもはっきりと見覚えのある仮面だった。素顔を見せずに堂々と構える立ち姿は、人気が出るのも頷けるほど凛々りりしかった。

「どうしようシュウくん」

「ああ、まずいな……」

 シャエルの嫌な予感は的中し、当日の今になってもエリスとシャエラは姿を現さなかった。
 もちろん連絡も繋がらない。
 副校長のアンナを通し、魔法軍に捜索願も出していたが、もうすぐにでも出番が始まってしまう頃合いだった。

「すすす、すごい人ですぅ」

「はぁ、憂鬱やんなぁ……」

「すまんソアン、2人が来るまでの間だから」

 マジック・ボールの試合は1チーム5人で行われる。ただし、この親善大会に選手として登録できるのは7名までだった。
 監督を務めてくれたルヴィとロイは、選手としては登録していない。今回の試合には出られないので、代わりにエリスとシャエラを探しに出てくれている。
 また、5人の条件を満たすためには、控えで≪治癒サポート≫に徹していたソアンの参加が必要不可欠だった。

「立っとるしかできんからね?」

「ごめんねソアンちゃん、せめて時間稼ぎだけでも……」

「へっ、シャエラなんかいなくても、ワタシがぶちのめしてやる」

「気合入ってんなぁ」

 確かに、弱音を吐いてもいられない。ここで負ければ今までの努力がまったくの無駄になる――ただ、それだけだ。
 シュウもリオラを見習って気合を入れ直す。

『――準決勝第1試合、いよいよです!』




 ○○○○○○




「――さん、シャエラさん」

「んっ、んん……?」

「シャエラさん、そろそろ行きましょう?」

「ん、そんな時間でして……?」

 1番高い部屋を選んだはずなのに、隙間風の音がうるさくて、正直なところ十分な睡眠は取れていなかった。しかし、同じ条件だったはずのエリスがバッチリと準備を整えているので、シャエラも目をこすりながらゆっくりと起き上がった。

「みんなを待たせちゃうわ、急ぎましょう」

「そうでしてね」

 チェックアウトの時間にはまだ早いが、今日は準決勝当日である。今から急いでも試合に間に合うかは怪しい時間だった。
 シャエラは急いで身支度を整えて部屋を後にする。

「ミニバーは期限切れ、シャワーは勢いが弱い、ベッドは堅くて肌寒くて……こんな経験、2度とごめんですわ」

「同感よ、早くここから出て――」

 エリスがフロントに鍵を置こうとしたとき、2人は固まった。
 フロントの奥――普段は人がいない場所に、見覚えのある老婆が杖を突いて立っていた。

 エリスたちは唯一の武器ロッドである髪飾りを構え、老婆を正面に見据えた。

「どういうつもり? どうしてここが分かったの?」

「ほほほっ、この街でワシの目が届かないところなんてありませんねぇ」

「マザー、あなた一体何者――」

 話の途中でマザーは勢いよく杖を突き出してくる。エリスたちは後ずさり、2人とも≪防壁≫の魔法陣を発現させた。

「ほほほ、身構えないで欲しいねぇ……ここはワシが経営しているというだけ、昨晩は女の子2人でお楽しみでしたかい?」

「あなたのせいで、せっかくの冒険が台無しですわ」

「何が目的? 従わないなら容赦しないわ」

「ほほほ、怖いねぇ……でも安心して欲しいねぇ、ロンファンゲートのヤツらは来てないよ」

「ロンファンゲート? 誰のこと?」

「昨日、事務所に連れていかれたでしょう? 貧困域ここに最近居座り始めたマフィアで、ワシも商売の邪魔をされて困ってるねぇ。ヤツらの指示じゃなきゃあんな乱暴なこともしないねぇ」

「見返りは、貰ったんでしょ?」

「ほほほ、鋭いねぇ」

「あ、あなたねえ!」

「この街で生きていくには仕方がないのねぇ」

 マザーは唐突に杖を下げた。シャエラもこの街の悲惨な状況を痛感し、あまり強くは言えなかった。マザーの言っていることに嘘は感じられず、エリスたちは警戒を徐々に解いていく。

「まさか無傷で出てこれるとは思ってなくてねぇ……だから今日は興味が沸いて、話をしに来ただけですよ」

「話……?」

「『六芒星』の魔法陣のこと、聞きたいんでしょう? それとも、ブラッディ・ダイヤ?」

「なっ……」

 エリスとシャエラは、顔を見合わせて驚いた。
 マザーがエリスたちの目的を知っているだけでなく、ブラッディ・ダイヤについても情報を持っていることは予想外だった。

「ブラッディ・ダイヤを知っているの?」

「そうですねぇ、この街にも何度か出回ってますから」

「それは、もしかしてロンファンゲートとか仰るマフィアが関連しておりまして?」

「いえいえ、ヤツらはブラッディ・ダイヤの取引に絡んだことは無いですよ」

「じゃあ一体だれが……」

「すみませんねぇ……正しいことは分かりません。ただ、そこ・・の工場から漏れだしたって噂がありましたねぇ」

「工場ですの?」

AEエージェントエナジー……」

「あの会社は、昔から『いわくつき』ですからねぇ」

 今回問題になっている『サンルナール』のスポンサーも、AE社の一社提供だ。ブラッディ・ダイヤと無関係とは、いよいよ断言できなさそうだった。

「じゃあ、六芒星の魔法陣は? ブラッディ・ダイヤとの関係は?」

 マザーは首を横に振る。
 ブラッディ・ダイヤの時とは異なり、昔を懐かしむように語りだす。

「あの魔法陣はですねぇ、ワシが愛してやまない魔法でしてねぇ……」

「愛する? あなたも白い魔法のことを知ってるのね」

「そう、真っ白く輝いて、それはそれは強く美しくて……」

 マザーが頭の中で思い描いている魔法は、まさしくシュウが使う魔法だった。
 エリスはここぞとばかりに問い詰める。

「教えて! あの魔法は何? どれだけ探しても見つからないの」

「見つからない? ああ、それならあの本・・・に――」

 老婆がエリスに向き直り、何かを話そうとしたその瞬間――
 フロントの入り口付近にあった天窓が音を立てて割れる。

「きゃっ!」

 突然の出来事に、シャエラは頭を抱えてしゃがみ込む。そしてエリスが振り返ったとき、窓から入ってきた赤黒いカタマリが、顔のすぐ横を勢いよく通り過ぎる。

「――あ、うっ、あっ……」

 エリスは、すぐにマザーに振り返った。
 マザーは口から血を流し、天を仰いでいた。

「マザー?!」

 マザーは、言葉を発することなくフロントの内側で倒れ込む。エリスたちは急いで回り込み、マザーの元へと駆け寄った。

「そんなっ……!」

「マザー! いますぐ――」

 マザーの胸元――心臓の位置に何かが入り込んだあとがある。シャエラは口に手を当てたまま動けないでいた。
 エリスは慌てて≪治癒魔術イルミナムレイカ≫を施すが、マザーの体内にある魔法に邪魔をされ、魔法陣が弾かれてしまう。

「まさか、ブラッディ・ダイヤでして……?」

 マザーの体は倒れたまま動かない。傷痕から血は出てこないが、体内に侵入した何かが魔法を放ち、マザーの生命いのちを奪っていく。
 その窓から飛び込んできた何かは、恐らくブラッディ・ダイヤで象られた銃弾だった。

 エリスとシャエラにはどうすることもできず、間もなくして魔法軍のサイレンが鳴り響く――




 ○○○○○○




決勝トーナメント準決勝の第1試合――
 国立魔法学中央学園セントラル VS アトラータフェレース


「あれ? エリスはいないの?」

「れ、レイジーちゃん?!」

「所属してるチームって、アトラータフェレースだったのか……」

 マジック・ボールの事情にうといシュウたちにとっては、驚きの事実だった。

「おれたちの誘いは断ったのに……」

「アマチュアとしては出ないって言ったの」

「当然の判断だね……」

「悪いけど、同じクラスだからって容赦しないから」

「あはは、お手柔らかに……」

 5人同士で向かい合い、初めて分かる――
 今までとは格が違う。レイジーも学園で会ったときより強い威圧感で気圧けおされる。それは、エースとしてリンが前に出たときも同じだった。

 リンの前に立ちはだかる相手チーム『アトラータフェレース』のエース――
 屈強な肉体のドルハもまた、強いプレッシャーを掛けてくる。

「手加減無しだ。よろしく頼むぞ」

「よ、よろしくお願いします」

 2人が握手を交わし、各々が配置につく。
 開始時のアタッカーとしては、リオラとレイジーが対峙する。

「リオラ、話には聞いているわよ」

「そうかい、なら今回は引くんだな」

「引くわけないでしょ、今までと同じと思わないでね」

「楽しみだな」

 リオラとレイジーの睨み合いが続く――
 そして会場の熱気に合わせ、魔法球を放つ轟音が鳴り響いた。
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